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日記の余白、おかしな訪問者たち【落とし物】

世界が眠りについてから、もうどれほどの時間が経ったかしら。

風の音と私の足音しか響かないこの世界で、まさか日記に「自分以外の名前」を書き留める日が来るなんて、夢にも思わなかったわ。

今日、岩山の小屋に戻ったら、見知らぬ二人の男が部屋にいたの。

最初はガレキに混じった幻覚でも見ているのかと思ったけれど、彼らは確かに生きていて、私と同じように呼吸をしていた。

一人はルード。大魔剣を背負った、フランクだけどどこか底の知れない男。

もう一人はステル。聖槍を携えた、堅物で生真面目な戦士。

驚いたわ。人間族の命の灯火は、もうずいぶん前にすべて消え去ったはずだったのに。

それに、あの二人……この世界にかつていたどの人間とも違う、武人として恐ろしいほどに強い気配を纏っていた。あんな規格外の人間たち、エルフが栄華を誇っていた時代にだってそうそういなかったわよ。

彼らは「崩壊した別の世界から、転移の門を潜ってここへ来た」と言っていた。

常識で考えればおかしな話だけど、私は不思議と腑に落ちたの。だって、あの二人なら、世界の境界線くらい力技で飛び越えてきてもおかしくないもの。

そんな彼らが、私のなけなしの食料(ちょっと意地を張って『備えはある』なんて嘘をついちゃったけれど、ルードには見破られていたみたい。恥ずかしいわね)の重みを感じて、「座して死を待つわけにいかない」と立ち上がった。

彼らの真っ直ぐな瞳を見ていたら、ふと思い出したの。アレンが昔、雨の日に難しい数式を書き殴りながら言っていた、あの言葉。

『僕たちの記憶や、この世界の生きた証を、別の世界へ繋ぐための歯車になれるとしたら――』

そして、麓の人間たちが縋るように信じていた、『岩の大木』のお伽話。

もしあの言い伝えがアレンの計算通りなら、行き止まりの彼らにとって、何か役に立つものがあるかもしれない。そう思って、私は今まで興味のなかった中腹の洞窟へ、二人を案内することにしたの。

洞窟の最奥で、私たちは本当にお伽話の『岩の大木』を見つけたわ。

見つけたのはいいけれど……。

……ちょっと、アレン。いくらなんでも大きすぎよ(笑)。

ステルの魔力に反応して実が育つところまではまだいいわ。でも、まさか直径3メートルもあるリンゴみたいな塊が降ってくるなんて思わないじゃない! 洞窟全体がひっくり返るかと思ったわよ。ルードがとっさに私を庇ってくれなかったら、今頃押し潰されていたかもしれないんだから。本当に人騒がせな大木ね。

でも、本当の驚きはその先にあった。

落ちてきた巨大な実の側面には、精密な『扉』が誂えられていたの。

ルードがそれを見て言ったわ。「これは別の世界へ繋がる転移扉だ」って。

人間たちのお伽話の真実。

「残された者を救う実」とは、飢えを満たす果実ではなく、滅びゆくこの世界から、命を別の世界へ逃がすための脱出口だったのね。

アレンは知っていたんだわ。世界から魔力が消えても、自分たちが遺した機構ヘキサ・ルーンが世界中で循環し続ければ、最期の瞬間にこの扉を動かす大きな歯車になるってことを。あなたはやっぱり、とんでもない天才よ。

ルードとステルは、別の世界へ飛ばされたという相棒のロムを探すために、迷わずその扉の向こうへ進むことを決めた。

その時、ルードに「あんたも一緒に来ないか」って、別の世界へ誘われたけれど……。

お断りよ! 当然じゃない!

アレンが生まれて、アレンが手が傷だらけになるまで道具を作って、私とアレンが一緒に生きたこの世界を、私が離れるなんて絶対にあり得ない!!!

たとえどれだけ寂しくても、誰もいなくても、私はアレンの遺したこの愛しい世界を、最後の瞬間まで見届けて、看取るって決めているんだから。

扉の向こうへ消えていった、あの二人の不器用で最高に強い武人たち。

別れ際に渡した、私の作った出来損ないの魔道具が役に立つと良いのだけど。

さあ、日記はここまで。

明日はまた、世界中に散らばっているアレンの子供たちを探しに行かなくちゃ。あなたの遺した奇跡は、今日もこの世界のどこかで、優しく「チチチ……」って呼吸しているんだから。

待っていてね、アレン。


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