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【連載版】婚約破棄&追放された悪役令嬢、辺境村でまったり錬金術生活(元勇者家政夫&その娘の女児付き)  作者: シルク
一部 辺境村の悪役令嬢錬金術師と追放勇者家政夫

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1話 追放。断罪。そして辺境へ

以前書いた短編を長編で連載します。

婚約破棄&追放された悪役令嬢と、元勇者家政夫+娘幼女の辺境村まったりグルメ&錬金術スローライフものです。

 「アンジュ・バーネット嬢!今を持って正式に、サンドル国第一王子、クリストファー・サンドルとの婚約の破棄を申し渡す!今日を持って、婚約破棄、そして王都追放だ!」


 王立錬金術学園の卒業パーティーにて。

 私の婚約者かつ第一王子クリストファー御本人から『婚約破棄』そして『王都追放』を言い渡された。

 

 鬼のような形相のクリストファーの背後には、一年前に編入してきた異国の令嬢ミミが影のように寄り添い、ひたすらオロオロ……。


 ――かくして、サンドル国、バーネット侯爵家の一人娘……私、アンジュ・バーネットは『断罪』された。


 その後、公衆の面前でまくしたてるクリストファーの口から、出てくる出てくる、クリストファーが想いを寄せているミミ嬢への、私からの嫌がらせ行為の罪状の数々。

 その全てが誤解だったり、身に覚えのないものだったり、ミミの思い込みらしきものもあった。だが、私は表情1つ変えず、何も反論せず、大人しく引き下がった。

 

「婚約破棄。王都追放。謹んでお受けいたします」


「な、なんだと――何も言い分はないのか」


「はい。何を言っても、聞いて頂ける雰囲気ではないので」


 驚いた様子のクリストファー。

 私はスカートの裾をつまみ礼をすると、くるりと踵を返す。そのまま卒業パーティーに集まった国中の貴族の子息子女、その両親が集まっている学園の中央ホールを去った。その背中に聞こえてきたのは、クリストファーとミミの婚約宣言。唐突な騒ぎと、驚愕の連続でざわめくホール。

 

 ――これでいい。

 

 『悪役令嬢』はただ黙って去るのみ。

 だって、私はそもそも、王妃になんてなりたくないんだもの。


◇◇◇◇◇


 ここは乙女ゲーム『悠久の恋~王立錬金術学園★恋のから騒ぎ~』の世界。

 

 前世の記憶がよみがえったのは、卒業パーティーの一夜前。

 私は前世、地味な人生を送る引きこもりがちなオタクOLだった。

 趣味は乙女ゲーム。そして、夜中にフラリとコンビニに出かけ、信号無視をしたトラックに跳ねられた。あっけなく、私の二十数年の人生は終わりを迎えた。

 

 そして、気がつくと大好きな乙女ゲームの世界に転生していた。私は、主人公ヒロインにバチバチライバル心を燃やしつつも、プレイヤーの選択次第で良き友人ともなる悪役令嬢、アンジュ・バーネットとして生を受けていたのだ。

 アンジュ・バーネットは、由緒正しき侯爵家の一人娘。学園一のモテ男、公式が最推ししている攻略対象、第一王子クリストファー・サンドルの婚約者だ。

 

 錯綜する2つの記憶に少々混乱はしたけれど、段々と記憶が整理出来てきた。

 そもそも私って、この世界に生まれてから、そんな性格の悪い女だった?

 ――違う。

 ミミへの意地悪行為は、大半が他の女生徒が行ったものだ。私は罪をなすりつけられていた。

 

 今生での私は、侯爵家の生まれに甘えず、ひたすら錬金術の勉強を重ねてきた。

 錬金王国と呼ばれるサンドル国の王立錬金術学園で、成績は常にトップ。クリストファーの婚約者として学園に君臨することもできたけど、権威をひけらかすことは好まなかった。そしてクリストファーに媚びる事もなかった。幼少期に親同士が決めた婚約。私は王子であることにあぐらをかいたクリストファーに恋愛感情を抱くこともなく、ただ淡々と礼儀正しく彼に接し、ひたすら堅実に学問に打ち込み、地味な学園生活、社交生活を送っていた。一人娘が王家へ嫁ぎ、一族から王妃を排出するという、親の夢に敷かれたレールの上を、ひたすら思考停止で走り続けていた。

 

 それが、プライドの高いクリストファーを苛つかせた。

 

 サンドル国の王子かつ学園一の美男子であるクリストファーは、とにかく女性にモテる。

 私はそれをひけらかす彼に嫉妬の感情を抱くこともなく、淡々と定期面会や、社交行事への同伴を行っており、苛立ったクリストファーがそんな私を「ガリ勉でつまらない女」「俺に媚びないお高い女」と陰口を叩いていたことも知っていた。全て知らん顔をしていた。

 クリストファーの取り巻き令嬢達は、クリストファーの不満を煽り、ひたすら私の悪い噂を広め、編入生のミミへの虐めも行っていたようだ。もちろん、アンジュ・バーネットが首謀者だという噂を伴って。

 私とクリストファーの仲を引き裂いて、あわよくばこの国の第一王子に取り入り婚約者の立場を奪おうとしていたのだろうけれど……最後は、編入生のミミが全てをさらっていった。なんせ、この世界の主人公ヒロインだからね。

 遥か遠くの異国から来た黒髪の神秘的な令嬢ミミは、編入後すぐに学園の男子生徒達の憧れの的になり、クリストファーもミミに惹かれていく。

 

 そして。

 今夜、クリストファーはミミを選んだ。

 錬金術が珍重されるこの国で、格式ある家柄の出であり、トップ成績の学生である私ではなく、学園生活の一年を様々な男子学生との交友につぎ込んでいた軽薄なミミ嬢を。

 

 もともと幼い頃に親同士が決めた婚約。

 ひたすら錬金術と学問に打ち込み、他の生徒の世話係をやることで学園に、ひいては国に貢献しようとしていた私。その努力を全く理解しようとしなかったクリストファー王子に興味はない。

 

 断罪イベント前夜に記憶を取り戻して、私が想ったことはただ一つ。


 『自分のための人生を生きたい』

 

 もう、侯爵家の娘として政略結婚を強いられ政治の道具にされるのも、成績トップの維持に必死となるのも、男性関係への好奇心が旺盛な転入生の世話を焼くのも、ボンクラ第一王子クリストファーのお飾り妻になることを求められることも、全てごめんです。

 

 私は自由に生きたい。

 

 こうして、私はすんなりと(無実の罪ではあるけれど)断罪を受け入れ、追放されることを選んだ。

 クリストファー。ミミ。お幸せに。何も考えていないプライドの高いボンクラ王子と男好きなふわふわ天然令嬢。お似合いなんじゃないでしょうか。

 

 卒業パーティーから自宅邸宅に戻ると、パーティー会場のどこかにいたらしき両親も私を追いかけてきて大激怒。

 両親は大パニックだった。王家との婚約破棄は名門バーネット家の汚名となると散々に私を詰り責め立て、かと思えば突如私を抱きしめてきて泣いてすがり、可哀想な我が娘よ愛してると告げたり、情緒が全く安定しない様子。


 翌日。両親から、この件のほとぼりが冷めるまで、数年は王都に戻るなと指示された。

 私はトランクを1つだけ持たされ、用意された馬車に乗せられた。

 さらば王都。

 実家と学園の往復、錬金術の勉強、社交界への義務的出席。王妃候補としての猛勉強。侯爵家の娘として、責務ばかりの人生だった。

 正直、いい思い出は1つもないんだけれどね。


 何度か宿場町の宿に泊まりつつ、馬車は西に走り続けた。


 泊まった宿で鏡を覗くと、私の肌は乾いて顔色も土気色。自慢の長い銀髪のストレートヘアもこころなしかぺしゃんとしている。

 王都での出来事が、ストレスになっているのは明らかだった。

 気にしないよう心がけていたけれど、体は正直だ。

 鏡の中には、珍しいと言われる紅玉の瞳をした少女が悲しげに映っている。

 王子の婚約者に恥じぬよう、人一倍身だしなみや美容には気を遣ってきたけど――なんだか色々ばかばかしくなってしまった。

 これから待っているのは、田舎村での1人隠遁生活だ。

 

 数日後。

 辿り着いたのはサンドル国と西に隣接するルドガンド王国の境界となる自由国境地帯にほど近い辺境の田舎村、スズ村。

 ほとぼりが冷めるまで、そこにあるバーネット家所有のおんぼろカントリーハウスで隠居せよ、と云うわけだ。

 両親から生活資金だけは潤沢に持たされた。

 これは、『錬金術師としての仕事すらするな、目立たず隠居生活しろ』ということだ。

 

 なんの問題もない。

 

 ――隠居して人生初の田舎暮らしを満喫しよう。

 

 目立たず、普通の村娘のように暮らそう。一人で地味に質素に生きよう。前世の私と同じように。もう、沢山の人の欲望が渦巻く貴族生活、学園生活は沢山です。

 

 スズ村についてすぐ、バーネット家所有の屋敷の管理を任されているという村長の家へと挨拶に向かった。村長は実家からの早馬で書簡を受け取っていたとかで、王都で起きた件の詳細を聞いていたのだろう。散々な目に遭ったねと私に同情して、優しい言葉を沢山かけてくれた。

 私はてっきり、とんでもない悪女扱いをされるのではと警戒していたから、正直とても安心した。沢山かけられた優しい言葉に、少し涙が滲んでしまった。

 

 それからもう1つ。村長から予想外の話が告げられた。


「実は言いにくいんだけど。今ね、あの屋敷に冒険者の親子さんを泊めていてね」


 長く使われていなかった、バーネット家の持つ邸宅。

 村長の独断で、半年程前に住み込み管理人として男性冒険者を招き入れ、家の管理をさせていたというのだ。

 その冒険者は幼い子連れ。半年前フラリと村に立ち寄ったそうだ。住むところも行くあてもなく、宿を取った後は幼い子供と二人、途方に暮れていたそうだ。その様子をみかねた村長。バーネット家に無断でその冒険者を雇い、屋敷の客間に住まわせ、屋敷の清掃や管理の仕事を任せていたそうだ。

 貴族の地方邸宅となると、それなりの広さがある。庭木の手入れ、庭に蔓延はびこる雑草を抜いたり、定期的にマットレスを干したり、布類の洗濯、自然とつもるホコリの清掃。経年劣化する家の壁や屋根の修繕。それなりの家事量がある。老齢の村長の手には終えなかったのだろう。

 私は住む予定の屋敷に先住者がいると聞いて驚いてしまい、しばらく言葉を失ってしまった。

 

「昨晩、早馬が来て、アンジュお嬢様がいらっしゃると聞きましてね。ほんと、昨日の今日で。もちろん、主様が現れたんだから、管理人の彼には出ていって貰う予定だけど、なんせ小さなお子さんを連れていてすぐは動けないかもしれない。様子を見て、出る時期を決めてもらったほうがいいかもしれない……。もちろんね、急いで追い出したいと言うなら、私が伝えますけれど」

 

 とても困った様子の村長。優しい人なんだろう。


「いいえ。子連れの方を急いで追い出すほど私は冷酷ではありません。その方は、これまで屋敷の管理をしていたのでしょう?きちんと挨拶をしてお礼を伝え、話を聞いてから考えましょう」


 私の言葉に安堵する村長。そしてその後、また不安そうに口を開き、モゴモゴと言いよどみながら言葉を紡ぐ。

 

「あと、私がね、バーネット家の方に無断で住み込み管理人を入れていた事については……」


「大丈夫。何も問題なければ、両親には黙っていましょう。屋敷の管理のためだったでしょう?老齢のあなたに、自宅と、我が屋敷の管理は大変だったことでしょう。改めて、バーネット家のものとしてお礼を言いますよ。これまでよくやってくれました」

 

「ああ、もったいないお言葉。ありがとうございます。ありがとうございます。寛大なアンジュお嬢様。噂に聞いた話はやはり大嘘だ。あなたは尊敬されるべき偉大な淑女ですよ。アンジュ・バーネットお嬢様。ようこそ、我が村へ」

 

 おっと。やはり書簡で、王都での私の悪行(濡れ衣)もしっかり伝わっていたのね……。この狭い村。私が王都で第一王子に婚約破棄され、追放された令嬢であることはすぐ噂として伝わることでしょう。まあいいわ。気にしない、気にしない。私は、与えられた屋敷で一人のんびり暮らすだけ。マイペースにいきましょう。

 私は冷静に会話を終わらせ、感謝の言葉を重ねる村長に別れを告げた。

 

 そして、トランクの持ち手をつかみ、一人、村の外れにぽつんと立つ屋敷へと向かった。


◇◇◇◇◇

 

 バーネット家所有の地方邸宅。

 通称『雲雀館ひばりやかた』。

 

 ――長年放置されていると聞いていた雲雀館ひばりやかたは、想像以上に綺麗だった。正直、もっとオンボロだと思っていたけれど……。家の造りは古めかしいけれど、細部までしっかり手入れされている様子だ。

 剪定され形の整った、果樹の実る庭木。可愛らしい花の咲く小さな花壇。奥の方に見えるのは家庭菜園……?玄関の呼び鈴はしっかりと磨かれ、玄関の段差ステップのレンガには、老朽化した部分が修復された跡もある。気のせいでなければ、丁寧な暮らしをしている人が、まめまめしく手入れをして住んでいる屋敷のように見える。

 

 呼び鈴を鳴らして現れたのは、がっしりとした筋肉質な長身の男性。二十代後半位だろうか?

 とても丁寧な態度で現れたのに、その体躯と油断のない気配に一瞬怯んでしまった。

 短く刈り込んだ黒髪に近いブルネットヘア。濃い翡翠エメラルドの瞳。端正な面立ちと穏やかな視線の奥に潜むナイフのような眼光。

 この辺りの村人と変わらぬ服装をしていて、剣すら帯びていないけれど、隙のない立ち姿は剣士のそれだ。王都ですれ違う兵士や冒険者の気配と似ている。しかも、そういった人々の上回る、いい知れぬ鋭い気配を感じる……。


 男はゆっくりと、優しく低い声で名乗った。

 

「俺はユースティス・ダズル。半年ほど前から、この屋敷を間借りさせてもらっている」


 そう告げ、軽く頭を垂れた。

 そして、その後ろから駆けてくる、淡い黄色に染められた麻のワンピース姿の可愛らしい女児。背中まで伸ばしたふわふわした蜂蜜色の髪の毛が不規則に光を反射して、まるで後光が差しているかのようだ。

 か、かわいい!


「パパぁ?おきゃくさんー?」

 

 たどたどしい言葉遣い。四歳か五歳くらいだろうか。


「こんちわー!きれいなおねえさん!」

 

 屈託のない笑顔。キラキラ光る南国の海のような瞳。数本抜けた前歯。なんて可愛らしい。地上に降りてきて天使のようだ。私はふふっと微笑み、しゃがんでその子に挨拶をする。


「こんにちは。私はアンジュ・バーネット。この家の持ち主の娘……。今日からこの屋敷の主となります」

 

「よろしく。アンジュ嬢。今朝、貴女の到着を知らされた。半年間この屋敷の管理人として世話になったが……主がお住まいになるということだったら、俺はお役御免だな。荷物をまとめたら、ココを連れて出ていく。少し準備の時間をくれないか」

「ええ。間借り人のあなたには悪いわね……。でも、急がなくていいわ。こんな可愛い子をあくせく追い出すなんて、良心がとがめるもの」


 ユースティスは私の言葉に少し驚いたようだったけれど、お礼を告げて私を部屋に案内してくれた。


 この屋敷の主寝室。二階にある南向きの大きな部屋。手入れが行き届いた部屋だった。磨かれた窓。古びては居るけれど、手入れされた黒樫の家具。きちんと洗濯されたカーテンやシーツなどの布類。ホコリ一つないカーペット。ちらりとのぞくと、隣接するバスルームのタイルはしっかりと一枚一枚が磨き上げられていた。


「……これは一体誰が?」

 

「俺だ」

「ココもやったんだよー」

「そうだったな。俺と娘のココで、だな。すまないな、ココ。半年間、俺とココで少しずつ屋敷の手入れをしていた。せっかくの立派な屋敷だ。どうせなら良い状態で暮らしたいと、改装や掃除、各部屋の手入れ、壁や雨漏りをしていた屋根の改修、庭の整備まで手を出していた。もちろん、生活に使用していたのは一番隅の客間1つと台所、最低限の共用部だけだ。リビングやこの寝室は、掃除はしていたが、使ってはいないから安心してくれ。……おっと、出過ぎた行動だったかな」

 

「そんなことありません!正直、放置されていると聞いていたので、もっとボロボロの屋敷と部屋で寝泊まりするのかと思っていたの。とてもありがたいわ。ところで……ユースティス。あなた、家事は、お得意?」


 「あ、ああ。この通り、この屋敷を改装して、掃除して、三食を自炊する程度には家事に心得が……」


 家事万能……?

 こ、これはチャンスかも知れない。

 気付いた時には、私は心のままに言葉を紡いでいた。

 

「あの!今後は私がお賃金を出すので、もうしばらく、家政夫として住み込みで働きません?もちろん出ていく先がもう決まっていたり、家政夫として雇われるのが嫌だというなら無理はいわないけれど」


 私の提案に目を見開き驚くユースティス。

 少しの沈黙の後、顎に手をやり、少し考えてから口を開いた。

 

「出て行く先は決まっていない。しかし、俺が家政夫……か。今までの仕事に加え、主人に仕える仕事だな。もし俺で良ければ、やってはみるが、いいのか?貴女は年頃の貴族令嬢だろう。使用人とはいえ、見知らぬ旅人の男を雇い、同居となると……」


「使用人を雇うだけなら問題ないわ。あなたには小さなお子様もいるし。住む所や行く宛がない子連れの冒険者って事は、何かわけありなんでしょう?あ、無理に私的な事を話す必要はないわ!私、王都で色々あって疲れているの。この村では、少しのんびりしたいのよ。この屋敷で、家事をやってくれる人がいると助かるわ」

 

 そんなわけで。

 

 無口で物静かな子連れ冒険者のユースティスと、その娘ココとの同居が決まった。


 彼らが使っていた客間は、そのまま使ってもらって、給金は週五銀貨。屋敷の維持費や改装費が必要ならば、申請してくれれば随時経費を追加すると告げ、とりあえず一週間分の銀貨を前払いで渡す。

 ユースティスから、「こんなに貰っていいのか?」と何度も確認されたけど、私が実家から持たされた額は……まあまあの大金。そこから出すとしたら、正直たいした額ではない。

 彼は、村長から雇われていた時期、家賃不要という事を加味して、週にその1/5しか貰っていなかったそうだ。そして、その額でも彼にとっては十分満足な給金だったそうだ。

 銀貨一枚あれば、地方村なら一週間優雅な暮らしが出来ると聞いたことはあるけれど本当だったのね……。辺境は、何もかも物価が高い王都とは違うらしい。

 

「ユースティス、遠慮しなくていいわ。でも、その分、家事と料理、家の管理はお願いね。私はしばらく休暇を楽しみたいから、あなたに頼ることが多くなりそう」


「――わかった。アンジュ嬢。俺は約束を守る。しっかりとこの雲雀館ひばりやかたを管理して、家政夫として力を尽くそう」

 

 こうして。


 私の三食昼寝&家政夫付きの、優雅な田舎暮らしがはじまった――。

 この無口な家政夫が、かつて大陸に名を轟かせた剣聖と呼ばれた勇者だったと知るのは、もう少し後の話だ。


(続く)

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