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落ちこぼれ魔術師の俺だけが、魔法を失敗できない  作者: 香森 みんと
第二章

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第15話 普通ではない反応

 夕食の時間になっても、ユリスの胸の奥は冷えたままだった。


 食堂には、測定を終えた新入生たちの声が満ちている。


 長い木の机がいくつも並び、白を基調にした制服の袖があちこちで揺れていた。

 皿が触れ合う音。

 椅子を引く音。

 誰かが笑う声。

 焼いた肉の匂いと、温かなスープの湯気。


 その全部が、少し遠かった。


 ユリスは食堂の隅に近い席へ座り、目の前の皿を見下ろしていた。


 食事は、村で食べていたものよりずっと整っている。

 白い皿に盛られた肉料理。

 柔らかいパン。

 野菜の入ったスープ。

 小さな果物まで添えられている。


 けれど、味はほとんど分からなかった。


「ノルフェイン嬢、三つとも特位だったんだろ」


 近くの席から、そんな声が聞こえた。


「術式理解も、補完も、構築も全部だってさ」


「すごすぎる。あれ、もう新入生の測定じゃないだろ」


「グランフィールも全部上位だって聞いたぞ」


「まあ、あっちは分かる。見た目からして優等生って感じだし」


 笑い声が混じる。


 ユリスは、匙を持つ手を止めなかった。


 聞こえていないふりをした。

 けれど、耳は勝手に拾ってしまう。


「でも、フォルクってやつも変なこと言われてなかったか?」


 匙が、皿の縁に小さく触れた。


「ああ。下位なのに、通常の下位じゃないとか」


「発動してないのに結果成立反応って、何だよ」


「知らない。でも測定官の顔、けっこう怖かったぞ」


「下位なのに目立つって、逆にきついな」


 胸の奥が、少しだけ縮んだ。


 結果成立反応。


 測定官の声が、まだ頭の奥に残っている。


 ユリスはスープを口に運んだ。

 温かいはずなのに、喉を通る感覚だけがぼんやりしていた。


 落ちこぼれなら、落ちこぼれでよかった。

 足りないなら、足りないでよかった。

 魔力量は標準。魔力制御は下位。術式理解も、術式補完も、簡易術式構築も下位。

 それなら、ただ自分が魔術師として未熟なだけだ。


 努力すればいい。

 学べばいい。

 そう思うこともできた。


 けれど、測定官たちはそう見なかった。


 下位。

 だが、記録は通常の下位判定とは一致しない。


 その言葉が、何度も胸の内側をこすっていた。


 ユリスが皿の端を見つめていると、不意に周囲の声が小さくなった。

 食堂のざわめきが、波が引くように遠のいていく。

 最初は、誰か教師でも来たのかと思った。


 だが違った。

 ユリスのいる机の前で、人影が止まった。

 顔を上げる。

 銀色の髪が、食堂の灯りを受けて静かに輝いていた。


 セリア・ノルフェイン。


 測定室で見たときと同じように、彼女は背筋を伸ばし、青い瞳でまっすぐユリスを見ていた。


「ご一緒してもよいかしら」


 ユリスは、匙を落としかけた。


「……俺と?」


「他に誰かいるの?」


 セリアは当然のように言った。


 その瞬間、周囲がざわめいた。


「え、ノルフェイン嬢?」


「なんでフォルクの席に?」


「あの二人、知り合いなのか?」


「いや、今日の測定で何か話してなかったか?」


 視線が集まる。

 さっきまで噂の中にいたはずなのに、今度は食堂中の視線の真ん中に置かれている。


 ユリスは肩をすくめるようにして、向かいの席を見た。


「いや、その……空いてるけど」


「では、失礼するわ」


 セリアは迷わず向かいの席に腰を下ろした。


 動きに無駄がない。

 座るだけなのに、まるで測定板に線を引くときのように静かだった。


 ユリスは、目の前のスープとセリアを交互に見た。


「……どうして、俺の席に?」


 問いかけると、セリアはすぐには答えなかった。

 周囲のざわめきを、気にするでもなく、無視するでもなく、ただ一度だけ視線で確かめる。


「今日の測定について、少し聞きたいことがあるの」


「俺に?」


「ええ。あなたに」


 その言い方のせいで、周囲のざわめきがまた少し大きくなった。

 セリアもそれに気づいているはずだった。

 けれど、彼女の表情は変わらない。

 まるで、周囲の反応など最初から測定対象に入っていないようだった。


「第三測定のことよ」


 セリアは、少しだけ声を落とした。


「最後に、出題板の反応が変わったでしょう」


 ユリスの指が止まった。


「反応?」


「記録用水晶板に出ていたわ。赤い線が走ったあと、少しだけ反応光が揺れた」


「……そんなの、俺には分からない」


「でしょうね」


 セリアはあっさりと言った。

 責めるような響きはなかった。


「あなたの解答そのものは、遮蔽膜で見えていなかったわ。でも、記録用水晶板の反応は見えた」


「反応を見ただけで、何が分かるんだよ」


「全部は分からないわ」


 セリアは、そこで一度言葉を切った。


「でも、少なくとも、主流路を正しく補ったときの光ではなかった」


 ユリスは、言葉に詰まった。


 主流路。

 発動へ向かう中心の線。


 自分は、それを正しく示せなかった。

 それは分かっている。

 けれど、その代わりに何を示したのかは、自分でも分からなかった。


「発動させるための線ではなく、別の反応だった。おそらく、反動を逃がす側の反応に近い」


「おそらく?」


「ええ。断定はできないわ。あなたの手元は見えていないもの」


 セリアは静かに言った。


「でも、測定官たちも同じものを見ていたはずよ。だから評価に、一部適性反応あり、と付け加えた」


 ユリスは、あの声を思い出した。


 目的との一致、不完全。

 魔力消費、判定不安定。

 構造安定性、低い。

 反動処理、一部適性反応あり。


 そして全部、下位。


 でも、最低評価ではなかった。

 そして、測定官の顔は少しも和らいでいなかった。


「……俺は、ただ失敗しただけだ」


 思わず、そう言っていた。

 けれど、言った瞬間、自分でも少し違うと思った。


 失敗。


 そう呼ぶには、いつも何かがずれている。

 ユリスの魔法は、結果だけ見れば失敗しない。


 火は灯る。

 水は形になる。

 皿は割れない。

 倒木は止まる。


 周りから見れば、成功したように見える。

 けれどユリス自身は、それを成功だと思ったことがなかった。

 いつも、どこかで何かを間違えた気がしていた。


「結果は失敗していないわ」


 セリアは静かに言った。


「だからこそ、おかしいのよ」


 ユリスは、匙を握る手に力を込めた。


「でも、成功したわけじゃない」


 声が、思っていたより強く出た。

 セリアの青い瞳が、わずかに細くなる。


「……そう感じているのね」


「感じるも何も、そうなんだよ」


 ユリスは俯いた。


「周りから見れば、成功したように見える。でも違う。俺はいつも、何かを間違えてる」


 セリアはすぐには答えなかった。

 食堂のざわめきだけが、二人の間を流れていく。


「なら、そこから考えるべきね」


「何を」


「あなたが、なぜそれを成功だと思えないのか」


 セリアの声は静かだった。


「今日の測定結果より、そちらの方が気になるわ」


 ユリスは顔を上げた。


「測定結果より?」


「ええ」


 セリアは当然のように頷いた。


「評価だけなら、あなたは下位よ。術式理解も、補完も、構築も。そこに疑いはないわ」


「はっきり言うな」


「事実を曖昧にしても、何も見えないもの」


 痛い言い方だった。

 けれど、不思議と嫌味には聞こえなかった。


 セリアはユリスを見下しているわけではない。

 ただ、測定板に浮かんだ線を読むときと同じように、事実を事実として置いている。

 そこに余計な慰めも、余計な蔑みもなかった。


「でも、下位なら下位らしい記録になるはずよ」


 セリアは続けた。


「読めない。補えない。構築できない。だから、そこで終わる。普通はそうなる」


「俺は……終わってないってことか」


「少なくとも、記録はそう見えたわ」


 セリアは、断定しなかった。

 そのことが、少しだけユリスを落ち着かせた。


 分からない。

 セリアは、そう言っている。

 それなのに、見ようとしている。

 ユリス自身が目を逸らしたいものを、まっすぐ見ようとしている。


「今日の反応は、普通ではなかった」


 セリアは言った。


「あなたが何をしたのか、私にもまだ分からない。でも、分からないまま放っておいていいものではないと思う」


 ユリスは、何も言えなかった。

 分からないものが、自分の中にある。

 それを他人の口から言われると、余計に形を持ってしまう気がした。


 そのとき、少し離れた席から視線を感じた。

 ユリスは何気なくそちらを見る。


 レオン・グランフィールがいた。

 赤い髪は食堂の灯りを受けて、炎のように鮮やかだった。


 彼の周りには、何人かの生徒が座っている。

 誰かが何かを話しかけていたが、レオンは答えていなかった。

 赤い瞳だけが、こちらを見ている。


 笑ってはいなかった。

 怒っているようにも見えない。

 ただ、静かに細められたその目には、何か硬いものがあった。


 ユリスは思わず視線を逸らした。


「どうかしたの?」


 セリアが尋ねる。


「いや……別に」


 そう答えたものの、こちらに視線が残っている気がした。


 周囲のざわめきは、まだ完全には収まっていない。

 セリア・ノルフェインが、ユリス・フォルクの向かいに座っている。

 それだけで、十分すぎるほど目立つのだ。


 ユリスは小さく息を吐いた。


「セリアは、いいのか」


「何が?」


「その……俺なんかと一緒にいて。周り、見てるぞ」


「見ているわね」


「気にならないのか」


「必要だと思ったことをするのに、周囲の視線を理由にやめる必要はないわ」


 きっぱりと言われて、ユリスは言葉に詰まった。


 強い。

 魔法だけではない。

 この少女は、立ち方そのものが自分とは違う。

 ユリスなら、周囲の視線だけで逃げ出したくなる。

 実際、今もそうだった。


 けれどセリアは違う。

 見られていることを知った上で、席に座っている。

 その理由が、自分の奇妙な反応を確かめるためだとしても。


「……変なやつだな」


「あなたに言われたくはないわ」


「俺は普通だろ」


「今日の測定結果を聞いて、本気でそう言えるの?」


「言えないけど」


 即答すると、セリアがわずかに口元を動かした。

 笑った、のかもしれない。

 ほんの一瞬だったので、ユリスには確信が持てなかった。


「明日は属性・発動測定だったわね」


「ああ」


 その言葉だけで、ユリスの胸がまた重くなる。


 三日目。

 属性・発動測定。


 今度は、実際に魔法を発動することになる。

 術式図を読むだけではない。

 出題板に線を示すだけでもない。

 自分の魔力を流し、魔法を起こす。


 つまり、また結果が出てしまう。

 自分では正しくできた気がしないのに、結果だけは出てしまう。

 そんな予感が、もう背中に張りついていた。


「怖い?」


 セリアが言った。

 ユリスは驚いて顔を上げる。


 青い瞳が、まっすぐこちらを見ていた。

 からかうような色はない。

 ただ、確認しているだけだった。


「……怖いよ」


 思っていたより、素直な声が出た。


「魔法を使うのが怖い。何が起きるか分からない。自分でも分からないのに、結果だけ出るのが一番怖い」


 言ってから、少し後悔した。

 こんなことを言えば、余計に落ちこぼれだと思われるかもしれない。


 だが、セリアは笑わなかった。


「分からないものを怖がるのは、当然だと思うわ」


「当然?」


「ええ。自分でも説明できない反応が出ているのに、怖くない方が不自然よ」


 ユリスは言葉に詰まった。

 責められると思っていた。

 臆病だと言われると思っていた。

 けれど、セリアの声には、そんな響きがなかった。


「でも」


 セリアは、記録用水晶板があった測定室の方角へ、ほんの少しだけ視線を向けた。


「怖いからといって、見ないままでいるのは危険よ」


「……見ないまま?」


「確かに今日の反応は、普通ではなかった。だからと言って、見ないまま放っておいていいものではないわ」


 ユリスは、何も言えなかった。


 放っておいていいものではない。

 セリアはそう言った。


 そのことに、少しだけ納得した。

 同時に、もっと怖くもなった。

 分からないものが、自分の中にある。

 しかも、それは明日も測られる。

 今度は、実際に魔法を発動する形で。


「……どうすればいいんだよ」


「分からないわ」


 即答だった。


 ユリスは思わず顔を上げた。


「分からないのに来たのか」


「分からないから来たの」


 セリアは当然のように言った。


「一人で考えるより、本人に聞いた方が早いでしょう」


「俺に聞かれても分からないって言ってるだろ」


「ええ。だから、分からないことが分かったわ」


「……それ、意味あるのか?」


「あるわ」


 きっぱりと言われて、ユリスは返す言葉を失った。


 本当に変なやつだ。

 いや、向こうからすれば、自分の方がよほど変なのだろう。


 食堂のざわめきは、少しずつ戻り始めていた。

 最初ほど露骨ではないが、ちらちらと視線は飛んでくる。

 それでも、ユリスの胸の内側は先ほどより少しだけ静かだった。


 下位。

 通常の下位とは一致しない。

 結果成立反応。


 その言葉はまだ怖い。

 けれど、セリアはそこから目を逸らさなかった。

 ユリス自身が見たくなかったものを、まっすぐ見ていた。


「ユリス」


 不意に、セリアが名前を呼んだ。


「な、なんだよ」


「明日の測定で、無理に取り繕おうとしない方がいいわ」


 ユリスは眉を寄せる。


「取り繕う?」


「怖いからといって、いつも通りに見せようとしないこと。普通に成功したふりをしようとしないこと」


「そんなの……」


 ユリスは言いかけて、口を閉じた。


 できるなら、普通に見られたかった。

 変な反応など出さず、普通に測定を終えたかった。

 下位なら下位でいい。

 それでも、ただの下位でいたかった。


「普通でありたいと思うのは分かるわ」


 セリアは言った。


「でも、今日の反応を見たあとで、何もなかったことにするのは危険よ」


「危険って……俺が?」


「あなた自身にも、周りにも」


 その答えは、まっすぐだった。

 ユリスの胸が沈む。

 だが、セリアは続けた。


「だから知る必要がある。今はまだ、それだけよ」


 今はまだ。

 その言葉が、妙に耳に残った。


「……セリアは、俺のことが怖くないのか」


 気づけば、そんなことを聞いていた。

 セリアは一瞬だけ黙った。

 それから、少しだけ目を伏せる。


「危険だとは思っているわ」


 その答えは、正直だった。

 ユリスの顔が曇る。

 だが、セリアは逃げるようには言わなかった。


「でも、分からないものを、分からないまま怖がるのは嫌いなの」


「研究者みたいだな」


「褒め言葉として受け取るわ」


「褒めてない」


「そう」


 短いやり取りだった。

 でも、ユリスは少しだけ息がしやすくなっていた。


 怖がられていないわけではない。

 危険だと思われていないわけでもない。

 けれど、セリアは逃げていない。

 それだけで、今のユリスには十分すぎるほどだった。


 やがて、セリアは静かに立ち上がった。


「そろそろ戻るわ」


「え、食べないのか」


「少しは食べたわ」


 見ると、セリアの皿は本当に少しだけ減っていた。

 ユリスが気づかないうちに、必要最低限だけ食べていたらしい。


「明日、また測定室で」


「ああ」


 セリアは一度だけ頷き、席を離れた。


 銀色の髪が揺れる。

 彼女が歩くと、周囲の視線もそれに合わせて動いた。

 ユリスはその背中を見送った。


 不思議な少女だと思った。

 綺麗で、冷静で、遠くにいるように見える。

 けれど、誰よりも近くで、自分の奇妙な反応を見ていた。


 食堂のざわめきが、少しずつ元に戻っていく。

 ユリスは冷めかけたスープをもう一口飲んだ。

 今度は、少しだけ味がした。


 夕食を終え、ユリスは寮の部屋へ戻った。


 廊下は昼間より静かだった。


 自分の部屋の扉を開けると、さらなる静けさがユリスを迎えた。


 一人分の机。

 一人分のベッド。

 一人分の荷物置き。


 誰かに何かを聞かれる心配はない。

 けれど、誰かに何かを話せるわけでもなかった。


 ユリスは制服の上着を脱ぎ、椅子の背に掛けた。

 机の上には、配布された学院案内と、明日の集合時刻を書いた紙が置かれている。


 属性・発動測定。

 その文字を見ただけで、胸が重くなった。


 明日は、実際に魔法を使う。


 火を灯すのか。

 水を生むのか。

 風を起こすのか。

 どんな課題かは分からない。


 だが、ひとつだけ分かっていることがある。

 また、自分の魔法と向き合わなければならない。


 ユリスは右手を開いた。

 何の変哲もない手だった。


 黒い髪。黒い瞳。普通の体格。田舎から来た、どこにでもいそうな少年。

 なのに、この手が魔法を使うと、何かがおかしくなる。


 周りから見れば成功している。

 でも、自分では成功した気がしない。

 いつも、どこかで何かを間違えた気がする。


 今日の測定でも同じだった。

 術式は正しくなかった。

 解答は下位だった。

 それなのに、記録はただの下位では終わらなかった。


 セリアの言葉が、何度も頭の中で繰り返された。

 分からないまま放っておいていいものではない。


「……簡単に言うなよ」


 小さく呟いた。

 けれど、その声に怒りはなかった。

 むしろ、少しだけ悔しかった。


 セリアは見ていた。

 測定官たちが困惑する中で、ユリス自身すら分からなかった反応を見ていた。


 自分は、何をしたのか。

 何を間違えたのか。

 ユリスには、まだ分からない。

 でも、分からないままでいることも、もうできなかった。


 窓の外では、王都アルヴェリアの夜が白く沈んでいる。

 遠く、街の外縁に立つ結界塔の影が、夜空の中でぼんやりと浮かんでいた。


 ユリスは、椅子の背に掛けた上着を見た。

 胸元に縫い込まれた学院章が、窓から差す白い月明かりを受けてかすかに光っている。


 白い塔を囲む、三本の線。

 守っているようにも、閉じ込めているようにも見える印。

 今夜はそれが、逃げ場のない術式のように見えた。


 そんなふうに考えてしまうのは、今日ずっと反動線や逃げ道の話を聞いていたからだろう。


 ユリスは首を振り、寝支度を始めた。

 布団に入っても、すぐには眠れなかった。

 暗い天井を見上げる。


 測定室の白い光。

 出題板の赤い反応。

 記録用水晶板に残った、不気味な揺らぎ。

 食堂で向かいに座ったセリアの青い瞳。

 遠くからこちらを見ていたレオンの赤い瞳。


 全部が、眠りの手前で混ざり合っていく。


 普通ではない反応。

 セリアの声が、また胸の奥で響いた。


 ユリスは布団の中で、右手を握った。

 自分の魔法は、ただ下手なだけではない。

 それはもう、分かってしまった。


 けれど、もし本当にそうなら。

 自分はいったい、何を間違えているのだろう。


 答えは出ない。

 ただ、明日が来る。


 属性・発動測定。


 今度は、結果が出る。

 成功するのか。

 失敗するのか。

 それともまた、成功したように見えてしまうのか。


 分からないまま、ユリスは目を閉じた。


 夜は静かに深くなっていった。

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