十九 その地の名は―――
学者塔からやや離れた所に作られた書庫は、書庫の常として埃っぽく黴臭い。が、身を隠すにはうってつけの場所だった。
しっかりした造りの建物で人気が無い。鍵を持って閉じこもってしまえばなかなか――合鍵を持つ塔の管理者などでなければ――入ってはこれないし、仮に入ってきたとして、仕事中の仲間にやたらと接触してくる学者もそう居ない。やってくる本棚さえ予想できれば、そこそこに広く障害物の多いこの場で隠れているのは簡単だ。
一つきりのランタンの中で火が揺れ、本棚や梯子の影を作り変える。小さな勢力が三人になってから小一時間が経って、残りの油は僅かとなっていた。
「昔々、アンヌという一つの国が、二人の王子の下に二つに分かれた。片方は古くから祀る聖なる水を守り、護られることを選び、もう片方は新たな叡智を欲し天の頂を目指した。理由は、私たちにはもう分からない。けれどどうあれ一つでは在れなかった。ゆえに二人は決め、兄王子はその力――魔法を用い、大地を動かし扉として隔て、国を二つに隔てた。片方は地下、もう片方は地上。互いの民はそうして、別の道を選んだ向こう側の者たちを忘れてしまった……」
椅子ではなく高所の文献を取るのに用いられる踏み台に腰掛け、訥々と語るのはセシリア。魔物が、アンヌが、神が、と要領を得ない説明をしていた彼女はナフムに促され、事の起こり、二つの国についてから話すこととなった。異国の女王の声は幼い頃から幾度も聞いた伝承を辿る。
「それが、アンヌとアルアンヌ」
話の合間に、ナフムの手の中でスペアも含めた三つの鍵が触れ合う音がかちかちと挟まっている。そうした手遊びで頭を活性化させ、彼は諾々と、与えられる情報を整理していた。ハイラムは黙って静かに、じっと耳を傾けている。
「国と民は二つに隔たれたけれど、王たちの間には繋がりがあったわ。私たち王族はずっと互いのことを語り継ぎながらも隠してきたの――〝水の導きにより、禍は地の底に。そして天使が扉を閉ざし、人は祝福された〟。聞いたことがあるでしょう。アンヌでは逆よ。〝水の導きにより、民は永久の地に。忌むべきものは天に去り、扉は閉ざされた〟。王たちが唱え続けて、どれほどの時が立ったのかしらね」
いくらか落ち着いた口調で耳に馴染んだ一節を諳んじ、そして逆の言葉も口ずさむ。物語を終わらせ、本を閉じたような言葉に反応したのはナフムだ。
敬愛する女王によく似た女の力に挫け、友人に似つかない弟に押し切られ協力者になってしまった彼は、視線を人から暗がりへと逃して塵の多い床を踏む。指先は棚に並んだ背表紙を辿り宙へ浮いた。
「王族が鉱山の管理にやたらうるさいのも、調査に対して慎重なのも、その所為だっていうのか。利益の問題でも、禍でもなく――禍じゃなくて、アンヌとやらから遠ざける為か? 地下にある国? 俺たちにそれを気づかせない為の?」
考えながら口にされる言葉に頷き、セシリアはナフムを追った目を足元の灯りへと下ろした。揺れる火が映る双眸は、怯えるように肩を竦めた彼女の姿勢とは不釣り合いに力強い色をしている。
「そうしようという決め事だったの。別の道を歩んだものと争わないで済むように、二つの国は歴史を隠した。そうして私たちは、人々に忘れさせ続けたの。そういうことになっていた。初めから、自分たちはそうであったと言い聞かせるように」
セシリアの横顔を見て、じっと話を聞いていたハイラムは口を開いた。そうしてからナフムを窺ったが、学者は二人に背を向け本棚を探している最中だった。
「貴女は、エレオノーラ様の妹なのでしょう。アルアンヌの後継者の一人……なのでは? 何故アンヌに?」
ハイラムは少し体の向きを変え、セシリアへと問いかける。先より深く俯いて膝の上にある己の手を見つめていたセシリアは、ふうっと息を吐き出しながら顔を上げた。
「先のアンヌ王は子が無いまま老いたの。他に適当な王子もいなくって、それで丁度、私たちが双子で生まれたから――アルアンヌの成り立ちとは逆ね。アンヌに片方が行くことになったのよ、それが私。王の力というものは能力ではなく継承するものなのかしら、同じ血を継いでいる以上何も問題はなかったみたい。……そう、その力が、問題なのよ」
言って、次の言葉を選ぶには時間がかかる。そうして暫し無意味に口を開閉して、彼女は改めて息を吸いなおす。
「貴方たち、王が海を操る力を持つというのは、勿論知っているわね」
独り言のように言いながら、彼女は指を擦り合わせる。細く柔らかな指の先は擦り切れて血を滲ませているところもあった。女王の、とするには荒れた手だった。
「あれは正しくはアルアンヌ王ではなく、水の導きに従ったアンヌ王の力よ。今は私の力。アンヌ王は分かれてなお自らの――アルアンヌの民を愛し、彼らの為に海を動かしてきた。……アルアンヌの王が継いでいるのは、別の力」
事も無げに告げられた事実にハイラムとナフムは目を瞠った。ただでさえ信じられない話が多いと言うのに、幼い頃から聞かされてきた王の権威を示す話まで覆されてはたまったものではない。衝撃に、彼らの足場は不確かになっていく。
揺らいだ足元の底の底には忘却された故郷アンヌがあり、アンヌを加護する水が待ち構えている。その水は暗く、得体の知れない闇を抱いている。何を信じて何をすればいいのか、彼らは茫洋とした海に投げ出された心地で、異国の――古い故郷の王を見遣った。
「……貴女が、アルアンヌ、陛下に求めるのがその別の力ってわけか? さっき言った、大地を動かす、っていう?」
「さすがは学者ね、そう、アルアンヌの王は地を扉とする。私がエレオノーラに求めたのは、古に閉ざされた扉を一つ開くこと。アルアンヌの為に海を動かしてきたアンヌ王の望みとして、けっして間違ったものではないでしょう」
固まった息を呑み、ナフムは遅々とする会話を整理して押し進める。肯いたセシリアは姉の名を口にしては表情を翳らせた。
「魔物が出たの。これまでも何度かあったことではあるけれど、私たちでは倒せない、とても大きく強いものが。……だから、私はエレオノーラに頼んだのよ。扉の開放とアルアンヌからの援軍を。なのに――扉を開ければアンヌは助かるのに、私たちは、アルアンヌの為に力を使ってきたのに、どうしてエレオノーラは……」
悲愴な、今にも泣きだしそうな顔つきと震えた声だった。自分と同じ顔をした、同じときに生まれた姉を思い、彼女と彼女のことを理解できない自分に憤る。途切れ途切れになる声の端が嗚咽に変わりかけて、セシリアは深く息を吸った。口を引き結び、背筋を伸ばす。
「つまり――アルアンヌならどうにかできる魔物だと貴女は判断したが、陛下はそれを是としなかったと。それでジェレミアが何故か、巻き込まれてアンヌを助けに行ったと」
そうして話はようやく、現状まで辿りついた。眉を寄せ舌打ちをしたナフムはセシリアから聞いていた説明を要約して、手にした一冊の本を差し出す。まだ傷み少なく厚い頁もしっかりと留まっているそれは、『竜種総覧』だった。
「アルアンヌで観測された魔物の本です。どれです。探してください」
セシリアは黙って受け取り、本を傾け灯りに向けて頁を繰った。丁寧に描かれ色を付けられた様々な竜の絵と説明とが現われては捲られ、時間は過ぎる。何度も何度も、同じ動きが繰り返される。
ナフムは腕を組んで、その動作を見下ろしていた。女王は本から顔を逸らさない。ハイラムが横から覗きこみ、反応を待っている。
頁を捲る手は、分厚い本が中程を過ぎた所で止まった。
「これだわ。とても大きくて、人を喰う魔物よ。剣も矢も退ける鎧を持ち、陽の光だけがそれを貫くと言い伝えられている。翼があるから、アンヌではトリと、呼んでいたけれど」
そこには長い体に十の翼をつけた竜が描かれていた。口の先は鳥のくちばしのように尖り、体は全て黒く塗りつぶされ、目だけが金の箔で色づけされている。ナフムは半日前に、似た絵を見ていた。
「洞竜」
思い出す異本は魔法塔所蔵の代物。今はジェレミアが持っているはずだった。その共通がナフムを揺り動かす。ハイラムも付いたこの状態でこれだけ条件を並べられてしまえば、彼もセシリアの話が虚偽や出まかせの類ではないと判断するしかない。
ジェレミア・オークロッドは地底の異国に渡った。洞竜を倒す為に。
「ジェレミアを連れ戻す方法はないのか」
現実を深く考察する前に、ナフムは口に出していた。独り言、呻きのような声の出し方だった。
「あの人は蛇に導かれた救い手。……自ら選んだのよ。当人と神の意思なくして戻ることはないでしょう」
セシリアが静かに、先程の伝承の続きのように言った。ガンと激しい音が響き、本棚が揺れて塵が落ちる。
「ヘビに魅入られた! そいつは間違いなく地の底の禍だ! 貴女の言ってることが全部ほんとならな、絶望的だよ。地下、太陽の無い場所で洞竜と遭遇。死が待ってる。……そんなとこに赤の他人連れ込むのがあんたたちの国で、神様のすることか。巻き込むなよ! あいつがそんな無謀な判断するもんか!」
棚を蹴り、咄嗟に立ち上がり彼と女王の間に割り込んだハイラムも押しのけて、ナフムは腹から言葉を吐き出した。今にも燃えつきそうな灯りでは判断のしようもないが、彼の顔は蒼く、額には冷たい汗が滲んで前髪が張りついている。生まれついての王に抗うのはそれだけの胆力を要した。
紙とインク、微かな黴と埃の臭いが付きまとう本の壁。火に照らされてなお、端々には闇が巣食っている。それでも、本の劣化を防ぐ為に日光と湿気を遮断した書庫でも、真昼に扉と窓を開ければ明るく照らされる。
アンヌは此処以上に陽から隔たれている。朝が来ようが、雲ひとつない青天の日であろうが、陽の光は注がないのだ。
「お前はそう思わないのか、ハイラム。お前の兄貴は、」
「ナフムさん――」
「見たからよ」
憤ったナフムを宥めるハイラムの奥で、セシリアが呟いた。
「あの人はアンヌを、見たから。貴方たちや、エレオノーラとは違うわ。あの人は分かっているの」
「……何を」
「アンヌが愛しい場所であるということ。貴方たちはそれを、忘れているだけ。あの人は思い出した。アンヌを失いたくないと心から思っているはずよ」
己の国を思い出した彼女の目から、とうとう涙が零れた。ドレスの胸に落ち、すぐに染み込んで見えなくなる。二粒三粒と零し、セシリアは顔を覆った。泣き叫ぶ為ではなく、涙を抑え込む為に。
焼け付く喉で息を呑みこんで、呑みこみきれなかった部分が震える声になる。
「貴方たち、どんなに恐ろしい竜が相手でも、これがアルアンヌのことなら諦められる? アルアンヌが亡びるところを黙って見ていられる? 無理でしょう。そういうことなのよ。あの人も貴方たちも元はアンヌの民だもの。本当ならアンヌだって守りたいと思って当然なの。アンヌを捨ててアルアンヌだけで生き延びようとする、扉を開けないエレオノーラが変なのよ……」
結局は巡ってそこに行きつき、ナフムは舌打ちして汗が滑り落ちる背を棚に預けた。聡明な彼は自分の発言が不毛だと言うことに最初から気づいている。暴言は状況を打開しない。
エレオノーラと双子であるなら、確かなところは知れずともセシリアの年齢も三十は下らない。にもかかわらず彼女の振る舞いは子供じみていて、不相応に感じられた。その上に、アンヌのことばかりを考えて口にする。それが独りよがりに思え、彼が抱く苛立ちに拍車をかける。
ナフムが――魂はその威光に屈すると言うのに心で彼女のことを女王として扱いきれないのは、彼が学者で、仕える王は賢く人々を導く存在であることを願っているからだろう。あまつさえ、セシリアは学者たちと対等に渡り合う姉と同じ顔をしている。比べて劣るものとして見るのも仕方ないことだった。
ハイラムのようにか弱き乙女を守る騎士であれば、認識はまた違うようだった。落ち着いたナフムとセシリアを交互に見て、困り顔の若騎士は暫し考える。
覗き見た本には、確かに彼にとっても無視できない記述が多くあった。このままでは兄も双子の妹も、アンヌと共倒れになるかもしれない。当然、それは忌避すべき事態だ。
ランタンの火が音を立てた。照らされる美しい顔を一層に引き締め、彼は女王の肩に手を添えた。
「貴女が扉を開ければいい」
セシリアは顔を上げて、動きを止めた。ナフムが眉を寄せて腕を組みなおす。
「……私では無理よ」
「貴女も元は此処の王女だった。アンヌの王の力を使えるなら、アルアンヌの王の力を使えたっておかしくない。違いますか」
小さな否定に強く返し、ハイラムは強く訴えた。女王の胸に、アンヌで最後に見た臣下の姿が思い出される。彼らもまたこんな顔をしてセシリアを見送ったのだ。信じて縋った。それしか、方法がないからだ。
まっすぐな視線から逃れるように、セシリアは目を伏せた。
「でも私、扉を開けるどころか、扉そのものがどういうものなのかも、何処にあるのかも知らないの。都の外にあることしか……知っているのはアルアンヌの王位継承者だけ」
「――王族の管理地域だな」
口ごもるぼそぼそとした言葉を遮り、断定的な声が言う。はっきりとした声と共に固い靴が床に触れる音がした。
ナフムは本棚から身を起こし、上着の襟とタイを正していた。胸元、灯りを受けて色を変えるブローチを見て、続ける。
「物は分からなくても、ロードベリーじゃない場所に有って、アルアンヌがアンヌとやらを秘匿し続けたいなら。陛下が隠したがっているなら、調査があまり進んでいない王族の管理する場所だ。推測でしかないが、底の国に蓋するんだ、恐らくはちょっとしたドアなんかじゃなく規模もある。そして地に関係している、山か、岩か……そういう目立つものだといいんだが」
詰まらせることなく言いながら服のついでに姿勢も正し、彼は女王に向き直った。膝の上から文献を取り上げ、ぴたりと閉じて本棚に戻す。先程声を荒げたばかりとは思えない、落ち着いた、学者然とした所作だった。
女王の横でハイラムが微笑んだので、彼は頭を掻いて顔を顰めた。その間も口は休まらない。
「俺は貴女の話を信じたくない。何故なら貴女の話ではジェレミアの生還は絶望的だからだ。しかし状況は概ね貴女を肯定している。エレオノーラ様が貴女の望みに非協力ということも含めて。アルアンヌ国民として俺は陛下の判断に従うべきだ。……でもな、俺はイーノス先生にも恩があるんだ。見捨てられないだろ」
彼はアンヌを知らなくともジェレミアのことはよく知っていた。その父親からの付き合いで学者仲間の中でも特に縁があり、仲がよかった年下の友人だ。
助けられるかもしれないなら、諦められない。
「それにそうだ、いくらわけの分からん愛国心が芽生えたとして、助けようと思ったなら無鉄砲に出ていく奴じゃない。何かあるはずだ」
締めは溜息だった。はあと吐いた息が消えないうちに、彼は同僚の弟の肩を叩く。
「お前も俺も、王城仕えから一転逆賊もどきだぞ、分かってるのか」
「……そういう風には考えなかった」
呟きに、ハイラムは微笑を深めて、実年齢より子供っぽい、悪戯でもしているような笑顔にした。
「だって悪いことしてる気分じゃないからね」
言葉はもっとそれらしく。舌でも出しそうな調子で彼は言って、軽くナフムの肩に触れた。その様が、顔も力の加減も似ていないと言うのにひどくジェレミアと似た雰囲気で、ナフムは苦い顔になる。
弄んでいた鍵をぐっと握りこみ、彼は床からランタンを持ち上げる。
「気分で証明できたら苦労しないんだ」
溜息の残滓を引き継いだ言葉は独り言に近い。ハイラムは肩を竦め、やっと乾いた髪を撫でた。セシリアを向いてまた笑って見せるのはやはり悪戯の成功した子供のような顔だ。
そうするうちにランタンを持ち上げ、ナフムは爪先を出入り口へと向けた。歩き出す前に振り返る。
「ちょっと調べ物してくるから動くな。すぐに戻る。鍵は閉めるが騒ぐなよ。どうせお前の魔法なら此処の扉ぐらい、ぶち破るのは簡単なんだ」
そうして忠告した先はハイラムのつもりだったが、頷く彼から視線を外したところでセシリアと目が合った。じっと見入る瞳に学者の体が委縮し、緊張が生まれる。セシリアは静かに微笑んだ。その表情は――図ったものではないが、エレオノーラとよく似ていた。
「私は、貴方のことを信じているわ」
この場ではなく謁見報告のあの庭で、セシリアではなくエレオノーラに言われたなら、ナフムは素直に喜んだだろう。体は自然と頭を垂れ、彼女に傅いただろう。
無意識にその動作をしそうになった体を押さえつけ、アルアンヌの学者は急いで書庫を飛び出した。
埃が薄く舞い上がって暗くなった中で、騎士は立てかけていた指揮棒を手に女王に寄り添った。光に慣れた目が利かない束の間、誰にも表情を窺えない間、それでも弱気な顔はすまいと決めた二人が横に並ぶ。
「……ナフムさんも、兄さんとマリも」
暗さに似合いの潜めた声の小ささでハイラムは囁いた。仰ぎ見る先、本棚に収まった本の背表紙たちは、徐々に輪郭を取り戻し始めている。セシリアが僅かに身じろぎした。
ハイラムは目を閉じて、見慣れぬ学者たちの部屋から思考を逃した。瞼の裏には仄かに白く輝く風景が滲んでいる。青く輝く水辺には兄が立ち、その前には、まるで天使のような人が。
懐かしいものを思い出すようにそうして、微睡むようにぼんやりと。
「皆、戦います。貴女の大切な人も無事だし――ああ確かに、俺とマリに似てるかも。でも真っ白で、すごく綺麗だ。目の真ん中が葡萄色」
セシリアは驚いて隣に座る青年を見た。暗くてよく見えはしないが、変わった様子も感じられない。けれども不思議なことは起きている。
ぎっ、と座る踏み台が音を立てる。
「髪が長くて――マリから見てこれくらいなら、背はそんなに高くない。小柄だ」
「本当に、繋がっているのね、貴方たち」
ハイラムはマリース――双子の妹の見たものを言っているのだと知り、セシリアは呟いた。姿ばかりは瓜二つに生まれついた姉のことを考えながら、見えるようになってきた自分の爪先に視線を落とす。
ええ、とハイラムは頷く。彼はもう目を開いていた。
「アルアンヌとアンヌは今、繋がっています」
その地の名はアンヌ




