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その日一羽の梟が死んだ(「姫と大梟」拾遺)

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01 ある女より


 姫様の御輿は今朝山に入ったってさ。立派な輿だよ、宝石がいくつもいくつもきらきらついててさ……。一度はあんなのに乗ってみたいねえ。きっと中もうっとりするような乗り心地に違いないねえ。

 でも、あんなのを着なきゃなんないならお姫様にはならなくていいよ。あんなんって、見なかったのかい? 姫様のマントをさ。

 真っ黒でおぞましい、あの化け物の羽根でできたマントさ。

 なんでも王様が、化け物を倒した証拠がてら輿入れ道具のひとつにしたんだって。

 毒? ああそうさ、あれの羽根は触った途端に地面も真っ黒になるような毒があったはずなんだけど、不思議なことにね、死んだ途端に消え失せちまったらしい。

 地面の毒を広げないようにって死骸を荷台に乗せたとき、誰かが気付いたんだって。それで、水の張った桶に魚と一緒に入れておいてもぴんぴんしてる。刻んで犬の餌に混ぜたってのも聞いたね、でもちっとも死にゃしない。それで羽根を毟っても、洗っても、マントにしたって大丈夫ってことになったらしい。一本向こうの仕立てのじいさんなんて、何度も羽根に触ったって。そうさ、今朝も大声で馬鹿話してたろ? 死んじまったらただの鳥、羽根がでかいでくのぼうだったんだと。

 それで姫様ぴったりの大きさに誂えて、着ていくように決まったのさ。

 ああいやだ、毒がないからってあんなおぞましいものの羽根、姫様だって身に着けたくないはずさ。あたしだったら、一生結婚できなくたってあんなの着たくないね。

 それに、……こんなこと言っちゃあいけないけど、あんた黙ってられるだろう? みんなこっそり思っていたはずだけどね。

 あれじゃ、小さな雌梟だ、って。

 

 

 

 

 

02 ある兵士より

 

 風がびゅうびゅううるさくってね。あたりには何もない、暗くて星が瞬くだけで、だから恐れるものなんて何もないってのに、風が吹くたびにこっそり肩を揺らしてた。風の音にまぎれて、ホウ、ホウ、なんて聞こえてきそうでね。

 山賊も居ないが、ねずみも、蟻の一匹すらいない。それがどんなに不気味なものか、あんた知ってるかい。これからあそこに生命が戻るなんて信じられないね。草の一本だって怯えて芽を出したがらない。

 ひとつ幸いがあるとすれば、おれたちの仕事が山頂までだってことくらいだ。山頂を越えたら半分がうちの国に帰って、もう半分が山を越える。向こうの国から迎えの一団が来るんだそうだ。

 あの化け物が居たのは山頂だってんだから、ほんとうは近づきたくもないけど。

 いや、もちろんわかってる。かの騎士テオフィードとその仲間が、しっかり討伐したんだってこと。恐れるものはもうなにもないんだってこと。

 姫様かい? 静かにしていらっしゃるよ。おれたちもだが、姫様も、化け物を見てる。まして姫様の御許にゃあれがあるんだろう。あれってそりゃあマントだよ。化け物の羽根でできたマントだ。

 陛下もなにを考えてらっしゃるのか、姫様だってあんなのが側にあったら恐ろしいだろうし、なによりあんなに一緒に居た騎士テオフィードのかたきだろう。憎いし、怖いし、おれだったらきっとどうにかなってしまうな。

 姫様には王子が居てくださってよかった。向こうの国も歓迎しているだろう。つらいことがあったんだ、姫様はしあわせにならなくちゃいけない。

 風がびゅうびゅう吹く。焚火がおれたちの影をひどく揺らした。紛れる音なんて、どこにもなかったさ。

 

 

 

 

03 

 

 


 


 

 ひめさまは  ふくろうになってしまわれた


 

 

 

 

 

 

04 青い星の国より

 

某月某日 早朝 合流予定日

陽が中天に昇る頃に合流の予定だったが、早朝に女性の悲鳴あり。早急に駆けつける。

悲鳴の主はリューリエ姫の侍女であり、赤い星の国の騎士も悲鳴の原因から一定距離を置いていた。

原因はこの時点では黒い塊にしか見えなかった。大きさは少女が横たわった程度。上から塗料をかけたように黒以外の色は見えず、地面にも同色が広がる。

接近しようとしたが止められる。毒だという。兵士を一人確認に行かせる。

塊は鳥の羽根だった。例の梟の羽根を使ったマントが少女を覆っていた。髪は赤みの紫。リューリエ姫かと思われたが、肌は夜闇と同じ、マントと同じ漆黒に染まっていたため判断不能。吐血の様子が見られた。

その後、手を触れないよう厳重に移送。後、遺体に毒性はないことが証明され、埋葬のため衣服を変えようとしたが、羽根のマントが身体に張り付いており困難であった。原因は不明。

やむを得ずマント着用のまま埋葬を行う。

同行の兵士は、夜間に梟の声を聞いたという。雌雄つがいの声だったというが、周辺調査に生物の痕跡無し。

恐怖による幻聴とみられる。

 

 

 

 

05 

 

ほう、呼ぶ声が聞こえた。

愛しいひとよ、待っていて。

あなたと同じに参りますから。

小さな唇が、輿の中でひっそり音を紡いだ。

 



 

ほう。



 

 

 

 

 

 

18.01.17

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