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自宅と半月

「ただいま……おかえり……」


「ニャウ?」


男の不思議な行動に黒猫は首をかしげ怪訝そうな声をあげる。


仕方が無いのだ。 親の居る家から離れ高校近くのアパートに住み、バイトの金と、毎月親から送られてくる多少の仕送りで生活している孤独な一人部屋、こうでもしないと一人の圧迫感に耐えられなくなる。


「ニャー」


「いや、そうだな、今はお前が居たか……」


男は首元の黒猫に軽く視線を向け安心したように靴を脱ぐ。


出会ってからたった数十分で黒猫は男に懐き、また、男も黒猫に懐いていた。


「それにしても……猫ってカップ麺食べるのか?」


買ってきたものはカップ麺二つと、野菜ジュース、それとなんか飲みそうだったから300mlのミルクを一つ。


元々は猫にも食べられそうなものを買うつもりだったのだが、コイツがこの二つのカップ麺を引っ掻いて傷物にしてしまったのだから買わないわけには、いかない。


しかもサイフの中を見たらあるのはワンコインのみ。 僕は一体どうやってこのワンコインで夜を食べようとしていたのだろうか。


自分の事ながらあまりの無計画さに呆れ返る。


キッチンと併設された廊下を抜けて六畳だけの居間に抜け、肩に乗ったままの黒猫を床に下ろそうとする。


「ニャー!」


しかし、どうもしがみついて降りてくれない。


「そうだった、お前は地面が嫌いだったな……すまんすまん」


この猫が地面を異様に嫌っていることを思い出し数歩、廊下まで戻り猫を置く。


「ニャー♪」


すると猫は満足そうに降りてくれた。


「うーん、お前、いつまでも「お前」や、「黒猫」じゃ、なんか可哀想だな……」


一応拾ってきたわけだし、コイツが勝手に出ていくまではここで飼うつもりだ。


「ニャー!」


「そうだな……お前は……「半月」だ、うん、半月が良い。 月の夜に出会った半分の光しか持たない黒猫。 お前はこれから半月だ、宜しくな半月」


ついつい癖で手を出してしまう男の腕を、登ってこいの合図だと勘違いしたのか、半月は腕を伝って登り、もはや定位置となった肩の上でご機嫌そうに鳴いた。


「ニャー♪」


あまり磨かれていない洗い場の金属に、ボヤけて反射したその姿が、妙に誇らしくて、男は少しだけ自分という存在を取り戻した気がした。


「さあ半月、俺は風呂に入ってくるからここで待っていてくれ」


「ニャ?」


風呂という言葉が分からないのか首をかしげながらも肩から降りてくれる半月。


洗面台に入り、男が見た男は、しばらくぶりに見る笑顔を浮かべていた。

次回で少し急展開

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