第706話 ドーム内部物質を持ちだし熱暴走を食い止める
俺が放った剛隆爆雷斬の爆発につられて、バイオリンク人間達が一斉にそちらの方向に向かっていく。それを隠れた場所から見ていて、タケルが言った。
「ゾンビと一緒だ。光と音につられて歩いている」
「まあ……あれは指示されて動いているんだろう」
「そうか」
数万のバイオリンク人間達が、剛隆爆雷斬が爆発したところに集まり、俺達の周辺からは消え去った。そこですぐに、あの軍事施設に向かう。
「どうやら、やつらは出払っているようだ」
「本当に一斉に動くんだな」
それを見て、シェフチェンコが眉をひそめた。
「恐れを知らない兵士か……しかも、自分の意思とは関係なく、火の中も水の中にも」
「ゾンビなら、死んでっから良いけどよ。痛みも感じるんだろうな……」
タケルの言う通りだった。ゾンビならもはや、人間の意識も無くなっている。だが人間のまま操られるバイオリンク人間は痛みを感じるだろう。意識はないのに、痛みを感じても進まなければならないなど、地獄でしかない。
「急ぐぞ」
奴らが居ないうちに、潜入すれば無駄に殺す事も無い。そこで俺は、大急ぎで軍事施設に潜り込んだ。さっきのルートを辿って、最短であの場所にむかう。だがそこに、奴らの気配がした。
「扉を切っていたからな。護衛を置いているようだ」
「どうする?」
「ゾンビ因子を切るしかあるまい」
状況は切迫している。俺達が、その場所に降りていくと、操られている軍人たちがいた。
「縮地」
一瞬で、そいつらの中心に躍り出て、すぐに魔力を開放する。
「ゾンビ因子除去」
すると軍人は真っ白になりながら、ぱたぱたと倒れていった。それをみて、シェフチェンコが慌てる。
「殺したのか?」
「いや。操られている因子を消した……が目覚める事はない」
「……致し方ないか……」
同じ軍人が眠らされたことで、思う事があるのだろう。だが、今は急がねばならなかった。
「アビゲイル!」
「はい」
再び、あの鉄のドームのところに辿り着く。
「この……おかしな気配に……聞くのかしら?」
ミオが怪訝そうに言うが、今はそれを試してみるしかない。
アビゲイルが言う。
「おそらくは、感染の原理と似たものを使っていると思うのです」
「やってみるしかない」
俺が言うと、アビゲイルが頷いた。
「どうすればいい?」
「動力を破壊すれば、止まってしまうかもしれません。どこかに小さな穴をあけていただけませんか?」
俺は村雨丸を構え、鉄のドームに向かって居合を抜く。
「極光刺」
一瞬だった。
「開いたぞ」
「あ、あのどこに?」
「ここだ」
針ほどの穴を指さすと、アビゲイルが頷いた。
「流石です。これなら、それほど内部には影響がないかと」
そうして、長い針をその穴に差し込んで、出来上がったBISC製剤を流し込んでいった。
「どうか……」
静まり返る。じっと鉄のドームを見ているが、何か変わった様子はなかった。
「失敗でしょうか……」
ドグン!
気配を感じる、俺とミオが反応する。
「……」
「きゃあ」
「ど、どうしました?」
「変な感じが……」
ミオが答える。だが、何か……俺には不思議な感覚だった。
「これは……」
「何かしましたか? ミスターヒカル」
「いや……何か、俺はこれに似た感覚を知っている……」
「なんです?」
「分からん」
分からなかった。だが、この感覚は初めてのものではなかった。なにか、以前に感じた事のある感覚。
その時だった。
ビービービービー!
突然警報が鳴り響いた。それと同時に扉の外に鉄の扉が降りて来る。
ガシャン! ガシャン! ガシャン!
「こりゃ、バレたな……」
「どうするヒカル?」
「退却だ。無駄に殺さねばならなくなる」
「了解」
皆が頷き、シェフチェンコが扉を叩いて言う。
「これは……チタンだ。チタン合金のシャッター……しかも……反響から考えて五十センチはあるぞ……」
俺が、それに答えた。
「問題はない。そもそも元の道を通らない、バイオリンク人間と鉢合わせになる」
「では……」
俺は他の壁に向かって、村雨丸を構えた。
「絶鋼一閃」
壁をくりぬいた。
「行くぞ」
「か、壁も、チタン合金の壁になってるぞ……斬ったのか」
「そうだ」
アビゲイルが鉄の針をドームから抜いて、その先についているものを見る。
「ひ、光ってます……」
その物質……やはり、既視感があった。
「ひとまず回収だ」
「はい」
ケースにそれを入れて鍵を閉め、タケルがそれを持つ。
「いいぜ」
俺が先に進んで、皆が追いかけて来る。バイオリンク人間たちの気配とは、反対側に抜けて外に出た。だが、どこに向かっても恐らくは、奴らに接触してしまうだろう。
「そこの建物に入ろう」
俺は、やつらの気配のない建物を指さす。先ほどの施設からそれほど離れていないが、今下手に動けば必ず見つかってしまう。急いでその建物に入り込み、暗い中を走って奥に行った。
「これは……劇場?」
座席が並んでおり、正面にステージがある。皆が息を切らし、その椅子に座り始めた。
「ひとまず、ここでやり過ごそう」
「そうね」
だがその時、タケルが言う。
「なんか……暑くねえか」
「うん」
「そうね」
ツバサもミナミも同意見のようだった。
「タケル。それ」
持っていた保存ケースが、膨張している。
「な、なんだこりゃ」
タケルが驚いて、床に置いた。次第に、ジュラルミンケースの表面が赤くなり始める。
シェフチェンコが言った。
「放射性物質とかじゃないのか?」
だが、俺が首を振る。
「核とは違うものだ……だが、なぜか俺はこれを知っている」
「なんだ?」
「それが、分からない」
どんどんケースが、変形し始めた。
「や、やべえぞ」
村雨丸を構える。
「氷結斬!」
ビシィ! ケースが凍るが、シュウゥゥゥと湯気を上げた。
「氷結斬ではダメか……」
「ば、爆発すんじゃねえの!!」
「レベル二百解放! 白夜絶界凍!」
ビキビキビキ! 完全に止まった。この中では、粒子すら凍っている。
「と、とまった」
「俺の、剣技が……効かなかった」
初めての事だった。この世界に来てから、俺はいざという時しか、奥義などを使ってはこなかったが、こんな所で使う事になるとは思わなかった。
「なんなんだ。いったい……」
それに、アビゲイルが答える。
「増殖……もしくは、全く新たな物資の存在かもしれません」
「なにかはわからない?」
「それは……分かりません」
膨張は収まっている。今は外のバイオリンク人間の気配も、あの軍事施設に集中しているようだった。もしかすると、じきにここにも来るかもしれないが、今は冷静に次の動きを考えねばならなかった。
「敵の真っただ中だ。下手に動く事は出来ん」
そこで、シャーリーンが言った。
「そして、これ……一体何なんでしょうか?」
「だな」
そこで、オオモリが言う。
「凄いエネルギー反応でしたよね。針も光ってたし」
クキも頷く。
「だいぶマズいものだという事は分かった。あれだけ厳重な施設にしていたのは、中を守る為じゃなく、これの増殖や爆発を、防ぐためのものだったんじゃないのか?」
クロサキが汗をぬぐいながら言う。
「でしょうね。相当な熱量でした。部屋があっという間に、十度以上、あがりましたよね」
ミナミが冷静に言う。
「これ、ヒカルが居なかったらどうなってたかしら」
「かなり危険だったじゃろうな」
エイブラハムも、髭から汗を滴らせながら言う。そこで、シェフチェンコが聞いて来た。
「あんな危険なものを、あの軍事施設では……何をしていたんだ」
そこで、俺が答えた。
「ロシアで見つけた敵が、ウクライナの南部に逃げた。恐らくは、それと無関係ではないだろう」
「あれは……どうなるだろう?」
「分からない。だが、あれが奴らにとって重要な物であることは分かった」
「そ、その通りだ……が……」
誰も説明などつけられなかった。ただしあの物質が何なのか、なぜか俺はあれを知っている気がした。だが思い出そうとしても、何故か思い出せない。
「まずは、俺が気配感知で見張っておく。そしてこれもな」
凍らせたケースを指さした。
「わかった」
今までにない出来事に、俺も答えが出せなかった。それは、ここにいる皆も同じ。
「今までとは違うし、奴らの技術なのかどうかも分からない。だが、俺は、多分これを知っている」
「でもわからないと?」
「そうだ。だが……俺の勘だが、なにか核心に近づいている気がするんだ」
すると、タケルが言う。
「まあ、ヒカルが言うならそうだろ。で、どうすっかだな」
「これを調べられないのかしら?」
「うーん。だいぶあぶねえぜ」
俺は、そこで皆に言う。
「これは、恐らくかなり危険なものだ。これは、俺が持ち運ぶ事にする」
皆が頷く。
「ひとまず、すぐには動けん。皆、ここで体を休めろ」
だがシェフチェンコが、俺に言った。
「奴らが来たら?」
「今は来ない。そして俺の方が、早く気付く。その前に逃げれば問題ない」
「わ、わかった」
そうして仲間は、汗をかきながらも劇場の折り畳み椅子に座り、じっと置いてあるケースを見ていた。今は俺の剣技で凍り付いている。
……何かがおかしい。
俺の奥底が、警鐘を鳴らすほどのものだった。この世界に来て初めて感じる脅威に、俺は思考の底へと沈んでいくのだった。




