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1. 二百年前――魂の偽装工作
王権が移り、歴史が編まれ直され始めた時代がある。
諸記録の揺れを含めても、その起点はおおむね二百年前に収束する。
当時のローゼンベルク当主は、理解していた。
この国は、すでに理を失い始めている。
それは武力の敗北ではない。
記録の支配である。
名が奪われれば、
正しさは「存在しなかったもの」として処理される。
伝承は迷信と呼ばれ、
真文は封じられ、
やがて民は「最初からそうだった」と信じる。
当主が危惧したのは、王家の憎悪だけではない。
時間そのものが真実を削ることだった。
ゆえに当主は決めた。
正面から真実を掲げるのではない。
真実を“物語”へ落とす。
王家が笑って見過ごすほど、たわいもない辺境の民話。
子が眠る前に聞く昔話。
火の傍で語られる英雄譚の欠片。
その形に変えれば、奪われにくい。
燃やされにくい。
禁書になりにくい。
当主は、公式の文書を減らし、
代わりに「語り継ぐ者」を増やした。
乳母。領民。吟遊詩人。
読み書きの得手不得手を問わず、
口に乗る言葉として残す。
それは誇りではない。
未来への遺言である。
――今、この瞬間に植えねば、未来の末裔は自らを怪物だと信じて死ぬ。
この一言が、すべての核となった。




