終わらない狂宴
私有迷宮の制圧から数日後。
東京の空は、何事もなかったかのように青く晴れ渡っていた。
ギルド『黎明』の最上階ラウンジでは、今日も今日とて騒がしい日常が繰り広げられていた。
『美味ぁぁぁぁぁぁいッ! 主どの、今日のステーキはまた一段と肉汁が凄いぞ!』
ハクが顔をソースまみれにしながら、特大の肉塊を嬉しそうに頬張っている。
「ハクちゃん、そんなに慌てて食べなくてもお肉は逃げませんよ」
結衣が苦笑しながらお茶を差し出し、橘や雪乃、チャオもそれぞれの食事を楽しみながら談笑している。
使徒を倒し、莫大なポイントを得た俺のステータスは、もはや人類の枠を完全に超え去っている。だが、あの使徒の最期の言葉が、常に俺の心に警鐘を鳴らし続けていた。
「湊。防衛省と協会の連中、完全に西園寺の傘下の犬になったわ。これで黎明の活動にケチをつける馬鹿は日本からいなくなったわよ」
白銀のコートを羽織った椿が、妖艶な笑みを浮かべて俺の隣に腰を下ろす。
「ちょっと泥棒猫、湊に近づきすぎよ。政治工作くらいでデカい顔しないでちょうだい。湊の隣はわたしの特等席なんだから」
すかさず咲耶が反対側の隣に座り、俺の腕にギュッと抱き着いて椿を睨みつける。
「あら、仕事もできないパトロンは黙っていてくれるかしら?」
「~~~ッ! 表に出なさい、今日こそ消し炭にしてあげるわ!」
バチバチと火花を散らす魔女と美姫。
いつもの光景に、俺は苦笑しながらコーヒーを啜った。
――同じ頃。 世界の裏側、光の届かない漆黒の絶対隔離空間。
『……極東の第7使徒がロスト。肉体の消滅を確認しました』 『天谷湊。およびギルド【黎明】。……彼らの出力は、もはや我々の想定する生態系の脅威となりました』
円卓を囲むように立つ、十数人の純白のスーツを着た『使徒』たち。
彼らの中央に浮かぶホログラムには、俺が神滅槍を放った瞬間のデータが映し出されていた。
『計画を次のフェーズへ移行します。世界のすべてのダンジョンを、解放しなさい。……我らが神の降臨のための、最後の選別を始めましょう』 使徒たちの不気味な笑い声が、闇の中で重なり合う。
* * *
ラウンジのバルコニーに出て、俺は東京の街並みを見下ろした。 平和な日常。だが、空気が微かに、不穏なマナの匂いを孕み始めているのを、俺の肌は確かに感じ取っていた。
「……どうしたの、湊。難しい顔をして」
咲耶が、心配そうに俺の背中に寄り添ってくる。その後ろには、椿や他のメンバーたちも集まってきていた。
「いや……戦いは、これからが本番だと思ってな」
俺の言葉に、仲間たちは誰も怯むことなく、力強く、そして楽しげに笑った。
「ええ。どこからどんなバケモノが来ようと、わたしが全部灰にしてあげるわ」 「西園寺のすべてを使って、あなたをサポートするわ、マスター」
「私たちがついています!」
頼もしい仲間たちの顔を見渡し、俺は右手のひらに小さな赤黒い炎を灯した。
世界の裏で蠢く巨大な悪意。神を名乗る未知のシステム。
どれほどの絶望が押し寄せようと、俺たちなら絶対に叩き潰せる。
「行くぞ、お前ら。世界がどうなろうと、俺たちのやることは変わらない」 俺は炎を力強く握り潰し、空へ向けてニヤリと笑ってみせた。
「立ち塞がる敵はすべて、根こそぎ狩り尽くす」
果てしなく続く闘争の荒野。
ギルド『黎明』の、限界を突破した終わらない狂宴は、まだ幕を開けたばかりだ。




