第八十四話『街へ』
「さて、お腹もいっぱいになったし、街にでも行ってみますかね?」
「街・・・とな・・・?」
僕の提案に、ハーデスちゃんが食いついた。
僕らはしっかりと唐揚げパーティーを楽しんで、後片付けをしているところだった。片付けを進めながら、カナデが言った。
「そうね、ハーデスちゃんも街に人がいるところに言ってみるのがいいわね!」
と、これからの旅で、ハーデスちゃんも人とコミュニケーションを取っていくことになるから、練習としてちょうどいいのではないか、というニュアンスでカナデが言う。
「あれ?でも結界があるんじゃなかったかしら?」
とヒビキさんが頬に手を当てて疑問を口にした。激しい戦いの中、厳しい表情だったヒビキさんだが、すっかりいつもの彼女に戻っていた。女子は切り替えが速いなぁ。
そう、ヒビキさんの疑問通り、となりの街『ギリムウイル』はその結界があるから、魔獣がやってこないということだった。魔獣どころではない、魔そのもののハーデスちゃんが入れるのだろうか?
「ふふん、結界じゃと!?」
と、鼻で笑う、ハーデスちゃん。
いちいち上から目線だが、目の前に写っているのは、美少女、いや美幼女なのでかわいいから許す。
「そんなものは低級魔族にしか効かんわい、私のような超上級魔王にはきかんわい!」
と高笑いしながら答えるハーデスちゃん。
「ああ、そういうシステムなのね」
と納得する僕が言う。とりあえず受け入れてみるのが僕の流儀!コウタの流儀。
「え、じゃあ・・・街に行ったことがあるの?」
と、聞く僕。なぜなら目と鼻の先に街があるからだ。
「いや、それはないんじゃ!!」
と即答するハーデスちゃん。
「え?それはなんで?」
「えぇ、だって・・・人がたくさんいるんだもん・・・怖いしぃ・・・」
といきなり口調も忘れて、もじもじ、しだすハーデスちゃん。
「ただの人見知りかよ!!子供か!!」
と僕が突っ込む。この子がいると突っ込みで忙しい。
「うむ、街かぁ、どんなところかのぉ、楽しみじゃのぉ」
すでにウキウキのハーデスちゃんだった。口調は元に戻っていた。
「そういえば、いきなりハーデスちゃんが現れたら、襲われたりしないのかしら」物騒なことを言うカナデ。とはいえ、その心配がないとはいえない。悪の権化のハーデスだ。すべての元凶なのだ、すくなくとも人から見たらだが。
「それは大丈夫じゃないかなぁ」と僕。
「バイデントを返してくれれば、一瞬じゃがのぉ」
とハーデスちゃん。
「それ一掃しちゃうヤツでしょ!!」と僕。
「返しません!『隠れ兜』も!」と笑う。
「ぬううぅぅぅ、ケチ!コータのケチ!!」
とピシピシ僕を叩く。
「必要になったら貸してあげるから」と笑う。
まぁ、必要になる場面がないとはいえない。
そこは臨機応変に『いい感じ』にだ。
「さて、準備できたわ!」
「よーし、街じゃの!!」
と、僕らはとなりの街『ギリムウィル』に向かった。




