空白の三ヶ月間ー二ヶ月目、前編
本編で語られなかった3ヶ月の2か月目、前半です。
‘旋風の雷’として賞金稼ぎとなった坂井俊貴改めサキ。
カガリとともに‘世界を再生するもの達’の情報を集める。
ルイン
魔法世界のハイライト王国にある街。
ハイライト王国の首都ハイライトの次に大きい街。
物流の中心として栄えるこの街には、各国の商人が多く集まり様々な物が各地へと流れていく。
ルイン自体にも店が多いため買い物客もよく集まる。
商店はともかく、宿屋や酒場等施設もそれなりに揃っている。
その中にある酒場のテーブルに座る二人の女子。
1人は、肩まで伸びた黒い髪の毛に赤いメッシュをいれた整った顔立ち。
もう1人は、カールしてふわっとした金髪を腰までなびかせてつり上がった目が気の強そうなのを醸し出している。
二人とも服の上に白いローブを羽織っている。
「…次はどうするのじゃ?」
金髪の女子カガリがもう1人に聞く。
カガリはエルフであり、こうやって人間の多い街に来ることは殆どない。エルフは人を喰う等とあらぬ噂を立てられ、人間から迫害されてきた。
そのためエルフは人間のいない安息の地を求めて人々の目から姿を消した。
エルフは人より耳が尖っている。その違いが人に気味悪がられる原因ともなっていた。
その違いを隠すためにカガリはフードを被る。
「そうだね、適当に1個仕事を受けてから帰ろうか」
立ち上がり、酒場のはしっこに立てられた掲示板に向かう。
その掲示板はギルドが傭兵や冒険者向けの依頼をしている。
その中には、指名手配されている人間のことも載っている。
「…魔物討伐に物品探し、‘世界を再生するものたち’の情報集めしてるのに、まったく情報が集まらない」
依頼を見ながら頭を悩ますサキ。
「いっそのこと、賞金の高い賞金首を狙うのはどうじゃ?」
掲示板に貼られた一番額の高い賞金首を指差すカガリ。
「確かに強いやつなら組織に入ってる可能性も高い…か」
3国の鋭兵を集めるほどだ。強いやつが組織に関わってる可能性はある。
「じゃあ、とりあえずこの人の所に行こう」
金額の高い賞金首をコツンと指で突くサキ。
「わかったのじゃ」
頷き、二人は酒場から出ていった。
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ハイライト王国のはずれ
トルガイア王国との国境沿いにある廃墟。
元は教会だったのだが、周りが森で人通りの少ないこともあり、そこを利用する人が少なかった。
それにより教会を運営するための資金も得ることがままならない。廃れるのは時間の問題だった。
そして、そこを根城にする連中が出てくるのは時間の問題だった。
「ここね…」
カガリが、廃れて蔓が巻き付いている教会を見る。
何とも不気味な雰囲気を醸し出していて、ホントに人がいるのか疑いたくなる。
この教会に今回の目的の人物がいるという情報を得た。
「行くよ」
サキが扉に手をかける。
カガリがそれに頷く。
サキも頷き、扉を開ける。
「…」
中は暗く、窓から差し込む光で少し様子が見えるほどだった。
ズラーっと木製のベンチが縦5列、横2列で並んでいる。ステンドグラスの模様と、光により大きな十字架が神々しく感じる。
空気は埃っぽいのだが、通路を誰かが歩いたような後もあり、人がいたのは確かなようだ。
「…まだ新しい」
膝をつき、通路に残る足跡を確かめる。
埃が被っていない、最近通ったような後。それに足跡の大きさが男と思わせる。
「……見られておるのぅ」
カガリが警戒しながらも教会の中の様子をうかがう。
暗くて光の当たらない奥の方がよく見えない。
「こんな埃っぽいとこいつまでもいたくないし、さっさと片付けよう」
サキが立ち上がり、光の球を周りに6個浮かばせて壁の方にそれぞれ飛ばす。
そして、その場で球を浮かせて電球代わりにした。
「おお、見える見える。……嫌なものものぅ…」
カガリが光の球によりよく見えるようになった。それは、教会の中を照らすには充分で、今まで暗くて見えなかった壁に設置されている4つの扉の隙間から何人もの視線を感じた。
予めフードを被っていたため、顔は見られていないが、扉からぞろぞろと男達がふたりを囲むように出てきた。
ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべて、ふたりの顔を覗き込もうとしている。
「おい、ねーちゃん達。こんなところに何のようだ?」
1人が声をかけてきた。
「俺らのナワバリニノコノコ入ってきて、覚悟はできてんのかぁ?」
周りの男達が笑い声をあげる。
「…邪魔」
サキがボソッと言って、周りをうろつく男達に右の掌を向けた。
「あ?」
急に向けられた掌を見て、男の1人が訝しげに見た。
次の瞬間、その手から強烈な風が吹きサキの前にいた男達が壁まで吹き飛ばされた。
「な!?このアマっ!!」
仲間がふきとばされて男達が杖やナイフ、銃等を取りだした。
「捕らえろ!捕らえたヤツがそいつらを好きにしていい!!」
「うっひょー!」
「やりぃー!!」
下品な声を上げてサキ達に飛びかかる。
「…三下に」
「用はないのじゃ!!」
サキとカガリがタイミングを合わせて風と炎の魔法を使う。
「う、うわー!!」
風により勢いを増して、炎が群がる男どもを蹴散らす。
「な、何!?」
手下が次々と炎に飲みこまれていく。
それをみている手配書に乗っていた男。苦い顔をしている。
「…」
先程よりも小さくなった炎から白いローブを羽織った1人が男に向かってくる。手には見たことのない黄色の剣の様なものを持っている。
「…?」
なぜか途中で止まった。
「ひぃっ!?」
が、急に目の前に現れ首もとに黄色の剣を突きつけられた。
「世界を再生するもの達を知ってるか?」
その白いローブから聞こえたまだ若い女の声。
「は?そんなもの知らねぇよ!」
焦りながらも答える。
そんな組織の名前は初めて聞いた。
「…そう。なら用はないわ」
黄色い剣エレメンタルブレードを振り抜く。
「!」
指名手配された男はその一撃により気絶。手下の男達も気絶、逃亡していた。
「とりあえず、引き渡しとこう」
全員をバインドで縛り逃げれなくするサキ。
「そうじゃの。ったく、今回もハズレじゃな」
カガリもバインドを手伝う。
「うん、中々尻尾を出さないね」
ふう、と小さくため息をつくサキ。
「街に戻って飯食ってから、一旦婆さんとこに帰ろうか。」
最近ルインに居るのが多いため、婆さんに会ってない。
サキは、命の恩人である婆さんにとても感謝していた。
自分の命を犠牲にしてでも助けようとしてくれた婆さん。
その恩を返すために、婆さんの賞金稼ぎとして頑張ってた時の通り名‘旋風の雷’を譲り受け、その名に恥じない活躍をしていた。
今では、魔法世界でその名を知らないものは誰もいない。
それが、婆さんへの恩返しになるかは微妙。
でも、婆さんは恩返しなどいらない、と言ってくるし、困ったこともない、と言う。
恩返しできないよりは、何か役に立つんじゃないか、と資金を賞金稼ぎをして稼ぎ婆さんに送っていた。
「そうじゃな。婆やも1人で寂しがっておるだろうしの」
うんうん、と頷くカガリ。
ほんとは婆さんが心配でしょうがないのが、サキにはわかっていた。
それもあるが、サキ自身も婆さんの体調が最近良くない事に気づいていたため、一旦帰る事を提案した。
そもそも、未完成で安定してない転生の呪文を使って、ただで済むはずがない。消える命を人為的に灯す、人の理を越えた現象を起こす。
そんなことをして、婆さんに害がないはずがない事に気づいていたサキは、不安でしょうがなかった。
サキが教会のドアを開けて外をみる。
遠くから馬車のような音がしてきた。
「カガリ。ギルドの人間が来た。フード被って」
サキがフードを被ってカガリにフードを被ることを促す。
「うむ」
頷きフードを被る。
その間にもギルドの馬車が教会の前まで来て、馬車から4人降りてきて教会の中に入っていった。
「やあやあ、最近よくお世話になりますなぁ」
その中の1人の中年の男がサキに話しかけてきた。
ルインの依頼を管理している男で、それなりに力を持っている男。
見た目、何処にでもいそうな中年のおじさんなのだが、見た目から想像しにくい頭のキレと思いきりの良さ、カリスマを持っていて、1つの街を取り仕切っているだけはある。
「‘旋風の雷’、これが懸賞金だ」
硬貨の入った袋をサキへと投げる。
「!」
まさか投げてくるとは思ってなかったサキは驚きつつも受けとる。
少し重い気がする。
「世話になってるからなぁ。少し色付けといてやったよ」
ニッと笑うおじさん。
それにペコッとお辞儀するサキ。カガリもそれを見てお辞儀する。
「あぁ。そうだ。君達が探してる組織の事と関係あるかわからんが、1つ奇妙な情報を得た」
「…」
サキがフードからおじさんの方を見る。
サキの無言を、話の続きを、と取り話を続けるおじさん。
「最近、いや、少し前から村人が消えた、という情報を得た」
「…どこの村?」
サキが声を出して聞く。
「知ってるかどうかは知らないけど、ハイライト王国の学園近くに位置する村。確かハメットと言ったかな。そこの村人が1人残らず姿を消した、という情報が来たんだよ」
「…ハメット」
その村はかつてサキになる前、俊貴だった頃に、付近で戦争が起こるから被害が出る前に村人達を安全な場所に避難させた。
戦争も終わって今は村に戻っているはずなのだが、誰1人として村に戻ってないようだ。
「…何で気づかなかったんだ」
サキがボソッと呟いた。
何故気づかなかったんだろう。
キャロルに変装してたヤツが、わざわざ自分達に村人を洞窟に避難するように促してきたのだ。それに意味がない訳がない。
世界を再生するもの達に人手が足りないとして、そのハメットの村人達を労力にしたとしたら、姿を消した理由もわからなくはない。
それに気づかなかった自分にホントに腹がたつ。
「行くよ!」
「う、うむ!」
急に俊貴が移動し始めたため、焦って追いかけるカガリ。
「…おやおや、心当たりがあったようだね」
その後ろ姿を見送るおじさん。
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素早くルインへと続く草原を走り抜けるサキとカガリ。
サキはハメットへ行くための中間地点としてルインへ向かっていた。
ホントに誰もいないのか確認したい
「さ、サキ!」
後ろについて走るカガリが声をあげる。
いきなり走り始めたサキについていったため、訳がわからないままだった。
そのカガリの声に速度を緩めて止まる。
「…少し調べたいことがあるんだ。ルインの宿屋で待ってて欲しいんだけど」
カガリに振り返って言うサキ。
「私も行くぞ!」
「来てくれるのはうれしいよ。でも、今回は偵察が目的だから1人のが動きやすいんだよ」
申し訳なさそうに言うサキ。
「…大人しく待っておれ、と言うことか?」
納得いかない、という表情のカガリ。
「うん。待ってて。絶対戻ってくるから」
「…しょうがないのぅ。約束したから絶体戻ってくるんじゃぞ!」
「うん。ありがとう」
「宿屋で待っとるからな」
「…いや、婆さんの所に居てくれ。そっちに戻るから」
「うむ、わかったのじゃ」
「ごめんね」
足にぐっと魔力を込めて、サキは地面を蹴りその場から走って行ってしまった。
「…まったく、しょうがないやつじゃな」
ふう、とため息をつきスルノの森へと向かうカガリ。
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ハメットに着いた頃にはもう夜になっていた。
「…やっぱり人がいる気配がしない」
夜なのに、家には明かりが全くついていない。
それどころか、1ヶ月も放置されていたために、村は荒れ始めていた。
雑草が乱雑に生え、噴水も水が止まり溜まってる分の水面に葉っぱやゴミが浮いている。
「…やっぱりあそこにいるのか?」
人気のない静かな村から、目的地の方を見るサキ。
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ハメットを出て、少し移動した先の洞窟に来たサキ。
ごおおっ、と中から風の音が聞こえてきた。
「…ほんと、自分の詰めの甘さに腹がたつ」
フードを被り洞窟内へと入っていく。
・・・・・・・・・・・
洞窟に入ってちょっと歩いた所で、壁に違和感を感じた。
「この壁の方から風が吹いてる…」
パッと見ただの石壁なのだが、壁と壁の隙間から風が吹いてきていた。
「開くの?」
隙間に手を割り込ませて、壁を引く。
「うっ…くっ!」
ゆっくりと壁が動き、通路が姿を現した。
「ほんと何で気づかなかったんだろう…」
苦笑いするサキ。
音を立てない様に静かに通路を進む。
見た感じ変わった所は見当たらないが、まっすぐの道でもう少し行けば扉があり、違う場所に出れそうだ。
「…」
扉に耳をつけて、人気がないか確かめる。
物音がしないため、人はいなさそう。
そっと扉を開けて、周りを伺う。
通路が洞窟の感じではなくなり、何処かの建物の中の様な感じがしてる。
暗い雰囲気なのは変わりないのだが、燭台が3メートル程の等間隔に設置されて洞窟よりも歩きやすくなっている。
「…何か音がする」
何かを運んでいるような音や、何かを叩く音が通路に小さいが響いていた。
その音の方へと向かう。
そして、音がする扉の前に立つ。
金属製の扉に耳をあてる。中からは数十人はいるような音がする。
静かに扉を開けて、その隙間から中を覗いてみた。
どうやら工房のようで、何か金属を鍛造している者や、その作成した物を運んでいる人がいた。
「何を作っているんだろう…」
作ってる物が何なのかはわからない。
「でも、当たりみたいだ」
その鍛造している人が、ハメットの村人だった。
それもアイギスを魔族で信じられないと言って誤解した村人。
「…でも、まだ助けられない」
そっと扉を閉める。
今ここでそんなことをすれば騒ぎになり、偵察どころじゃなくなる。
「…ちょっとリスクが高いけど、魔力を感じる方から行こう」
この中ではそこら中から魔力を感じるため、魔力を抑えちゃえば簡単に紛れ込めそうだ。
ただ、ローブは流石に目立つ。
「…どうしよっかな」
格好を変えるにしても、ローブ脱いだら私服だし、どうしよう
「ん?誰だ!貴様!!」
「ふぇ!?」
うっかり考えごとしながら進んでいたため、扉の前に立っていた男に見つかってしまった。
「貴様ぁ!どっからしんにゅぶ」
最後まで言わせずに、その男の顎に掌打を喰らわせる。
男は顎を打たれ、その勢いのまま壁で後頭部を強打。気を失った。
「あぶな…。油断しすぎた」
男の襟を掴んで、たまたま目に入った部屋に用心しながらはいる。
そこはどうやら倉庫のような感じの部屋で、物が沢山置かれていた。
棚がずらーと並んで、箱がその棚に置かれている。
「…まぁいいか」
男の格好を見て考えた後、男の身ぐるみを剥がす。
全身黒のジャケットとズボン。サイズが大きかったためにズボンは少しダボダボだが、ジャケットはちょうどいいサイズだった。
「…胸に余裕がある」
普段着てる服はカガリの物をほとんど借りていて、3着ぐらいしか自分では持っていない。元は男だから女物の服を買うのに違和感があるのだ。
「さて、ローブは腰にぶら下げとこう」
腰のホルダーにローブを着けて、部屋からでる。
「ん?何か弱々しい魔力を感じる」
奥の部屋の方から弱い魔力を感じとる。
なんだが、弱ってるような感じがする。
「もしかしたら、もしかするかも…」
助ける、と約束した人がそこにいるのかもしれない。
「魔力を消す…、いや、逆に怪しまれるか」
その部屋に向かいながら、魔力を調整する。
そこら辺にいる魔力と同じぐらいの魔力に抑える。
だが、運が悪いことに、その部屋に近づくにつれて人の気配が多くなる。
十字路に入った瞬間に、横から1人の男とすばったり会ってしまった。
「お、お疲れさまです
」
「おう、お疲れ」
急に横から現れた男に驚きつつも、挨拶したら手で会釈して返事が来た。
び、びっくりした…
でも、やり過ごせた…
ホッとしてから、また奥の部屋へと向かう。
「…こ、ここか」
木製の扉の前に立ち、周りを伺う。この部屋の周りには魔力を感じないし、おそらく誰もいないだろう。
よ、よし
ドアノブを掴んで引く。
ぎいぃ、と音を立ててドアが開く。
中へと慎重に入り、ゆっくりと閉める。
その部屋は、真ん中によくわからない装置に繋がれている女性がいて、その周りにはよくわからない機械が並んでいる。
女性は両手首を鎖で縛られて天井へと繋がれている。パッと見マッサージチェアの様な椅子に座り、両足も動かせないように鎖で繋がれていた。
体には、何個かコードの様なものが繋がれている。
「…なんだ、これ…」
その状況を見て思わず言葉をこぼす。
何の機械だ?
外しても大丈夫なのか?
何が目的でこの人を捕らえてるんだ?
疑問が頭に浮かんでくるが、とりあえず女の人に近寄ってみる。
「…だ、だれ?」
目を薄く開けて、弱々しい声がサキに尋ねる。
「約束、守りに来たよ」
そう言って、微笑むサキ。
「約……束…。でも、あなたは…」
「詳しいことは後で話すよ。今は君を助ける事を優先する」
サキがグルグルと周りを見渡し始めた。
何か解りやすいスイッチみたいなのがないか探すが、見当たらない。
「…こわ、して。この、機械を壊せば、ねじれは、抑えれる…」
頭を悩ますサキに言う。
「え?でも、何かそのコードとかどうにかしないと」
「なら……抜いて。大丈夫、だから…」
女性が弱々しく答える。
その顔には笑みが浮かんでいるが、弱々しい。
「…わかった」
頷き、コードを掴む。
「…いくよ」
「…うん」
声をかけてからコードを引き抜く。
「んあっ!!」
痛そうな声をあげる。
それに思わず手を止めて心配そうに見るサキ。
「…いい、から」
次を促す女性。
「一気にいきます!」
両手でコードを掴み、一気に抜きにかかる。
「ああっ!!」
コードを抜くたびに痛みで声をあげる。
そんな声を聞きながらも、コードを抜き続ける。
「ラストっ!」
ぐっと最後の一本を握りしめて引き抜く。
「ああああっ!!」
「この鎖も!!」
エレメンタルブレードを取り出して、女性を拘束している鎖を切り裂く。
「…」
鎖から解放されて、ゆっくりとサキへと倒れる。
「おっと…」
体に女性の重みをかんじて、優しく支える。
「遅くなりました…」
「…そんなことないわ、ありがとう」
そう言って、自分で体を支える女性。
「たてますか?」
「…何とかね」
サキに支えてもらいつつも立つ。
でも、フラフラだ。
「……」
ローブを頭から被ってすっと、女性に背を向けてしゃがむサキ。
「何?」
「おんぶ。その方が速くここから出られる」
「あら、手厳しい。でも、あなたの言う通りね」
そう言って、サキの背中にもたれる。
「っと、立ちますよ?」
「ええ。お願い」
足に力をいれて立ち上がる。
「…壊しとこうかな」
部屋に設置された無数の機械を見て呟いた。
手を機械に向ける。
「…そうだ。時間差にして、撹乱させとこう」
何個か雷の球を作り出して、その場に浮かせた。
「よし、行くよ」
「ええ」
サキが一声かけて扉をそっと開けた。
周りを伺ってから部屋を出る。
「さっさと逃げるよ!」
走り出すサキ。
その間にも、雷の球を通り過ぎる扉の前に設置していく。
ある程度進んでいった瞬間に、行く手を遮られた。
「っ!?」
「お前は誰だ?」
眼鏡をかけた男が二人の前に立ちはだかった。
その手には分厚い本を持っている。
その男はシュバルツ。
「くっ!」
道を変えようと向きを変えたが、既に誰か立っていた。
手には細い杖を持ち、ニタッと笑う女がいた。
その女はノーマ。
「…っ」
また向きを変えてみたが、やはりそこには既に誰か立っていた。
「おいおい、どこ行こうってんだ?」
薄ら笑いを浮かべる男が立っていた。
その男は、ヴァニタス。
「…最悪」
前へは進めない。後ろは来た道。
サキが苦笑いする。
おはようございます。
お久しぶりです。
勝手ではありますが、この外伝は更新を1ヶ月に1回と決めました。
ただ、ご要望があればそれも変えるつもりです。
とりあえず、更新はしていきますのでよろしくお願いします。