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恋に落ちる瞬間

挿絵(By みてみん)


ジェラルディーナは

「自分が複数の人達からジロジロ見られている」

事に気が付き


(目が合ったら「気がある」とか思われて声をかけてこられるかも知れない…)

と少し不安になった。


(こっちを見てない人達の雰囲気を看させてもらおう…)

と思ったこともあり


真っ先にジェラルディーナが雰囲気を看て瘴気の状態を確認した者達はジェラルディーナに関心のない者達ばかりとなった。


(…どの人達を看終わってて、どの人達を看てないのか、覚えるようにしないと無駄に二度手間になるな…)


こういう時に

(瞬間記憶能力があれば…)

と、しみじみ思う。


(他の刑吏一族の能力も取り込めれば良いのに…)

と、他の刑吏一族の側でも思っていそうだが…


「血の煮詰まりで起こる突然変異的異能」

は意図して起こせるものでもない。


(「『転生者』が生まれる」のも異能の一種なのかもな…)

と、ふと思う。


(…それにしても、あっちに居る子…。マカーリオを少し幼くしたような感じで、美少年だよなぁ…。あの子がリディオだよね?…ロベルトと同じ学年の筈だから、騎士団に見習いとして入って半年くらいか。…すごく馴染んでる…)


意外にもイジメられたりはしてなさそうなのには安心したが

チラッとこちらへ視線を寄越した時の目付きはやたら剣呑。

敵意が感じられた…。


ジェラルディーナは腑に落ちないものを感じながらも

(…リディオの方では私が親戚のジェラルドだって分からないのかもね?)

と納得する事にした。


そうこうしているうちに

「お前ら!弛んでるぞ!」

と訓練官らしき上官が来て


「模擬戦の組み合わせを発表する!」

と言い出した。


お陰で観覧席の女子達へ意識を向けていた男どもは瞬時に意識を切り替え、訓練官の方へ向き直った。


ジェラルディーナが

(瘴気の状態を看るチャンス到来だな…)

と思い、次々と看ていくと


(あ、なんか、この人達の雰囲気って、既視感があるんだけど…)

と気になる参加者が2人居た。


(…後ろ姿と横顔しか見えないから断定はできないけど、眼鏡先輩ことサルヴァトーレ・ガストルディと、【強欲】のトリスターノ・ガストーニ?だよね?)


そう気が付くと同時にーー


サルヴァトーレがジェラルディーナを振り返り

笑顔で手を振ってきた…。


「………」

(…う〜ん。…友達でもないのに、手ぇ振って来るんだ?あの人…)


ジェラルディーナは戸惑いながらも

引き攣った笑顔で手を振り返した…。



それはそうと模擬戦ともなると、模擬戦している当人達は勿論、外野も戦闘の様子に夢中になる。


お陰でジェラルディーナは誰にも因縁を付けられる事なく、思う存分に人々をジロジロ看る事ができた。


結果ーー


トリスターノ以外にもう1人『転生者』を見つける事ができた。

外見年齢的に見習い騎士だろう。

おそらくジェラルディーナやトリスターノと同じ16歳くらい…。


(【強欲】じゃない『転生者』。…早速、協力できるかも知れない『転生者』を見つけた…)

と喜ばしく思ったのも束の間。


その『転生者』。

何故かトリスターノと仲が良い…。


(…トリスターノ・ガストーニ。一体何を考えている?…)


トリスターノに探るような視線を向けていると

トリスターノが振り返って、ジェラルディーナを見た。


その瞬間ーー


ジェラルディーナは時間が止まったかのような錯覚を覚えた…。


だが時間が止まる筈もない。


トリスターノはボォーッとした表情で

ジェラルディーナを見つめ続け

少しずつジェラルディーナの方へ近付いて来た。


(なんでこっちに来る?!)


ジェラルディーナは内心で焦るが

それ以前に【強欲】と目が合った事で身体が震えている。


心臓が早鐘を打って

自分でも顔が赤くなっている事が分かる。


ロベルトがいたら

「気があるようにしか見えない」

と、またも演技力を褒めてくれるのかも知れないが


此処に居る人達はリディオを除いて身内はいない。


トリスターノとジェラルディーナの異様な様子に周囲の者達もチラホラと気付きだし、ジィーッと2人を見ながら耳を澄ませてきた。


トリスターノの

「…君は、誰なんだ?…この前は男の格好をして学院寮に居ただろ?今日は何故か何処かの貴族家の侍女服らしき格好でこんな所に居る。一体、何をしているんだ?…どうして俺の前に現れる?」

とズケズケ訊く声が無情にジェラルディーナの脳を抉った。


頭の中が真っ白になって、ジェラルディーナは思わず

「…貴方に会いたかったんです」

と小声で返事をした。


(どうせ気があると思われてるんだ…)

と開き直ったのもある。


潜在的には

(「好意を持たれてる」と思ってくれた方が、いざという時に殺されずに済むかも知れない…)

という打算も働いていたが…

それを明確に脳内言語化して自覚したりはできていない状態だった。


周囲の者達は、ジェラルディーナの返事を聞いたトリスターノが見る見るうちに顔を真っ赤にさせるのを見て

(((((…いけ好かない優良物件と美少女とが恋に落ちる瞬間に、運悪く、丁度居合わせてしまった…)))))

と、自分達の不運を嘆いた…。


他人の恋愛など見てても面白くもない。


劇なんかでは如何にも女性にとって都合の良い溺愛紳士が登場してヒロインを愛し尽くすが…

そんな嘘臭い話に共感などできないのがシビアな現実で生きている普通の男の感性。


皆がシラーッとした空気になって

トリスターノを冷たい目で見ると


「…子爵家嫡男と、どっかの貴族家の侍女なんて、弄ばれて終わりですよ。お嬢さん」

と言う声が聞こえた。


皆が一斉に声の主を見るとーー

トリスターノと仲良さそうにしていたもう1人の『転生者』だった。


「イヴァーノ…」

と知り合いらしき人が『転生者』の名前を呼んだので


(あの『転生者』。イヴァーノっていうんだね…)

とジェラルディーナにも分かった。


「…玉の輿とか夢見て貴族家嫡男に色目を使う女って、ホント馬鹿すぎだと思うんだよね」

イヴァーノが吐き捨てるように言うと


調子付いたかのようにリディオが

「…俺も前々から、こういう所まで男漁りに来る女達って『浅ましい』って思ってた。身の丈にあった相手を選ぶくらいの謙虚さは必要だよね、人間なら。盛りのついた猿じゃないんならさ…」

と皮肉そうに指摘し


更には

「男漁りに来る女達がウザいってのは騎士団上層部の方でも理解してるらしくて、既婚者の正騎士は一般見学者が見学できる訓練場では訓練してないんだ。

あと、独身の騎士でも実家が金持ち貴族の自馬騎士は官給馬騎士と違って出世頭だからね。

正騎士資格を取れてない準騎士でもそういった優良物件は、此処には来ないように配慮されてる。残念だったね。

だからアンタらの方では自然と『一般参加者が狙い目だ』とか思ってしまうのかも知れないけど…そういうの、正直、見苦しいよ。

ハッキリ言って訓練の邪魔なんだ。そういうこっち側の本音、教えてあげた所でちゃんと理解できてるかなぁ?

男漁りを恥ずかしいと理解できる程度の羞恥心すらないお嬢さん方?」

と皮肉そうに嘲笑したところ


「「「「「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」」」」」

観覧席も含む中庭全体に気まずい沈黙が数秒流れた。


イヴァーノはトリスターノの側まで来て

「…とにかく変に気を持たせるような関わりは今はするべき時じゃないですよ」

と言い、トリスターノの腕をソッと引いた。


トリスターノは少し目を見開いてから

「分かった…」

と頷き、ジェラルディーナに潔く背を向けた。


途端に可哀想なものを見るような視線がジェラルディーナに集まったので、ジェラルディーナは今度は別の意味で身体が震える気がした。


「………」

(…なんだろうな…。すごいムカつくんですけど?)


内心でブチ切れそうになったが…

「今はフラティーニ侯爵家の侍女服を着てる身だ」

という事を思い出し

「イヴァーノとリディオに対して罵詈雑言を投げつけたい」

衝動を無言で堪えた…。


怒りでプルプル震えるジェラルディーナに対して

眼鏡先輩のサルヴァトーレが

空気を読めないかのようにヘラヘラ笑顔を浮かべ

またも無邪気に手を振ってきたので


ジェラルディーナは

「…(ハァァァーッ)」

と大きくため息を吐いてから、渋々手を振り返した…。



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