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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第三幕 立ち向かう意思

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94 第18章 調査隊



 話が終わった後、建物から出た姫乃は肩を落とした。


「振り出しに戻っちゃったね。事情は分かったけど……」


 クルス町長達の事情としては、「不本意でも約束を交わしてしまったから破るわけにもいかない」との事だった。

 けれど、バール達の事は不憫に思っているらしい。

 だから、この事態を解決できる者達に心当たりがあるから、その人達を頼ってほしいと紹介はしてくれた。


 肩を落としていると、未利が恨めしそうに建物を見つめながら呟く。


「そんなもん破っちゃえばいいのにさぁ」


 前のめりな彼女を笑顔でいさめるのは啓区、そしてなあだ。


「そういうわけにもいかないでしょー。上の人は特にねー」

「そうなのっ、約束は大事ってなあは思うの」


 いつまでも町長の家の前にいても仕方ない。

 姫乃は気持ちを切り替えた。 


「とりあえず、町長さんが紹介してくれた人達の所に行ってみよう」


 しかし、明るいビジョンが浮かばな頼らしい未利は、ふてくされ気味だ。


「どーせお偉いさんなんて、『何だ子供か、ぺっ』って言って取り合ってくれないに決まってるし、けっ」


 口をとがらせつつ、地面の石ころを蹴り飛ばす。

 必ずしもそうだとは限らないと思うんだけどな……。






 しかし現地に行ってみると……。


 そうだった。


「何だ子供じゃないか。危ないから遊んでないで町に帰りなさい」


 それが、目的地である町の外の西側にある森を歩いて数分、出会った男の人の対応だった。

 きっちりとした印象の灰色を基調にした制服を来た人だ。


「ほら、やっぱり。偉い人間なんてこんななんだよ。エライからってエラソーに!」


 未利が指さして叫んでいる。


「人を指さしちゃだめなの未利ちゃま、めっなの」

「どうどう、興奮しないー」

「あたしゃ馬か!」


 荒ぶる未利はなあちゃんや啓区に任せて、姫乃は門前払いにならないようにと慌てて話を続ける。


 終止刻エンドラインの発生に伴い、コヨミ姫のもとから派遣された調査隊が森にいる。その人達に話を通す事が出来れば、門を開けさせることができると聞いたのだが。


「あのっ、私達クルス町長さんの紹介で来て、調査隊の人とお話がしたいんですけど……」

「そんな事言って、騙されたりしないよ……。あくまでもそうだと言うのなら紹介状とかはあるのかい?」


 怪訝そうな男の人には、そう怪しまれた。そこで初めて、証拠となる物が何もない事に気が付いた。

 どうしよう。

 クルス町長さんは約束を破りたくないって言ってたから、紹介状とかは渡されなかったし……。


「何の騒ぎだ?」


 その声を聞きつけてか、遠くから女の人がやって来た。

 綺麗な人だった。その人は、ドレスを着ててもおかしくないくらいの美貌の持ち主だ。

 凛とした空気を纏っていて、どこか近づきがたい雰囲気の人。

 どこか有名な家のお譲様と言われても、不思議ではない。


 その人は男性の横に来て、姫乃達を不思議そうに眺めた。

 目に眩しい金髪だった。白い肌に、整った顔付き、青い瞳には深い海の色のようだった。


「私はイフィール・ルステン。我が隊に何の用だ」

「ええと、結締姫乃です。話を聞いてくれるんですか?」


 相次いで悲しい対応をされてきたので、話だけでも聞いてくれるという彼女の態度が少し不思議だった。


「聞くだけならば耳を貸そう。そして、真実に基づくものならば、出来る範囲で協力もしよう。私達は、相手を見て助けるものを選んだりはしない」


「何か手が必要なのだろう?」と、イフィールさんはそう続けた。


「良いのですか、隊長?」

「構わん、世界欠落スコアフォールの調査も一段落ついたしな」


 立派な人だ、と思った。眩しいくらいに。

 セルスティーさんと同じくらいこの人は、きっと尊敬できる人だろう。自然にそう思えた。

 姫乃は詰めていた息を吐き語りだした。

 理不尽な状況にさらされている町の人達の事を。


 それからは今までの停滞が嘘の様に、状況が進んでいった。

 バールたちが町に入れるようになったのは、そのわずか半時ほど後の事だった。






 町中 門の前


 町の外で待機していたクリウロネの人達は、今は門を超え、ロングミストの町の中にいる。


 問題を解決してもらったバール達は、感謝が尽きないようだった。

 イフィールを囲んでのお礼の嵐だ。


「あの、ありがとうございますっ」「本当にありがとうございます!」「助かりました!!」

「当然の事をしたまでだ。気にする事ではない」


 そんなバール達を横目にしながら、姫乃は首を傾げていた。


「こんな事ができるなんて調査隊の人ってそんなに凄い人達なのかな」


 こちらの疑問に答えるのは、同じように目の前の光景を眺めていた啓区。


「クルス町長さんに聞いた話だとー、研究者さんっていう感じの役職に近いって話だったよねー」


 そうなのだ、終止刻エンドラインの影響を調べ、発生規模、状況をまとめ、いち早く今回の被害対策に活かせるようにするのが彼らのやるべきことらしい。姫乃達はそう聞かされたのだけれど。

 一つの町の、町長さんの命令を取り消す事が出来るなんて、どうしてそんな事ができるのだろうと思う。


 姫乃の疑問を聞きつけたのか、犬用につくられたフードをかぶったレトが話に加わってくる。


『そりゃ、あれだろ。コヨミ姫様んとこの城の兵士だからだろ。この町も他の町も大きく言えば、そういう姫様や王様に統治されてんだから、そこの直接の部下には逆らえねぇ……ってわけだ』


 こんな時期なので町中に魔獣の姿があったら問題だからだろう。

 レトの場合は見た目が、ちょっと大きな普通の犬みたいだから無くても問題はないんだろうけど。


『それにこういう時期だかんな。町がちゃんと正しく機能してるか見てくるって役目もあんだよ』


 調査隊の役目は、思ったより色々あるんだ。


 なあがレトがぱたぱたさせている尻尾にひきよせられながらも、見た目についての疑問を口にする。


「レトちゃま、服着てるの。どうしてなの?」

『その言い方だと普段全裸で歩いているヤバい奴みたいだよな……。まあ、これは町の人間から渡されたんもんだ』


 町の人から……? 


「でもレト達、今まで門の外にいたんだよね?」


 バール達と違って町の人だったら、門の行き来できるとかかな……。

 でも、姫乃達も見てきたけど町の人達は外にバールさん達の事情なんて知らないようだったけれど。


『おう。なんか門の上から女の子が色々届けてくれたんだよな。ラルラの薬とか、ちょっとした食べもんとか、俺のこれも』


 そっかラルラ君の薬、手に入れられたんだ。

 ずっと気がかりだったのでそれを聞いてほっとする。

 でも、その人の事は気になった。


「女の子が? 兵士の人とかじゃなくて?」


 門の見張りをしている人ならともかく、普通の人がそんなどうしてそんな所にいたんだろう?


『礼を言いたくて、さっきも兵士の奴らには聞いたんだけど、口止めされてるとか言って教えやがらねーし……』


 ラルラ君のことを知ってるんだったら、クリウロネの住人の誰かの知り合いなんだろうけど……。

 もう少し、その女の子の事を聞きたかったが、バール達に礼を言われ続けていたはずのイフィールさんが近づいてきた。肩に小さなコウモリを乗っけて。クロフトでみたコウモリと同じような姿だけど、その頭部にはツノが生えていた。それはバールに描いてもらったヤコウモリだった。

 今見つかるなんて……。


「エアロからか……ふむ、なるほど。要件はあの子達の事か。ああ、分かった。わざわざ報告ご苦労」


 肩上にそう言って労うと、バサバサと羽ばたきが返ってくる。


「まったく、彼等の事を伝えようとするあまりに自分の事を話し忘れるとはな。私が聞かねばとんだ回り道になっていたぞ?」


 こちらを見るその様子はどこか呆れているようだ。


「え?」


 何か言う事があっただろうか、と首をひねる。

 そういえば町長さんに言って、この人には言ってない事があった。

 そうだ。


「調合士セルスティー・ラナーの行方の調査と保護、こちらからコヨミ姫様に報告させてもらおう」

「あ、ありがとうございます!」

「それと、お前達の保護もな」


 当然のように付け足されたイフィールの言葉に、姫乃の反応は、


「あっ!」


 だった。


「お前達自信が思っているよりも、お前達の立場は高いのだぞ? 金の位を持つ者などそうそういないのだからな。その貴重な人材の助手をこんな所に放っておけまい」


 そういえばその事まだ言ってない。

 バールさん達のことずっと何とかしなきゃ、って思ってたから忘れてしまったようだ。

 セルスティーさん、ごめんなさい。

 でも、今までそんな事意識した事なかった。

 エルケにいる時だって、今までだってそんな大層な扱いを受けた事がなかったのに。


「何か、ウチ等ってセルスティーの奴に想像以上にお世話になってる的な……?」

「的なというよりはー、そうなんじゃないかなー」

「ぴゃ? セルスティーさんにはいつもお世話されてるよってなあ思うの」



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