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遊戯姫・完



 勇者の聖剣が、魔王の腹に深々と刺さった。


「く、ふ……」


 魔王は吐血した。胸ならともかく腹を刺されてもそうそう吐血はしないのだが、そこは演出だ。口の中に仕込んでいた吐血袋を食い破って、魔王は瀕死の重傷を装った。


「これまでだな、魔王」

「ふ、はは……そうだな、勇者よ」


 ガクリと膝をついた魔王に、イコーゼはとどめを刺すために近づいた。

 自分を封印する勇者の歩み、魔王は心底安堵していた。

 魔王はさっさと封印されたかった。怖い。普通に怖い。魔王が姫を怖がる理由は単純で、何を考えているかさっぱり理解できないからだ。いつ姫の気まぐれで自分の残機が吹っ飛ばされるか、しょせんは雑魚でしかない魔王は常に戦々恐々としていた。

 イコーゼ姫も強くなった。一対一でまじめに魔王と戦っても、十回に一回は勝利できる。そんな実力で、恥じ入ることなく魔界の雑魚を名乗れる実力を手に入れていた。人間としては規格外の実力である。

 その実力でもって魔王城に討ち入りを果たし、途中で四天王最強の蒼竜将軍を討ち果たし、ついでに姫の誘導で地下にいた邪神司祭にも打ち勝った。参加する気がなかった邪神司祭は非常に迷惑そうだったが、そこは空気の読めるおじいちゃんなので全力で


「よくやったな人間よ……これで、安寧が訪れるだろう……」


 台本通りの台詞だったが、魔王自身の本心でもあった。これで、アソビタ姫が住んでいる魔王城からおさらばできる。そのためならば十年ぽっちくらの封印なんてなんてことないさと本気で考えていた。

 さっさと聖剣を振り下ろしてくれないかなーと思っていると、


「魔王。……滅せられる前に白状しろ。貴様の背後にいる、黒幕の正体を」

「く、黒幕……?」


 聖剣により封印されかかっている魔王は、何言ってんだこいつと思った。

 黒幕。しいて言えばこのTRPGで遊んでいる神々だが、勇者であるイコーゼ姫がそれに気がついているはずはない。


「そうだ。いるはずだ! 貴様がなぜ姉さんをさらったかは知らないが、それもこれもすべては黒幕の意図するものなのだろう!」


 魔王には思い込みの激しいイコーゼ姫のいうこはちんぷんかんぷんだった。

 だが、ハッと気が付いた。

 イコーゼ姫の背後には、アソビタ姫のホムンクルスがいるのである。

 魔界の黒幕と言えば、邪神であり、それに愛されたのがアソビタ姫なのだ。犯人は姫だと魔王が推察したのは当然だ。

 詳しいことはよくわからないが、姫が何かをしたのだ。きっと全部、姫の仕業のなのだ。

 それを悟った魔王は、ふっと微笑んだ。


「そう、か……貴様も、因果なことだな……」

「なに? それはどういうことだ? おい!」


 イコーゼは魔王を追及するが、もう遅かった。

 意味深なことを言い残して、魔王は安らかに十年くらい封印された。

 ――本人が望んだように、安らかにとは限らないが。



***



 魔王との決戦。

 それはイコーゼの全身全霊をつぎ込んだ戦いだった。辛くも勝利したものの、イコーゼは素直に喜ばなかった。


「くそっ。結局なにも聞き出せなかったぞ……!」


 そう。ここに来るまでに四天王が口々にほのめかせていた魔王より上位の存在の正体を掴めずに終わってしまったのだ。

 だが仕方ない。とりあえず、姉を探し出して魔界を脱出しよう。気を取り直して行動を開始しようとした時だった。

 聖剣によってカードと化した封印されし魔王を、仲間のアソビタが拾い上げた。


「アソビタ……?」


 不審な行動を聞きとがめるイコーゼ姫に、アソビタは目で語る。

 ついてこい、と。

 なんだろう、と思いながらもイコーゼはおとなしく先導される。魔王城の外に出て、どこへと向かうかと思えば離れの塔に案内された。

 ここに姉がいると、アソビタは目で語った。

 なぜアソビタが知っているのだろうかと思ったが、イコーゼは仲間を疑うようなことはしなかった。入口にアソビタを待たせ、イコーゼは久しぶりに姉と会うために離れの階段を駆け上った。


「姉さん! 助けにき――な!?」


 障害もなく多度r就いた最上階の扉を開けた先で、イコーゼは目を疑う人物を発見した。

 そこで待っていたのは、自分の姉であるトラワレと――そして、仲間であるはずの少女と同じ顔をした少女だった。



 ***



 話はちょっとさかのぼる。

 それは黄鷹将軍とシューティングゲームを存分に楽しんだ時だった。

 姫は聖剣に余計な機能がつけられることに気がついた。それを応用すれば、聖剣の封印機能をカード化にすることもできるのではと閃いたのだ。

 だから飛翔機能を付けた後に姫は、アップグレードと称して封印機能に余計な機能を追加した。

 封印された魔物が、カードと化す機能である。

 姫は魔界で遊戯の姫になるべく闇のゲームを開催することを諦めていなかった。怒られたから一時的に封印していただけで、ほとぼりが冷めたら再開しようと考えていたのだ。

 そのために最大の障害である邪神司祭である。

 百や二百の魔物を封印して魔王城を倒壊させたくらいで説教をするような、こころの狭いおじいちゃんである。前回とっても怒られて、姫は反省していた。邪神司祭が健在のままで闇のゲームを開催したら怒られると反省して、対案を練っていたのだ。

 姫が邪神司祭に戦っても、勝つことはほぼ不可能だ。不意を突いて封印くらいはできるが、それも自力で破られてしまう。全身全霊の姫のデパブがかかった状態でそれなのだから、かなりの差があった。

 そこで頭のいい姫は思いついた。

 自分が勝てないのならば、勇者に封印させるのだ。さしも邪神司祭も、聖剣の封印には逆らえない。そして神々の遊びを積極的に潰そうという反骨心も薄れているから、勇者に勝っちゃうということもしないはずだ。この計画がうまくいけば、小うるさいおじいちゃんである司祭は十年は間違いなく封印される。

 そうすれば、十年間は魔界で姫はやりたいほうだいだと言って過言ではなかった。

 姫より強い魔物はごく少数存在するが、そいつらは邪神司祭ほど雑魚ども被害に構ったりしない。ゆえに姫が何をしようとも自分の身に危害が加えられない限り気にしないだろう。そのことは姫もきちんと承知していたので、そいつらは無視だと最初から決めていた。

 それに今回のTRPGが終わった後ならば神々も余計な文句は言わないだろうと見越した上の計画的な犯行であった。姫は賢いのだ。

 そして練り上げた計画は上手くいった。姫は勇者に引っ付いて遊びながらにして魔王をはじめとする大量のカードを誰に気が津kれることもなく手にし、デッキを構築し、魔王城ではさりげなくイコーゼを地下神殿に誘導してこうるさい邪神司祭を排除することができた。


「待ってた、よ」


 全てをやり遂げデッキを手にし環境を整えた姫は、満面の笑みでイコーゼにずいっとデッキを差し出して言う。


「デュエル、しよう、ぜっ!」


 魔界全土を阿鼻叫喚に陥れる、闇のゲームが開催された。


 完結までお付き合いいただいてありがとうございました。

 ご感想、ご評価、大変励みになっておりました。ポイントの上がり下がりに一喜一憂していた作者です。


 途中かっ飛ばしまして魔王を倒しましたが、ゲームネタが尽きたから仕方ありません。アーケード関連の代表的なジャンルを引っ張ってきたのですが、あんまし思い浮かばなかったです。 作者はゲームはするけどやりこまないライトユーザーです。大して詳しくもないしちょっと難しいとすぐ詰まるしスマ○ラは雑魚でした。そもそも知識が古いのでいろいろ粗だらけだったと思いますが、お付き合いいただきましてありがとうございます。ていうか、遊○王ってルール変わったんですね。知らんかったです。

 ていうかもともと深くは考えないで描き始めたもので、もっとサクッと終わらせるつもりでした。


 なにはともあれ、ここまで読んでいただきましてありがとうございました。

 現在連載中の『嘘つき戦姫、迷宮をゆく』も、今週中に完結します。

 下にURLを張っておきましたので、そちらもお付き合いいただけたらなと思います。


 ありがとうございました!

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読んでいただきありがとうございました
嘘つき戦姫、迷宮をゆく
作者作品の宣伝です
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