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 青い空、白い雲、涼しく透き通った風が俺の肌を優しく撫でる。

 この場所が何処かはわからないが、なんでこの場所に居るかもわからない。

 俺は、確かトラック事故に遭って、視界が白くなったと思ったらここに居た。

 つまり、どう説明していいのか分からない現状だ。

 しかし、そう言って甘えていられる状況でもないのも事実。

 まずはどう動くかを考えないといけない。

 という訳で、俺は目を開く。


「激しい現実逃避?」


 目を開けた先に居たのは、金髪の少女。

 両目の青い瞳でこちらを見ながら言葉を続ける。


「……いや、実は耳垢栓塞になったらしい。君の言ってることが理解できなかった」


「じこう……せんそく? なに? 面倒な呪いにでもかかってんの?」


「そんなところだ。つまり耳が聞こえずらいんだ」


 真顔でそう返され、俺は適当に返す。

 もちろん。俺はそんな病じゃないが。


「じゃあもう一度、今日からアンタは魔法学校の教師よ。おめでとう」


「……そうか」


「そうよ。喜びなさい」


 見下すような態度でそう言う少女。

 何だろう……貴族はやっぱりこういう性格になる物なのか?

 ただ、ハイそうですかで俺も引き受けるわけにはいかない。


「いや、俺はここに働きに来た訳じゃ」


「そんなの知ってるわよ。だって、働きに来たなら玄関から入らずポチの森のど真ん中に転移してきたりしないわ」


「……は? 転移?」


「とぼけないの、アンタが転移魔法でここに来た証拠は残ってる。私の魔法探知能力を舐めると、痛い目見るわよ?」


「い、痛い目も何も……俺は」


「そもそも、どういう目的でここに来たのか知らないけどアンタが逃げない所と武器も何も持っていない所を見て、必要がないと判断したから拘束魔法も使ってないのよ。アンタの目的には目を瞑る、代わりに私達の元で働きなさい、断れば衛兵に通報するわ」


「だ、だから俺には目的も何もないんだ……」


 詰め寄る様な少女に、俺は圧倒される。

 なぜだ、相手がむちゃくちゃな事を言っている小さな子供のはずなのに反論できない。

 どうにか、俺が魔法使いでも何でもなく気が付いたらこの場所に居たことを信じてもらわないと……。

 だが、俺がそう思考を巡らせているとそれまで詰め寄る様な態度だった少女は何故かスッと身を引く。


「なら分かった、ならアンタ何処から来たの?」


「どこから……って言うと、日本だ。日本、ジャパン、ジャパニーズ」


「ニホンなのかジャポンなのか知らないけど、正直そこはどうでもいいわ。聞いたことない地名だし」


 そして、俺から日本と言う地名を聞きだした少女はすごく悪だくみをした顔で口を開く。

 日本のイントネーションがおかしかった事や聞いたことがないと言う点は気になったが、この際無視する。

 ジャパンがジャポンなのも…。


「なら、アンタこの国の住民権は持ってるの?魔法国家ベルの住民権。国境を越える為の一時的住民権でも」


「あ……持っていない」


 というか、魔法国家ベルと言う言葉すら初めて聞いたな。

 つまり、ここは外国……なのか?。

 そして、同時に住民権という言葉を聞いた瞬間、俺の顔から軽く血の気が引く。


「アンタの故郷の学問で習うかどうかは知らないけど、不法入国って言葉知ってる?」


「ぅ……」


 その言葉に、俺は言葉を失う。

 そりゃ、そう言う言葉やその辺を詳しく知っていて当然だ。

 小学校担当とはいえ、教師なんだから…。


「表情を見るに知ってるみたいだし説明は省くけど、今のアンタはこの国では人間じゃないの。もし、この場で私が都市の衛兵に通報すればアンタは言い訳なんか聞いてもらえずに貴族を襲った罪で収監よ?」


「ぅぐっ!」


「それに、もし私が勧誘を諦めてアンタを解放したとして、アンタは一体どこに行くわけ? どうせ、ニホンだかジャポンだかってこの大陸ではない海の向こうでしょ? 今時タダで船を貸す馬鹿いないわよ? それとも盗む? 転移魔法で帰る? 無理よねぇ、そんな遠距離を飛べる転移魔法は魔法学校長の私の知る中にも存在しないわ、そう言う魔法を知ってるなら別だけど転移魔法なんかこの場で詠唱や陣展開して見なさい? リーンの刃とどっちが速いかしらね」


「はぐっ!」


「今から住民権を取りに行こうって言っても、こっちに来る許可も無い保証人も無い国境を越える為に必要な一時的住民権すらないなんて、捕まりに行くような物よ? それとも漂流民とでも言い張ってみる? 貴族の家の森の中に転移してくる漂流民ってギャグじゃないのよ?」


「あがぁっ!」


「そんなアンタの能力を見込んで職やら住民権やら与えてあげようって私に何? 働きに来たんじゃない? 脳味噌がプリンで出来てる可能性すらある言い草ね」


「あぶぁぁあっ」


 俺は、そんな悶絶の言葉を吐きながら地面に膝をつく…。

 少女からの言葉のマシンガンに、最早俺は対抗する手段は無い。

 そうだ、そんなの当たり前の事だ。

 今の俺に、全くの発言権はない…。


「次の言葉は分かるわよね? アンタの名前と私の質問への答えを言いなさい?」


 そう言って、俺に手を差し伸べる少女。

 俺は、その手を取り口を開く。


「甘粕誠、魔法教師を精一杯頑張らせていただきます」


「よろしい。魔法学校学校長マレス・ラインハルよ、よろしく。じゃあ、アンタの住民権などなどとかとかは適当やっとくから、リーン後は頼んだわ」


 少女はそう言って、屋敷の中に戻っていく。

 どうしてだろう、俺が対面していたのは外見年齢12歳程度の少女だったはずなのに今は何故か30過ぎの貴族の婦人と話している気分だ。

 俺は、そのまま跪いた姿勢で固まっていた。

 本名を知られた悪魔が其の主に一生仕えないとならない気持ちが、少しだけ今ならわかるぜ…。

 

「おい、貴様甘粕と言うのか」


 そして少女、もといマレスが去った後跪いた俺の背後から執事が話し掛けてきた。


「……ああ、甘粕誠だ」


 不可抗力とはいえ、これからここにしばらく留まるのだからと自分の中で理由をつけ、執事に自己紹介する。


「僕は、リーン・クリケットだ。今は学校長の執事だが、貴様と同じ教員もやっている」


 そして、そう返してきた執事もといリーンと軽く握手してから向かい合う。


「なぁ、マジであの少女が学校長なのか?」


「そうだ、と言っても彼女はつい最近引き継いだのだがな」


「引き継ぎ? それにしたって仮に先代の奴が死んだのだとしても、さすがに若すぎないか?」


「あれで、お嬢様は齢二十を越えている」


「マジで!!?」


 つい、大きな声を出してしまうが、仕方ないだろう。

 あの外見で20過ぎってなかなか…。

 ただ、そんな俺に執事は視線を尖らせる。


「間違っても、口説き落とすなんて言うな?」


「言わん言わん、第一俺がここで一生暮らすみたいな言い方するな」


「確かにそうかもな。学校長は悪い方ではない。お前が価値ある働きをしてくれれば、きっと帰してくれる」


 悪い人じゃないって言葉が、これ程信じられなかったことは無いんだが…。

 けっこう悪魔面してたぞ…最後の方。


「それよりも、甘粕、今からいくつかやる事がある着いてこい」


「ん? ……あ、ああ」


 そう適当な返事をして歩き出したリーンのあとに続いて歩き出す。

 そうして、どんどん足場の悪い道に入っていく俺達。

 少しだけ早足の様なペースで何も言わずに歩くリーンに俺はどこに行くのか質問をしてみた。


「どこに行くんだ? 山の中に進んでるみたいだが」


「そういえば説明していなかったな、これから行くのは魔法学校だ。お前の魔力の大きさを計測する必要があるだろう」


「……こんな方向にあるのか?」


「かなり歩くがな。魔法学校は全寮制の男女共学、女子が大半を占める。今は春期休暇中で、生徒も少ないから魔力の検査も楽に行える」


「うわぁ……こんな道を通ってんのかよ生徒達」


「馬鹿な、生徒は基本馬車で来るし街からだ。学校長の家から通う生徒はいない」


「……生徒より待遇悪いのかよ」


「金を払ってくる生徒、金を貰ってくる教師、どっちが待遇が良くなるかは断然だろう」


 何と言うか…自然な流れで論破されてしまった

 ちょっとくやしい。

 が、リーンの性格も少しは見えてきたな。

 やっぱり、コイツとは不思議と話しやすい気がするし俺とリーンは相性がいかもしれん。

 友人的な意味で


「おい、甘粕足を止めるな」


「むしろ、俺はお前がなんですいすいと進めるのかわからん」


 そんなやり取りをしながら、俺達は足場が悪く先の見えない森の中を進んで行くのであった。

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