第14話
村長も笛を渡せなかった。
「ヨシカに任せてくれ、村長」
エトウが村長の肩に手を置いた。村長はエトウを見て目をぎゅっとつぶって後悔の記憶に耐えた。
「ヨシカ。あのアホンダラたちに目にもの見せてやれ」
ヨシカは頷く。村長は諦めたように首から笛をはずした。その手をヨシカは、手袋のぬくもりで包んだ。
「ありがとう」
村長の手から笛を取り、外へ出ようとするヨシカの前にクロスが立ちはだかった。クロスはヨシカの肩を強くつかんだ。
「ひとりじゃ危ない。わたしも一緒にゆこう」
「お前はワシノスとグルになって騒いだだろうが!」
メイがクロスに体当たりをすると、床に倒しおさえこんだ。
「それは誤解だ!グルじゃない!」
「うるさい!満月にしてやるぞ!ヨシカ!」
メイはふり返らず、親友を呼んだ。
「遅くならないで」
「すぐ戻る」
ヨシカはドアを開けて外へ出た。村長はドアへ駆け寄る。ドアは音を立てて閉まった。きちんと閉まったドアを村長はじっと眺め、俯いた。すぐに外から笛の音が聞こえた。長いのが一回。キシャ山に侵入者ありの知らせだ。村長はドアを撫でると、倒れた椅子をいくつかまたぎ、ワシノスに近づいた。
「ワシノスさん。残念だが、トミーさんの殻にはサギランがあるだろう。失くなっていない。ヨシカが連れて帰ってきたら、カラ喰いが帰ったら、あんたらもすぐさま帰ってくれ。頼む」
村長は倒れず残っていたひとつの椅子に力なく座り込んだ。
「何をいっている?」
ワシノスは侮辱されと思い、不愉快をあらわにした。部屋の隅に避難していたミハルが倒れた椅子を持って、村長の前に置いた。
「失礼します」
ミハルはカバンを前にまわすと、村長と向き合って座った。
「ミハル?」
ワシノスが怪訝な顔をした。
「隊長も聞いてください」
ミハルは乱れた髪を整え、おでこを隠すと、カバンから大きなクリップで留めたカラ喰いの報告書の束を出した。
「ゴーダさん。これに覚えがありますよね?あなたが書いたものです」
村長はちらりとミハルが持っている紙の束のいちばん上を見て目をそらした。
「あなたは長いあいだ、村長をしていますね。今年で二十八年。そのあいだにカラ喰いの出没が過去三回、カラ喰いの報告書をマホ市に送ってくださっている。まずは電話で取り急ぎ。のちに封書でくわしく。これを読むとわかります。あなたはとても几帳面です。とても丁寧で、きれいで、読みやすい字だ。最初の二回は。前回の七年前は電話も封書の連絡も、ずいぶんと遅れたそうですね。封書に関しては一週間以上遅れた。そして、これ」
ミハルは七年前の報告書をまじまじと確かめた。
「インクが以上に濃い。嘘をつくのに力がはいったのでしょう。字も充分、おきれいですが、前回のと比べると、いくつか崩れた字があるのが一目瞭然です。あなたは本当に正直な人なのでしょう。そしてさっきの、ヨシカさんの言葉。あの話の流れからの、わたしが行くのが話は早い」
「そういうことか……」
メイの下でクロスがつぶやいた。メイは静かに睨むと、クロスからどいて、壁にもたれかかって座った。ミハルはつづけた。
「七年前、ヨシカ・クオンはカラ喰いにサギランを食べられていますね」
村長は顔を覆った。




