第4話 いい加減にしろメロス
正確に数えていたわけではない。
だが、体感では、もう百回は超えていた。
百回目の朝、メロスはとうとう、我慢の限界を迎えた。
メロスは激怒した。
必ず、かの邪知暴虐の――いや、そんな悠長な話ではなかった。
「いい加減にしろ!」
村の広場のど真ん中で、天に向かって叫んだ。
村人たちが、何事かと振り返る。
「なんなんだよ、この繰り返しは! 俺が何をしたって言うんだ!」
妹が、心配そうに駆け寄ってくる。
「兄さん、大丈夫?」
「大丈夫じゃない! 俺はもう、この朝を何回見たか分からない!」
わけの分からないことを叫ぶ兄を、妹はおろおろと見つめるばかりだった。
メロスは、頭を抱えてその場に座り込んだ。
「もう、走りたくない」
そう呟いた瞬間、自分の言葉に、自分で驚いた。
「いや、待て。走らなきゃ、セリヌンティウスが」
分かっている。
分かっているのに、体が動かなかった。
これまでの疲労が、ループを重ねるごとに、なぜか記憶の底に、うっすらと蓄積している気がした。
肉体的な疲れではない。
もっと、別の種類の疲れだった。
「何度失敗しても、また同じ朝に戻される。それなら、今、頑張ることに、何の意味があるんだ」
投げやりな考えが、頭をよぎる。
だが、その考えを振り払うように、メロスは立ち上がった。
「いや、違う。意味がないなら、尚更、意地でも成功させてやる」
矛盾した感情を抱えたまま、メロスは、また村を発った。
走りながら、メロスはふと思った。
「そういえば、こんなに何度も繰り返してるのに、俺以外、誰もこの状況に気づいてないのか」
セリヌンティウスも、王も、村人も。
みんな、いつも通りの一日を過ごしている。
まるで、メロスの記憶だけが、この奇妙なループを、たった一人で抱え込んでいるかのようだった。
「孤独だな、これは」
呟いた声は、誰にも届かず、風に消えていった。




