魔法学校!
「でけぇ……」
リーンと共に、足場の悪い道をしばらく歩いた先に突如として現れた優に高さ10メートルはあろうかという石壁。
そして、その石壁の真ん中にぽっかりと口を開ける様に開いたアーチ状の入り口。
扉が付いて居る事から門である事は分かるが、その高さも凄まじく見上げないと全貌を確認できない。
その光景を見て、大体の人間は俺と同じ言葉を発するだろう。
無理もない、正直ただただでかいのだから。
「この学校には、様々な生徒が様々な方法で通学するからな、ドラゴンやモンスターに乗ってくる生徒もいる。このくらい、大きな壁を設置しないとすぐにドラゴンやモンスターに破壊されてしまうからな」
「……なるほどな」
確かに、俺が最初に見たレッドドラゴンとか言う生物も、これだけの壁ならすっぽりと隠れてしまうだろう。
恐らく、その石壁の高さや厚さから多少の衝撃を受けても大丈夫なよう考慮されている点を見るとあんなの可愛い方ってことか。
そして、そんな事をしながら門を潜ると、目の前に広がっていたのは俺の知る学校のグラウンドのおよそ10倍はあろうかという芝生の広場、そしてその奥にそびえる城かとも錯覚するほど大きな石造りの校舎だ。
どうやら、この芝生の広場は円形になって校舎を囲む形であるらしく、目に見える広さだけでも校庭の10倍と錯覚するくらいなのだから総面積となれば凄まじい広さだろう。
「校舎内で計測を行う。が、帽子の許可を取ってくるから待っていろ」
「……帽子の……許可?」
「ああ、被ったものの魔力を算出してくれるマジックアイテムだ」
「えっと……それってあのグリフィ……」
「グリフィ? ……なんだ?」
「いや、なんでもないんだ」
怪しむ様な顔でこちらを見るリーンに適当な言葉を返し、この会話を終わらせる。
何と言うか、寿命を縮めそうだったからやめておこう。
世の中、敵にまわしちゃいかん物は沢山あるんだ。
「とりあえず、しばらくここで待機して居ろ」
そう言って、リーンは少し離れた校舎までを一直線に歩き出す。
何と言うか……校舎内まで行けばいいのにとも思ったが、さすがに今日なりたての新米教官はそうは行かないんだろう。
という訳で、俺は適当にその辺を散策しようと周りを見る。
さすがに春休みだからか、生徒の姿はほぼ見えない。
生徒らしき人影はちらほらと居るには居るが、特に何かをしている物はほとんど居らずただ歩いたり休んだりしているだけの様だ。
だが、そんな中で一人だけ炎の玉を空中にいくつも浮かべて何かしている生徒らしき女性が一人。
赤い髪を長く伸ばし、黒いマントの様な物を纏った姿のまま、頭上にいくつも浮かべた炎の玉に向かって何かを唱えている女生徒。
その姿は、まさしく魔法使いらしい。
「……夜だったら、火の玉纏った幽霊みたいだけどな……」
そんな事を呟きながら、少し気になった俺はその女生徒に近付いてみる。
「ん~~~~~っ」
「……ん?」
近づいてみると、その女生徒が小さく唸っている事に気が付いた。
力の入った顔をしたまま目を瞑っている事から、集中している事は分かるが……
「凄いんだな。そんなに火の玉を出して」
「ぅひゃぁあっ!?」
俺が声を掛けると、驚いたのか可愛らしい声を上げて飛び上がる女生徒。
同時に、空中にあった炎の玉はまっすぐに空へ飛んでいく。
「あぁ~……」
「……す、すまん。つい気になってな」
がっかりした顔をする女生徒だったが、俺の言葉に反応する様にこちらに振り返る。
整った顔立ちとその身長を見るに、外見年齢はそんなに低くない。
高校生くらいだろうか……。
だが、あの学校長を見た後だと外見年齢の判断がどうにも狂うな。
「…えっと、新しい先生ですか?」
俺が、女生徒の顔を見ながら考えていると女生徒は可愛らしく口を開く。
「あ、ああ。そうだよ、突然学校長に先生になれって言われちゃって」
「ええ!? 選ばれたって、あのマレス学校長にですか!?」
「ぅおお……? そ、そうだけど?」
何故か、学校長の名前を出した途端目をキラキラさせながら詰め寄ってきた女生徒。
なんだ……さすがにあの人有名なのか……?
「これはつい最近ですが学校長になられたばかりの頃、当時の教員の中の何人かを才能がないと一斉解雇したマレス学校長に選ばれるなんて凄いです! えっと……よければお名前を」
教員を一斉解雇するあの学校長を想像する事はすごく容易だ……。
まぁ、普通に敵の多そうな性格してるしなぁ……。
「あ、ああ……俺は、甘粕誠だよ」
「甘粕先生、ですか。私は、一階生のサチコです。サチコ・ライトスタンド」
そう言って、丁寧に頭を下げる女生徒、もといサチコ。
俺も、遅れて小さく頭を下げる。
一階生?……聞いたことない単語だ……。
一年生みたいなもんか?
「よろしくね、サチコさん。あ、ライトスタンドさんの方がいいのかな?」
「サチコでいいです。私は、落ちこぼれですから皆にそう呼ばれます」
「落ちこぼれ?あんなに、たくさん火の玉が出せるのに?」
少し、さびしそうに笑うサチコに俺は素直に問う。
すると、サチコはやはりさびしそうな笑みのまま口を開く。
「はい、あれはファイアーボールって言う一番最初に習う魔法なんですが、いくつも出てたあれは全部失敗で……」
「アレ、全部失敗?火の玉にはなってたじゃないか」
「……ファイアーボールは、もっと火の玉って言うかボールみたいにならないとダメで……あんなのがいくつ出せても……そのせいで、私は何年も一階生をやっています」
さびしげに言うサチコだったが、その言葉から先程の一階生の意味を知る。
なるほど、この子は留年しているのか……。
だが、先程までのアレを見ると別に才能が無いようには思えないが……。
もちろん、俺の価値観が全然違うのはあるかもしれないがな。
「二階生になるには、どうする必要があるんだ?」
「え? ああ、二階生になるのは最低三種類の初級魔法の使用と薬学の一階生試験に合格する必要があるんです」
いくつか、知らない単語が出て来たがそこは問題じゃない。
なるほど、さすがに日本の小学校やらみたいに年数で上がってはいかないか……。
「ほう、なら俺がもし生徒なら一階生だな」
「……え?」
俺の言葉に、ポカーンとした顔で答えるサチコ。
「だって、俺は一種類すら魔法を知らない。薬学なんてさっぱりだ。ファイアーボール? って言う魔法だって俺にはまだ出来ない」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。だから、教えてくれたら嬉しいな。その、ファイアーボールって魔法」
「わ、私が先生に教えるだなんて……」
俺の言葉に、手をブンブンと振って慌てるサチコ。
「そんなに、謙遜することは無い。サチコは、失敗でも火の玉を出せてたが俺はそれすらも出来ない。俺からすれば、サチコは相当すごいんだ」
「で、ですが……」
「それに、他人に説明するのは普通にやるよりも勉強になるし、自分の悪い所にも気が付ける。だから、教えてくれないか?」
「わ、悪い所に……分かりました」
どこか、思う所があるのか少しだけ悩んだ様な顔をしたサチコは、スッと顔を上げて俺に向かい合う。
事実、人に説明するのはとても難しい。
だからこそ、それをすることで何か自分の悪い点にも気づいてもらいたいのだ。
これで、少しでも悪い所が見つかるといいんだが……。
「それでは……」
「ああ、お願いするぞサチコ」