任務完了
マレスの屋敷
魔法学校の地下にて、例の教師シィラ・ストレージを起こした俺達は、マレスの部屋の前まで足を運んでいた。
途中、何度もシィラの「疲れた」という発言により、休憩を取ったせいで結構な時間を食ってしまったが。まぁ、そこには突っ込まないでおこう。
「失礼します。リーンです」
礼儀正しく、言葉を言いながらリーンが扉をノックするが、中からの返事はない。
ただ、そんな言葉に内部からの返答はなく、沈黙のみが帰ってくる。
いつもなら、間髪入れずに何らかの反応が帰ってくるはずの様子から、リーンの表情に疑問が浮かぶ。
「お嬢様? リーンです。居られますか?」
再び、扉に対して言葉を飛ばすが、やはり返ってくるのは沈黙だ。
「……どうした?」
「いや、応答がなくてな」
「トイレとかそう言うのじゃないのか?」
「馬鹿め、お嬢様はトイレなんかしない!」
「過激なアイドルファンかお前は!」
「しかし、どうした物か……お嬢様は基本扉に魔法鍵を掛けている。うかつに手は出せん」
俺がそんなリーンに言葉を掛けると、困った様な顔でこちらを向くリーン。
そう聞いて、扉に目を向ける。
「私に、任せて」
「ん?」
そして、困り果てる俺達の背後から掛かった言葉に、俺達は揃って後ろを見る、
すると、そこには背中からヴァルを出した状態のシィルが立っていた。
「なっ、待ってくださいシィラ先生。確かに、ヴァルを使えば扉は破れますが、後でお嬢様に何と言われるか……」
「否応は言えない……本当に緊急事態かもしれない」
「ぐっ……確かに言い切れんな」
シィラの言葉に、リーン不服そうに引き下がる。
確かに、部屋の中で過労などで倒れていても大変だ。
「……ヴァル」
「はい、仰せのままに」
俺達に、扉から離れる様に指示をしてから、シィラは背中から生える様にしているヴァルに言葉を飛ばす。
その一言だけで理解できたかのように、ヴァルは返事をしてから、厚みのない両手を扉の上下に差し込んだ。
同時に、扉を上下に動かすと、カチャリと言う音が響き、扉ごと鍵の掛かった扉が外れる。
どこかの映画で見た、抜き差し蝶番と言う様な感じだ。
こんなガバガバま扉でいいのかとも思ったが、まぁ、外れたのだから敢えて文句は言わない。
「お嬢様!」
同時に、開かれた入り口に駆け込んでいくリーンだが、部屋に入ってすぐ、その足を止める。
俺も、リーンの後ろから部屋の中を覗くが、その様子は何ら変わった様子はなく、通常通りとも言える状態のままであった。
ただ、部屋のど真ん中で仁王立ちする二人の魔法教師のローブを纏った一人の間以外は。
その恰好から、俺と同じ魔法教師であることは理解できたが、その人物から飛んできた言葉に俺は少し度肝を抜かれた。
「ふっ……我が境界に足を踏み入れられる存在が居るとは、驚きを隠すと言うより、好奇心が先に来るな」
俺達が扉を破ったと同時に、ローブの人間はそう言って、静かに振り返る。
そして、黒と黄色とのオッドアイをこちらに向けながら、何やら十四歳っぽい仕草で片目を覆いながらニヤつきながらこちらを見る。
「ふっふっふ、後悔しているのか? いや、だが遅い。我が境界に入ったからには混沌とカオスのぅぁっ」
「おい、貴様。お嬢様を何処へやった」
そして、何か十四歳っぽいことを口走ろうとしていた少女は、リーンの剣によって言葉を止められる。
中世に入ろうかとも迷ったが、今のリーンに下手に近付くのは火に油と言う所だろう。
「か、彼女なら、魔力総体物質の中枢へ、たった一人で向か」
「聞こえなかったか? 僕は、何処へ行ったのかと聞いたんだ」
「し、城の緊急会議に召集されました……」
リーンの剣に恐れたのか、十四歳な言葉を止めてから、普通に語り出す少女。
それを聞いて、リーンは突き出していた剣を仕舞う。
「……城の緊急会議……?」
そして、小さく呟きながらマレスの机に残された一枚の用紙をリーンは見る・
俺も、覗き込む様にして見るが、そこにはとても適当に、城に行ってくること、シィラが目覚めたら自由時間でいいこと、学生の帰還があったら手続きをすること、とだけ非常に簡潔に分かりやすく書いてあった。
「自由時間って書いてあるな……」
「ああ、その辺りは言葉通りだろう。ただ、一体何のために城に呼ばれたのかが疑問だが……」
リーンの疑問について、俺は少しだけ心当たりがあるにのだが、それについてはここでは伏せよう。
下手な誤解を産むことは確かだし、何よりリーンの兄、ガレスからの願いだ。
あんな事態が、大きくならない訳はないしな……。
「とにかく、これで仕事は終わりだ。突然剣を向けてすまなかったな、メモリー」
「ふっ……我が瞳の前で剣など棒に過ぎん!」
リーンからの謝罪に、そうかえす少女、もといメモリーだったが眼がしらに涙が浮かんでいたのは言わないでおいてやろう。
そりゃ、怖かったんだろうけどな……。
そして、せっかくの休み時間を貰えた俺達教員は、マレスの部屋から散り散りに散って行く。
俺も、せっかくの時間だからしばらくぶりの休眠を取ろう。
そんな考えを浮かべながら、俺は自室の前まで来てから、ゆっくりと扉を開けた。
同時に、足元に何かが抱きつく感触。
「ん?」
そして、下を向くと、俺の足にしがみ付く様にしてこちらを見上げるミライの姿があった。
「お、丁度良かったな主殿。ミライ、あの言葉を言ってみろ」
遅れて聞こえた正彦の言葉に、一瞬疑問を覚える。
あの言葉、というかミライは、喋れなかった気がする、
それに対して、あの言葉、という事はまさか喋れるようになったのか!?
何ていうすこし期待を膨らませながら、俺はミライに目を向けた。
すると、ミライは小さくかわいらしい口を開いて……。
「……オ……カエリ」
「おお……」
ミライからの言葉に、思わず返す言葉を失う。
正直何と言えばいいのか、子供を持つ感覚とはこういう感覚なんだろうと言うのをつくづくと感じるイメージだ。
正直に、嬉しいと言える瞬間だった。
事実、実の親ではないにしろ、これは本当に嬉しい事だ。
まぁ、だからこそ返す言葉は決まっている。
「……ただいま、ミライ」
俺は、そう言って足元のミライを抱きしめた。




