縁談と婚約
「ねえ葵、雪ちゃんから話聞いてる?彼女今日も欠席だしさあ…。」
また唐突に世良が聞いてくる。しかしこいつは俺よりこっちの世界では情報を持っているから頼りになるのも間違いない。そのうえとにかく昔から噂や情報を持ってくるのが得意だった。
だがこいつの言う通り雪とはあれ以来会ってすらいない。心配であることは確かにそうだ。
「少なくとも最近は何も聞いてないよ。あーまあ最後に話したときに家のことで悩んでた感じだったけどさ。なんかやばいことでもあんの?」
確かにここ最近もずっと悩んでる様子ではあったからな、なにかまずいことしれないってのは否定できない。それに世良がこういうときは勘なのか根拠があるか知らないがだいたい当たる。
「実はね彼女に縁談の話が来てるらしいんだ。しかも相手は中々やばいやつでさ、かなり年上でしかもなかなかの家格のとこらしくてね。それになんでも向こうは雪ちゃんとの縁談をまとめるために黒澤の家に支援を頼んでるって話も聞くしさ、黒澤相手じゃあ断れないだろうしちょっとやばいかもよ。」
あー、これがあの時言ってた家関連の悩みか… 相談しろとは言ったけどそりゃまあ俺には言えないよなあ…。 さて、どうするか…雪が俺に言わなかったってことは知られたくないってこともあるからな。無理に首を突っ込んでいいものか…。
いやでもなんにせよとりあえず話聞かないことには始まらないか…
「よし!じゃあ行こうかあいつの家に。あのじいさんも孫が意にそぐわない相手との縁談ならやめさせたいはずだ。なんにせよ話を聞きに行こう。噂がただの噂ならそれでいいさ。けど本当の話なら雪に確認しないとだろ?」
善は急げって言うからな!ここで迷惑かもなんて考えてても時間の無駄で手遅れになるかもしれないからな。最悪迷惑かけたら謝ろう… 雪のじいさん怒ると怖いけどさ…
「君のそのいざって時の行動力は尊敬してるよ。かっこいいね、全く。」
――
「で、うちに直接来たってわけか…。葵よ、はっきり言うがな孫には会わせるつもりはねえよ。首突っ込みに来ただけなら帰ってくれ。うちにはうちの事情があるんだ、いくらお前でも迷惑なもんは迷惑なんだよ。」
あーれこれは雲行きが早速怪しくなってきたぞ… 乗り気じゃない縁談ならじいさんは阻止したいと思ったんだがなあ…。
じいさんは味方の前提だったから計画があっという間に崩れ去ってしまった…
「ねえ葵…どうするの?全然想定と違う展開だけど…」
「んーまあこうなったらしょうがないよな…諦めよう。」
だってこれしょうがないよな?じいさんが俺らを雪に会わせようとしないなんて予想できないし
「え…ここまで来て帰るの…?本気で…?」
「え?いや全然違うよ。お前も言ってたろ?ほんとは穏便に行く予定だったんだよ、けどまあとりあえずちょっと眠ってもらおうか!怪我させなかったら文句はないだろうしな!で雪から話を聞いてその後に考えようぜ!」
このじいさんめちゃくちゃ強いから怪我なしでいけるかは微妙だけど…
まあ最悪代償払って精霊に頼めば倒せるだろ
「あ、そっちなのね。けど本気?僕はてっきり説得するとかかと思ったんだけど…。さすがに当主を倒すのはまずくない?さすがに君の立場でも大問題になるよ。」
んーけどなあ… このままじゃ無駄に時間食うだけだからさあ…
「まあ…最悪記憶飛ぶまで殴るかあ…。」
父さんにばれたらまじで殺されるか…?けどなあ…
「世良、お前は俺に言われてやっただけだ!それで押し切れよ。」
「あーまあ待て待て、分かったいったん話を聞いてくれよ。よく考えてくれ、お前さ実際責任取れるのかよ。俺もこの縁談には反対さ、けどな俺らくらいの家格の娘ならなこの時期の縁談ってのは別におかしくないんだ。それにうちは落ち目とはいえ歴史はある家だからな。しかもうちの孫の可愛さは分かるだろ?そんなんで雪を狙ってるやつは少なくない、元からな。今回の縁談相手も女絡みで評判の悪い奴で昔から雪を狙ってた。それでも俺は雪をここまで誰とも見合いすらさせてねえ。だが今回は黒澤が絡んでる。黒澤絡みの縁談を断ればうちみたいなろくな後ろ盾のない家はつぶされる。そしたら雪ももっとひどい目見るかもしれねえぞ。」
やっぱ孫のこと大事にしてるからこのじいさんなりによく考えてんだろうな
まあ黒澤家を無下にした落ち目の家の娘ってなれば危険なのはわかる。無理やり嫁に持ってかれるか、最悪嫁の立場すらないかもな。まあもっと最悪なパターンもあるがそれは考えたくもない。
「いまお前に会わせたらよ、期待させることになるぜ。あいつは昔からお前が好きだったからな、お前が陰陽師をやめても海外に行ってもずっとお前を待ってたんだ。だが久我家の跡取りのお前とじゃ身分も違うし、そもそもお前は陰陽師もやめた以上厳しい立場だったからな。あの子は俺や弟のために陰陽師をやめてまでお前についていくことはしないと決めてるだろう。だからあいつは今必死で覚悟を決めようとしてる。それは情けないが俺や家族、家のためだ。そこにお前を会わせてなんになる?残酷なだけだぜ。」
「俺が陰陽師をやめたからですか…?縁談の話が来たの。海外から戻っても俺が復帰するそぶりがないから連中は雪ちゃんが俺と結婚することはないだろうって確信したってわけですか?陰陽師をやめた今俺は跡取りを外されてますから、雪を久我家で守る道理がない。だからいま手を付けようって話ですよね。」
年上ってことはかなり前から目つけてた可能性があるってことだ。俺が海外から帰ってきて陰陽師に復帰してたりすると敵対したりとやばいから俺が帰国するまでは待ってたってわけだ。そうなるとまじで俺のせいだな…
「お前のせいってわけじゃねえよ。お前のトラウマはよくわかる。あんなガキの頃からあんな思いしたら復帰する気にならないのもな。だがこれ以上はあの子に無駄な希望を与えないでやりたいんだ。俺だって何も考えなかったわけじゃないんだがな、うちのために黒澤と敵対するような家はなかったさ、あの有栖川家だってな。うちはどこの分家でもない旧名家だからこそ今まで雪に自由に相手を選ばせられた。けどそのどことも繋がりが弱い。だからどこの家も協力はしてくれなかったんだよ。」
残酷な話ではあるが個人的な親交で家を動かすことはできないってわけか…。父さんだってそうだ、当主として友人の孫のために家に不利益をもたらすわけにはいかない。
「まあ話は分かったんで雪ちゃんに会わせてくださいよ。俺だってここになんの覚悟もなしに来てないですから。」
そう俺も流石に勢いだけで乗り込んできたわけじゃない。
「…ちょっと待ってろ。…ユミ、雪を呼んできてくれ」
――
「は、話って?」
雪はそのあと少しして慌てて部屋までやってきた。目元には泣いていたような跡があった。
「なんて言うべきか悩んだんだけどさ、縁談断ってほしいんだ。いまさらかもしれないけど俺と結婚してほしい。」
部屋中が沈黙に包まれ、その少し後に彼女が口を開いた
「え…ほんとに?ほんきで?…で、でもうちと葵じゃ家格も違うし、なにより私は陰陽師として家を守らないと…あの日も言ったけど私は…」
「家格もなにも関係ないよ、俺が陰陽師として復帰すれば雪は久我家の人間になって正式に天堂と久我で家同士の繋がりができるだろ。そうなったら黒澤が関わっていようが天堂の家に対して何も言えないよ。まああとは雪が嫌じゃなければだけど…。」
ここまできてまだ断られるかもと少し不安になる。
「い、嫌じゃないよ!全然!ほんとに嬉しいの。小さい頃からずっと好きだったもの、まさかこんなこと言ってもらえるなんて思ってなかったから…。けどいいの…?私は葵が苦しんでたのも知ってるから、無理に陰陽師に復帰してほしいって言えなくて…。でも葵がいつか復帰したらって…いつも思ってて。ほんとは他の人と結婚する覚悟なんて全然できてなくて…。だからほんとに嬉しくて」
「いいんだ、そろそろトラウマを乗り越えなきゃいけないしね。それに雪が他の人と結婚するなんてことになったらそっちの方が耐えられないよ。俺だって雪が好きだったし君が待っててくれたことが何より嬉しかったんだ。」
「葵…ありがとう。えっと…改めてよろしくお願いします…でいいのかな?」
俺はほっとして思わず雪を抱きしめる。
「ち、ちょっと!あ、葵!?おじいちゃんも世良くんもいるんだよ!?」
「あれ、なんか友達のこういう場面見るの恥ずかしいかも…」
「あーまさか俺の前でこんなことになるとは思わなかったんだがよ…。まあ二人とも幸せそうでよかったよ、けど葵よいったん孫から離れようか。ほっとくと変な空気になりかねないからな。…おい!早くしろ!」
んー、まあそれもそうだな。じいさんはともかく世良の前は少し恥ずかしいしな。とはいえうるさいじいさんだな…。
「一つだけ聞いておくけどよ、お前の親父は納得してんのか?仮にもこの件には黒澤が関わってる。久我家とはいえ敵対するのは好ましくないはずだ。」
んー黒澤のとこのおじさんってそんなに悪い人って感じはしないんだよな、利益第一主義ってだけで。むしろ好色じじいの方がなんかしてきそうで恐いくらいだぜ
「黒澤の、少なくとも当主はそんなにこの件に関心ないと思いますよ。単純に好色じじいが雪と結婚したくて黒澤に金でも払ったんだと、名前を貸してくれってね。天堂家としてこの件を断れば黒澤からしたら面子をつぶされたってことで面白くないでしょうけど、久我家としてなら向こうも面子を保てますから。それに一応俺個人として詫びを入れときます。」
まあ雪とは幼馴染とはいえ一応割り込んだ形になりかねないからな。謝っておくのが無難だろう。
「しかしよ、それは久我家の面子としてどうなんだ?総一郎のやつはそれで納得できるのか?友人とはいえうちじゃ家格が釣り合わないからな、当主としては詫びまでいれてまで認めるかは微妙なとこだろ。それにお前が復帰すれば跡取りにも返り咲くことになるだろう。そうなると他の名家も自分のとこの娘をお前の嫁にしたいはずだ。現にお前のもとにはまだ見合い話は届いてるはずだ。それを断ってまで雪と結婚ってことになるぞ?俺はもともと側室くらいになれれば御の字だったんだ。」
父さんは自由恋愛派だし自分もそうして結婚したんだから喜ぶと思うけどなあ…
それに仮にも俺がプロポーズした後に側室でもいいとか言うかなあ!まあじいさんなりに俺を気遣ってるんだろうけどさ
「自分で言うのもなんですが、面子なんてのは跡取り息子が引退してた時点でつぶれてますからね…。その息子が陰陽師に復帰するっていうなら父さんは喜ぶと思いますよ、父親としても当主としてもね。それにほかの名門の本家連中は今回の縁談に興味をそれほど持ってないと思いますし久我葵復帰ってニュースでどうにかなります。とはいえずっと見合いすら断ってたのに俺がいきなり婚約や結婚となったら荒れはするかもしれないですねー。」
うちは傘下の家も強いとはいえ俺の件で勢いは落ちてたからな。それでも父さんの実績で勢いを保ってたってわけで。父さんもきっと俺が復帰するなら雪との結婚は喜んで認めてくれそうだし。うちの家族はみんな雪を気に入ってるしな!
「君さ…それ分かってて引退してたんだ…」
世良が呆れたような目で見てきやがる…
「実際あの時なあなあで続けてても期待には応えられてないよ。今回のことで覚悟が決まったから復帰できるってだけ。覚悟もないままじゃうちの精霊たち力貸してくれないからね。」
現に引退してから一度だけ鳳凰に聞いてみたけど俺が嫌がってることに力は貸したくないって言ってたからな。イギリスの時は俺も気分が乗ったから協力してくれたけど。
「まあ僕としては君がトラウマ乗り越えて復帰して、好きなくせに何にもしない二人がついに!ってことでいいことだらけだからよかったよ!具体的な復帰プランとかは決めてる?」
こいつも茶化してくるけど長い間迷惑かけてたからな。それに心配してくれてたくせに素直じゃないな。
とはいえプランか…確かにちゃんと考えないとな。




