月に照らされ輝くは華奢な乙女
前回のあらすじ川柳
計画は
決まり始めて
動き出す
買い出しから戻ってきた2年生一同は、すぐに他の部員と協力して晩ご飯の準備と風呂の準備をした。
女子陣が風呂に入るとき、どんなことがあっても、叫んだりしても入ってくるなと言われた。
何故そんな事を言うのかわからなかった。お年頃の乙女とはわからないものだ。
晩ご飯も食べ終わり、後はゆっくりして寝るだけとなった。
昨日は晩ご飯の前に一度眠っているから夜眠れなかったが、今日は不思議と何も関係なく眠くない。
しかし、昨日……いや、今日あまり寝ていない楓と茜は眠たそうにうつらうつらしていた。
「お前ら、あまり無理せずに寝れよ」
「うーん………がんばる………」
「何をがんばんだよ。寝ろっつってんだろ」
「むにゃ………わかった………ぐう……」
「ここで寝るな、部屋で寝ろ」
もう夢の中に半分入りかけている二人を部屋に運び、リビングに戻ってくると山吹先輩が俺に言う。
「お前はどうする?私もそろそろ寝るが」
「そうっすね………あんま眠くないんで………ちよっと外でも行ってきますわ。気晴らしにでも」
「ああ、わかった。あまり遠くに行くんじゃないぞ」
ついでに言うと、皐月と牡丹はとっくに部屋に戻っており、きっともう夢の中に引きずり込まれているだろう。
ドアを開けると、とても綺麗な光景が目に入り込んでくる。
水面に映るは眩い月。周りの静寂と合わさってとても良い雰囲気だ。
雰囲気だけで癒やされるような、そんな感じがしている。
目的もなく飛び出してきたので、取り敢えず歩くことにした。
波打っているうみと砂浜の境界線に沿って歩くだけで、いつも歩く事とは違う、非日常感が味わえた。
漣の音を聞きながら、無我夢中に歩く。
そんな意味の無いような行為が、とても心地よくて気持ちがいい。
夢中に歩いている内に、昨日楓と茜と話した場所についた。
しかし、そこには一人分の影が伸びていて、思わず不審に思ってしまった。
近づいてみると、俺の考えていたこととは違う、あまり見慣れない服。まぁ、巫女服なんだが。……それを着た少女が居た。
安定した岩場の上で、体育座りをして地平線を眺めている。
俺の足音に気がついたのか、少女ははっとこちらを向いた。
「…………お兄さん、誰?」
「うーん………通りすがりの観光客ってところかな?」
「ふーん。あ、あそこの大きい家の人?」
そう言って少女は山吹家の別荘を指差す。
「ああ、まぁ。詳しく言えばあの家に招待された客だな」
「へえ……そうなんだ」
それっきり会話が途切れる。
流れるのは時間と静寂だけで、聞こえるのは小さな吐息のみ。
そこで、ふと少女は口を開く。
「あなた、名前なんていうの?」
「ん?石蕗正木って言うんだ。高校2年生」
「やっぱり年上だったんだ。私は虎杖葵。中学3年生だよ」
「やっぱり年下だったんだな」
「どうしてそう思ったの?………まぁ、身長だろうけど」
「すまん、その通りだ」
だって、体育座りでもわかるほどこの子は小さい、まぁ、例えるなら牡丹と五分五分くらい。
「と言うか、こんな時間に何してんだ?女子一人は危ないぞ」
「ちょっとね………色々あったの。お気遣いありがとうね」
「ふん………悩み事なら聞くけど?まぁ、初対面で言うような言葉じゃないが」
「ふふ………そうだね。初対面でいきなり悩みを言えなんて、ちょっとおかしいよ」
「てことは、悩んでんだな」
「…………誘導尋問はずるいと思う」
隣に座り、そんな事を言ってやると、葵はムッとした顔を向けて、ふうとため息をつく。
「けど………そんな人にこそ相談ってしやすいのかな?」
「さあな。話したいなら話せばいいさ。無理して話す必要はない」
「うん………じゃあ言うね」
そう言って、葵は少し深呼吸をして話し出す。
「私ね、もう受験控えて、勉強してるんだけどさ、中々結果が良くなくて。それで行きたい高校がギリギリだって言われて、母親にレベル下げて近くの高校通いなさいって。けど、私はどうしても行きたい高校があるからさ………諦めたくないんだよ。けど、勉強しても結果がね」
「なるほどなぁ………」
まぁ、よくあるような受験を控えた生徒の悩みだった。
志望校と自分の実力はなるべく同じくらいの高校へ行くのがベストだが、進路の事も考えてすこし良い学校に行くのも一つの手段だ。
葵は、きっと志望校が自分のレベルに合っていないことで、親に小言を言われて飛び出した。とかだろう。
「年齢らしい悩みだな。苦労してんな」
「うん………けど、私も最近受かるか不安になってきたんだ…」
「どこに行きたいんだ?」
「楼陽高校。結構遠いけど、良い学校だから行きたいなって」
「へぇ……ならちょうどいいな」
「え?何が?」
「俺は、楼陽高校2年生の石蕗正木だ。お前が楼陽高校に入るとしたら、先輩だな」
そう言ってやると、葵は目を丸くして話し続ける。
「そうなの?じゃあ、頭いいの?」
「んー……まあまあだな」
「そうなんだ………まさか先輩だったなんて………」
「そんな俺から、悩める後輩にアドバイスを一つ」
そう言うと、葵はキョトンとして首を傾げる。
「お前がさ、楼陽高校に行って何したいかとか、理由があればかなり違うぞ」
「理由………正木も何か理由あったの?」
「ああ、近くて交通費とかがかからないからな」
「そんな理由、なんだ……」
「そんなとは何だ。俺にとってはだいじな問題なんだぞ?」
そう言うと、ウーンと唸りながら葵は考え込む。
「理由か………何なんだろう。私の楼陽高校にいきたい理由って」
「そんなの、自分にしかわからんさ、けど」
「けど?」
「どんなに最低で残念な理由でも、お前が行きたいって思ったらそれが理由だから。それを叶えるために勉強すればいいんじゃないか?」
そう言って、葵の頭を撫でてやる。
あっ!やべぇ。これ茜からやめとけって言われてたんだ。
牡丹とか皐月とか知り合いならまだしも、初対面の少女にいきなりなでなでするって、通報されても文句言えないぞ。
葵から手を離し、急いで謝る。
「す、すまん。ついやっちゃったわ。気分悪くしたらごめんな?」
「い、いや………いいよぉ………ぜんぜん気持ちよかってゃから……」
手遅れでした。
皐月や牡丹と同じような、トロンとして放心したような状態。そんな感じになっていた。
大丈夫かこの子。お兄さん不安になってきたよ。
「私………私………」
「す、すまんな!頼むから警察だけは」
「これを理由にして頑張る!」
「………………はい」
やっぱりそうですよね。
何で俺のなでなではこんなに人をやる気にさせるのだろう。不思議でたまらない。
「いいのか?そんな理由で高校受験して……」
「どんな理由でも良いって言ったのはあなたでしょ。私は、この頭を撫でられることを求めて楼陽高校に行くわ」
「うん………まぁ、がんばれ」
「うん!………そう思ったら。今の時間がもったいない!勉強しなきゃ!じゃあね!正木」
そう言って少女・葵は走り出す。
結局、巫女服については何も触れなかったな。
まぁ、いいや。
葵と話して、いい感じに眠くなって来ていたので、そろそろ別荘に戻ることにした。
人の原動力。とは、人それぞれだ。
それは、決して否定できるものでもないし、どんな理由でも持っているだけ立派だ。
こうして、俺は未来の後輩候補を作ってしまったわけだが……。
もし、葵が入学して、文化研究部に入ったら。と言う事を想像してしまう。
きっと。
きっと……。
負担が増えるな。
後書きstory
『虎杖葵の小さな思い』
家に帰るために、私は走っていた。
目的はもちろん勉強するため。
何としてでも、今の状況から這い上がって楼陽高校に入りたい。
そう思った。
あの人のおかげです。
あの人の頭の撫で方………最高だった……。
程よい強さで安心するような暖かさを送りながら、的確に気持ちのいい所を攻めてくる………。
あんなの………始めて………。
またしてほしい。
ずっとしてほしい。
そう思うと、自然と体が動く。
あの人と同じ高校に入るために、頑張って勉強をしようと。
あの人は言っていた。
理由がとうでも、行きたいと思ったらそれが理由だから。それに向かって進めばいい。
そう言われて、私は速攻で思った。
また撫でられたい。近くで何回も撫でてほしいと。
ああ………あの人と同じ学校に行ったら、どんな幸せな空間が待っているだろうか。
今から楽しみで楽しみで仕方がない!
はい。萩原慎二です。
というわけで新キャラ、虎杖葵が登場しました。
後輩とは、正木の頭撫でに弱い生物なのでしょっか……。
そんなことはありません。皆始めて受けたらああなります。
平然といられるのは茜ぐらいでしょう。
そろそろ、合宿の終わりが近づいてきました。
合宿の終わりと同時に、後書きstoryも一旦終了です。
それまで、ぜひお付き合いお願いします。
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