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38話 バルカ最強の盾 アイゼン

鋼鉄国バルガの王城。その最奥に位置する謁見の間は、もはや静謐な玉座の間としての機能を失っていた。

窓から差し込むはずの月光は、渦巻く魔力の奔流に乱反射し、奇妙なプリズムとなって瓦礫を照らし出している。

室内の空気は、暴力的なまでの闘気によって圧縮され、呼吸することさえ困難なほどに重い。

アルトの目の前に立つのは、【バルガ国最強の盾・アイゼン】Lv87。

彼の肉体から放たれる銀色の威圧感と、アルトの足元から這い出す最強の影の冷徹な殺気が激突し、中間地点では空間そのものがバチバチと火花を散らしている。

「……Lv0の小僧。その影、確かにただの魔法ではないようだな」

アイゼンが重厚な兜の奥で、鋭い眼光を光らせる。彼が握る大剣は、バルガが数百年かけて精錬した伝説の特殊合金「重鋼ヘビー・スチール」の塊。その鈍い輝きは、これまで幾千の敵を粉砕してきた歴史の重みそのものだった。

「だが、この国の誇りと歴史を背負う私の剣が、名もなき闇の後塵を拝することは断じてないッ!」

アイゼンが吠えた。彼が重鋼の大剣を頭上に振り上げた瞬間、アルトの全身を凄まじい圧迫感が襲った。重力そのものが歪み、床の石畳がミシリと悲鳴を上げる。

「影、頼む」

アルトが短く、静かに命じた。

その瞬間、最強の影が動いた。

音はない。爆発的な踏み込みによる風の音さえも置き去りにした、物理法則を無視した「移動」。次の刹那には、影が形作る漆黒の大剣が、アイゼンの脳門を真っ二つに叩き割る死の軌道で振り下ろされていた。

――ガキィィィィィィィィン!!

金属同士がぶつかり合う音を越え、空間そのものが悲鳴を上げたような衝撃音が轟く。

アイゼンは、その巨躯からは想像もつかない神速の反応で重鋼の大剣を水平に掲げ、影の一撃を真正面から受け止めていた。

「ぐ、おぉぉぉぉぉッ!!」

アイゼンの足元を中心に、巨大なクレーター状に石畳が粉砕される。

アルトはその光景に息を呑んだ。Lv87。かつてフェルゼンで見た、魔導士の身体強化で無理やり引き上げられた「偽りの高レベル」とは、その密度の次元が違った。

アイゼンの力は、数十年という年月を戦場で過ごし、数万回の死線を越えて練り上げられた「鋼の結晶」だ。

「重い……! 魂まで叩き潰すような一撃だ。だが、このアイゼン、折れることはあり得んッ!」

アイゼンは食いしばった奥歯から血を滲ませながら、全身の筋肉を爆発させ、影の大剣を力任せに跳ね上げた。

影の体勢がわずかに浮き、一瞬の隙が生じる。アイゼンはその刹那を見逃さず、巨躯を独楽のように高速回転させた。

《鋼破・旋回断スチール・サイクロン

凄まじい遠心力を乗せた、銀色の死の嵐。アルトの視力では、もはやアイゼンの姿は閃光の残像としてしか捉えられない。

しかし、最強の影は、空中で重力を無視するように姿勢を制御し、漆黒の刃を垂直に立ててその回転を受け流した。

激突するたびに、美しい青白火花が散り、生じた衝撃波が広間の巨大な石柱を飴細工のように薙ぎ倒していく。

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