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5話 クリスマスのサプライズ

 白い雪景色は黒く染まり、明るいライトがたくさん取り付けられたおじいさんの家以外はすべてがどこか別の世界のように思え、少し怖くなります。

「さて、それでは出かけるとするか」

 おじいさんが準備を整えて寝室から出てきました。

 その姿はイブンにとって不思議なもので、ズボンも上着も、頭からかぶった折れ曲がった三角帽子も、全て真っ赤なのです。

 袖や襟などの縁は白い綿がついていて、ふわふわ暖かそうでした。

 外へ出る扉を開きます。

 今は雪がやんでいて、澄み切った夜空にお星さまがたくさん散りばめられてとても綺麗でした。

 絶好の配達日和じゃ、とおじいさんは笑います。

 玄関の前ではトナカイのトナがソリを引き連れて、おじいさんが来るのを待っていました。

 大きなソリの中は、大きなおじいさんが座る広い場所だけ残して、白い大きな布袋たちで埋めつくされています。

 その中には、アリーが魔法で作ったたくさんのプレゼントが詰まっているのでしょう。

 おじいさんは「よっこらしょ」と大きな体をソリに乗せ、腰を据えました。

「では行ってくるからね、留守番は頼んだよ。イブン、今日は長旅で疲れたじゃろう、ゆっくりお休み。しかし、寝るときに部屋の窓の鍵をかけ忘れてはいけないよ、悪いものが入ってくるかもしれないからね」

 そう言い残して、おじいさんはトナの手綱を引っ張り、ハイホーと声を出しました。

 それを合図にトナは一回嘶き、地面を強く蹴りました。

 ふわりと浮かび上がるトナ。

 つながれているソリも一緒です。

 イブンがここへ来た時と同じように、トナはおじいさんとプレゼントを連れて空の上の見えない道を走っているように、遠くへ飛んでいき、やがて見えなくなりました。

 それを見送った後、イブンは中に入り玄関のドアを閉めます。

 おじいさんが起きてきて出かけるまで、イブンはずっとふてくされた顔をして、一言も口を利きませんでした。

 そんなことをしていたって、何の解決にもならないことは分かっています。

 でもだからといって何をどうすればいいのか全く分からないイブンには、そうする他にどうしようもなかったのでした。

 閉めたドアにもたれ掛かって、大きなため息をつくイブン。

 部屋の真ん中のソファーの上では、疲れきったアリーが倒れ込んでクラゲのようにぐにゃぐにゃになっていました。

「ふああー! 疲れたです、この上なくヘトヘトです。婆さまも、よくこんなこと毎年毎年懲りずにやってたですねー。だからぎっくり腰になんかなるですよ。アリーはもう絶対やりたくないです」

 そんなアリーに、イブンは暖かいホットレモネードを入れてあげました。

「お疲れ様」

「あっ、そんなこと、ぼっちゃんがしなくてもいいですよ!」

 アリーはあわてて起き上がりますが、やっぱり疲れているため、すぐにへなへなと倒れてしまいます。

 そんなアリーを見て、イブンは少し元気を取り戻して笑いました。

「いいんだよ、僕が勝手にやっていることだから」

 二人でソファーに腰を下ろしてホットレモネードをすすります。

 何も話すことがなく、部屋の中はシーンと静まりかえっていました。ただ二人ならんで、じっとしていると、なんだかドキドキしてきます。

 時々、家の外から聞こえてくる強風が窓にぶつかる音と、暖炉の薪が燃えてパチパチとなる音に、少し安心するのでした。

「あ、あの、プレゼントって、どうやって作るものなの?」

 その静けさにもたえられなくなり、イブンは話を切り出しました。

 アリーは何から説明すればいいか考えながら、ゆっくり話し始めます。

「まずは、その作るものに必要な材料を集めるです。材料といっても、お店に売っている新しいものじゃなくても、同じ材質でできたごみやガラクタ、故障品でもかまわないです。それらを魔法陣の上に乗せて魔法の力を注ぎ込めば、できたてのプレゼントができ上がるです」

 午前中、アリーがプレゼントを作っているのを見たときも、辺りにはもう使い物にならないようなガラクタばかり集められていました。

 そうすれば、プレゼントを用意するのにお金がかかりません。

 そんな画期的な方法を発明して、今も続けている魔女たちはすごいと思いました。

「それは、僕には作れそうにないね」

「そりゃあそうでしょうねえ。ぼっちゃんは魔法が使えませんから」

 イブンはしょんぼりしました。

 プレゼントがもらえないなら、自分で作ってしまえばいいと思いましたが、それも無理なようです。

「ぼっちゃんは何が欲しいですか?」

「え?」

「まだガラクタは残ってるです、ご主人様に内緒で作ってあげてもいいですよ」

「……ううん、いいよ。プレゼントが欲しいって言っても、いったい何が欲しいのか、よく分からないから」

「何が欲しいかも分からないのにプレゼントが欲しいですか? ぼっちゃんの考えてることのほうが分からないです」

「うん、何ていうか、プレゼントが何だったとしても、それをもらったときの気持ちって、どんなものなんだろうって、きっと、すごくいいものなんだろうなって思うんだ」

 もらったプレゼントの中身よりも、もらったときの喜び。

 そんなドキドキワクワクした気持ちが、今のイブンにとって一番のプレゼントじゃないかと思うのです。

「ふーん。よく分からないですけど。プレゼントがほしいなら、サンタにならなければいいです」

「そうしたいけど、たぶん無理だと思う。サンタクロースの血を引いている男の子は、僕だけだから」

 サンタクロースの血を引いていないと、トナカイをうまくあやつる事ができません。

 サンタクロースのおじいさんの家には、女の子しか産まれませんでした。

 その一人が、イブンのお母さんなのですが、女の人ではプレゼントを運ぶ力が足りないため、サンタクロースの仕事をすることができないのです。

 だからイブンのお父さんも普通のサラリーマンなので、次にサンタクロースになれるのはイブンだけなのです。

「でもいつかは、本当にサンタクロースがいなくなる日が来るです。それが別に今のご主人様が働けなくなったときでもかまわないのではないですか?」

 アリーやほかの魔女から見れば、その方が好都合なのかもしれません。

 もう大勢の子供たちのために、ヘトヘトになりながらプレゼントを作らなくてすむのですから。

「まだ、よく分からないよ、でも、プレゼントをもらう時って、きっとすごく幸せな気持ちなんだろうなって考えると、その気持ちを与えてくれるサンタさんをなくしてしまうのは残念な気がするんだ」

「まあ、なるようになるんでしょうけどね。でもアリーは、子どもたちがそれほど喜んでいるようにも思えないです。プレゼントをもらえるのも、当たり前になってしまっているですし」

 そうブツブツつぶやくと、アリーは泥のように眠ってしまいました。

 風邪を引かないように毛布をかけてあげ、イブンも寝ようと、貸してもらった部屋へ向かいます。

 ベッドに入るもなかなか眠れず、何度も起きあがってはすぐ側の窓を開けて外を眺めます。

 また雪が降り出してきたので、窓を閉めました。

 だんだん吹雪いてきます。

 強い風がビュンビュン吹き荒れ、家がギシギシガタガタ、悲鳴を上げました。

 何十年もここに建っている家だから、壊れることはないでしょうが、やはり怖い気持ちがこみ上げてくるのです。

 おじいさんとトナは大丈夫かな?

 今、どの辺りを飛んでいるんだろう、僕の家の近くへ行ったかな?

 ジョーやジーにも、プレゼントが届いているんだろうな。

 冬休みが終わって学校に行けば、きっとクリスマスの話でもちきりになっていることでしょう。

 でもイブンにはその楽しそうな会話の輪の中に入ることはできません。

 イブンはまたひっそりと泣きました。

 枕が涙でぐっしょりです、でも止まりません。

 いつしかイブンは、窓の鍵をかけるのも忘れて、泣きつかれて眠ってしまいました。



 シャンシャン、シャンシャン。

 遠くのような近くの場所で、ベルの音が聞こえたような気がしました。

 この後、イブンが体験する不思議なでき事。

 それは大冒険の始まりに過ぎなかったのです。




 朝です。

 まぶしいお日様の光に起こされたイブンは、枕元を見て目を丸くしました。

「えっ、これって……」

 それは黒いかわいいテディベアでした。

 首には白いリボンと、メッセージカードが取り付けてあります。

「メリークリスマス! かわいい坊や」

 カードにはそう書かれています。それを見た瞬間、イブンの胸は大きく高鳴りました。

「プレゼントだ、僕もプレゼントがもらえたんだ!」

 クマを抱きしめて大喜び、このうれしさを誰かに伝えたくて居ても立ってもいられず、プレゼントを持って急いで階段を駆け降りました。

「おじいさん、おじいさん!」

 下の部屋では、少し前に仕事を終えて帰ってきたばかりのおじいさんが、それに合わせて起きたばかりのアリーに入れてもらったコーヒーを飲んでくつろいでいました。

 アリーはまだ眠そうな顔をして、朝食を作りに台所へ向かうところでした。

「どうしたんじゃ、朝っぱらから騒々しい」

「おじいさん、ありがとう、ありがとう!」

「何の話かな?」

「僕にもプレゼントをくれたんだよね、本当にありがとう!」

 夏のひまわりが満開に咲いたようなまぶしい笑顔を見せるイブン。

 きっと今までに、誰も見たことのない最高の笑顔だったことでしょう。

 しかしそれとは裏腹に、おじいさんは顔をしかめて首をかしげます。

「はて、わしは今さっき帰ってくるまで、ここには立ち寄っておらんし、おまえのプレゼントも用意していなかったからな。……もしやアリー、お前さんがこっそり作って置いたのか?」

 おじいさんの疑いのまなざしを受け、アリーは慌てて首をぶんぶん左右に振りました。

「とんでもないです! アリーはさっき起きるまでびっくりするくらい熟睡していたです」

「じゃあ、これは誰がくれたの?」

 イブンは黒いテディベアを両手で持ち上げ、二人に見せるように胸の前に置きました。

 それをみるやいなや、おじいさんとアリーはぎょっとして、何かに怯えるように体を反ります。

「そっ、それは、黒いサンタの……」

「イブン、早くそれを放すんじゃ、外に捨てなさい!」

 おじいさんは立ち上がり、イブンの手からプレゼントを奪い取ろうとしました。

 しかし初めてもらったプレゼント、イブンは意地でも手から放そうとしません。

「イヤだ、これは僕のものだよ、僕がもらったんだから!」

 必死でおじいさんから逃れようと逃げるイブン。

 ふと、何だか急に手が冷たくなっていく気がしました。

 そして体中にぞくっと風邪を引いたときのような寒気を感じ、立ち止まります。

 手はだんだん冷たさを増し、冷たすぎて痛くなってきました。

 手を見てみると、なんとイブンのてはカチコチに凍っているではありませんか。

「な、何これ……」

 手から腕へ向かって、イブンはじわじわと冷たい氷に包まれていきます。

 そのたびに、不思議な声が頭の中を横切りました。

「憎らしい人間どもめ、呪ってやる、みんな凍って死んでしまえ!」

 イブンはとても怖くなりました。

 その声は、テディベアの中から聞こえて来るようなのです。

「イブン! 早くそれを捨てなさい!」

 おじいさんが怒鳴ります。

 しかし、いくらがんばっても、これは手から放れてくれないのです。

 おじいさんはイブンに駆け寄り、素早く黒いテディベアを奪い取りました。

 イブンの手から放れたその瞬間!

 カッとテディベアの目がまぶしい光を放って、おじいさんを包み込みました。

「うわあああっ!」

 その絶叫を最後に、おじいさんは全身を氷で覆われ、銅像のように動かなくなってしまいました。

「お、おじいさん……」

 イブンは訳が分からず、その場に座り込みます。

 相変わらず手は動かないし、おじいさんは凍ってしまいました。

 頭の中が真っ白になって、何も考えられません。

「サラマン サラルラ リンドン シャントン!」

 アリーの呪文か聞こえてきました。

 おじいさんの足元に赤い魔法陣が浮かび上がり、それが赤く光ると、炎が飛び出し、おじいさんを包み込みます。

 その熱が氷を溶かし、シュウシュウと水蒸気の湯気を立ちのぼらせます。

「ご主人さまは大丈夫です、ぼっちゃんも早く台所へ行って手をお湯につけて溶かすです」

 アリーに言われた通り、イブンは台所のコンロに乗せてあった熱湯の入った鍋に手を突っ込みました。

 ジュウ。

 普通ならさわっただけでやけどをしそうなお湯も、今だけはお風呂みたいに気持ちよく感じます。

 手の氷が溶け、自由に動かせるようになる頃には、お湯はすっかり水に変わってしまいました。

 元に戻ってホッとしたイブンが居間に戻ってくると、おじいさんの氷もすっかり溶け、ソファーにうつむせになって寝そべり、腰をさすっています。

「ああ、わしとしたことが油断したわい。腰をやられてしもうた。イブン、あれほど言ったのに窓の鍵をかけずに眠ったな?」

 おじいさんに言われて、イブンはうっかりしていたことを思い出しました。

「ご、ごめんなさい。でも、これはいったいどういうことなの?」

「黒いサンタのしわざじゃよ。黒いサンタクロースの格好をした怪しい奴が、わしの目を盗んでこんな危ないものを子どもたちに送ろうとするんじゃ」

 それは、いつ頃からか、突然現れるようになったそうです。

 枕元に、これと同じ白いリボンをつけた黒いテディベアが枕元にあったら要注意。

 不思議な力で凍り付けになってしまい、そのまま放っておくと死んでしまうのです。

「もう何人もの子どもたちが被害にあっとる。困ったもんじゃて」

 ほとほと疲れはてた、と言った様子でおじいさんはため息をつきました。

「黒いサンタは、どうしてそんなことをするの?」

「サンタクロースに何か恨みがあるのかもしれないし、ただ子どもたちを苦しめたいだけの悪い奴かもしれないです」

 疲れはてたおじいさんの代わりにアリーが言いました。

「ご主人さま、まだ腰の具合がよろしくないなら、ふもとの病院に行って看てもらうといいです」

「なに、心配はいらん。わしはまだまだ現役じゃ」

「何言ってるです、もう年よりの老いぼれなんだから体に気をつけないと来年の仕事ができなくなるですよ」

「老いぼれ……そんなひどいこと言わんでもよいじゃろうに。まだ若いからと励ましてくれてもよかろうて」

「アリー、嘘は嫌いですから」

「まったく、これだから最近の魔女は。仕方がない、ふもとの医者に世話になってくるとするか。トナは仕事あとで疲れとるじゃろ、カイを連れていくとするか」

 どこかで聞いたようなグチをはきながら、おじいさんは出かける支度を始めました。

 普段着の黒い革のコートに長靴、毛皮の帽子を被って、おじいさんは家を出ました。

「こんどこそ、戸締まりはちゃんとして、大人しくしとるんじゃぞ」

 そう言い残して。外からトナカイを引っ張るかけ声と足音がしました。それが聞こえなくなり、辺りはシーンと静まります。

 イブンは同じ場所に突っ立ったまま、床に捨てられた黒いテディベアを見つめていました。

「もう呪文の力は消えてしまったようです、さわっても大丈夫ですよ」

 イブンがずっと物欲しそうに見つめているのに気がついたのでしょう、アリーがそう教えてくれました。

 それを聞いて、イブンはすかさずテディベアを拾い上げ、抱きしめます。

「それ、捨てないですか?」

 アリーが訪ねると、イブンはうなずきます。

「初めてもらったプレゼントだから、残しておきたいんだ」

「どうですか? 初めてもらったプレゼントの感想は」

「……なんだか複雑な気持ちだよ。素直に喜んでいいのか、途中から分からなくなって」

 初めはとてもうれしかった。

 それは本当です。

 でも、今となっては喜ぼうとしても歯止めがかかってしまい、素直に笑えないのです。

 まるで、誰かがうれしさを吸い取ってしまったように。

「まあ、あんなことがあった後ですし、いわく付きのプレゼントですから、仕方ないですけど」

 それでもイブンは、この初めての贈り物をずっと大切にしようと思ったのです。

「アリーは、いつもどんなプレゼントをもらっているの?」

 イブンが気になっていたことを訪ねます。

 するとアリーの表情は瞬く間に曇りました。

「アリーは、生まれてこのかた、プレゼントなんかもらったことないです」

 その声は氷のように冷たく、空気のように何もありませんでした。

 イブンはいけないことを聞いてしまった、と思ってうつむきます。

「ごめんなさい」

「どうして謝るです?」

「僕だけ、プレゼントをもらってしまったから」

「別に気にすることはないです、人間なんだからもらって当たり前なんです。それに」

 アリーの目が赤く光りました。

「人間ごときがもらって喜んでいるようなプレゼント、もらったってちっともうれしくないし、何の役にも立たないです」

 その言葉が、イブンの胸に痛く突き刺さった気がしました。

「でも、クロース一族以外の子どもはプレゼントをもらえるんでしょう? 動物だって、魔女だって」

「それは大昔の話です。時間が経つにつれめんどくさくなってきて、人間にしかプレゼントをあげなくなったです。世の中便利になって、人間の数が増えたのも原因でしょうね」

「……」

 おじいさんは、最初のご先祖さまの言いつけを守っていないのでしょうか。

 それがイブンにとってはとても悲しく、悔しいことのように思えました。

 けれど、その気持ちはイブンの中で何かを煮えたぎらせました。

 自分でも分かるものと分からないもの、二つの決意が心の中でおいかけっこを始めます。 テディベアを抱きしめるイブンの手に力が入りました。

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