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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第三幕 立ち向かう意思

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81 第5章 ギルド



 コヨコが言い放った『ギルド』という単語を聞いて、その場に居合わせた他の三人は首をかしげる。

 代表して尋ねるのは選だ。


「ギルドって、何だ?」

「ある筋から入手した情報なんだけど……」


 得意そうにするコヨコは、時の話題沸騰ワード「ギルド」について説明。


 ギルドとは、

 北の統治領都アーバンにて、最近発足された何でも屋の組織。

 元々は、世界の謎研究会とかいう名前の組織で、何をやっているのかいまいちよく分かない小さな集団だったのだが、それが悪事を働くゴロツキ連中をまとめあげ、最近になってそのような何でも屋を始めたのだ。


 話している間にお店の主が善意で魚介プ二サンドを提供したので、選達はありがたくご馳走になりながら、コヨコのする話を聞き続けた。


 その中で、話の内容に一番に食いついたのはミルストだ。


「困っている人を助ける! 格好いいですね! やりましょうよ、ボク達で!!」


 コヨコは、そんな反応を嬉しそうに眺めている。


「これが結構面白いらしいのよ、メイスちゃ……、知り合いの女の子がそう言ってたの。割のいいお仕事が来るかどうかは最初は分からないけど、……名前を上げちゃえば問題ないわ」


 その話を聞いてミルストと同じように食いつくかと思いきや、珍しく考え込む緑花。


「面白そうだけど、でも、華花に聞いてみないと駄目ね。あたし達って、筋肉担当ってやつらしいから。良さそうな案件だと思って受けても実はそうじゃない、なんてことが最近よくあるし」


 身を乗り出して乗り気でいた選だが、隣に座る相棒の言葉を聞いて頭を冷やしたらしい。


「ああ……そう言えばそうだったな。まあ大抵は頑張れば何とかなるけど」


「それに」と続ける。


「確か二、三日前に受けたブラッドタイガーの仕事は大変だったもんな。帰る時に背中の出血に気付かなくて、通行人に、すげー心配されたし」


「あれはいい教訓だった」、と二人して軽く頷きあう。


 話を聞いた方が驚愕するしかリアクションがとれない。

 耳を疑うコヨミと、目を丸くするミルスト。


「え、何それ」

「……」


 二人の一般知識でその生物は、出会ったら即死レベルとして登録されている猛獣なのだが、ご存命なのはどういうことなのだろう。と、二人して見合わせている。


「まあ、そっちには悪いけど少し考えさせてくれないか」

「そういう事なら……。って、あれ? これじゃ、恩を返せないじゃない!」


 恩返しするのが目的だったはずなのに、とコヨコが気づく。

 隣にいるミルストは、楽しそうだからと実績が出るかもわからない事の提案をした事も、よく考えると恩返しとしておかしいのでは、と思い至っていた。なので選の意見に賛成する


「その方が良いかもしれませんね。まあ、そのギルドというものも、僕たちと同じ年の子供が言ってるから、楽しそうに聞こえただけかもしれませんし。実際やってるのは、大人の人達なんでしょう?」


 その言葉を聞いたコヨコはかなり泣きそうな表情に。


「そ、そんな事は……。で、でも……」

「まあ、なんにせよ。ここじゃ、決められないってことは一緒だ。宿に帰れば、幸い優秀な相談役がいるしな」


 言いよどむコヨコだが、話はこれでおしまい、みたいな流れになって強気に出られない。


 そうしてコヨコが何もしないでいる間に、どんどん話が転がっていく。


「僕も何か恩返ししなくちゃと思ってたんですけど……、何だかこの流れだとしづらくなっちゃいましたね。力も足りてるみたいですし」

「だから、本当に気にするなよ。俺達は好きでやった、それだけだ。だろ」

「ええ、だから全然、まったく、気になんてしなくていいんだから」


 そんな言葉を受けてコヨコは、口を開閉するだけの、情けない表情になるのみだった。


 当然その後の流れとしては……。

 ミルストの恩返しも断り、「じゃあさようなら」なんていった流れで次の日の返事を言う合流場所も時間も決めず、選と緑花が席を立ちあがって店を出ようとするのだが……。


「見つけましたですよ! さあ、ちびっ子。今日という今日は覚悟するですです!!」

「そうですか」


 シュナイデル城に勤める二人の人間がやってきた。

 灰色の制服に身を包んだ小柄な女性アテナと、大柄な男性グラッソだ。

 彼らは揃って店内に入ってくる。


「アテナっ! ルーンと話してたはずじゃ」

「いくら彼氏と話してても、その相手と話しても話しても話したりなくてもです。危ない姫様からそういつまでも目を離してるわけないですです」


 まったくもうこのちびっ子は、とうなだれるコヨコの前にお叱りモードがのアテナが歩いてきた。


「ごめんなさい。心配してくれてるのは分かってたのよ。後でちゃんと謝るから。でも今の私はただのコヨコなの。この人達は、色々助けてくれて……そのお礼がしたかったから。戻るのを忘れてたとかじゃ……」


 ごにょごにょと、理由を小声で聞かせるコヨコに、はあ……、とアテナは重いため息。


「また、エアロさんの時みたいな事したですか? 助けてあげようとして本末転倒な被害を負うような」

「うぅ……」

「ちょっといいか? アテナって城の人なんだよな。コヨコも城の人間なのか?」


 うなだれて言葉の尽きたコヨコの代わりに、事態を見ていた選が質問する。

 アテナは選達の顔を見て、初対面の時の事を思い出したようだった。


「魔石店以来の再会です。お久しぶりですです。ええ、コヨコは城の人間では……、ありますですですよ」

「アテナ……」


 彼女は、含むような言い方をしつつも、正体を漏らさない。そんな親友にコヨコは嬉しそうな表情になった。


 緑花はアテナの隣に立つ結構な存在感の大男に視線を向けて尋ねる。


「そっちの人は初対面よね」


 アテナは「そういえば」と、大柄な男性を手で指し示しながら説明。


「こっちはグラッソといいますです。同じく城の人ですですね。『そうですか』しか言わない人です」

「そうですが」

「が? 珍しい返答ですね」


 グラッソは普段は「そうですか」しかいわないので、アテナがフォローをいれてやるのだが、今日はいつもにない反応を返した。

 そんなグラッソにアテナは何か二、三事聞きたそうな顔をしていたが、気をとりなおして選達へ向き話題を移した。


「どうせ、『トラブルから助けてくれたんだから恩返しに、最近夢中のギルドとかいうやつに加入してみたらどう?』とか言われたんじゃないですか?」


「それで、助けきれずに警吏さんのお世話に最後はなったとみていますですです」とアテナは続きを推理して見せる。

 確認するように選たちに視線を向ければ。


「いえ、違います」


 ミルストが真実を言った。


 細かい事は気にしないとはいえ悄然としているコヨコを前に、さすがに「いいえ、もっと込み入ったじじょうがあって……」とは指摘しづらかった選と緑花だ。ミルストがその返事を意図して代わってくれたのかは、二人には分からないが。


「それじゃあ、貴方立が話を持ちかけて……という話ですか?」


「ギルド加入を選と緑花達が自らお願いした?」のかと、首を傾げ返答の意味を誤解するアテナ。そこに追加で、ミルストが突っ込んでいく。

 ただしその内容は、普通なら口にするんをためらう気まずい内容だった。


「いえ、そこにいる選さんと緑花さんが、コヨコさんを助けたというところが違うんです。もともとは僕が絡まれていた所をコヨコさんが助けてくれようとしてたんですが、コヨコさんが相手にぶら下げられてしまったんです。そこでようやくお二人が登場したという流れで……」


 普通の人間が言いにくい所まで、詳細にズバッと答えるミルスト。


 さすがに普段は細かい事を気にしない選達でも、気まずくなった。


 ミルストはさらに進み続けるし、止まらない。


「あ、ちなみにその絡んできた人は、警吏さんがくるまえに選さん達がきつくお灸を据えておきましたので、大丈夫ですよ」


 恥ずかしい所まで説明されてしまったコヨコは赤くなるしかない。


「うぅ……、格好やっつけるつもりだったのに……」


 ミイラとりがミイラになりかけた現状。

 追いうちをかけられて重症になってしまったコヨコを、緑花と選がフォローして肩を叩いてやった。


「ま、まあ……あたし達って結構、同年代の子達から規格外だってよく言われてるし。そんなに落ち込むことないと思うわよ」

「だ、だよな。コヨコがどうってことじゃないと思うぜ。普通の女の子なら、仕方ないだろ」


 そこに選も追従するが、そのフォローの中身は不器用過ぎるものだった。


「そ、そうよね。普通……私は普通」


 しかしコヨコは、選の発した「普通の……」というキーワード辺りで何故か元気を取り戻したようだ。その様子を見てアテナはおおよその事情を察した。


「そういう事ですか。まったく、世話が焼けますですです」


 アテナは右手をコヨコの額の前へ持ってきて、親指と人差し指で輪っかを作った。


「えいっ、です」

「あうっ」


 そして、人差し指を弾く。デコピンだ。額にささやかなダメージが入った。


「何するのよ……、あ痛っ、グラッソまで……」

「そうですか」


 アテナと入れ替わりにグラッソまでが、二連続目のデコピンを放ったので、コヨコは涙目だ。抗議するように二人を睨む。


 そんなコヨコに対してため息を吐くアテナ。


「代わりにあなたの望む事を言ってあげてもいいですが、こういうのは本人から言うのが大事なはずですです。仕切り直しましょう。グラッソ」

「そうですか」


 アテナの言葉を受け、慣れた様子でグラッソがコヨコを担ぎ上げる。


「ちょっと、持ち上げないでよっ!」

「という事で、ちょっとこの子を教育したいので、失礼させてもらいますです。あ、一応ギルドについての話も生きてるので、友好的なお返事を期待してますですですね。あなた達の噂は警吏の方々から聞いてますですから、では」


 話をまとめたアテナは、グラッソと、その肩の上で水揚げされた魚の様に暴れるコヨコを連れて、颯爽と店を出ていった。


「アテナさんって、ひょっとしてお城の偉い人だったりするのかしら」

「何か話し方とかしっかりしてるし、察しがいいし、あんな体格の人を横に連れて歩いてるんだもんな」


 アテナ御一行(二人にとって、あの三人組のリーダーは彼女に見えた)の退出を見届けた後、二人はそんな事を言いあう。


「え、本当に気づいてない……?」


 ミルストが不思議な者を見るような目で二人を見ていた事には気づかずに。




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