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転生者事情


フラティーニ侯爵アベラルド・フラティーニ。

やや垂れ目がちで優しそうな好青年風の見た目の侯爵家当主。


ジェラルディーナは対面して直ぐに身体が震えた。


(… トリスターノ・ガストーニの時も身体が震えた…。【奴隷魂】は【鬼子】と対面すると緊張するものなんだな…)


執務室へ呼び出されたので、ジェラルディーナは執務室まで行ったのだ。


ノック後に「入れ」と許可を貰ってドアを潜り、ドアの前で直立不動の体制で

「お呼びに従い参上しました。ジェラルディーナ・フラッテロです」

と自己紹介して、アベラルドと目が合った途端に身体がガタガタ震え出したのである。


年齢が違うのでアベラルドはジェラルディーナの魂の兄弟ではない。

搾取の絆が無い筈。

なのに【鬼子】には潜在的に恐怖を感じてしまう、というものなのか…。

身体の震えが止まらない。


トリスターノの時には妙に惹きつけられて顔が赤くなり目が離せない状態になったので、その点は違うが、無意識のうちに極度の緊張を強いられるという点では共通している。


(…でも、【奴隷魂】が【鬼子】の前で震えが止まらなくなるものだとするなら、カッリストさんもアルフレーダさんも自分の仕える主人を前にして震え続ける事になると思うんだけど…。それでは仕事にならないんじゃない?要は「慣れ」の問題なのか?)


ジェラルディーナは首を傾げた。

ジェラルディーナが今まで会った者達の瘴気状態を看たところ…

この屋敷の家令カッリストと家政婦アルフレーダは30代半ばくらいの『転生者』だったからだ。


ジェラルディーナがその点を疑問に思っていると…


アベラルドが

「使用人の素の人間性を知りたい。楽にしてくれて構わないぞ」

と声をかけてくれたが


挿絵(By みてみん)


アベラルドの口は言葉とは違う形で動いていた。

〈単刀直入に話させてもらう。『転生者』の事情は聞いているんだよな〉


アベラルドが何を言っているのか判った途端に

(…この屋敷、アンチが何処に潜んでいるのか分からない状態なのか)

と気が付いた。


互いに読唇術を使った意思疎通は盗聴されている可能性がある場合に行うものだ。


「私のようなものに過分なお気遣いありがとうございます」

〈侯爵様が【強欲】の加護を持つ『転生者』だという事は聞いてます〉

すかさずジェラルディーナも言葉と唇の動きを違えてやり取りに応じた。


「立ったままでは気を抜けないだろう。そこに腰掛けてくれ」

〈カッリストとアルフレーダには会ったな。『転生者』だと気付いたな?〉


「私などにもったいない事です。ですがお言葉に甘えて腰掛けさせていただきます」

〈はい。【強欲】の加護のない普通の『転生者』ですよね?私と同じく〉


ーーと、そんな感じで表面的には当たり障りのない世間話をしながら、2人は会話を進めていった。


執事がお茶を運んで来たので雰囲気を看たら、執事も『転生者』だった。


「執事長のチェザリーノだ。マリアンジェラとは夫婦だ」

〈カッリストらと同年代の『転生者』だ。マリアンジェラは只人だが〉


と口パクでアベラルドが事情説明を続けているので

(チェザリーノは味方側だな)

とジェラルディーナにも判った。


「チェザリーノ・フラティーニです。マリアンジェラがお世話になってます」

〈お気付きでしょうが、この屋敷には密偵が複数入り込んでいます〉


「いえいえ、私の方がマリアンジェラさんのお世話になっておりまして、おそらくご迷惑をおかけしております。見習いで、不慣れですが、頑張りますので、今後ともに宜しくお願いします」

〈密偵というと、乳母のスザンナのような不敬者でしょうか?マリアンジェラさんを『あの女』呼ばわりしてて、侯爵様の事も悪口を言ってたんでビックリしました〉


「こちらこそ宜しくお願いします」

〈乳母に限らずです〉


「チェザリーノとマリアンジェラは仲睦まじい夫婦なのだが、妻は何故か私とマリアンジェラとの間に何かあると邪推していてな」

〈妻のクレメンティーナも【強欲】の加護を持つ『転生者』だ。しかも私と同じ歳のな〉


「それはまた。何とも言えない勘違いですね。何故奥方様はそんな勘違いをなさっていらっしゃるのか、原因に思い当たる事はございませんか?」

〈それはまた。厄介な結婚相手ですね。同じ歳の【強欲】だと、やはり奥方様は侯爵様に因縁を付けたくて言い掛かりを付けているのでしょうか?〉


(同じ歳の【強欲】が居るとなると、その歳の【奴隷魂】の『転生者』の数も2倍という事か…)

ジェラルディーナが連想したのは、大公が大公位に就く時には生贄が11人もいたという話だ。


魂の兄弟姉妹は6人組と言われている。

そのうちの1人が【強欲】の加護を持つ【鬼子】なら【奴隷魂】は5人。

なのに11人もの生贄を殺したという事は、別のグループの『転生者』を【鬼子】ごと殺しているという事だ。


普通の【鬼子】が6人分の能力と運気を得るのに対して

大公位に就こうという人間の場合は別のグループまでも搾取して12倍の能力と運気を得ようと言うのか…。


「思い当たる節は全くない。ただクレメンティーナは容姿にこだわる女性のようだ。当人が執拗なこだわりを捨ててくれれば、それで夫婦円満に近づける筈なのだが、彼女は元伯爵令嬢という身分に相応しく気位が高い」

〈『転生者』特有の瘴気を看破できるのは一部のフラッテロ家の者だけだという事もあり、誰も指摘していない。妻自身が『転生者』としての記憶も持たず、自分が【強欲】の加護を持っている事にも気づいていない〉


「だからマリアンジェラさんは奥方様付きの侍女から外されているんですね?お二人の精神安定のために」

〈奥方様がマリアンジェラさんを嫌うのは、奥方様が『転生者』だと気付いてマリアンジェラさんの態度がギクシャクするからですか?〉


「そうだ」

〈そうだ〉


詳しい『転生者』事情を聞き出すために、全く別の話をしなければならないのが紛らわしいが…


徐々にジェラルディーナはアベラルドとチェザリーノから

「この屋敷内の『転生者』事情」

を聞き出していった…。



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