3話
「ではまず、僕の助手に心からの謝罪を要求する。断るのならば君は依頼者である資格はないと判断する」
「は…?なぜそんなことを」
リクス伯爵。階級もそれなりに高いのだからプライドもあって当然のこと。心底面倒くさいので断りたいのは山々だが、上司が言っていることに口出しするつもりはない。まぁ本音をいうと、「女で平民」である私に「男で貴族」であるリクス伯爵が頭を下げると思うととても愉快ではあるが。先生には「いい性格をしているな」と言われたけど。先生は意識して圧をかける。ちなみに先生自身もこの状況を愉しんでいるらしい。
「ちっ…。申し訳ない。」
及第点。私は先生に微笑みかけた。許しの合図である。別に私たちにとってただの余興であるためどんなクソみたいな謝罪であろうと一度で許している。
「さて、では本題に移ろうか。君はそこに座ってくれ。苦いのはお好きかな?」
「え?いや、あまり口に含みたくはないな」
「ルケーレ」
「承知いたしました、先生」
私は台所に踏み込む。豆を煎り、時間をかけてカップにコーヒーを注ぐ。ミルク大さじ一杯に3つの角砂糖。貴族にはこの甘さがちょうどいいらしい。
「お待たせいたしました」
「…これは?」
「隣国で流行っているコーヒーという飲み物です。甘みを足しておりますが苦味も多少感じられることをご了承ください」
彼は勇気を出して一口含む。
「美味しい…」
「それは良かった」
それをみた先生は自信満々な表情で笑った。なぜならコーヒーを輸入しているのは先生の実家だからである。本当になんでこんなところで働いているのだろう。
「それで、殺人事件というのは?」
「近年、ここ三年ほどでしょうか。各地に多くの村で殺人事件が起こっているのです」
それはなんとも奇妙で、興味深い話だった。
始まりは国の南部。あまり整備されていない地域だった。村の真ん中で村人がひとり死んでいたらしい。第一発見者は気絶。他の人間たちは発見者の叫び声を聞き、初めて事件を知ったそうだ。すぐその村では犯人探し、及び魔女狩りが始まった。その村では三人が犠牲になったという。だが、それが間違いであることに気がついたのは過ちを起こしてすぐのことだった。
なんと、同じような状況の殺人が隣の村でも起こっていたのである。
「この村には魔女はいない」彼らはそう結論づけた。
「それが、すべての村で…か。三年前にもこの探偵事務所はあありましたが、今更駆け込んできたのはなぜ?」
「何をしても状況が変わらないのをどうにかしようとしてやっとのこと、噂で聞きつけたのです」
やってくる旅人を絶対に村へ入れないようにすることを国民全てに伝達してもなお、殺戮は止まらないらしい。
「地図をくれ」
「はい」
私は近くの棚をあさり、本の奥でぐちゃぐちゃになっていた地図を取り出した。十中八九先生の雑さなので、後で一回〆る。本の間に畳んで入れればきれいだったのに。
「どうぞ」
ぐちゃぐちゃの地図を先生に託し、ついでに絶対に必要になるであろう筆記用具を机の上においた。
「リクス伯爵、殺人事件が起きた村を順番に言ってくれ。一つも漏らすことなくだ」
「わ、わかりました」
一つずつ、丸がつけられていく。最終的に出来上がったのは私たちがつかう「X」の文字に、ひし形が重なったような印。
「…これは、なんです?」
「オセル、神秘文字で「土地」という意味です」
私とリクス伯爵は首を傾げる。
「これは魔女からの宣戦布告だ。「この領地は私のものである」という印」
「は、はぁ…」
「伯爵、どのくらいの頻度で事件が?」
「大体1年で100件ほどです。既に200件超やられています」
「…この国の村の数は」
「確認できるだけで3000弱ほどです」
どういう意味があるのだろうか。村の数はあまり重要では無いと思うのだが…私は別に探偵ではないから何も分からないけれど。
「報酬は?」
「…そちらの欲しい金額を」
私は目を見開く。本気なのだろうか。先生はどちらかというと金の亡者だ。吸い尽くされてしまうのでは…。
「考えさせてくれ」
え?引き受けないんですか?あの先生が?!風邪引いた?!
「前向きに考える。何かあったらすぐに連絡をよこしてくれ」
「どうかよろしくお願いします」
私は先回りして扉を開けた。来た時と態度を変えることなく、伯爵は私を1度睨んでから事務所を後にした。




