誤解は六階よりも高いところですの巻
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ききぃぃぃぃ――
重厚な佇まいの玄関扉を押し開ける。
そこに広がる空間。
純和風の色どり、暖かく感じる檜の香り……二十畳ほどのエントランスホールは老舗高級旅館を連想させる懐かしい感覚が俺をホッとさせた。
「ふぶきさまぁ♪小鳥さまぁの別館に来るのは……は・じ・め・て……いや~ん、土足で無垢な女の子の家に!エロです、もう、病的なエロチシズムの神様です」
素っ裸で『ぷぁー』と華やかに銀色の髪を揺らしてピコピコと俺に指を指す小鈴……お前の方がよっぽど変態だろぉぉぉぉ、小鳥は男(男の娘❤)だし!
軽く嘆息してこめかみに曲げた一指し指を当てる俺……もう、助けてください。
後ろからそっと肩に手をそえて同情の眼差しのミカエル……先ほどまで鬼神の如く怒り狂っていた人物とは思えない柔らかな物腰で「先に行きましょう」と促してくれる。
『くちゅん』と小鈴……可愛らしい、くしゃみ一つ。
くるりっと向き直った小鈴が「もう、ふぶきさまぁに視姦され続けて、タコの墨みたいに心まで真っ黒になりそうです。象さん星人のふぶきさまぁはエロの伝道師です。部屋に帰ってふぶきさまぁががっかりするような服をきてくるです。もう脱がさないでくださいね……ぽっ」
何故か頬に手を当てて顔を赤らめてる小鈴……いやいや、ミカエルさん肩を掴む手に力がはいりすぎぃぃぃぃ……ぎゃぁぁぁぁぁぁ☠
……肩砕かれたかも……☠
悶絶する俺を「てへへ♪」と満足そうに見た小鈴はぺろっと可愛く舌を出して手を振りながらテコテコっと走って行ってしまった。
のた打ち回る俺の真上に恨み節のように黒い気炎が肩から上がっていそうなジト目のミカエル。ああっ、小鈴の言った事は嘘です、さきほどの命がけの俺の説明を信じてください(先ほど閻魔家の鬼ごっこより恐怖の鬼ごっこをした俺達二人♪)
『う~ん』と唸りベンチに腰をかけるように乗りかかってくる……あうぅ、お腹の上にすわらないでぇぇ(バイオレンスなアプローチ❤ミカエルの柔らかなお尻の感触グッド・ジョブです❤)
ドンッ――俺の肩を抑えて、ぶれる事のない美しい碧眼に俺が映し出されている。
……どうしたのですが?凄い真顔ですよぉぉぉ。
一瞬の沈黙が悠久にも感じる。
ぐっと峻厳な眼差し、そこにはやるせなさと恋心の入り混じった感情が存在している。
俺を見るミカエルはもやもやした心を発露するように一言、一言、大切に言葉を紡ぐ。
「お前は私の事をどう思っているのだ……そ、その……そこだけは確かめたい」
言葉とは裏腹な怯える眼光、懇願にも似た想い。
心の中にある勇気を精一杯振り絞っているような……ミカエルは少しだけ俯き加減ですがるように瞳がウルウルしている。
――ミカエルの事……う~む……
思考回路をフルスロットさせて考えてみる……頼りになるボイン系金髪碧眼の残念系ねーちゃん……などと答えが出たといえるかぁぁぁぁ☠
「あの封筒の中身の意味……信じていいのだろう……私は身も心も捧げる……何なら、ふぶきが望むならここでお前と結ばれてもよい、だからはっきりさせてほしい」
そっと、擦り寄るようにミカエルの柔らかな身体の熱が服越しに伝わってくる。
哀願にも似た雰囲気……封筒の中身?……ええっ、これはいかん!記憶の糸をたどる……脳内ライブラリー探索♪
――封筒の中身……はっ、あの純白の封筒に入っていた小鳥にもらったお金の事かぁ。いくら貧乏だからって、ミカエル……お金で身も心も売ってはいけない、道徳として伝えなければ。
甘い吐息が肌に感じる距離。
青く澄んだ瞳、地毛の金髪が鮮やかにキラキラと光を浴びて輝いている。
潤滑な意志疎通ができていない事は駄目だ。
ミカエル……出来るだけ婉曲にいって傷つかないように配慮しよう(優しいなぁ♪俺)
密着したミカエルの首にゆっくりと腕をまわしてぐっと雛鳥を扱うような力加減で大切に抱きしめる……柔らかな白い肌……撓む魅惑の双丘、おっぱいラブ♪。
ミカエルの白い肌が血流良好と耳たぶまで真っ赤になってドキドキとした早鐘のような心音が伝わってくる。
俺の言葉を一字一句聞きとる為だろう、ミカエルは眠るようにそっと瞳を閉じた……その相貌はまるで神様が特別につくりたもうた神秘的な美しさを宿していた。
あまりの美しさに息を飲む。
そして「あれは自由に使っていいって言ったよな……だから、自分自身の事を卑下するな……もっと大切にしろ。心や身体が傷物になったら未来の旦那ににあわせる顔がないだろう」と極力、オブラートに包んで言ってみる。
かっと目を開いたミカエル……安堵の色が膨らみ大きな瞳からハラハラと涙が溢れだす。
大仰に頷くと『信じていいのだな❤』と喜色満面の笑みを浮かべる。
あれっ、何だか理解のベクトルが違うような……うぐっ!
信じきったミカエルの相貌が急接近すると柔らかな感触が唇を包んだ……重ね合わさった唇……あれっ何だか、俺の中に暖かくふんわりした何かが浸透していく……もしかして……恋?
柔らかな感触が離れるとトロンっとした瞳から秋波が送られてきているような気がするぅぅぅ♪
鼻さきにかかる金色の髪……落ちついてミカエルを見てみると絶世の美少女……ああっ、何て良い香りがぁぁぁ。
鼻腔をくすぐるバニラパフュームに心まで溶けてしまいそう。
「すまん……凄く不安になって……お前がひよりや小鈴を見るたびに……凄く胸が痛んで……辛くなって……」
その言葉の一つ一つが懺悔でもするように俺に吐露してくる……気分は少しだけ神父さん♪
もう一度だけぐっと抱きしめる……ミカエル……友達がいない上に凄くさびしがり屋さんなんだなぁっと納得してしまう俺。
――プスっ――ぎぁぁぁぁぁぁぁ!
下半身に激痛が走る……突然の悲鳴(俺)がエントラスホールに響きわたる。
びくっと驚き飛びのいたミカエル……俺のズボンポケットから髪の毛と服が『くしゃくしゃ』になった赤髪のメガネっ子座敷わらし・ヒナナが目を三角にして金の針を手でかかげ『ぶーぶー』と抗議の声を上げている。
俺が手のひらに乗せると全身を使ったゼスチャーで阿鼻叫喚の世界を表現……ようするにポケットで寝ていたら突然、信じられない衝撃とおもり(ミカエルの体重)がのしかかり窒息しそうになった……と説明してくれている。
そして、ヒナナはミカエルに一瞥すると、学習したように踏みつぶされない場所……俺の頭の上に乗って髪の毛を持ってちょこんと座った(何だか乗馬のポニーな気分(涙))。
「お待たせしたですぅ♪」
再び。あわただしい声の持ち主がテコテコと走りながら現れる。
服装はいつものメイド服……だが……何か違和感が。
そんな俺の頭を見て小鈴が指を指して『にぱぁっ』と破顔する。
「わ~い♪ヒナナではないですかぁ。珍しいです。凜様に捨てられたのですか。クフフ♪言いざまなのです♪」
笑顔で毒を吐く小鈴にプンプンと怒り心頭のヒナナ……あれっ、金の針をだして……ぎやぁぁぁぁ……痛いです、八つ当たり反対ぃぃぃぃ☠
そんな、俺達を見て嘆息するミカエル……とんでも賑やかな一行は小鳥の部屋を目指すべく歩き始めるのであった。