半月(猫)と、半月(人間)と
遅くなったという言葉さへ足りないほど遅くなりました。
「でだ、半月よ……」
男は初恋の目の前の少女に向き直り、拾ってきた猫の名を呼ぶ。
「ニャ!?」
すると少女はビクッと身体をはねさせ反応する。
「な、なんで分かっちゃったの?」
目の前の少女。 人型の猫の半月は額に汗をにじませ気まづそうに訪ねる。
「そりゃ、拾ってきた猫を部屋に置いておいたらその猫そっくりな女の子が居た、なんてのはある意味定番だからな」
「そんな事案、聞いたことないけどね……」
その男の答えにより一層困惑の度合いを深める半月。
それにしても、と男は考える。
初恋の相手が拾ってきた猫、か、我ながら随分とおかしな趣味の持ち主だということに今頃気がついたぞ……。
それにしても、どっちが本体なんだ? 猫か? それとも人型の方なのか?
上がる体温と心拍数とは裏腹に思考は冷静に落ち着いていく。
「そもそもこの俺が今見ている風景は現実なのか? 変化を求めるあまり俺が見てしまった夢、又は妄想なんじゃないだろうか?」
「ニャー♪」
おもむろに半月男の顔を引っ掻く。
「痛っ、なにすんだよ!」
「よかったじゃない、痛いって事は少なくとも夢や妄想じゃないわね。 誰だって自分っていう存在を夢や妄想の類だと思われたらいい気分はしないものよ?」
半月は妖艶な笑みを浮かべ男に微笑みかけてくる。
「あぁ、そうだな済まない……」
「いいって事よ!」
何故が男前な口調で胸を張る半月。
まだキャラが定まっていないのかコロコロと口調が変わる半月に男は苦笑いで答える。
「で、まあ、お前が夢でないのは分かったけれど、それなら一体お前はどういう存在なんだ?」
こいつが拾ってきた黒猫、半月だということはわかったが、いや、それも正直本当か怪しい事ではあるけれど、そうでないならどちらにしろこの少女は、俺が一目惚れしたこの美少女は一体どこの誰なのだか分からないし……。
何一つ確証のない男の思考は、堂々巡りを続け、思考の逢着点を探している。
「うーん、改めて自分の定義というか、概念的な事を聞かれると、どうも詰まってしまうというかにゃー」
首を捻り考えながら半月は、姿を人の形から拾ってきた猫の形に姿を変える。
「まあ、とりあえず普通の猫だと思って貰って大丈夫だニャー」
クシクシと、自分の顔を前足で撫でながら猫バージョンの半月は何でもないことのように言う。
「お前、猫形の時も喋れたのか……」
てっきり猫形時はニャーだけで統一させているものだと思っていたんだが……。
最初にあった時にそんなふうに話していたら拾ってくることは無かったんだろうな……。
今はないルートの話。
人生なんてものは樹系図の用に無限に道がある。
選択の連続で生きている俺達は、常に何かを選んでいる、拾うものを選んでいるのか、捨てるものを選んでいるのかは、定かではないけれど、きっと、そんな簡単な話じゃないんだろうけど、選択の流れの中にどうにか自分という存在を残す選択肢を選んでいる。
例えば○×の、二択で答える問題が50問あったとして、隣の誰かと選択肢が全く同じになる確率は、1125899906842624分の1、もっと簡単に言おう、この問題を地球上の全人類が、行ったとして、誰かと答えが全く同じになる確率は、0.007%だ。
それに加えて考えるのならば、俺達がしている選択の数は50なんて少ない数ではないだろう。
例えば朝学校に行くのでも、いつ起きるか、いつ着替えるか、朝ごはんは食べるのか、食べるとしたらいつ食べるのか、靴は何を履いていくのか、顔は洗うか、歯は磨くか、寝癖は治すか、玄関はどっちの手で開けるか、どちらの足から歩き出すのか、近所の人に挨拶はするのか。
そんな終わらない選択の中で俺達は生きている。
だが困った事にこの終わらない選択肢に、正解は無く、誰も教えてくれなくて、決してやり直しが効かないという事だ。
いつだって俺が出来るのは過去の改善ではなく、これからの選択で、過去の選択の中に自分の理想を見ることを妄想と言い、これからの選択に夢見ることを幻想というのだ。
だからこそ……「とうっ!」
長らく固まっていた男に痺れを切らした半月は人の形になって首筋に軽くチョップをする。
「うわっ」
男は驚いて後ろを振り向く。
「私をおいてけぼりにして考え事をするな!
寂しいじゃないか……それにいいか、私達は、今を生きているんだ、仮定の過程ではなく、現実の今に生きてるんだ、今よりいい明日は来ないよ?」
半月は寂しげな表情のあと、唐突に顔が明るくなりパチリとウィンクを一つする。
そして男は、半月のそのコロコロ変わる不安定な表情や、前向きな言葉、自分にはない輝かしさに1日のうちに二度、惚れ直せざるを得なかった。
久しぶりだから設定を若干忘れ……ゲフンゲフン!
とにかく読んでくださりありがとうございます。
よろしければアドバイス等ご指導ご鞭撻の程をよろしくお願いします。




