会敵
間宮さんと雪が今回の任務と現場の状況に違和感を持ち、見回りを行うべきとなった。それから少しの間建物を見て回っているところである。
うーん少し嫌な空気が漂ってきたなあ…。少なくともさっきよりは濃い空気感になってきてる。建物を奥に進めば進むほど少しずつではあるが濃い霊力が残存していることがわかる。
二人も気づいているからか先ほどより緊張が増しているのを感じる。
「なあ、先に現状を報告するべきか?俺の感覚でしかないけどここにいるやつは黄等級はあるかもしれない。こういうときの適切な対応は分からないが、どうするべきかな?」
もし妖がすぐそばにいたりすると報告してる隙も危ないからな。
「そうね…。一応報告をしておきましょう。…調査自体は完了してるから撤退もありえるわ。」
まあそうだよな。これはある意味イレギュラーみたいなもんだしな。
『葵、油断するなよ。ここにいるやつはなかなかのやつかもしれん。』
『まじ?霊力的にそこまでだとは思わないけど…。でもこれいったん撤退するべきかな?』
ミカエルがこう言うってことは危険があるかもしれないってのはまじだろうな…。俺もまじで腕が落ちてるか…?
『絶対に安全だと言えないというだけではある。雪だけなら守れるし、自衛する力もあるだろうが、もう一人の彼女は危ういのだ。お前も今回そこまで式神を連れてきてないだろう。彼女の安全を考えるなら撤退すべきだったが…』
『あ?今からでも撤退すれば…いやこの気配は…』
まじか…?
『今すぐ二人を後ろにしろ! 来るぞ!』
「二人とも下がれ! 何か来るぞ!」
くそ…俺もまじで鈍ってたな…。
こちらに向かってくる影をはっきりと見ることができる。
久しぶりの実戦に思わず汗をかいているのがわかった。
『こんな緊張感は久々だな…。ミカエルいけるか?』
『もちろんだ。しかしまだ私はこっちの真言やら言霊には詳しくないからな、呪文ではそこまで力を出せん。お前が覚えた呪文しか使えんぞ。』
あーもっとしっかり勉強しよう…。
とりあえず不得意ではあるが身体強化をかけて後ろに下がらせた二人と妖との間に入る。すると自然とお互いに臨戦態勢となった。
姿を認識できるほどの距離になると人型の妖であることが分かった。しかも少しイケメン…ちょっとむかつくな…。
「お前たち陰陽師だろ? それもかなりの上玉じゃないか。喰うなら男より女なんだが…お前はそれでもそそられるよ。それに後ろの女どもを守りながらでは戦い辛いだろう。お前しか狙わんからこっちに集中しろ。」
あーれこれ俺狙われてる?しかもなんか餌が勝手に入ってきたみたいなリアクションじゃないですか…。こいついい奴なのかそうじゃないのかがわからん!
とはいえ話せるってなるとまずいな…。そのレベルの相手だと今の俺じゃ間宮さんを守りながらでいけるか…?
「葵!こっちは大丈夫!最低限身を守ることくらいはできるから目の前の敵に集中して!どうせ葵で無理なら私たちも無理なんだから!」
ほんとにいい子だよなあ…。てかそうだ俺が負けたら二人まで喰われるのか、それは絶対ダメだな!
「よし、とりあえずお前を殺すよ。死にたくなかったら逃げなよ?」
「ふむ、最近の若い陰陽師というのは力の差がわからないらしいな。その若さでその身体強化は中々のものだ。…しかしまだまだだな!」
こいついきなり殴ってきやがったよ…!
しかも自分でも体が浮いたのがわかるほどの威力だ。 ちょっとやばいかも…。
目では追うことはできていたが体が反応できなかった。
「あーもう何年も殴られるなんて経験なかったからさあ…。こんなに痛いのね…。」
相手は明らかに俺を見下した視線を送るともう一度振りかぶって俺に拳を向けてきた。
なんとかそれを避けて一度距離を取る。
「ふむ、思ったより素早いな。しかし逃げてばかりでは勝てんぞ?さっきから後ろの女ばかり気にしているが…お前の女か?」
こいつなんで妖のくせに鋭いんだよ!
「ならこいつから喰ってしまえば少しはやる気が出るかな?」
「よし、お前は絶対殺す!これが最後の忠告だからな。」
俺は霊力を順次解放していく。
ごちゃごちゃと面倒に考えすぎてたな、とにかく霊力でぶん殴ろう!
そう決めた俺は精一杯の力で拳をふるう。お、いい感触だ!一発いいのが入ったら即追撃!これがうちの教えだからな!
向こうもカウンターを合わせてくる。こいつ肉弾戦ガチで強いかも…。
何発も殴り合いを重ねると徐々に向こうも効いてきたことがわかる。
だんだんとガードも下がってきたところでいいのが入った。相手もこれは間違いなく効いたのだろう少しバランスを崩しながら、今度は向こうが距離を取るために逃げた。
「あれ、逃げてばかりじゃ勝てないんだけど…大丈夫そう?」
「驚いたな…力を隠していたのか…?そこまでの霊力を持っていたとはな…。」
「まさか卑怯だなんて言わないだろ?霊力で殴り合うなんて醍醐味だろ?それに能ある鷹は爪を隠すって言うからな!」
「ふん、お前をなめていたことは謝ろう。こちらも本気でやらせてもらおう。ここまで上がるのは初めてだよ。」
ん?炎?…ああいうのまとうのはありなの…?てかかっこいいなおい!主人公が使う系の技だろこれ!
「さあ、ここからが本当の勝負といこうか!」
大きく振り上げた拳を振り下ろしてきた。
なんとか避けれそ…うわ!伸びてきやがった! そのまま炎の拳を受けてしまった俺は後ろへと飛ばされた。うわあ…いてえ…。ちょっと焼けてる…?てかこれは何発もくらってるとまずいな。
その後かろうじて体勢を取り直すも執拗な追撃に徐々に追い込まれる。なんとか霊力でガードするがこのままじゃジリ貧だな…。霊力なしじゃ腕は焼けるしな…。
必死に攻撃を耐えながら一発カウンターを入れることができ距離をつくれた。
『ミカエルさん…あれやっていいかな?ちょっと体術じゃ勝てないや…。やっぱり俺術式タイプなんだよ…。』
体術も自信あったんだけどなあ…。さすがにさぼってたつけが出てるな…。
『このままじゃ勝ち目が薄いのも確かだからな、手を貸そう。しかしこれに懲りたらしっかり修行に取り組むのだぞ…。体術という選択肢があるのとないのとでは全然違うのだ、これで痛感しただろう。それに体術ができないものなど対人戦なんかではすぐやられるぞ。』
あーすごいわかるよ。今人生でこれほど修行が必要だと思ったことはないね。でも昔は自信あったんだよ、ほんとにね。
さて、ミカエルの能力の一つは敵と同じ炎である。ただ単純に炎で燃やし尽くすというだけの能力だがシンプルゆえに非常な強力である。
「なんだ諦めたのか?せっかく面白くなってきたところだろう!」
あーこいつ人間だったら好きになれたかも…。なんか悪い奴感がないんだよね。まあ人を食ってる以上殺すけどさあ。
「あのね、そもそも陰陽師はさこんな風に殴り合うやつはレアなの。だからもう殴り合いは終わりってこと。」
『ミカエル、力を借りるよ。』
俺が呪文を唱えると炎の龍のようなものが現れる。これはミカエルという存在を仲介することで発動を可能にしている術式である。陰陽師が基本的に式神を持つのはすべてにおいて式神を媒介にすることで効率的に術式を行使できるからである。それが高位のものになればなるほどにその効率は高まる。
「これは驚いたな…。その年の陰陽師がここまでの力を持っているのか…!はは…!最後の相手にふさわしいぞ!貴様は!名前は何というのだ?」
「久我葵って言うんだ。お前は?」
「はは!俺に名などない!しょせん俺も新参だからな!」
こいつは早めに退治しておかないとな…。名もない若い妖でここまでの力を持つんだ、あと数年もしたら青くらいには育ったかもな…。
「正直タイマンだったら負けてたよ。術式なしの殴り合いならな。けど俺の勝ちだよ。」
俺は炎を相手に向けて進めた。仮に逃げようとしたところで間違いなく逃げ切れない。しかしそんなことを気にする必要もなかったようだ。逃げるそぶりさえ見せずに向こうもおそらくやつの異能である炎をこちらに向ける。
やがてそれは自然とぶつかり合い、霊力の塊が押し合っていることを感じる。
この感覚も久しぶりだな…。戦うことが好きなわけじゃない、けどそれでもこの瞬間は気持ちよく感じてしまう。
少しの間激しくぶつかりあったがやがてこちらの炎が向こうを燃やし始めたことがわかる。そして最後にもう一度強い抵抗を感じた後にやつが完全に燃やし尽くされたことが感覚的に伝わってくる。
「た、倒したの…?正直私には何が何だか分からなくて…すごい霊力のぶつかり合いだったことしか…。」
「ああ、倒したよ。なかなか手ごわかったね…。少なくとも黄等級の上位か、下手したら赤の下位くらいはあったんじゃないかな、格闘じゃ俺でも負けそうだったしね。」
「まあとにかくお疲れさま!一瞬ヒヤッとしたけど大きな怪我もなくてよかったよ。リハビリの初任務のつもりがとんだハード任務になっちゃったね…。」
全くだよ…。正直雪はあいつと相性も悪いから、一人でこの任務に行ってたりしたら危険だったんじゃないか…?何が簡単な調査任務だよ…。
「そ、それじゃあお疲れさまってことでいいのかな…?もうここら辺から霊力の残存も見られないし。」
「そうだね、帰ろうか!ね、葵!」
うん、かなり疲れたけどこの笑顔で癒されるよ、まじで。
「あ、そうだ。葵、かっこよかったよ。久しぶりに戦ってるところ見たけど昔よりもね。守ってくれてありがと!」
くそかわいいなおい!こんな成功報酬があったとはね…昔もこうだったら俺もしかしたらやめてないよ、多分。
まあそれにしても流石にこれは有栖川の当主さんにクレームかな…。今回のは多分あの人は知ってただろうな。俺を試すつもりだったってとこか。雪や間宮さんを同行させておいてこれはいくらなんでもやりすぎかな。
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