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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第三幕 立ち向かう意思

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93 第17章 腰の低い町長



 ロングミスト 町中


 門をくぐる前に、クリウロネの人達に向けて「なあの代わりに温めてほしいの」と、なあがかまくらから出した卵を渡す一幕があった。


 それで待たされることになる彼らの不安は少しは紛れただろうか。


 兵士達に中に入る事を伝えてほどなく、重く閉ざされていた門が開けられた。


 中に入り、後ろを振り返ればバール達と視線が合う。


 普段はあまりこういう事はしないのだが、姫乃が彼等を安心させるように力強く頷いてみせた。


 兵士達に町長の家の場所を聞いて町の中に向かって歩き出せば、背後から門が閉まる音が聞こえてくる。


 バール達の不安そうな顔が頭から離れない。

 早く町長さんに会って、中に入れてもらえるように説得しなければ。

 姫乃は改めてそう思い、町長の家に向かうべく先を急いだ。





 町の中に入ってみてさっそく、姫乃は違和感を感じた。

 予想していたより雰囲気が明るい。


「何だか、普通の町みたい」


 行きかう人々の顔はそれぞれだ。

 今日の夕飯の献立に悩む女の人がいれば、友達とどんなことをして遊ぼうか考えている少年少女達、店らしき建物の前で仕事の話をしている男性達……。


 しかし、その光景が何とも言えない感覚を姫乃に伝えてくる。

 それは他の者達もおなじようだった。


 未利が眉をひそめながら、言葉を返してくる。


「なんか、変じゃね?」

「あってないって感じだよねー」

「にこにこさんで笑顔なの。皆、心もにこにこさんしてるの。笑顔は良い事だって、なあは思うけど変な感じがするの」


 未利と啓区の声になあちゃんが首を傾げているが、姫乃も二人とだいたい同じ心境だった。

 短い間、いくつかの町を見てきたけれど、どの町もこんな風じゃなかった。

 一見表面上は穏やかに見えても、そこには隠しきれない不安が存在していたのに。

 この町の人達にはそれがないのだ。


「能天気ってのは、ちょと違うね、これ」

「楽観的って状態はー、現実を分かったうえで目をそらしてるとも言えるしねー」

「心配さんがないから今日も笑顔で頑張るぞーって感じなの」


 つまり、見えてない……という事だろうか。

 現状を正しく認識していない?


 異邦人である姫乃達ですら、終止刻の到来に危機感を持っているのに、ここにいる人達にはまるでそれがない。


 終止刻だというのに、どうしてこんな空気なのだろう。

 疑問には思うが、今は深く考えていられない。姫乃達にはやるべきことがあるのだから。

 通りゆく人達に詳しく道を聞きながら、この町の町長がいる場所へと向かう。


 程なくして町の中央に位置する、周囲より一回りほど大きい建物へ着いた。

 建物の前に立っていた兵士へと近づき、話しかける。


「ん、何だい? 何かクルス町長に用かい?」

「はい、あの……」

「ちょと、待ってなさい」


 姫乃が、要件を言うとする前に兵士は何も聞かずに中へ引っ込んでしまった。

 門前払いされる可能性の方が大きいと思ってたのに……。

 仲間達と顔を見合わせ、待つこと数分。


「待っていたそうだ。中に入りなさい」


 そんな言葉とともに、中へ招き入れられた。

 思わず姫乃達はもう一度顔を見合わせた。


 通された応接室は、小ぢんまりとしてあまり華美な内装ではなかった。

 向かい合う二つのソファーに、間にテーブルが一つ。部屋の隅に鉢に入った植物。それだけだ。


「よく来てくれた、待ってたよ。私の名前はクルス・ティムだ。よろしくお願いするよ」


 立って待っていたらしいクルス町長は、ほっとした表情で頭を下げる。


 とりあえず姫乃達も順番に名乗る。


「ええと私達は……」


 そうして、未利、啓区、なあと紹介を済ませるとクルス町長は申し訳なさそうに言葉を述べた。


「あの場では、何もできなくて申し訳ないねぇ」


 それは、先ほど門の所であったやり取りの事だろう。

 それについて何かを言う前に、姫乃の後ろからやって来た同じ年頃の少女が発言した。


「町の町長が、無闇に人に頭を下げないでください」


 棘を感じさせる言葉を発しながら、その少女は書類を片手に町長の隣へ移動する。


 相応の立場の人が着るようなピシッとした服を着こなす彼女を観察する。

 髪は亜麻色で束ねて肩に垂らしていて、瞳の色は月の光を思わせる様な淡い琥珀色をしている。

 隠す気もなく表情を不機嫌そうにして、姫乃達を眺めている。


「エアロ君、君が来てくれて助かったよ。この後、溜まっていた書類の整理を頼むね」

「そういう事は、人前で言わないでください。あくまでも臨時だと言ったでしょう」

「そうだったね、ははは……」


 町長の一言を受け、姫乃達に注いでいたエアロと呼ばれた少女は横へと視線を持って行く。

 弱々しく笑う町長を置いて、エアロは端的に挨拶をする。


「エアロです。臨時秘書です」


 それだけだった。短い挨拶だった。

 姫乃の横から、誰かがイラッとしたオーラを出し始めたので、さっそく話を切り出す事にする。

 エアロを残して全員がソファーに座り、本題に入る。





 今も町の外で待たされている避難民達。

 彼らの事を思い名がら、姫乃はさっそく口を開いた。


「バールさんたちを町の中に入れてあげて下さい」

「さーせんっしたー!」


 のだが、相手から勢いよく返ってきたのは謝罪と土下座だった。

 テーブルに勢いよく頭を打ち付けて、痛みに呻いている。


「あいたたた」

「大丈夫ですか?え……と」

「痛い痛いなの。頭にコブさんできてそうなの」

「何この三下っぽいの。ほんとに町長?」

「客観的に見ると凄い絵面だねー」


 いきなりの事にどう反応していいか分からないでいる姫乃。


 未利達も軽く戸惑いを見せている。

 そんな自分達の変わりに、エアロが口を開いた。


「だから、人前で簡単に頭を下げないでくださいと、さっき言ったばかりじゃないですか」

「そうは言うけどねぇ」

「貴方はこの町の代表なんですよ」

「そうは……言うけどねぇ」


 エアロの言葉に同じ様な言葉しか返せないクルス町長はひたすらソファーの上で縮こまっている。


「あっしでは、あっしでは仕方なかったんですよぅ」


 情けない表情のまま、姫乃の質問に答え始める。


 どうしてクリウロネの町の人達は入れないのか。


 それは、船が足りないからであった。

 この島から逃げるための足が足りなくなってしまったのだ。

 ここから西に行った所にある港、ルストゥス港で憑魔の被害が発生し船が何隻も沈んでしまって、使えなくなってしまったという。


 しかし、その事と現在直面している問題の関連性が分からなくて姫乃は首を傾げる。


「でも、それでどうしてこんな事に?」


 こちらの疑問に対して、エアロがどこか責めるような口調で話に口を挟んだ。


「分からないんですか? 船が足りないという事は、自分達が逃げるのが遅くなるという事なんです」


 逃げるのが遅くなる、それ自体はラルラとの話で考えた事がある。船が足りないという事も。


 だから、姫乃が効くのは違う事についてだ。


「そうじゃないんです。私は、それでどうしてこんな事になるのかって思って」


 しかし、エアロの答えは非情だった。


「誰だって自分の身が大事に決まってるからじゃないですか」

「そんな」


 助かりたいから、他の人はどうなってもいい。

 そんな感情が、今回の事の原因。

 姫乃としてはそんなもの、認めたくなかった。


 感情の整理がつかないまま、町長に視線を向けて言葉を口に出す。


「何とかできないんですか?」

「いやあ、まぁ、ちょと難しいよねぇ。はぁ、何とも……」


 町長は、歯切れの悪い答えを繰り返し、目を泳がせるばかりだった。


 そんな空気の流れを見かねてか、啓区が口を挟んだ。


「作るにしても、材料が入ってこないよねー」


 話についてこれなくなったのか夢の世界に行ってしまったなあちゃんの頭を肩に乗せながら、彼が意見を述べていく。啓区の頭に乗っているうめ吉が、揺れるなあちゃんの頭を楽しみたいとでも思ったのか一生懸命移動しようとしていた。


「危険な場所に行きたい人なんていないだろうしねー。それに、作るよりもまず逃げる方に労力を費やしたくなっちゃうのが普通かなー」

「へへぇっ、その通りなんですよ」


「いやーまいったなぁ」なんて頭を書きながら小さくなっていた町長は答える。

 隣で未利が「復活早っ」と突っ込んでいた。


「でも、この町の人達はそんなに切羽詰まっているようには見えませんでしたけど」


 町長の説明と自分で見てきたものに齟齬を感じた姫乃は疑問を口にした。


「この町は大丈夫です。こう見えて、町長の実力への信頼は一応ありますから。問題はクリウロネの人達の方ですよ」

「なまじ、一番被害を受けるとこだから、恐怖心が大きいんだろうねぇ」


 町長は、エアロの「こう見えて」発言に思う所はないようで、後半のみにため息をつき肩を落として見せる。

 だから、この町の門を閉ざしてリラック町長に協力し、バールたちを中に入れたくないというのだろうか。

 そんな事を思えば、未利が憤慨した様子で身を乗りだす。


「じゃあ、迷惑な連中に手を貸す理由は、こっちも我が身が可愛いいからってわけ?」

「と、とんでもない。それだけでこんな事はしませんっ! ええ、本当に。本当なんです。でも、さーせんでしたっ」


 町長は顔を赤くしたり青くしたのち、勢いよく頭を下げ続ける。


「安い頭ですね、あなたのは。はぁ……、もう放っておこうかな」


 面倒くさそうにするもののこのままでは話が進まないと見たか、エアロが続きを引き受ける。


「こちらは取引をしてるんですよ。避難後にロングミストの町の復興に協力するという条件で。クリウロネの町を吸収する形で、です。終止刻エンドライン終息後の町の復興は避けて通れない難題ですし」

「それじゃ、この町にいるクリウロネの人達は、自分達の町を捨てて……」


 姫乃の結論に、対面にいる二人は同じようなセリフを違う様に言った。


「そのようですね」

「そ、そうみたいだねぇ」


 バール達は、とても強く町に思い入れがあった。

 町の名が書かれた看板を、持って行こうとするくらいだ。

 大切に思ってないわけがない。


 復興できないかもって話は聞いてたけど……。


 クルス町長達のしてくれた話は、姫乃の想像する事情から大きくかけ離れていた事だった。


 抱いた感情を姫乃は正直に吐き出した。


「こんなのって、ひどいです」

「別に普通だと思いますよ」


 しかしそんな言葉にエアロは、間髪いれず冷たく応じた。


「むしろ貴方達の方がおかしいんじゃありませんか、何の見返りもないのに彼らに協力するなんて」


 町長の頼みじゃなければ本来こんな所には入れてませんよ、とエアロは続ける。

 姫乃達を見つめるその目は、小さな綻びも逃さないといったような、そんな探るような視線だった。


「見返りなんて……そんなの」

「関係ない、とでも言うんですか? 今この世界では誰もが生きるのに必死なんですよ。それこそ他を省みることができないくらい。余裕がないんです。自分の事を考えるだけで精一杯。そんな時に何の見返りも求めず人を助けようなんて、怪しむに決まってるじゃないですか。大体……」


 なおも言いつのろうとするエアロだが、クルス町長が思いのほかしっかりした口調でたしなめた。


「エアロ君、それ以上はよしなさい」

「……すみません。でもこれだけは尋ねます。あなた達は一体何が目的なんですか」


 理由がないと、人を助けられない。

 だから人を助けようとする者には何かしらの理由があるはず。

 それが彼女の考えらしかった。

 理由の為に、行動している。私達ってそんな風に見られてたんだ。

 そんなの、あるわけないのに。

 私はただ、ルミナが私を助けてくれたように、誰かを助けたかっただけなのに。


「そんな厳しい事言わないであげてよ、エアロ君。彼ら、まだ子供だよ?」

「私だって同じ歳ぐらいですよ。彼らと同じくらいの歳の領主だっています。子供だからで生きていける世界じゃないでしょう、今は」

「君や、メイス王女とかは特別な例で……」

「うだうだうるさい。だまってなさい」

「ひぃっ!」


 子供にあるまじきすさまじい目つきと声音で叱られて、クルス町長は彼女から距離を取るようにソファーの端へと体を寄せて逃げた。

 エアロは厳しい目でこちらを向く。


「さあ、さっさと吐いてください、今なら内容次第では目をつむっておいてあげもいいですから」


 完全に犯罪者を見る目つきだ。


「どうしよう」

「どうしようねー」

「何でこんな面倒な事に……」

「すぴー」


 なあちゃんはこんな状況でも寝てる。大物だ。頭の上でうめ吉が船をこぎ出した。二人(?)ともある意味凄い。


「なんなのコイツ、さっきから人を極悪犯罪者みたいにさぁ」

「全部話しちゃえばいいんじゃないかなー? まあ、異世界もといたちいきの話とかは抜きでー。隠す理由はないよねー」


 確かにそうだ、話して困るような事は異世界以外何もない。

 理由になるかどうかは分からないけど、何も言わないよりはこの場をずっと治められるはずだ。


 姫乃は話せる限りの事情を、クリウロネの町の人と協力するようになるまでの事を伝えた。


「金冠の調合士セルスティー・ラナー。それに湧水の塔……。あなた方、助手だという身分の証明は?」


「出来ますか?」と問われれば出来る。

 最初は疑わしい眼差しで聞いていたエアロだったが、今は神妙な顔で考え込むようになってっいた。

 姫乃はそれを出す為に、仲間を夢の国から呼び戻した。


「なあちゃん、起きて」

「ふぁ……、なの。うめちゃまが竜宮城に帰っちゃったの……なあ、しょんぼりなの」

「そんな夢見てたんだ」


 ちゃんとうめ吉は頭の上で、幸せそうに眠ってるから大丈夫だよ。

 竜宮城の夢から帰ってきた彼女に、かまくらから必要なものを出してもらう。依頼書とくらい授与の証明書だった

 いざという時の為、セルスティーが渡しておいてくれたのだ。

 依頼書はコーティ―女王の魔力測定の調査依頼の証で、証明書は金冠の調合士の身分を証明するものだ。


「証明書……これ、本人が持つ物じゃないですか」

「セルスティーさんは、私達の身に何かあってもちゃんと助かるようにって、これをくれたんです。だから」

「そうですか」


 件の調合士の安否にかかわる話を聞いた後なので、さすがにエアロも真偽については追及しなかった。


「そういう事なら信じましょう。計測の件ですが。どうするんですか? この町でもデータを取るんですか?」


 呆れてはいるがそう言うエアロの表情には先ほどのような疑いの色は含まれていなかった。


「それは……」

「取る取る。町行ったらめっちゃ取る。そう言われてた」


 言いよどむ姫乃の変わりに急いで未利が言った。


「そうですか。許可します。まったく、そいう風に大人な対応してくだされば私達も助かったんですけどね」


 エアロの言葉に未利は言い返すことこそしなかったものの、


「ちょっと下手に出てやればこいつ……」

「未利、ちょといひゃいよー」


 我慢は出来なかったようでイライラッと啓区に八つ当たりしていた。


「あの、バールさん達を町の中に……」


 そういえばここに来た意味をまだ果たしていない。

 と、姫乃が一番最初にした質問を繰り返すと。


「ああ、それなんだけどねぇ。あっしには無理で、他の人に頼んでくれないかなぁ、なーんちゃて……あはは、……はは………………さ-せんっ!」


 話はここまで進んだというのに、

 結局進捗状況は、振り出しに戻ってしまった。



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