魔法について
気が付けば、俺はマカから渡された三冊の本をあっという間に読破していた。
やはり、見慣れない内容だからだろうか、学ぶ目的がいつの間にかとても楽しく読んでしまっていた。
もちろん、楽しく学んではいけない訳では無いが……。
三冊の本を読んでいて、分かった事は三つある。
まず最初にわかった事は、魔法は大きく6つに分かれるという事。
その種類は、アタック、ディフェンス、エコー、ペイン、ケア、サークル。
その六つの中にさらに括りがあるのだが、それ以上については括りが有りすぎて断定できないとこの本には書いてあった。
二つ目にわかった事は、魔法の難易度について。
これは、詠唱の長さと言えるかもしれない。
一切間違いが許されない魔法の詠唱は、上から魔級、上級、中級、初級の四つに長さを元にして分かれる事。
呼び方としての決まりはなく、上級を上位、等と呼ぶ場合はあるらしい。
三つ目は、無詠唱で魔法を放てる条件。
これは、簡単に言えば暗記だ。
1+1と聞かれて、わざわざ指を立ててその指を数えて答えを出すやり方が詠唱、脳内で計算して答えの2と発言するのが無詠唱。
だが、無詠唱になるには詠唱している魔法がどんな魔法なのかイメージを固めなければいけないため、本を黙読したりただ暗記したりするだけでは効果はない。
ここで、最初に紹介した魔法の括りに着いて復習し、深めておこう。
恐らく、ペインとサークル以外は名前から大体どんな魔法が属するのか想像できるだろうが、俺的に解りやすく言えば、アタックは単体攻撃、エコーは全体攻撃、ディフェンスは防御や回避、ペインは状態異常、ケアは回復や治療、って感じだろうか……。
ただ、サークルについては俺もさっぱり分からなかった。
本の中で紹介されている魔法でサークルに当たる魔法は一切出て来なかったし、本の筆者すらも本文のあちこちでサークルについてはよく分かっていないと言う見解を示していた。
二冊目、三冊目の本でサークルについて調べても同じようによく分からないと言う説明だった。
唯一具体例で出されていたのは三冊目、伝説の魔法使いが使えると言う内容で、使い魔召喚の魔法『イッヒリーベ』が紹介されているだけであった。
ただ、その手法ややり方は一切分かっていないと言う少し疑わしい情報だ。
まぁ、サークルは置いておいても、他の五種については多少の授業が出来そうな位は理解することが出来た。
十分な収穫を得た俺は、本から顔を上げる。
「……もう夕暮れか」
窓から差し込むオレンジ色の光に、俺はそう口を開いて席を立とうとする。
すると、右肩に何かがこつんと当たった。
「……?」
チラリと隣を見れな、マカが俺の肩にもたれて寝ていた。
読書に夢中過ぎていたせいか、全く気が付いて居なかったが……。
「……起こしてやるのは、可哀想だな」
そう言って、俺は席を立つのを止め、肩にもたれて眠るマカを起こさない様にもう一度本を読み返すことにした。
「ぅ……ぅん……」
「起きたか?」
それから少しして、隣でそんな声と共に目を開けたマカに声を掛ける。
何度か目をぱちくりとさせた後、マカは少しだけ辺りを見渡してからゆっくりと起き上がる。
「先生……私……寝ちゃったんですね」
「ああ、起こすのもあれかと思ってな」
「……先生って……優しいん……ですね」
そんな俺の言葉に、上目づかいで小さくそう言ってくるマカ。
マカ自身は何とも思ってないのかもしれないが、そう言う顔はとてもかわいらしい。
俺も、別段他意があった訳じゃないが目を逸らしていた。
「そうか……? 他の先生は、起こすのか?」
「はい……私が……授業中寝てると……」
「いや、それは俺も起こすぞ」
「……ふぁ……」
そして、小さく欠伸をするマカ。
会話をしていたがこの調子じゃ再び寝かねない。
そう判断した俺は、席を立つ。
「ほら、寝るなら部屋に帰るんだ。こんな所で寝たら風邪ひくぞ。俺はもう行くからな」
気候的に寒くはなかったがこんな所で寝るのは良くないだろう。
一応の意味でそう言い残し、図書室の出入り口に向かう。
「……先生」
「……ん?」
出入り口にたどり着いた時、小さくそんな声が聞こえて振り返る。
すると、席に座ったままのマカがこっちを見て小さく笑いながら口を開いた。
「また……来てください……」
「……ああ、また来るさ」
そして、小さく別れの挨拶をしてから俺は図書室を後にした。
同時刻、魔法学校校長室。
「失礼します、お嬢様」
リーンはそう言って校長室の扉を小さく三度ノックする。
すると、そのノックに反応する様に中から聞こえてきた声に顔を引き締めて扉を開ける。
扉の向こうに広がる豪華な部屋の奥の椅子に座したまま、その声の主であるマレスはニヤニヤと笑みを浮かべている。
「何かしら? 明日の結婚式の文句でも言いに来たの?」
「いえ、そう言う訳ではありません」
茶化す様に言うマレスの言葉に真面目なトーンで言葉を返す。
その真面目な声に、マレスは大きく一度溜め息を吐いてから少しだけ表情を真剣な物にする。
「アンタも真面目ね、リーン。大体用件の見当は付くけどいくつか思いつくわね」
「皇女様が城を出発になられたと、先程ご連絡がありました」
「……なるほど、一番面白味の無い物だったわね」
リーンからの言葉に、興味なさ気に言葉を返すマレス。
座った豪華そうな椅子をくるくると回している所を見ると、詳しく聞く気はない様だ。
「それから……」
「……なにかしら?」
それを理解したのか、リーンは詳しく話さず次の用件を続ける。
そして、リーンの言葉が続くと分かった途端に、椅子の回転を止めて言葉を返すマレス。
「どうやら、隣国に情報が漏れた様で警戒する様にとお達しが」
「……なるほど……」
その報告を聞いて、少しだけ考え込む様な顔をするマレス。
だが、すぐに顔を上げて笑みを浮かべると椅子に深く腰掛けた。
「ありがとう、リーン。明日の結婚式は楽しみね」
「……はい、ありがとうございます」
「屋敷で待っていてくれる? じきに帰るわ。あと、甘粕を連れて帰ってね」
「御意に」
そう、短く返事をして校長室を後にするリーン。
「……はぁ……嫌な予感がする」
そして、大きくため息を吐いてからそう呟いたリーンは、そのまま校長室を後にした。




