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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第三幕 立ち向かう意思

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79 第3章 魔獣レト



 明るくなった雰囲気を変えない為に姫乃は話題を変えることにした。


「レトさんかぁ……。そういえばこの名前って珍しい名前だよね。ひょっとしてあだ名みたいなものなのかな?」


 話ながら、角をまがる。並んでいたレトは、今は先導するように前に出ていた。またすぐに角だ。この辺は入り組んだ道のようで迷いやすいらしかった。

 歩いてみてあらためて思う。やはり、どこも静かだ。何の音もしない。姫乃達の声と足音以外は。これが夜とか、朝だったらまだ違和感はないのだろうけど。こんな日中になんの音もしないなんて、違和感しか感じられなかった。


『まあな。このナリで本名とか、あれだろ。格好悪いだろ。聞くなよ。聞いてくれるなよ。ギャップありまくって笑われるのがオチだから』

「そんなに? ちょと気になってきちゃったけど、無理には聞かないよ」

『そうか、ふぅ助かった。危機一髪だったな』


 隣で歩いている白犬は大げさに息を吐いて見せる。

 そんなに嫌なのだろうか。

 そういう大げさな反応されると逆に気になってしまうのに。一体どんな名前だったんだろう。


「ええと、聞いてもいいかな? レトって犬……なの?」


 見た目は犬っぽく見える。姫乃の感想としてはそうなのかな、と思うが。


『あー、それはちょっと良くわかんね。見た目はそれっぽいけどな。で、魔獣っていえば魔獣だと思うんだけど。何つーか。魔獣って結構この世界の希少生物っぽいんだよ。数もすくないし、存在がレアだし、遭遇なんてもってのほかだ。だからこの姿の正体がいったい何なのか、さっぱり分かんねーんだよな。実際他の魔獣を見てみない事にはどうにも分かんねぇってのが現状だ……』

「そうなんだ」

『それでも魔獣かも……って思うのは、魔法が使えるからだな』

「使えるの?」


 どんなのだろう。この世界では動物も魔法が使えるんだ。なんだか不思議な感じだ。


『おう、身体強化的なもんだけどな』

「魔獣が魔法を使えるんだよね。害獣に、普通の動物に、憑魔に、魔獣……ちょっと混乱してきたかも」

『だよなぁ、ま、しょーがねーよ。俺らこの世界の人間じゃないし。異世界の小学生、六年一組のただの男子生徒だからな』


 その見た目でただの、は説得力が薄いような気がするけど。

 それにしても、レトは六年生らし。魔獣の姿だと、元の体の事が分からないから年上だとは思わなかった。

 これまでの会話で交わした言葉の……よく言えば壁がない、悪く言えば馴れ馴れしい口調の影響か、全然気付かなかった。


「害獣が、人に害を為す動物で……これは向こうの世界にもいたよね、それで憑魔が闇の魔力のせいで理性を失って凶暴化した動物。魔獣は……」

『魔石を体内にとりこんで、魔法が使えるようになった動物、だな。体も丈夫になって、知能も発達するし、魔法も使えるようになる。簡単に言うと強くなった……って事だな』


 姫乃の知識の整理を手伝うようにレトが自身に関わりのある部分に説明を付け加える。


「とりこむって?」


 レトはグワッ、っと鋭い牙が並んだ口を開けて、空中に噛みつくような仕種をした。


『食べる、だな』


 なるほど。でも美味しいのだろうか。


『だけど魔石って、魔法使えたりするけどただの石なんだぜ。なんであんなもん食べたりするんだかなあ』


 レトにもそれは分からないようだった。

 味とか感じるんだったらどんなだろう。するとしたら魔力の味ということになるが……、人間である姫乃には想像つきそうになかった。


『そういや、俺関連で一番あんた達が気になるだろう事、まだ聞かれてないよな』

「え?」


 何かあったっけ。

 レトは同郷出身で。六年一組。本名は秘密で魔獣。

 あと知らないのは……。


「どうしてそんな姿になってるの?」


 それだ。


『その質問、普通は結構前に出て来るはずじゃね?』


 そう言われればそうだ。

 最初はびっくりしたけど、他の皆の事とか気になってたし、自分の置かれてる状況を確認するのが先だと思ったから。後回しにするうちに忘れてしまったらしい。


『……まあ、良いけど。で、どうしてかは……よく分かんねぇんだよな。気が付いたらこうなってたもんで。異世界に来ちまって、バール達と知り合って、この町の世話になりながら調べてたけど、検討もつかねぇよ』

「そうなんだ。最初からその姿?」

『ああ、最初っからだ。ま、別に俺はこの姿に不満があるわけじゃないしな』


 レトはそれなりに今の自分の姿を気に入ってるようだ。

 元に戻れるかどうかとかいう不安はないのだろうか。

 ちょうど良く通りかかった、民家のガラス窓。かなり低い位置にある窓だ。そこにレトの姿が映る。口元を引き上げて、にやりとした表情の顔が映る。こうして見てる限り不安そうにはみえないけれど。


『あっと、用事思いだしたわ』


 膝の位置にある窓を見て姫乃は疑問に思う。何でこんなところにあるんだろう。

 と、レトがその窓を頭で押した。


「これ通れるの?」


 窓は民家の中へと開いて、犬一匹分が通れるようになっている。

 犬専用の通り道というわけだ、この窓は。


『この家のレオンっていう奴が友達でな。よくお邪魔させてもらったんだよ』

「友達の家なんだ」

『犬のな』


 犬の友達か。会話とか成り立つのだろうか。魔獣と普通の動物って通じるのかな?


『ちょっと待ってくれ、あー……どこ行った』


 家の中に入っていって、数分後。


『ははへへはふはっはは(またせて悪かったな)』


 レトがヌイグルミをくわえて戻ってきた。

 首を伸ばして、姫乃の方へ差し出す。受け取れという事だろう。


「これは?」

『前の避難民の忘れ物だよ。ばたばたしてたからな』

「そっか、大事なものなんだね。レオン……君の?」

『それを言うならレオンちゃん。あいつメスだぞ。出会う度に大喜びで飛びかかってきて……じゃなくてヌイグルミは人間の女の子の持ち物だ、これは。レックスのヌイグルミ』

「レックスちゃん? 男の子みたいな名前なんだね……ペットのレオンちゃんも」


 性別が逆転しているネーミングに何か理由でもあるのだろうか。


『そんなに珍しい事でもないみたいだぜ。名前ってのはイメージだからな。レックスが生まれた頃は終止刻エンドラインが近かったし丈夫に育ちますようにって、願掛けの意味があったんだろ』

「そっか…」


 終止刻エンドライン。本当にいろんな所に関係している。

 それだけ人々の生活の隅々に根を深くはってるのだ。


「何だか、みんな振り回されてるんだね」

『そりゃあ、世界の危機だからな』


 ヌイグルミを受け取りしばらく歩いていると未利と啓区に合流した。

 それから、姫乃が眠っていた間のことを話したり、携帯の事について話したりして、町の外に集まっている避難民達と合流した。

 もう準備は全て整ったのか、彼らはレト達がそろうのを静かに待っていたようだ。

 レトが、再びヌイグルミをくわえて町の人達の方へ走っていくのと入れ替わりに、なあちゃんがやってくる。


「姫ちゃま、おはようなの。なあ偉いから挨拶するの」

「うん、おはよう。そういえば未利と啓区にも言ってなかったね」

「いや、それ所じゃない雰囲気じゃん。呑気に挨拶とか……。思いつかなかったわ」

「いろいろあったしねー」


 今はそうでもないけど、目覚めたばかりのときはやっぱりちょっと余裕がなかったかもしれない。


 レトを顔を合わせた時の事を思い出しながら、姫乃は話を進めていく。


「それで、とりあえずこれから、避難民さん達についてってロングミストの町に向かうんだよね」


 まずは、これからの行動について確認。頼りになる調合士がいないのだ。よく考えなければならない。


 問いかけに応えたのは肩をすくめる未利だ。


「そ、ここにいたって何にもないしね」

「そこから先は……」


 そして、続きを述べるのは啓区。

 その中身は優先事項についてだった。


「とりあえず、やらなきゃいけないのは、セルスティーさんの無事の確認と合流……またはエルケへの帰還じゃないかなー」

「そうだね。」


 姫乃はそれらの言葉に相槌をうった。

 セルスティーと連絡がとる方法や、エルケに帰るための手段を、どうにかして考えなくては。

 保護者不在であたらなければいけない難題が、少しばかり大きすぎるような気がしなくもない。


 が、ため息を押し込める。

 嘆いていてもしょうがない。たとえ小さい事でも自分にできる事はすると決めたばかりなのだ。

 苦難が待ち受けていようが、笑って歩くぐらいの度胸は持ちたい。

 そうでないと、今度ルミナリアと再会した時……、また同じことの繰り返しになってしまう気がしたから。



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