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001

 雨でぬかるんだ地面を蹴って必死に走る。

 後ろを振り向かず、休む事も無く、ただひたすら前へ走り続ける。

 逃げた事を気付かれる前により遠くへ、あいつらに見つからないような場所へ。


 もう、どれだけ走っただろう。

 ずっと走り続けた事で足が痛くてフラフラする。

 目が霞む。意識も朦朧としてきた。


 走る体力が尽き、足元がおぼつかない状態で歩いていると石に躓いて転んでしまう。

 泥を被り、口の中には砂が入る。

 立とうとしても身体に力が入らない。

 それでも進もうと這いつくばったまま必死に藻掻く。


 少しだけ休むために仰向けになる。

 目を瞑っていても雨が顔を打つ事で襲われる睡魔に何とか対抗している。


 突然の響き渡る轟音。

 驚いて目を開けると見えるはずの雨雲で覆われた暗い空ではなく、眩しい光で視界が埋まった。


 そして、今まで感じた事の無いような衝撃と共に意識が途切れた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 



 激しい雨に打たれる感触と音で目を覚ます。

 体中が痛い。痛みを我慢し、体を起こして周りを見ると近くの木や地面が焦げてぐちゃぐちゃになっているのが目に入った。

 まるでここに雷でも落ちたみたいだ。


 あれ?

 なぜ、雷が落ちたと思ったのだろう。

 俺は雷が落ちた場所なんて見たことがあっただろうか?

 いや、以前ニュースで観たことがあったはずだ。ニュース?ニュースってなんだ?


 知らないのに知っている。記憶にあるのにこれは…俺のじゃない。俺ではない誰かの記憶や知識が俺の記憶として混ざり合っている。

 名前や顔なんかは霞がかかったようにわからない。


 そして、この記憶の持ち主がいたのはこの世界とは違い魔法のない世界(・・・・・・・)

 こことは異なる世界、ニホンという国のトウキョーと呼ばれる都市でダイガクセーをやっていた。そこまでの記憶しかない。


 一番新しい記憶には虚ろな目で何かをつぶやきながら刃物を持って目の前にいる女の人。そして、刺された。


「うおえぇぇぇッ」


 死ぬ感覚。何もない闇の底へ沈でいく絶望感と圧倒的な恐怖。刺された感触まで記憶にあり、思わず吐いてしまった。


 殺された。

 この記憶の持ち主は違う世界で殺された人の物だ。

 何故それが俺に?


 とりあえず記憶を漁ってみるとそれらしいのがあった。この記憶の持ち主の世界では生物には魂と呼ばれる物があるとされ、死ぬとまた新しい生物として生まれ変わるという概念がありがある。また、生まれ変わる前を『前世』と呼ぶらしい。


 つまり、この記憶の殺された人が俺の前世か。

 ああ…今また殺された時のことを思い出すところだった…女って怖い。


 前世といっても今の俺からしたら他人でしかない者の記憶があるのは違和感がすごい。ただ、思い出す前より自我が鮮明に、思考も速くなっているような気がする。


 さて、そろそろ痛みも我慢できるくらいになってきたし移動しようと思う。

 このまま雨に打たれてたら風邪をひく。


 奴隷として売られそうだったところをこっそり逃げてきた俺には帰る場所がない。

 だから、とりあえず雨を凌げるところを探さないと。


 俺は村から逃げてきた。

 村では俺の黒い髪に紫色の瞳という容姿は不吉とされ、疎まれていた。

 両親は物心つくまえに死んだので誰も守ってくれる人もおらず、行商がきたことを機に売られることを知った。


 でも、逃げたからって今いるこの森はモンスターもいる危険な場所。生き残れる可能性はないに等しい。


 それでも糞共が俺を売ってせせら笑うところを見るよりずっとマシだ。


「痛ッ」


 歩き出そうと踏みしめた足に痛みが走った。

 確かに我慢できるとはいっても動くとやっぱり痛い。

 手当ては無理でもせめて傷口洗うくらいしたほうがいいだろうし。


 傷の状態を確認しようと思った瞬間、目の前に透明な板が現れた。




名前:グリム

性別:男

年齢:8歳

種族:普人族(覚醒種)

レベル:2


スキル:【裁縫Lv9】【守護魔法Lv1】【雷耐性Lv8】


エクストラスキル:【鑑定】【ステータス操作】【異空部屋】【無限収納】


スキルポイント:1


賞罰:「盗み」




 ……びっくりして全身ビクッてなった。

 いきなり目の前に何か現れたら誰でも驚くと思うんだ。


 そして現れたこれは前世の記憶にあるゲームというやつによくあるステータスに似ている。似ているというかたぶんそれだと思う。

 俺の名前が表示されてるし、歳も同じ。

 でも、覚醒種っていうのは?




覚醒種:種族の限界を超えたことで特殊な力を身に宿した者。




 また新しい透明な板が現れた。今度はさっきよりも驚かない。

 色々ありすぎて混乱してたけどちょっとだけわかってきた。

 どうやらこの透明な板がエクストラスキルという欄にある【鑑定】の効果らしい。


 スキルのことくらいは子供の俺でも知っている。

 大抵は何年か修行することでそれにあったスキルが付くが、稀に生まれた時からスキルを持っていることがあるらしい。

 俺は修行なんていたことないし、生まれた時から持ってたのだろう。

 スキルとは別枠のエクストラスキルは覚醒種になって得た力みたいだ。


 それより俺っていつの間に種族の限界超えたのさ。

 この疑問はステータスのログと呼ばれる俺に起きた事を記載してくれる何とも便利な機能で解消した。

 どうやら俺は本当に雷に撃たれて死にかけた後に何とか耐えきり、覚醒種というものになったようだ。

 雷耐性スキルのスキルレベルがやたら高レベルなのも雷に撃たれたからだろう。

 前世の記憶が蘇ったのもこの時かな。


 そして、雷耐性スキルよりも高レベルな裁縫スキルはたぶん前世が関係している。

 前世の俺は子供の頃、病弱で家にこもりがちだった。

 友達もいなかったため、毎日を退屈に過ごしていたのを心配した祖母が教えてくれたのが裁縫や編み物であった。

 他にやることもなかったし、ひたすら編んで縫い続けた。それはもう、教えてくれる祖母がひくほどひたすらに。

 体が大きくなるにつれ、丈夫になり、普通に学校に行けるようになっても趣味として続けていたら売っている服よりも出来がいいものを作れるようになっていた。

 おそらく、それをそのまま引き継いだのが【裁縫Lv9】じゃないかと思う。


 一般的にスキルはLv3で一人前、Lv5もあれば充分それで食っていけると言われているのでLv9だとすでに神業レベルだ。


 そして、今の俺が最も気になるスキルが【異空部屋】だ。このスキルはその名前の通り異空間に部屋をつくることができるらしい。

 これを使えば、歩いて雨を凌げる場所を探さなくてもいい。


 さっそく使ってみることにする。

 目をつむって集中し、とりあえず異空間に行きたいと念じてみる。すると、体が浮遊感を感じた。

 次の瞬間、突然何かが体から抜けていく感覚と共に物凄い虚脱感に襲われ、意識を手放した。

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