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砂のファンタジー



「……どれがいいかな」



そう言って、少年は物陰から水屋の桶を見つめています。ここからではどの桶に1番多く水が入っているか分かりません。なので"砂の眼"を使って店主にバレないよう1つ1つ品定めをします。

少年は1番多く水の入った桶を見つけました。



「いくよ、相棒」



少年は水屋に向かって小さな砂嵐を起こしました。店主や周りにいた人間は舞い上がった砂が目に入り思わず目を瞑ります。その隙に、少年はその桶を持って遠くへ走り去っていきます。




少年が住むこの街は、元はビルが建ち並んだオフィス街でしたが"永遠の昼"の影響で急激に砂漠化が進行し、今では殆どの建物が倒壊し、地面はコンクリートから砂へと置き換わっていきました。

街に住んでいた裕福な人々は早々に街を出て行きましたが、貧しいスラムの人々はそこに取り残され、廃墟と化した建物の中で日々を過ごしています。


「ブック」と名乗る組織から定期的に物資が支給されますが、それだけでは到底足りず各地で闇市が開かられました。

また、このような街の惨状を聞きつけ、マフィアやテロリストたちが住みつき、犯罪の温床にもなっています。


そんな混沌とした街に、1人の少年がいました。少年には両親がおらず、毎日盗みをすることでなんとか生きながらえています。


少年には不思議な力がありました。

なんと少年は砂を自由自在に操ることが出来るのです。少年は生まれたときからこの力を扱うことができ、力を使って多くの困難を乗り越えてきました。少年にとっては地にある砂こそが唯一の友人で、相棒でもあったのです。


ですが、少年は決して孤独ではありません。



水を盗んだ少年は、砂と風化でボロボロになった高級な一軒家に入り、リビングの床の砂を払い除けます。

砂の下には地下への入り口の蓋がありました。少年はその蓋を開けてその奥にある階段を水がこぼれないようゆっくりと降りていきます。



階段が終わると、小さな地下室がありました。真ん中の机を囲むようにして色々な物が置かれています。空の桶や工具箱が散乱し、地下室の角には巨大なバッテリーらしき物が設置され、壁にはダーツの的が掛けられています。

机の上も散らかっており、特に目を惹くものは無造作に広げられた世界地図です。そこには赤いペンで幾つかメモが書かれています。


少年はその地下室で、ソファに寝転びながら昼寝をしている1人の青年に声をかけました。



「ただいま!ボス!」


「……ん?おお〜おかえり〜」



青年は少年の声で目を覚まして起き上がります。



「水は手に入ったか?」


「うん、今回は大当たりだね。やっぱりあの組織が裏にいるのかな」


「あそこの店主は奴らの下っ端だからな。奴らは水の支給を武力で独占して法外な値段で売ってきやがる」


「ミズダケジャナイ」



青年は舌打ちをしながら悪態を吐いていると階段からガシャン、ガシャンと音をたてながら誰かが降りてきます。



「お、お前も帰ったか」



彼の容貌はまるでロボットのようで、複雑な機械が身体中に取り付けられています。彼は頭から足まで機械に覆われているので、誰も素顔を見た者はいません。青年たちは彼の口調から多分男だろうと推察しています。



「水だけじゃないってどういうこと?」


「キンネン、マチノフキンデ、チカシゲンノサイクツガハジマッガ、ソノリエキヲヤツラガムサボッテイル」


「つまりは本来国主導だったはずの採掘場運営を奴らが乗っ取り、街の復興に充てられるはずだった利益が吸い取られてる……てことか?」


「ソウダ」


「さすがボス。解釈完璧だね」


「こいつとはこの会社を作ってからもう何年も一緒にやってるからな」



彼らは数年前、この街に"オアシス"という名前の会社を設立しました。この会社のビジネスは悪徳な組織が違法に手に入れた資源などを奪い、それを公正な値段で街の人々に売ることです。最初は青年とロボの2人で経営していましたが、少年が彼らに盗みをしようとして捕まり、それからここで働くことになりました。


会社といっても社員3人だけのちっぽけな会社ですが、少年にとっては人のためになることをして生活出来ることはこの上ない幸せでした。



「さて、まあそいつらの動向には気を配るとして、俺たちはそれよりも先に大きなビジネスが控えている」


「……?なにやるの?」



少年の問いに青年はニヤリと笑い、机とバンッと叩きながらこう言いました。




「この砂漠に大洪水を起こすのさ」




「……ドウイウコトダ」


「おかしいと思わないか?幾らあの組織が武力を持っているからといって、新たに採掘場の運営を買収できるほどの資金が、支給された水の売買だけで賄えるはずがない。それこそ自分たちの飲み水さえも売らなければならないはずだ。それに……」



青年は机の上にあった地図の、この街の上を指差しながら話を続けました。



「この街は金持ちがこぞって家や別荘を建てるほど裕福でインフラも整っていた。水だって当然簡単に手に入った。それは北にある砂漠の下に巨大な地下水源があったからだ。永遠の昼が始まってからそれは使い果たしてしまったというが、

はたしてそれは真実か?もしその水源がまだ存在していて、奴らが独占しているのなら……」


「それを使って利益を得られる……」


「そうだ。水力発電やなんやらで幾らでも使い道はある。奴らの真の資金源はこの水源だ」


「ソレデ、ケッキョクナニヲスルンダ?」


「それはこの水を売りに行く途中で話そう」



青年はそう言って布を口に巻き始めます。少年も同じようにして外に出る準備をしました。

少年は水の桶を手に持ち、地下室から出る青年とロボの後を追います。


外は相変わらず砂が風に乗って飛び回り、髪に絡みついたり、目に入ったりします。少年は両手が塞がっているのでそれらを取り除くことができません。



「モッテヤロウカ?」


「ううん、大丈夫。僕にやらせて」



少年はそう言ってロボの提案を断ります。少年は自分の仕事を取られたくはないのです。少年は2人と違って力があるわけでも、頭が良いわけでもありません。だからこそ、少年は自分にできることを精一杯やりたいのです。



「それじゃあさっきの話の続きをしよう」



青年は2人を横目に見ながら淡々と話していきます。



「まず、組織の下っ端を捕まえて水源の居場所を吐かせる。その後は短期決戦だ。奴らも定期連絡が途切れれば不審に思うだろう。素早くその水源を確保し、"ブック"に委託する。勿論、後々水源の運営はオアシスのものになるはずだ」


「ビジネストイウワリニハ、ズイブントゴウインダナ」


「俺たちのような弱小企業じゃまともなやり方じゃ取り合ってくれないからな。奴らを交渉の場に引きずりだす」


「その"ブック"という組織は信用できるの?」


「俺の古巣だからな。信頼はしている」


「ブックニハヘイガイタハズダ。ソイツラニマカセレバヨイノデハ?」


「それじゃあ俺たちに一銭も入ってこないだろ。俺たちが制圧する頃にブックの奴らが後始末にくることになってる」


「ボス、がめつい」


「会社を大きくするには金が必要だからな。世の中金だ金!!」



がはっはっは!と青年は愉快に笑います。ロボはやれやれといった感じにため息を吐きます。



「やっぱりボスはかっこいいや!!」



少年もそう言って、青年と同じように笑いました。




しばらく歩いて、少年たちは街のスラムに到着します。ここは永遠の昼で貧困者となった人々のスラムで、元からあったスラムは既に崩壊しました。ここの人々には水が十分に届いておらず、いつも法外な値段で組織から水を買っています。



「おーい!"オアシス"が水を売りに来たぞー!」



こちらに気づいた男性が大声で叫びます。すると家屋やテントから大勢の人が出てきました。



「ほらほら一列に並んで!水はまだまだ沢山あるぞ!」



青年たちは彼らに1週間分の水を格安の値段で売っていきます。水はみるみる少なくなってきました。



「どうぞ!」


「ありがとう。いつも助かるよ」


「いえいえこちらもです!」



少年はテキパキと水を売っていきます。とうとう桶の水は無くなってしまいました。青年たちが後片付けをしていると、1人の少女がバケツを持ってやって来ました。



「あ、あの、水……ありますか?」



水はついさっき無くなってしまいました。少年がどう答えたらいいか迷っていると、青年が水筒を持って現れました。



「嬢ちゃん、これをやろう」



青年はそう言うと水筒の中の水をバケツに全て入れました。



「金はいらないよ」


「い、いいんですか……?」


「ああ、君の親御さんには贔屓にしてもらっていたからね」



少女の両親はすでにこの世にはいません。出稼ぎに南のほうに行く途中で追い剥ぎにあってしまったのです。



「ぼ、僕のも!」



少年は慌てて自分の持っていた水筒をバケツにひっくり返しました。ロボも黙って水筒を取り出します。


少女はぺこりと頭を下げると、スラムの影に消えていきました。



「あの子は1人で大丈夫かな……」


「一応親戚が預かっているらしいが、その親戚が来ないであの子が水をもらいに来たってことは……あまりいい環境とは言えないかもしれないな」


「ソレデモ、オレタチニハナニモデキナイゾ」


「わかってるさ。俺たちオアシスの社訓は、"貧しき者に、前へ進む力を"だ。そうだろう?俺たちは前へ進む手助けはするが、実際にどうするかは彼ら次第だ。少女の今の状況は、少女自身が変えるしかない」


「……それは酷じゃない?」


「生きるとはそういうことだ。お前だって、自分の意志でこの会社にいるんだろ?盗みで生きていた今までを、そしてこれからを変えるために」


「……うん」


「……あのスラムの人々だって、このままじゃダメなことは理解している。だからこそ、日々を一生懸命生きて、なんとか現状を変えようと努力している。俺がこの会社を設立した理由の1つは、彼らの手助けがしたかったからだ」


「ゴウマンダナ」


「ロボはボスに賛同してるからこの会社にいるんじゃないの?」


「オレハタダ、アイツノツクルデンキガウマイカライッショニイルダケダ」


「そんなこと言ってるが、本当はお前が彼らのことをちゃんと考えてるのはわかってるからな」



青年はそう言いながらロボの背中をガンガンと叩きます。ロボは不快そうに唸りました。


少年は2人のことを良く知っているわけではありません。2人に過去のことを聞いてもあまり答えてはくれません。けれど、2人が優しい人物だと、少年は思っています。



「……ふふ」


「む?なんだ?なんかおかしなことがあったか?」


「んーん何でもないよ!」



そう言うと少年は青年とロボの手を握って勢いよく走り出しました。



「早く帰ろ!!」


「お!?そんなに急ぐ必要ないだろ!?」


「ヒッパルナ。コロビソウニナル」



砂が舞い上がります。

それはやがて地に落ち、少年たちの不揃いな足跡を消していきました。





地下室に戻ると、みんな疲れてしまったのか、少年は机に突っ伏して、青年はいつものソファの上で、ロボはバッテリーで充電しながら睡眠をとっていました。



「……ん」



換気口のプロペラがうるさくて、少年は目を覚ましてしまいます。

少年は目を擦りながら青年の身体を揺さぶります。



「ボス、起きて」


「……なんだ?寝れなかったか?」


「寝れないのはいつものこと。それより作戦会議するんじゃないの?」


「あーそうだったな。成り行きで寝ることになっちまった」



青年はそう言ってゆっくりと腰を上げ、ロボの方へと向かいます。青年はロボの裏に伸びている充電コードを引き抜きました。



「……オイ」


「起きろー。もう充電満タンだろ」


「……」



ロボは渋々起き上がりました。



「さて、みんな椅子に座ったな。明後日決行する下っ端ひっ捕え作戦の話をするぞ」


「モウスコシマシナサクセンメイハナカッタノカ」


「……それ僕が考えたの」


「……ソウカ」


「話を戻すぞ。大まかな流れは、まず、水の出店販売をしている組織の人間を捕らえて、水源の場所を吐かせる。ここまでは前に説明したな」


「もし奴らが大勢いたら?」


「そのときは全員逃さず捕まえるだけだ。1人でも逃したら次の作戦がより困難になる」


「ソレデ、ソノデミセノバショハドコダ」



組織は街の至る所を転々として水の販売を行っているので、中々居場所を把握することはできません。



「それは、ここだ」



青年はそう言って、街の地図のある場所を指差しました。



「……遠いね」


「俺たちのテリトリーじゃほとんど水は売れないからな」


「ヨクミツケラレタナ」


「情報は最大の武器だろ?会社を経営する者だったら情報網の1つや2つくらいは持ってるものさ」


「どうやって吐かせるの?」


「そりゃあ、なあ?」


「……オドスダケニシトケヨ」


「?」



少年は不思議そうに首を傾げます。



「とりあえず、決行は明後日だ。各自準備を進めておけよ」




時間はあっという間に過ぎていよいよ決行日となりました。服装は怪しまれないよう武器はリュックの中に入れて如何にも困窮した放浪人を演じます。

水の販売をしている所に着くと、屈強な男が1人そこに立っていました。青年は早速その男に声をかけに行きます。少年とロボは物陰に隠れて青年の合図待ちます。



「あの、すいません、水が欲しいのですが……」


「……金は持ってるのか」


「このくらいなら……」



そう言って、青年は小銭を何枚かポケットから取り出しました。



「全然足りねえな」


「そんな……お願いします……私たちはもう3日も水を飲んでいないのです……このままでは死んでしまいます」



青年は懇願するように男性にしがみつきました。



「おい!放せ!この貧乏人が!」


「お願いします……お願いします……」


「くそ!おい!!お前ら!!こいつを痛めつけてやれ!」



男がそう言うと、店の奥から他の男が2人やって来ました。



「おいおい何やってんだ」


「お前1人でもできるだろ」


「それがこいつ、結構、力が強い……」


「今だ!!」



青年が合図を出すと、少年とロボは即座に飛び出します。


少年は砂を操りそれを3人の口に押し込みました。



「ぐわ!?」



それと同時にロボは男2人の頭をハンマーで殴打して倒しました。残った1人は青年が縄で拘束します。こうして、水売り場は一瞬にして制圧されました。


青年たちは3人を店の奥に引きずり入れます。



「よし、砂をとってやれ」


「うん」


「……ぷはぁ!、ぺ、ぺ、ぺ、クソが!お前ら絶対にゆるさねぇぞ!!」


「水源の場所はどこだ」


「……は!お前らに言うわけな———ぎゃあ!?」



青年は親指と人差し指の間に電気を出してそれを男の首元に当てました。



「お前はまだ自分の立場がわかっていないようだな」


(ね、ねぇロボ、なんでボスの手から電気が出てるの?)


(オマエトオナジダ)



なんと青年は少年と同様、不思議な力の使い手だったのです。少年は驚きますが、それよりも、今目の前にいるボスがいつものボスじゃないことが、少年にとっては不安でした。



(ボス、ちょっと怖い……)



少年は恐怖と同時に、自分がボスのことを何も知らないことを改めて痛感させられます。



「そ、そんな脅しで俺が口を開くと思うなよ!」


「そうか、なら直接聞くだけだ」


「……どういう意味だよ」


「お前の脳に電気を流し込んで口を強制的に動かすんだよ。お前がどれだけ隠そうとしても無駄だ。それでも抵抗するなら、死んだお前の脳に聞くことにしよう」



青年はそう言うと全ての指から電気を出して男に近づいていきます。青年の手からはバチバチと音が鳴っています。



「ま、まま待ってくれ!わかった!話す!はなすから!」


「……初めからそうしろ」



青年たちは男から情報を聞き出すと、男を気絶させた後、すぐに水源のある場所に向かいます。



「時間がない!!急ぐぞ!!」


「けどボス!ここから水源まで結構遠いよ!!」


「大丈夫だ!ちょっと寄り道するぞ!」



青年たちは水源のある場所に向かう途中、地下室がある家のガレージに寄りました。


青年がガレージを開けると、そこには大型の四輪駆動車がありました。



「わぁ!!すごい!!こんなのどこで手に入れたの?」


「オレガツクッタ」


「流石は我が社のメカニック担当だよな!」


「……オセジヲイッテナイデ、ハヤクノルゾ」



ロボが運転席、助手席に青年が、後ろの席に少年が乗り込み、エンジンをかけフルスピードで駆動車を走らせます。



「あはは!速い速い!!」


「おい!あんまり顔出しすぎるなよ!」


「え?なんて言ったの?」



駆動車は砂の下に岩肌露出した場所を進んでいるため、ガタガタとうるさくて堪りません。ですがだんだんと地面は砂だけになっていき、ようやく落ち着いて会話ができるようになります。



「よし、お前ら、さっきは良くやったな」


「うん、だけどびっくりしたよ。ボスも僕と同じで不思議な力を使えるなんてさ」


「あれ?言ってなかったか?……というかそれは不思議な力じゃなくて幻———


「ソレヨリ、コレカラドウスルンダ?」


「あ、ああ、そうだな。お前ら、次からが本番みたいなものだぞ。最初に水源に着いたら奴らの施設の電気を落とす。その混乱に乗じて一人一人確実に倒していくぞ」


「敵は何人くらい?」


「それはわからない。だが、時間が経てば俺が要請した"ブック"の奴らが来ることになってる。それまで持ち堪えれば、実質勝ちだ。勿論、俺たちだけで制圧した方がギャラは良いがな」


「オイ、ソロソロツクゾ」



少年は再び窓から顔を出して、外の様子を伺います。すると車が進む方向に巨大な三角錐の形をした施設が砂漠の真ん中に建っていました。その周りには大小様々な施設があり、人が多くいることが予想できます。

三角錐の建物からは太い管が伸びており、その先には大きなタンクが並んでいます。



「……壮観だな」


「うん……」


「ドウヤッテシンニュウスルンダ?」


「この規模だと正面入り口には見張りがいるだろうから、比較的警備の薄いであろうタンクの裏側の柵を登るぞ」


「ワカッタ。クルマヲウカイサセル」



敵に見つからないようなるべく遠回りして施設に近づいていきます。

タンクの裏側に着き、柵を登ろうとしますが、そこであることに気が付きます。



「おいおいロボ、お前これ登れるか?」


「……サクノアナガチイサイ」


「そっか、ロボ手が大きいから……」


「サキニイケ。オレハクルマカラペンチヲモッテクル」


「じゃあ柵を登った先で待って———


「ソノヒツヨウハナイ。サキニイケ」


「……行くぞ。ぐずぐずしていたら見つかる」


「……分かった」



少年は渋々青年の後に続いて柵に登ります。柵は結構高いので、少年はなるべく下を見ないようにしながら柵を越えました。


少年は車の方を見ますが、ロボは車の裏でペンチを探しているのでしょうか、姿が見えません。



「おい、こっちに来い!」



青年はタンクの横で周りの様子を伺いながら少年を呼びます。



「う、うん」



少年も足早に青年のところに行きます。



「さーて、電源設備は……あった!」


「え!?もう見つけたの!?僕にはどれがどれだかさっぱりだよ」


「伊達に電気を使ってるわけじゃないからな。よし、まずはあそこに行くぞ」



少年と青年は柵伝いに電気設備がある建物へと近づいていきます。途中何人か見張りがウロウロしていましたが、襲撃されるとは夢にも思ってない彼らには少年たちを見つけることは出来ませんでした。


少年たちは無事その建物に着きましたが、建物の入口には見張りが1人立っています。



「お前はここで隠れてろ。俺がやる」



青年はそう言うと見張りの背後にゆっくりと近づき、人差し指に一瞬眩しい光が出たかと思うと、見張りが声も出さずに倒れました。



「よし、中に入るぞ」



青年はそう言ってゆっくりと扉を開けます。



「……誰もいないね」


「ああ、腑抜けてる証拠だ」



青年は発電機の操作盤を見つけると、そこに取り付けられたレバーを手にかけながら少年の方を向きます。



「いいか、俺がこれを降ろしたら直ぐにここから出るぞ」


「うん」


「そしたらあのでかい建物の中で大暴れだ!」



青年は悪そうな顔でニヤリと笑っています。



「分かった!!」



青年は少年の返事を聞いて、直ぐにレバーを降ろします。



「よし!走れ!!」



青年の合図と共に外に出て、中央の三角錐の建物に向かって走り出します。



「砂を大量に持っていくんだぞ。中には砂がないからな」


「うん!」



三角錐の建物は入口が数箇所あり、それぞれから組織の人間が慌てて外に出てきます。青年たちは1番人が少ない入口から侵入することにしました。



「いたぞ!あいつらだ!」



どうやらこちらに気がついたようです。皆弓を構えてこちらに放ってきます。



「そんなの無駄だよ!」



少年はそう言うと地面の砂を巻き上げ、矢を全て弾きます。



「やるな!あとは俺にまかせろ」



青年はコートの裏に仕込んでいた鉄製のダーツの矢を手に持ち、構えます。


すると青年の前に電気の輪が次々と現れました。



「くらえ!!」



青年はその中に矢を放つと、矢は電気を帯びながら加速していき、地面を抉るようにして敵を薙ぎ払いました。



「ボス凄い!!」


「へへ、そうだろ?さ、はやく中に入ろうぜ!」



少年と青年は敵がいなくなった入口から中に入ります。

中には入り組んだ通路があり、その先に水源があるはずです。



「予想通り暗くなってるな」


「うん……だけど変だよ、あの人たち以外ここに来る人がいないなんて……」


「……確かに、やけにこの入口だけ使われていなかったな」


「もしかして……」



———シュン!



「……!」



すると突然、通路の奥から矢が青年の頬を掠めました。



「砂の壁を作れ!はやく!」


「う、うん!」



少年は慌てて両脇に砂を固めます。少年たちは何とかそれぞれそこに隠れます。



「ぼ、ボス!やばいよ!待ち伏せられてた!」


「くそ!相手も一筋縄じゃないってことだ!」



青年はそう言いながら電気を帯びた矢を敵に放ちますが、盾に阻まれてしまいます。



「あの盾絶縁体でできてんのか!?」



敵の一軍は矢を放ちながら徐々に少年たちに近づいてきます。少年の砂壁も崩れてきました。



「ど、どうする?」


「……やばいな」



絶体絶命、そう思われた次の瞬間、敵の上の天井がいきなり音を立てて崩落しました。



「ぐわー!?」



それと同時に降りてきたロボがハンマーで敵を次々と打ち倒していきます。敵もロボに向かって矢を放ちますが全く効いていません。とうとう敵は全滅しました。



「スマナイ、オクレタ」


「いや、ナイスタイミングだった。助かったぜ」


「これで全員集まれたね」


「ああ、水源はこの先にある。急ぐぞ」



少年たちは水源を目指して通路を走っていきます。途中何回か敵に出くわしましたが、それを難なく撃ち破り先に進んでいきます。


通路を抜けると、さっきまでの狭苦しい通路とは違い、開けた場所に出ました。


そこの真ん中には湖のような溜め池があり、そこにまるで塔のようにそびえ立つポンプが水を汲み続けています。



「……やっぱり水源はあったか」


「……ドウスル。カコマレテルゾ」


「外に出ていた連中が戻って来やがったな」


「ボス、今更だけどなんで中に入ったの?外で敵が出てくるのを待てば良かったじゃん」


「それはあいつらを仕留めるためだ」



青年はそう言って、ポンプの裏から出てきた敵の"部隊"を指差します。彼らはさっきまで戦っていた敵とは武装も何もかもが違っていました。それに何故か敵全員が赤い帯を腕に巻いています。



「最新型の連射型ボウガンに、あの赤い帯……奴らが"ドリーム"お抱えの私兵だな」


「……強そうだね」



敵兵の1人が青年に向かって話かけます。



「大人しく投降しろ」


「は!誰がするか!お前らだろ。この水源を悪用する資金を奴らに提供したのは」


「……大人しく投降しろ」


「……お前ら、さては2軍だな?噂に名高い"第一部隊"の威厳がどこにもないからなあ!」


「我々が"レッド"の名を冠するわけがないだろう。そんな煽りが我々に通用すると思うな」


(ボスどうするの!?なんか相手めちゃくちゃ怖いよ!)


(慌てるな。少しでも時間を稼ぐ)


(どうして?)


(増援があと20分後に到着する予定だからだ)


「総員、発射」


「……!」



敵は少年たちに向かって一斉に矢を放ちます。



「クソが!!」



少年たちは間一髪でそれを避け、ポンプの操作盤の後ろに隠れます。ですが絶え間なく撃ち続けられる矢のせいで顔出すことはおろか操作盤でさえ徐々に壊れていきました。



「このままじゃやばいよ!」


「……ロボ、盾を作ってくれ。とびきり頑丈で、軽いやつ」


「ワカッタ」



ロボはそう言うと茶色の粒々を手から出したかと思えば、それは2つに集合して盾の形を形成していきます。



「ロボも不思議な力を使えたの!?」


「マアナ」



やがてロボの手に鋼鉄の盾が2つ現れました。



「ロボの分は?」


「オレハダイジョウブダ」


「よし、ここからは持久戦だ。なるべく守りに徹しながら隙があったら敵を倒せ。いいな?」


「分かった!」「ワカッタ」



少年たちは操作盤から飛び出すと、敵は一斉に彼らに矢を放ちます。少年たちは互いに背中を守りながら敵の猛攻を耐え忍びます。



「総員、散開。守りの隙を狙え」



敵は訓練された動きで素早く展開していきます。



「ロボ!敵を撹乱しろ!お前は俺と来い!」


「うん!」



ロボはその巨体からは想像もできないほどの速さで敵に近づき、手に持つハンマーで敵を潰していきます。その混乱に乗じて少年と青年は少年が砂で防御を、青年が矢で攻撃をして敵の数を減らしていきます。



「隊列を崩すな。お前たちも攻撃をしろ」


「は、はい!」



周りで唖然としていた組織の人間も攻撃に加わり始めました。少年たちは善戦しますが、だんだんと追い詰められていきます。増援は時間になっても姿を現しません。とうとう操作盤の周りで囲まれてしまいました。



「まずいな」


「ロボ!なんとかできない!?」


「ムリダ。テキガトオイ」


「ボス!増援は!?」


「……わからん」


「総員、一斉射撃用意」



敵が武器を少年たちの方に向けます。少年は恐ろしさのあまり後ずさりし、操作盤に寄りかかります。



(嫌だ……死にたくない……死にたくない!!)



「総員、発射」



敵の合図が聞こえたとき、少年は思わず目を瞑ってしまいます。



(やられる!!)



そう思った次の瞬間、少年の耳にとてつもない轟音が鳴り響きました。少年は思わず目を開けます。その瞬間少年の瞳に映ったのは、迫りくる水の波でした。



「ロボ!!俺たちを包み込め!!」



青年の叫びと共に少年の視界は再び暗闇に戻りました。



「な、なにが起こったの?」



少年は暗闇の中にいるであろう青年に話かけます。



「何故かポンプから水が逆流したんだ」


「そうなんだ……。外の様子はどうなってるんだろう……」


「ロボ!どうだ!?」



青年は自分たちを包み込むドームの上にいるロボに呼びかけます。



「ミズハタメイケニヒイタ。テキモダイブブンガキゼツシテイル」


「よし!じゃあ開けてくれ!」



ドームが消えると、水が少年たちの足元に流れてきます。

敵は水の波に押されて皆壁に叩きつけられたようです。ですが赤い帯を付けた敵の何人かはしぶとく立っています。



「隊長、そろそろ……」


「時間切れか。……総員、"後始末"をしろ」



隊長がそう言うと、他の敵たちは皆、他の気絶している仲間のもとに行き、彼らの頭に矢を放っていきます。



「あ、あの人たちなにしてるの……」


「……口封じだろ。あいつらはそういう奴らだ」



赤い帯の敵たちは後始末が終わると、少年たちの方を一瞥したあと直ぐに施設から出ていきました。



「……ふぅ」



少年は緊張の糸が切れてその場に倒れるように腰を下ろしました。



「おいおいしっかりしろよ?俺たちにはまだ仕事が残ってるんだぜ?」


「何するの?」


「集合の時間に堂々と遅れたブックの奴らと報酬の交渉をするのさ。あとこの組織の長にしっかりと落とし前つけてもらわなきゃだしな」


「……これでオアシスも大企業になるかな?」


「ワカランガ、スクナクトモナマエグライハヒロマルカモナ」


「そう上手くいくかな?」


「何弱気なこと言ってんだ。俺たちはまだまだ大きくなる!それこそ名前なんて誰でも知ってるぐらいにな!」



がはっはっは!と青年は愉快に笑います。あの時と同じように、眼を輝かせ、この渇いた砂漠の先にある未来を見ています。



(……ボスと出会えて本当に良かった)



少年はボスと出会ってからの色々な出来事を目を瞑りながら思い返します。苦しくも楽しい時間、それがこの先も続くことを信じて、少年は目を開けます。



「ボス!これからもよろしく———




———ドン




見上げた少年の目に、青年の姿はありません。




「……え」




青年は地面に倒れています。矢が喉に刺さりながら。


青年の首元から流れる血が、砂に赤く染み込んでいきます。



「……ボス……ボス!!!」



少年はすぐさま駆け寄り、青年の首元を手で押さえます。矢が飛んできた方向を見ると、敵の1人がよろめきながら弓をこちらに向けていました。


ロボは矢を放った敵のところに一瞬で跳躍し、その頭を潰して、同じく青年の元に駆け寄ります。



「ロボ!!どうしよう、どうしよう、血が止まらないよ!」


「ソノママオサエテロ!オレハイリョウバコヲサガシテクル!」



ロボはそう言って砂埃をあげながら医療箱を探しにいきます。すると青年が血痰を吐きながら言葉を発しました。



「がは……はは……最後の最後でしくじったな……」


「ボス!!話さないで!大丈夫だよ!大丈夫!きっと……きっと助かるから……」


「……おいおい、大丈夫だと思うなら……泣くなよ」



首元から流れる血が止まることはありません。無知な少年でも、青年の命の火がもう少しで消えてしまうことは分かっています。それでも、少年はなんとかしようと、砂で傷口を塞ごおうとしますが、血は容赦なく染み出してきました。



「……もういい」


「いやだ!諦めないでよボス!!」



少年は泣きながら必死に砂を固めます。


すると施設の中に、見知らぬ集団が入ってきました。


少年は彼らを見つけると、青年の上に覆いかぶさるようにして青年を守りながら叫びます。



「誰!?」


「俺たちはブックの者だ」



集団の先頭にいた白髪の青年が名乗りながら、ボスに近づいていきます。


少年は白髪の青年を睨みつけ、在らん限りの罵倒を放ちます。



「……どのツラ下げてきてんだよ!!お前たちが時間通り来ればボスは……ボスは……!」



白髪の青年は何も言わずに近寄ってきます。



「近づくな!!ボスから離れろよ!!」



白髪の少年の近くにいた仲間の1人が不服そうにこう言い放ちます。



「俺たちだって敵の妨害を受けてたん———


「待て」



彼が言い終わるよりも前に白髪の青年は腕を伸ばし彼を制止します。



「言い訳をするな」


「……はい」



仲間の1人は大人しく引き下がります。



「……お前らが……来たのか……」



青年は声を振り絞りながら白髪の青年に話かけます。



「……すまなかった」


「はは……謝るくらいなら金をくれ……」


「……なにか、言い残すことはあるか?」


「……!」



その言葉を聞いた少年は再び白髪の青年を睨みつけます。



「そうだな……あいつに、こう伝えてくれないか……?

『勝手に寮を出て悪かった。お前の料理はおいしいかった』……と」


「……分かった」


「がは、がは……」



青年の息は、だんだんと弱くなっていきます。



「ボス!!死なないでよ!ボス!まだ僕……ボスに何も……返せてないよ……」


「……十分……もらったさ……十分……ほら……泣くな……泣くんじゃない……泣く……くらいなら……こう……やって……笑うんだ……」



がはっはっはっは!!……。



青年は、笑いながら口を閉じ、目から、生気が消えました。



「ボス……ボス……返事をしてよボス……」



少年は青年の体を揺さぶりますが、青年は動きません。

ブックの人たちが青年に近づこうとしますが、少年は砂嵐を起こしてそれを妨害します。



「近づくな!!近づくな!!!」


「その力、この子も……」


「……会長……どうしますか?」


「……子どもだけでも保護する」



白髪の青年はそう言うと、手から少年と同じく砂嵐を起こし少年の砂嵐と相殺させます。



「こっちへ来るんだ」



仲間の1人が少年の手を掴もうとしたその時、ロボが施設の遠く離れた場所から跳躍し、巨大なハンマーを集団に向けて振り下ろします。



「……!避けろ!」



ブックの人たちはそれを軽々と避けました。ハンマーは地面にぶつかり砂埃を舞い上がらせます。



「誰だ!!」


「……イマスグ、ココカラタチサレ」


「我々に攻撃することがどういうことなのか理解しているのか!」



———ダマレ



「「「……!」」」



そう言い放つロボからどこか得体の知れない何かを、この場にいる全員が肌で感じました。まるで禍々しい獣がそこに立っているかのようです。



「……一旦ここを離れるぞ」


「……どうしてです?」


「お前が感じたものが、その理由だ」


「……了解です」



ブックの人たちは、皆施設の外に出ていきました。



「……遅いよ……ロボ……」


「……スマナカッタ」



少年は、青年にたかる蠅を手ではらい、そっと抱きしめます。青年の体はすでに固く、冷たいです。それを感じた少年はより強く、青年を抱きしめました。



「……ロボ、帰ろう」


「……ドコニ?」


「……僕たちの、家に」



ロボはコートを被せた青年を抱き上げ、車に乗せて砂が荒れ吹く砂漠を走っていきます。


少年は、窓の外を、ぼんやりと眺めるだけです。



家に着くと、少年たちは地下室に入り、ソファの上に青年を寝かせます。少年は机の上に置いてあった世界地図がたまたま目に入り、それを持って地下室から出ます。


そして少年は、地下室の中に大量の砂を入れました。



「ホントウニヨカッタノカ?」


「うん、ボスには、ここで眠ってもらいたい」



砂はやがて階段にまで埋まっていき、とうとう地下室は完全に埋め立てられました。



「ロボ、お願い」


「……ワカッタ」



少年とロボは外に出ると、ロボはハンマーを手に大きく跳躍し、地下室があった古びた家にハンマーを振り下ろし、粉々に破壊しました。これで地下室への入口は誰にも見つからないようになりました。



「……」



少年は砂煙が舞い上がる様子を、ただ静かに見つめました。





その日から約一年の歳月が流れました。

少年とロボは再び砂漠に赴き、水源のあった場所に訪れています。


あのあと水源はブックの管理下に置かれ、あの施設を中心に付近の貧困者が不自由なく暮らせる町作りが行われています。これに対し、貧困者は大いに歓喜し、誰しもがブックに

感謝の言葉を口にしました。

貧困者たちはその町作りの仕事を任され、苦しくも楽しい生活を送れています。もはや、"オアシス"を必要とする者は誰もいませんでした。



少年は、そんな町を遠くからただ見つめるだけです。



「……ねえ、ロボ」


「ナンダ」


「僕たちがやってきたことって、なんだったんだろうね。ボスと、ロボと、僕たちで、やっとの思いで手に入れた水源が、"オアシス"の水源が、簡単に奪われちゃった」


「……」


「ブックにとって、オアシスは砂粒よりも小さい、どうでもいい存在だった」



少年の周りの砂が、風に乗って宙を舞います。



「……ねえロボ、ボスはこの町を見て……喜ぶのかな……それとも、自分の夢を先取りされたとか言って……怒るのかな……」


「ソレハ、ワカラナイ。ダガ、アイツニハ、オマエガシルモノヨリモ、モットバカゲタユメガアッタ」


「……それは、なに?」


「セカイニイルヒンコンシャゼンインヲ、スクウコトダ」


「……ボスらしい、いい夢だね」


「……オマエハ、ドウスル」



ロボは突然、少年の前に立ちはだかります。



「……どうするって、何が?」


「アイツノユメヲ、カナエルキハアルノカ」


「……そりゃ、叶えたいよ。だけど、今の僕には、何もない。お金も、権力も、力もない」



少年がうつむくと、ロボはリュックから薄汚れた1冊の本を取り出し、少年に手渡しました。



「……これは?」


「オレノオンジンノホンダ。ダレニワタスカマヨッテイタガ、オマエニワタスコトニシタ」


「大切な物なのに、僕に渡しちゃっていいの?」


「ソレハソウイウモノダ」



少年は不思議そうにその本を見つめ、ペラペラとページをめくります。



「何も書いてないよ」


「オマエガカク」


「……ペンがない」


「ヒツヨウナイ。ソレハオマエノゲンソウヲ、ゲンジツニスル」


「……何いってるの。そんな物、あるわけない」


「……レッツオープンザファンタジー」



ロボがそう言うと、少年の周りに大量の水が現れ、それはやがて様々な魚の形になり、少年の上を優雅に泳いでいます。



「すごい……」


「オマエモコノコトバヲクチニスレバ、デキル」



少年はロボの話を聞いて、少しの間考えたあと、独り言を呟くようにして口を開きます。



「……もし、それが本当なら……作れるかも」


「ナニヲダ?」


「これを見て」



そう言って、少年は地下室から持ち出した世界地図の裏側をロボに見せます。それは青年が少年たちに隠れてコソコソ書いていたものでした。



「これは巨大な動く都市の設計図だと思うんだ」



そこには履帯の付いた巨大な鉄の箱の中に採掘装置と思われる施設を中心に多数の町が作られた都市が書かれていました。色が薄くなって読めなくなっているところもありますが、細部にまで詳しくその構造が書かれています。



「コレヲツクルノカ?」


「うん、作れるんでしょ?この本なら」


「アア、カノウダ」



少年とロボは人が誰もいない砂漠の真ん中で、早速作業に取り掛かります。



「レッツオープンザファンタジー」



少年がそう呟くと、本から様々な色の粒が放出していきます。


茶色の粒はやがて鉄の箱を形成し、その中心に巨大な採掘装置を作っていきます。また、そのすぐ近くにはビルが次々と建てられていきます。

緑色の粒はやがて木材を形成し、箱の中に多くの建物を組み上げていき、やがて大小様々な町が出来上がっていきます。

青色の粒は凝縮し水を創り出し、町の至るところに川が流れました。

黄色の粒は閃光となり、家の電球や街灯、ビルの蛍光灯に明かりを灯します。


少年とロボは都市が作られていく様子を採掘装置の上から眺めています。


白と黒の粒が、少年の体の中に入っていきます。



「マサカココマデトハ……」


「この1年間ずっとこれを見ていたからね。この都市を動かす仕組みがいまいち分からないけど……」


「リタイジャサスガニムリダ」


「うん、だからこうする」



少年がそう言うと、突如鉄の箱が振動し、少年たちが向いている方向にゆっくりと動き出しました。


少年は鉄の箱の下にある砂を操って移動させているのです。



「……スゴイナ」



ロボが唖然とした様子で少年を見ます。

少年はまるで砂漠のように乾いた眼でロボを見返します。



「砂は僕の相棒だから」



少年はもう泣きません。少年はもう笑いません。



「コレカラドコニムカウンダ?」


「とりあえず、地図に書かれている赤い丸印のところに行こうと思う。多分そこに貧困地域があると思うから」



箱に取り付けられたシャッターが、徐々に空を覆っていきます。それと同時に、都市の明かりがまるで星のように広がっていきます。



「コノトシノナマエハナンダ?」


「そんなの、決まってるでしょ?」



シャッターが、完全に空を覆います。




砂上移動都市オアシス




多くの貧困者を救う箱舟が、今、誕生しました。



















































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