2話 お願いだから卵ぶちこまないで!?
すっかり空も暗くなった頃、私たちは家についた。他と変わらないか、少し小さいくらいの自宅。
「…カーラの家、小さいですね」
「それは言わないで!?」
「思ってことを言わないのもひどいでしょう?」
そうか、そうくるか。ぐっ、かわいい!そんなに間違ってない気がしてくる!変わらずぴっとりくっつくリリア。嫌いな人間との距離感じゃないぞ、これ。中に入って、少し片付けをした。リリアは、興味深そうに内装をキョロキョロ眺める。
「そ、そんな珍しい?人間の家って」
「…まぁ、サキュバスとは全然生態違いますから。カーラも教科書で見ませんでした?」
教科書。やばい、全然見てない。勉強とかそっちのけで魔法で遊んでたし。そもそも時代が違うから同じ教科書読んでない。
「ん?んー、まぁ?読んでは?いたよ??」
「…」
じとっ、と私を呆れた顔で一瞥した。さては読んでないなこいつ、みたいな。いや、思わず見栄張っちゃたんだよ!!許して!!
「あなた、絶対嘘ついてますよね。魔力の揺らぎは見逃しませんよ!思ってることは九割当たりませんが!」
「当たらない自覚はあるんだ!!」
小さく咳払いをして、その場をしのぐ。リリアは、髪を簪でまとめて、腕をまくった。そして、こちらを振り返った。ん??何するの?
「…一応解説しておくと、サキュバスはお風呂入らなくていいんですよ」
「へ!?そうなの?」
「人間とはそもそもが違うんですよ」
「へぇー。え、じゃあなんで腕まくった?」
「それに、私は亜人族からは生気を吸収できません」
「う、うん」
それが、今さっきの動作と関係あるってことかな?呆れた目で先生してるリリア。髪がさらんさらん揺れてる。つるつるやぁー。
「なので、代わりに食事をとる必要があります。なので、私が作ります」
「あ、料理を?」
おお、すごいなぁ。バイトだけど料亭で働いていたリリアの、手作り料理。気になる。
「あ、じゃあ物の配置教えるね」
「遠慮します」
「ここで人嫌い発動するの!?自分で知りたいタイプ?」
「違います」
リリアは、目を瞑った。何?キス待ち??と、思ったら空気が揺らいだ気がした。部屋の魔力の流れが少し変わる。これって…?
「鑑定と、サーチしただけです」
すぐに、食材置き場から流れる手つきで取り出し始めた。え?鑑定とサーチって一緒に出来るんだ??
「え、じゃあもう配置分かっちゃったの?」
「はい」
そういってリリアは昔異世界で発明されたらしい電子レンジもとい、魔力レンジを開いた。
「すごいねぇ!リリア、魔法の才能あるよ!」
「そうでしょう。私はすごいんです」
自画自賛した、次の瞬間。リリアは卵をまるごと魔力レンジにぶちこんだ。…? ? ?
「え?リリアさん?な、なにしてるのかな…?」
「何って、卵あっためるんです」
止める間もなく、リリアは魔力を流して起動し始めた。だ、だめだ、それをしたら…!
パァン! ! ! 卵が弾け飛び、魔力レンジが煙を吐き始めた。
リリアは、目を見開いてあわあわと手を動かしている。全然対処になってない!
「あわ、あわわわ!破裂した!!煙!煙がぁ!」
「もう!卵ぶちこんだらこうなるよ!」
水魔法を、魔力レンジに浸した。なんとか火事にはならなそうだ。大惨事は免れたようで、私はリリアに問い詰める。
「り、リリアってネコ亭で働いてたんじゃないの?てっきり料理得意なのかと」
「何故かいつも配膳だけでした」
「それで自信満々と!?」
リリア、ポンコツ説が急上昇してきたぞ…。
「あのね、卵は魔力レンジにそのまま入れると、爆発するんだよ?料理で習わなかった?」
「覚えてないです」
「それで私の事なんて言えないよ!!もー、私も手伝うから一緒に作ろ?ね?」
「仕方ないですね」
ふん、と息を鳴らして再度腕まくりをするリリア。次こそは、と意気込んで料理を作る。ほぼ介護だった。いやまじで。端には、魔力レンジの残骸が置かれている。かわいそうに…。しばらく時間を費やしたあと、目の前にはおいしそうなのができた。ふわふわのパン、あとは卵焼きとハム。リリアを介護しながらできる、精一杯だった。
「な、なんか強い魔物と戦った時より疲れた気がするよ…」
「くるしゅうないです」
「なんでそうなった!?」
食卓に座って、二人で机を囲む。疲れていたのか、早々に食べ終わった後。私は、寝室に行き布団を鑑定していた。
「鑑定して、何してるんですか」
「…」
リリアの雰囲気が変わった。なんだか、凍てつくような。でも、気のせいだろうと、布団を凝視する。
えーと、この羽毛がニワトリの羽毛で…。しばらく鑑定して、大きく頷いた。うん、これなら魔法で作れそう。難しいけど物作る魔法覚えててよかった…。布団を生成して、近くのソファーに敷く。作った途端、身体がとても重くなった。これ、ほんと魔力使うんだよな。
「リリアー?布団作ったから、これで──、」
「…私は、床で寝るので大丈夫です」
「え、どうしたの?そんなこと言わないでよ」
「人間に気を使われたくないです」
スパッと一刀両断。リリア、急にどうしたんだろう。何か私したのかな。ふと、さっきリリアの雰囲気が急に変わったのを思い出した。
「え、なんで…?私が無視しちゃってたの嫌だった?」
「…人間に言う必要ありますか」
さっきまで名前呼びだったのに。本当にどうしたの。心配になって、リリアを覗き込んだ。リリアは私を見て、はっと息を飲んだ。今度はどしたんだ?
「あなた、ミラと同じ色の、魔力」
「魔力?色って…」
ふと、思い当たった。サキュバスは、魔力の色や揺らぎが鮮明に見える。上位のサキュバスは、特に魔力の色から感情が読み取れると。
「ずっと同じ、変な色。あの時みたいな…」
リリアは、しゃがみ込んで顔を歪めた。あの時?私の感情を読みとって、何かを思い出した?
「…どうしたの、ゆっくり教えて?」
「あなたみたいな、ずっと心配と優しさの色。ミラも同じだった。私に優しくしてくれたみんなみたいな」
優しくしてくれた。ということは、優しくなかった人もいた?
こんな可愛らしい子に?
「よく分かってないけどね。ミラが嫌がるとこはしないって誓ったの、覚えてる?だから、大丈夫だよ」
「そう、ですか?…私、怖がりすぎなのかもしれません」
人を怖がるのは、何故なんだろう。まだ、深いところは見えない。でもリリアは何かしらが怖いのだろう。そこが見えれば、克服の協力くらいはできるんだけど。
「ふふふ、リリア心配しないで。また嫌だったらミラにも相談するし、私も頑張るから。今はとりあえず寝よう?」
「…そうですね、私疲れました」
「お疲れ様。…ねぇ、人間嫌いなの?私のことを嫌い?」
「え?」
「え?」
そうして、黙りこくる。とほほ、やっぱり嫌われてるみたいだ。
「…嫌いでもいいよ。けど、心配することはしないでね?」
「…嫌いなんかじゃ」
ん?聞き間違い?私の幻聴?いや、幻聴だ。それか噛んだんだきっと。おおう、私嫌いも克服してもらわないと。とぼとぼとベッドに行く。リリアは、頬を風船みたいに膨らませて、むくれた。頬が薄紅色。かわいいけど、なんで?
「…やっぱり、カーラ嫌いですっ!」
「そんなっ!?」
涙目になる。嫌い、嫌い…。頭で反響する。
ふと、外でけたたましい鐘の音。ビクッと身体が震える。え?なに?この鐘って、緊急の時の…?誰かが騒ぐ声がする。
「魔獣が出たぞーー!!みんな、家にこもれ!!すぐに討伐隊がくる!!」
魔獣?最近平和だったのに?心臓が、重苦しく鳴る。
「…この魔獣、Aランクです」
「Aランクってことは…かなり強いね」
「多分、地龍ですね」
地龍。頭の中で思い出す。たしか物理に強くて魔法に弱い、地面特化の。リリアは、初めてニヤッと笑って私の肩を玄関に押した。
「え?な、なに…」
「カーラ、今こそあなたの出番でしょう。元勇者パーティの最強魔法使い。さぁ、行きましょ。暇つぶしでしょ?」
地龍を暇つぶし!?リリアは戦い好きなの?リリアも、推定だけど上位サキュバスだし…。そ、そんな。私戦いはすきじゃないのに───!




