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第16話


「植物に触れば、灰になる。野菜も果物もだ。土に触れれば、芽吹かせる力を失わせる。器に入った水も一瞬で蒸発する。動物には嫌われる。懐いてくれているのはマツバ族のキツネだけだ。ヨシカが唯一、触れられるのは流れる水。川の水、雨。他にもあるのかも知れんが、見つかってない。だから、問題がないなんてことはない!」

「人は?」

 ミハルがエトウに聞いた。

「人間は大丈夫だ。わたしが最初に確かめたからな。あの子が自分の体質の変化を自覚したのは大事にしていたビワの木に触れたときだ。それからヨシカは離れに閉じこもった。三日顔を出さず、四日目の朝に合鍵で部屋を開けた。ヨシカは窓の外を見つめ、朝日を浴びていた。真っ赤な目で。そして赤い目を治すと、村の皆の前でいった。わたしのことが怖いだろう、と。怖いなら怖いといって欲しい。近づいて欲しくないとき、触って欲しくないときは言葉にして伝えて欲しい。わたしは傷つかないから。これからできないことばかりだけれど、できることを教えて欲しい。あの子が九歳のときだ」

「傷つかないわけないのにね」

 メイが小さくこぼした言葉はクロスの耳にしか届かなかった。ニカがワシノスを睨む。

「ヨシカはよく人を助け、できる限りのなかでできる限り以上、働いている。今も、よそもんのために、身をていにして助けに行った。馬鹿野郎のために、命張ってさ!こんちくしょっ!」

 ニカが丸めた新聞をワシノスに投げつけた。新聞は情けなく、床に落ち、転がった。ワシノスは座り込むと、茫然としそうになるのを堪えた。クロスはワシノスのそばまでいった。

「じゃあ、医者がトミーのサギランを摘出したっていうのは嘘だったってことか……」

「残念ですが、隊長。騙されたってことでしょう。お金はもう、払ったんですよね?」

「ポケットマネーさ。家も売った。印税も空っぽだ!くそうっ!チューマの野郎!」

 ワシノスはこぶしを己の太腿に叩きつけた。クロスは医師の名前に覚えがあった。

「チューマ?チューマ医師に頼んだのか?」

「ああ、そうだよ」

 ワシノスはやけくそにいった。

「名医だと有名だろう」

 ええ、とミハルが頷いた。

「ただちょっと、身に余る金の使い方をしていたようで、そこに目を付けられていたようですよ」

 ワシノスはゆっくりとミハルの方を見た。

「あなたの計画は初期の段階で見破られていた。チューマ医師をあなたは選んだのではなく、選ばされた」

 ミハルは首にかかったチェーンを引っ張ると、服の外に出した。チェーンの先には鍵と、ヌカエの銀の指輪があった。昨日のクロスの疑問はその指輪が解決してくれた。

「だからミハルさん、キシャの石の本当の力をワシノス隊長に話していなかったんですね」

「なに?なんだ?どういうことだ?」

 ワシノスはうろたえはじめた。クロスはここまでくると、同情してしまった。ミハルはきょとんとしている。

「クロス君、わたしが身内だと知らなかったのかい?」

「敵を騙すならまず味方からっていう典型的なやつですかね」

「だからですか。わたしはサギランを失くした村人を特定するために言われました。てっきり知っているのかと。だから、」

 集会所のドアがノックされた。イオリがドアを開けると、ナトリーが入ってきた。

「失礼。ムカエギの花が咲きました」

 皆が騒めく。メイは窓に駆け寄り、外にヨシカの姿を捜した。そして夜よ待て、とくり返し願った。

「さっき女の子とすれ違って、呼び止めたのですが、キシャ山の方へ走って行って。わたしには急いで集会所に行けと」

「それはわたしの娘だ」

 エトウがいった。

「あなたは?」

「この村診療所の医師だ」

 クロスはふたりの会話を不思議に思った。

「ナトリー、お前ヨシカさんのことを知らないのか?」

「知りませんよ」

「でもお前、そういうのはマメに記憶しているだろう、いつも」

「そうですかね?細かいことは案外、彼に任せていますよ」

 敵を騙すならまず味方から。クロスは血の気が引いた。クロスは集会所を見渡す。いない。クロスはミハルに掴みかかった。

「オハラはどこいった?」



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