第22話 武天リッカロージャ
アーバイン=ブレイブ=トライスター。
疾風を纏いながら唐突に現れ、アルト達を蹴散らした青年は、自らの正当性を主張するような自信に満ち溢れた笑顔を此方に向ける。
「侵入者が居ると思って来てみたけど、まさか女の子が二人とは……やれやれ、これは少しばかりやり難いかな」
片手を腰にあててそう言うと、アーバインは苦笑気味に肩を竦めた。
見た目は爽やかさのある若者。身体つきもたくましいとは言い難く、何処にでも居るような好青年に思えるが、彼を目前にした三人……特にカンナギは青ざめた表情で、カタカタと小刻みに震えていた。「また怖がりが始まった」、などと茶化す言葉が出るはずも無い。何故ならばこのアーバインと名乗る男、とんでもない化物じみた力を持っていたからだ。
「随分と乱暴な登場だな。テメェ、何処に隠れていやがった」
「別に隠れてないさ。寝所に人の気配を感じたから、確認しにやってきただけだよ。王宮の方から、急いで」
「王宮の方から?」
「う、嘘です!」
まだ若干震えながらも、カンナギは声を張り上げる。アルトの背中越しに。
「王宮から寝所まで、けっこう距離があるはずなのです。気配を感じたからって、急いでこられるわけが無いのです!」
「でも、気配は、無かった。少なくとも、直ぐに駆けつけられる、距離には」
ロザリンの言葉に、信じられないといった表情をアーバインに向けた。
「そう驚かれると、困ってしまうな」
軽く肩を竦めて、アーバインはさも当然のように言い切った。
「単純な魔力による身体強化さ。勿論、超過に耐えうる基礎体力の構成も必要だけどね」
「つまりは、自分はすげぇって自慢したいのか? 嫌味な野郎だぜ」
「いや、別に自慢しているつもりは無いんだけどね」
刀に手を添えながらの言葉に、少し困ったようにアーバインは自分の頬を掻いた。
自然体な佇まいで此方に対する敵意は感じられないが、背中にじんわりと汗が滲む感覚は不気味だ。この手の化物とは何度も剣を交えてきたが、アーバインの底知れ無さは別格の威圧感があった。
竜の称号持ちか、少なくとも騎士団長クラスの実力を持っているだろう。
此方の警戒心など物ともしないよう、アーバインは微笑みを湛えながら一歩踏み出す。
「ここはとても神聖な場所でね。部外者は立ち入りを禁じられてるんだ、知らなかったかな」
「ああ、そいつは知らなかったな。けど、アンタだって俺らの事は言えないだろ?」
「それを言われてしまうと弱い。これは、一本取られてしまったかな」
言い訳すわけでも不快な顔をするわけでも無く、アーバインはまるで友人同士が軽口の叩き合いをしているような態度で会話を続ける。此方を敵と認識していないような、脅威に全く思っていないような素振りは、悪戯っ子を相手にする話のわかる大人のようだ。
その態度がどうにも、アルトには気に入らなかった。
「それで? わざわざ見せびらかすような駆けつけ方して、ここで俺達を始末しようって考えか」
「見せびらかすつもりも、無いんだけどなぁ」
困り顔でアーバインは後頭部を掻く。
「それに始末というのも誤解……いや、この場合は早とちりかな。兎に角、俺の方からは積極的に、君達を傷つけるつもりは無い。出来る限りね」
アーバインは自分の言葉が事実だと示すよう、両手を広げて攻撃の意思は無いと主張する。それを見たカンナギが、後ろからアルトのコートを引っ張ってきた。
「も、もしかしてあの人……話のわかるいい人では?」
「……さぁて、どうかね」
一見すれば物腰の柔らかい優男。しかし、どうにもアルトは気に入らなかった。
単純に、透かしたような堂々とした態度が、何処かの第一騎士団の団長を思い出して気に食わないのもそうだが、このアーバインという男とはどうにも気が合いそうにない。例えるならば水と油のような。
アーバインの余裕に満ちた表情とは対照的に、アルトには緊張感が走る。
「君達が何者か……は、深くは聞かない。大方の予想は付いているからね」
「へぇ、そいつは参ったな。ピュセリアの人間だって見抜かれちまったか」
「それが嘘だって言える程度には、見抜いているつもりさ」
誤魔化す為に発した言葉も、笑顔交じりに否定されてしまう。
「現状で、ピュセリアが都に忍び込む理由は無い。当然、ロンベルもね」
軽い冗談のつもりだったのだろうが、反応が無かった事に残念そうな顔をする。
「君達は今回の出来事に異変を感じた、オラシオン武国内部の人間だ。調査だけでなく直接、国家神を狙ってきた事から、君達のボスは政の中央から距離を置いた人物。行動の早さから考えて、相当の切れ者なのだろう……だとすれば」
アーバインの視線に鋭い光が宿る。
「ジェラルド=カインベルト」
よどみなくハッキリと言い切った。
「――んなあっ……もがッ!?」
ワザとかと思うくらい大袈裟に絶句するカンナギの口を、後ろから慌ててロザリンが押さえ付けた。本当に見抜いていたのか、それともただのブラフなのか。真相は不明だが、今ので確実に自分達がジェラルドの手の者だという事がバレてしまっただろう。
「だったら何だってんだ? 問答無用で、斬り合うか?」
言いながらアルトは、刀の鯉口を親指で切る。
「荒事は苦手なんだ。投降して貰えないかい? 手荒な扱いはしないって約束するよ」
「悪いが断る。こっちも一食一飯の義理ってモンがあるんでね。それに、テメェらのやり口は気に入らねぇ。手を汚さず、身内を使って内側から国を食い破ろうって頭のいい戦い方は、俺の主義に反する」
「被害を最小限に抑えられていいと思うけれど、君の言い分もわからなくは無いよ」
そうニッコリと笑うアーバイン。つくづく気に入らない男だ。
「やっぱり気に食わねぇな、アンタ……うだうだ言ってねぇで、意見が対立したんならやる事は一つだろ。違うか?」
「……やれやれ。穏便に済ませたかったんだけどね」
アルトは柄に手をかけるが、アーバインは気が乗らないのか嘆息するだけで、腰の剣に手を伸ばす様子はみられない。この期に及んでまだ話し合いを続けるつもりか? 怪訝そうに眉を潜めた瞬間、アルトの身体は宙を舞っていた。
「――な、なんとおっ!?」
宙を舞っているのはアルトだけでは無い。背後に隠れていたロザリンとカンナギも、まるで突風に舞い上がる木の葉のように、軽々と上へ吹き飛ばされていた。
原因は目にも止まらぬ速度で突進し、アルト達を弾き飛ばしたアーバインだ。
「は、はわわわわ!?」
「こっ、これ、は!?」
「そうなると申し訳無いけれど、俺も全力で戦わせて貰うよ。痛かったら、ゴメンね」
そう謝罪しながら宙を舞う少女二人の背に、同時に左右の掌底を叩き込んだ。叩く、というより手で押すに近い一撃は、体重が軽い上に空中に浮かんでいる少女二人を容易く弾き、立て直そうとしたバランスを崩した二人は、でんぐり返しでもするよう床に転がった。
「ロザ――ッッッ!?」
叫ぶより早く、逆さまになっているアルトの眼前にアーバインが迫ってきた。
早い。同じよう掌底を打ち込むモーションに入っていたアーバインに向かって、アルトは腰の刀を逆手で抜き最速で斬り付ける。
「――むっ!?」
身を屈むだけで容易く回避されたが、掌底の動きはキャンセルさせられた。
その隙に身体の上下を入れ替え地面に着地すると、逆手に持っていた刀を両手に握り直しながら視認では無く、直感だけを頼りに後ろを振り向いて刃を叩きつける。金属音と共に激しい火花が散り、交差する刃の向こうでアーバインが驚いたような顔をしていた。
「凄いな、君は。今の動きを捕捉できるなんて」
「冗談じゃねぇ、化物かテメェは!? 人間だったら、もっと常識の範囲内で動きやがれってのッ!」
叫びながら柄を握る手に力を込め、強引にアーバインの剣を押し返した。
アルトは視線だけをロザリン達に飛ばしながら叫ぶ。
「――寝所へ走れッ! この馬鹿は俺が引き付けるッ!」
「――!? うん!」
尻餅を突いていたロザリンは大きく頷くと、まだ目を回しているカンナギの襟首を掴んで、寝所の方へ向かって走り出した。アーバインは視線で二人の姿を追うが、立ち塞がるアルトの方を脅威と判断してか、やれやれとした表情で剣を構える。
「僕も余裕が持てないな。極力頑張るけど、怪我をしても恨まないでくれよ」
「そうかい。俺は殺すつもりで行くぞ、怪我が怖くて斬り合いなんかできねぇからな!」
物腰の柔らかいアーバインと粗野なアルト。
実力者でありながら対照的な両者は、真正面から刃を交える。初手、強力に鋼を叩き付けあった次の瞬間、空間を裂く斬撃の応酬が始まった。曲がりなりにも元エンフィール王国の騎士であったアルトなら、刃を合わせれば相手の実力を大よそだが把握できる。
(この野郎――ッ!?)
(……強い)
互いの力を垣間見て、自然と殺気が高まる。
切れ間なく鳴り続ける剣戟。殺す気で攻めかかるアルトに対して、アーバインの戦い方は何処か消極的に感じられた。
「テメェ、自分から喧嘩売ってきた分際で、攻めっ気が足りないんじゃないのかッ!」
「攻め立てるだけが剣術じゃないさ。まぁ、攻めに向いて無いのは自覚しているよ」
絶え間ない攻めは強引にアーバインのガードをこじ開け、踏み込みながら連続した斬撃を放つ。が、軌道とリーチは既に見切られているのか、アーバインは後ろに下がりつつ紙一重で切っ先を回避されてしまう。
「ただ――」
返す刀で薙ぎ払った一撃を躱し、アーバインの姿が揺らめくように正面へと走る。
「――なにッ!?」
「苦手なんだよ、人を傷つけるような争う事が」
平和的な文言とは裏腹に、伸ばした掌底がアルトの腹部に叩き込まれる。
分厚い紙袋が弾け飛ぶような音と共に、掌底の一撃は腹部に染み込むような鈍痛を与えた。衝撃は腹を通して内臓を搔き回し、背中へと抜けていく。饒舌にし難い、痺れるような痛みは腹部より内臓と腰、背骨に大きな負荷を与えた。
「がッ、ぐッ……こ、こんにゃろッ!」
「――おっと」
全身の筋肉がつるような激痛を押し殺し、追撃する隙は与えないと逆に足を一歩踏み出して剣を振り下ろす。鋭さは大幅に軽減していたが、反撃されるとは思って無かったのか、アーバインは驚きの表情と共にあっさりと身を引いた。
「凄いな。気絶させるつもりで放ったのに」
「うるせえッ。悪趣味な戦い方しやがって、危うく食ったモン全部吐き出すところだったぞ」
感嘆するアーバインを睨みつけ、顔を顰めながらアルトは身体を支えるよう正面に刃を突き立てる。
「それは勘弁して貰いたいな。さっきも言った通り、ここは神聖な場所なんだ」
「それで殺さないように手加減ってか? 胸糞の悪い野郎だぜッ」
吐き捨てながら腹筋に力を込めて、アルトは刀を構え直す。
アーバインは苦笑しながら。
「プライドを傷つけてしまったのなら謝罪するよ。それに、手を抜いてはとてもじゃないけど、君を無力化は出来そうにないからね……申し訳無いけど、少し本気でやらせて貰うよ」
「少しだと? 舐めるのも大概に……!?」
しろ。言いかけた瞬間、正面のアーバインの姿は消え背後に殺気が現れた。
「――ッ!?!?」
首筋が粟立つような悪寒に押され振り向きざまに刀を構えると、いつの間にか背後に回っていたアーバインからの一撃を受け止めた。
「凄い反応速度だ。強いね――」
言葉の途中で交差する刃の圧が消え、今度は左真横から殺気が走る。
「――君は」
「――ぬおっ!?」
慌てて飛び退いた直後、次は右側からアーバインが出現。ほぼ条件反射で構えた刀で、辛うじて攻勢を阻む。
明らかに異常な速度だ。目で追えないどころの話では無い。
今まで速さを自慢にした敵と数多く戦ってきたが、アーバインの動きは速さ、速度という概念を根底から覆している。視覚できない速さで移動しているわけではない、気が付けば背後に、真横に移動しているのだ。どんなに素早い人間でも人の気配は完全に途切れない以上、反応出来るかは別にして意識で追うことは可能なのだが、アーバインが行った一連の動作にはそれが無かった。
瞬間移動をしている。そう言われても信じてしまいそうな動きだ。
手の内を思考する間も与えぬとばかりに、アーバインは前後左右、あらゆる場所に出現しては斬撃を繰り出してきて、動きが全く見切れないアルトは防戦一方。頭に来るのはそれだけ決定的場面を幾つも作りながらも、アーバインは致命傷になるような攻撃をしてこないこと。つまりは手を抜かれているわけだ。
必死の形相で刃を弾きながら、涼しげな表情で戦うアーバインに怒鳴りつける。
「テメェ、あからさまに手を抜きやがって、舐めてんのかッ!」
「まさか。強いよ、君は。本当さ」
微笑みながら全く信頼に値しない言葉を平然と吐く。
「ふざけやがって。だったら今度は俺の本気、チラッとだが見せたやるよッ!」
鳴り響く剣戟が音量を増す。動きが見切れない以上、出現の気配だけを頼りに身体能力を最大限に生かしアルトは刀を振り乱す。バネのように撓る俊敏な体捌きが、防戦ではあるが鉄壁の動作でアーバインの斬撃を阻み、飛び散る火花の向こうで涼しげだったアーバインの表情に驚きの色が宿った。
だが、それでもアーバインの攻勢を崩すまでには至らない。
「いや、凄いよ。感心してしまう……故郷でもここまで戦える人間はいなかった」
「そいつはありがとよ。けっ、汗一つかいてない分際でッ」
極限を越えた動作に、アルトの筋肉は熱を持ち始め額にびっしりと汗が浮かぶ。休む間もなく繰り広げられる攻防に、疲労も徐々に蓄積し始めたのか、膝や肘、手首は肩などにピリピリとした痺れるような痛みが走り出した。
(ヤベェな。このままじゃジリ貧だ……何とか打開策を見つけなけりゃ)
「やれやれ。僕としたことが、あまりに楽しくて本分を忘れるところだった」
焦りが募り始めた頃、唐突にアーバインの気配が消えた。
「――なにッ!?」
切れ間なく続いた攻勢が止まる。
虚を突かれ勢いを止められずバランスを崩したアルトは、その場に片膝を突くように倒れ込み一回転してしまう。
すぐさま顔を上げ、アルトは寝所の方を見ながら叫んだ。
「来るぞロザリン! 避けろ!」
ちょうど二人が寝所の扉に差し掛かった時、立ち塞がるようその前にアーバインが姿を現した。まさか、後ろからならまだしも、正面に回られるのは予想外だったのだろう。ロザリンとカンナギは目を見開き急停止する。
「……えっ!?」
「ごめんね。痛いだろうけど、我慢して欲しい」
困り顔で告げながら、アーバインは驚きに止まる二人に向けて剣を構えた。
「――させないのです!」
動けないロザリンに代わり、瞬時に反応を示したのはカンナギ。懐から短刀を取り出すと、逆手に持って斬りつけようとするが、アーバインは難なく回避する。逆に無防備になった首根っこを掴まれ、拘束するよう上へ持ち上げられてしまった。
「は、はわわ……離せ、離すのです!」
小柄なカンナギは暴れるよう身を捩るが、完全に身体が浮きあがった状態ではバタバタと足を振るだけ。反応は良かったのだが相手が悪過ぎた。殺気が無かった事が幸いしたが、殺す気があれば今頃カンナギは真っ二つだろう。
「反射的に掴んでしまったけれど、これは逆にチャンスかな」
言いながらカンナギは、腕を伸ばし持ち上げたカンナギを此方に向ける。
「人質のようになってしまって申し訳ないけれど、どうか神妙にして欲しい。何度も言うように手荒な真似はしたくないんだ、本当なんだよ?」
微笑を浮かべながら、アーバインはさり気なく動こうとするロザリンを視線で牽制する。
意図せず囚われの身となってしまったカンナギは、抜け出すのは不可能と察してか暴れるのを止めると、今にも泣き出しそうな申し訳なさげな表情でロザリンとアルトの顔を交互に見た。
「うぐぅ。申し訳ないのです。かくなる上は、わたしに構わず御二人は脱出を……」
「いやいや、そういうわけにもいかんだろ」
勝手に覚悟を決めるカンナギの言葉を否定すると、少女は椎茸の断面図のような目で此方を見詰める。
「あ、アルト殿……まさかわたしの身を案じてくれるのですかぁ?」
「いや、普通に逃げられねぇだけだ。そいつ、口調こそは普通だが、絶対に逃がさねぇって面構えしてやがる」
刀の切っ先を向けるが、アーバインはニコニコと笑みを崩さない。
「むきー! 一瞬でも感謝感激したわたしの感動を返すのです!」
カンナギはまたジタバタと暴れ始めた。
あの瞬間移動じみた動きがある以上、逃げ切るのは不可能だろう。かと言って戦ってもジリ貧、現状で打てる手段は皆無だ。妙に正義感ぶった甘さが鼻に突く男だけに、危害を加えないという弁に嘘は無いだろうが、彼の背後にいる人物やヤルナッハまで同じ考えとは限らないだろう。
「……絶体絶命ってヤツかよ」
最悪、自分が殿となってロザリンだけでも外に逃がすか?
そんな考えが頭に過った瞬間、ゾワッと全身が粟立つような感覚が走り抜けた。
気の所為などでは無い、明らかに空気が変わった。アーバインの性格からか、何処か生温く半端だった緊張感は張り詰め、ぐらぐらと湯が沸騰する直前のような揺らめく闘志が、この地下広場全体に広がり始めていた。
「な、なんだッ!?」
「……これは?」
同時に驚きの声を漏らす。と、言うことはアーバインの仕込みでは無いのだろう。
全身に圧し掛かる重しのような威圧感に、疲労とは別の脂汗が額に浮かぶ。
『なっとらん、貴様ら、全くもってなっておらん!』
老若男女、様々な声が重なる声色が、怒気と共に空気を震わせた。
何者だ? そんな単純な質問が喉を通らないほど、圧倒的な威圧感が場を、人を支配しアルト達を黙らせその場に縫い付ける。
『久方ぶりに心躍る戦場が見えると思うたら、なんじゃこの体たらくは。失望した、心底失望したぞ』
声の出どころは直ぐに判明した。
アーバインの直ぐ背後、寝所の扉、その向こう側からだ。
「まさか、武天、なのか?」
辛うじてアルトがそう口にすると、怒気に満ちた空気が肯定するように揺れた。
ガゴッと、思い歯車が廻るような音が響き、ゆっくりと寝所の扉が開いていく。溢れ出るのは熱すら感じるような闘気と、今すぐ膝を突き平伏したくなるような存在感。あのアーバインですら表情から笑みを消し、敬意を払うかのように開き始める寝所の扉から距離を取った。
数秒かけて、木製の扉は開かれる。
そこに立つ御方こそ武天リッカロージャ……神にも等しいその存在は、ロザリンよりも幼い童女の姿をしていた。




