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オオカミと赤いずきんのベリー売り  作者: ねこじゃ・じぇねこ
踊り子ウサギと銀幕の町

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14.流れ星に導かれながら

 おいしい朝食の時間が終わってほどなくして、ラズとブルーの旅立ちの時間はやってきました。

 たった一晩。されど一晩。〈日の入旅館〉で過ごした時間は、ラズとブルーの二人にとって、とても充実して楽しいものになりました。もちろん、旅館自体が素敵だったことが大きいですが、今回についてはそれだけではないでしょう。


「じゃあ、そろそろ行くね」


 しっぽをふりながらブルーが別れを告げる相手はポップです。〈日の入村〉の北に位置する〈ハニーレンガの道〉へと続く小道まで、見送りのためについてきてくれたのです。道しるべの上に止まって羽を休めると、ポップはふたりに言いました。


「カア、おかげで楽しい一晩だった。いつかまた、今日よりずっと楽しい時間を過ごせることを期待しているよ。ありがとう、ブルー君、ラズ君」

「こちらこそ、ありがとう」


 軽くお辞儀をしながらラズは言いました。


「夏の星まつりの頃には〈白昼夢の都〉に行くつもりだよ。その時にまた会えたらいいな」

「それならきっと会える。ワタリガラスを見かけたら言ってみるんだ。しゃべるカラスのポップに会いたいって。そしたらきっと案内してくれるよ。ブラック君も会ってくれるといいね」


 ポップの優しげな言葉に、ラズは目を細めながら頷きました。

 こうして、ラズとブルーは何度も何度も別れを惜しみながら、〈ハニーレンガの道〉へと戻っていったのでした。

 遠ざかっていくポップの姿と〈日の入村〉のことを何度も振り返り、少し寂しい気持ちになりながらも、それでもブルーは前向きな気持ちでラズと一緒に歩みました。昔馴染みとのお別れの寂しさよりも、ラズと一緒に目にする新しい世界へのわくわくの方が勝ったからです。そんなブルーの生き生きとした歩みを見て、ラズもまた明るい気持ちで〈ハニーレンガの道〉を歩きました。


 これから向かうのは〈銀幕の町〉です。〈ハニーレンガの道〉をさらに北へと進んでいき、〈南流星街道〉と呼ばれる古い街道を通り過ぎた先にあります。その名の通り、星が美しいことで有名な街道で、流れ星をしょっちゅう見ることができるのです。


「流れ星かぁ。懐かしいな」


 歩きながらラズの話を聞きて、ブルーはそんな事を言いました。


「故郷ではよく見たんだ。旅立った夜も見かけたよ。まるでボクの行く手を示してくれているみたいだった」

「そっか。もしかしたら導いてくれていたのかもしれないね」


 その後もふたりは無理なく自分たちのペースで歩き続け、日が暮れる頃に少しだけ木陰に腰かけて休みました。

 もう何時間移動したのでしょうか。お昼も食べて、歩き続け、気づけば空は暮れなずんでいました。太陽が沈む光景を、まるで見送るように星たちが見下ろしています。それを何となくラズとブルーが一緒に眺めていると、ブルーがふと声をあげました。


「あ、流れ星」


 すぐにラズにも見つけられました。尾を引いた小さな星がすっと北の方角へと流れていったのです。それはまさしく、ラズたちが向かっている先でした。


「そろそろ進みなさいってことかな」


 ラズがそう言うと、ブルーは待っていましたと言わんばかりに立ち上がりました。

 目を凝らせば、〈南流星街道〉の先には〈銀幕の町〉の明かりが確認できます。そのことをブルーも知っていたので、早く行ってみたくて仕方なかったのです。

 よっこらしょっと立ち上がるとラズはさっそく歩き出しました。すると、その頭上で、ひとつ、そしてまたひとつと星が流れ始めたのです。


「すごい」


 歩きながら、ブルーは目を輝かせました。


「まるで案内してくれているみたい」


 ラズもまたその景色に見惚れながら歩き続けました。

 実のところ〈銀幕の町〉および町を挟んで南北に存在する〈流星街道〉では、こうした景色は珍しくありません。ラズもまた、かつて一人ぼっちでここを歩いた時に、同じような光景を見たことがありました。


 ──でも、全然違う。


 そう、全然違いました。その時と今では、瞳に映る美しさが全く違ったのです。それは何故でしょう。もちろん、ラズには分かっていました。ブルーが一緒にいたからです。

 一人ぼっちで歩いていたその時はとにかく、前ばかり見ていました。ベリー鉄砲をすぐ構えられるように意識しながら、周りを警戒していたものですから、空の星に注目できたのもほんのわずかな時間だけだったのです。

 それがどうでしょう。今は違います。ブルーと一緒だから、前よりも長く空を見ることができたのです。軽快に走るブルーを追いかけながら、一緒に空を見上げる。ながら歩きだったので、歩む速度はゆっくりです。それなのに、気づけば目の前には〈銀幕の町〉の門がありました。


「あれ……もうついちゃった」


 ラズは思わず懐中時計を確認しました。示された時刻におかしなところはありません。ラズの記憶が確かならば、以前ひとりで歩いた時よりも、少し時間がかかっての到着でした。それなのに、あっという間に感じたのだから不思議なものでした。

 ラズはじっと門の向こうを見つめました。ちょうど、立夏の時期でしたので、ラズたちの暮らす国の各地では愛の祭りという豊穣祈願や、夫婦、恋人たちの絆を深め合う祭りの準備で大賑わいです。〈銀幕の町〉でもその準備が進められており、この季節の星々をイメージしたのだろうぼんぼりがたくさん下がっていました。


「すごくきれい! お星さまみたい!」


 門のところで立ち止まってはしゃぐブルーを、町の中にいる複数のウサギ族たちが窺うように見つめています。おそらく、しゃべるオオカミを警戒していたのでしょう。しかし、その首に〈図書の町〉で貰った安全オオカミの証があることを確認すると、納得したように立ち去っていきました。その一連の注目に全く気付かないまま、ブルーはうきうきした様子でラズに話しかけました。


「ねえ、ラズ。入ろう。色々見て回りたいなぁ」


 うずうずした様子のブルーが愛らしくなって、ラズはしゃがみました。そのほっぺを優しく撫でてから、ラズは静かにうなずきました。

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