さいかい
国が滅びて、一年がたった。
つまりは魔物たちの王が消えて、魔物たちがいなくなって、一年たったということ。
国の復興は上手くいっていない。王は死に、後を継ぐはずの王家の人間も今はどこに居るのかまったく分かっていない。
人々は復興の進む他の国に流れ、元々生き残りが少なかったのにさらに人は少なくなってしまった。
慢性的な人手不足が続いている。
他にも多くの事があった。
クリアスやフェルドが顔を見せに来たこともある。
クリアスはその技術を持って多くの人を癒して帰っていった。フェルドはと言うと、忙しい忙しいと言って仕事に忙殺されながらも顔を見せてくれた。
みな、アルフの事を気にかけて、探してくれているらしいがまったく手がかりがつかめていないらしい。
そもそも、生きているのかすらわからないのだ。
空を見上げる。
蒼く、遠い空を。
平和だ。
本当に、一年前までが嘘のようだった。
これまで、ひたすらがむしゃらに先に先にと前だけ見つめて来た。
国の復興という大きな事柄で気持ちを隠してきた。
「アルフ……」
この気持ちをどうすればいいのか分からない。
なぜあの時、きちんと話をしなかったのだろうか。
なぜあの時、アルフ達についていかなかったのだろうか。
後悔だけが後に残っていた。
一年と言う時間では、未だに消えないその深い後悔。
私は、弱くて意気地無しで……アルフについて行けなかった。
もしも私がいたら……いや、いたとしても何もできなかっただろう。
私なんかがいても、魔物の王相手に攻撃すらできなかったはずだ。
でも、それならあんな別れ方はしなかったはずだ。
最期の会話がただ『必ず帰る』とだけだったなんて。
「あ……」
私は馬鹿だ。
まだ、アルフは死んだってわけじゃないのに。
まだ、ま、だ……。
でも、もうそれも……絶望的なのではないだろうか。
ふと、そんな考えが浮かんでしまう。
一年と言う時間は短いけれども長すぎて。
考えたくない考えを、持ってしまうほど長すぎて……。
「早く、帰って来てよ……アルフ……」
人々はシルビアやクリアス達を勇者として祭り上げていた。
いまや、魔物たちの王を殺した英雄だ。
しかし、同時に一部の人々たちから疎まれている。
元々地位のあった者やあの戦いで命を落とした人々の家族からだ。
なぜ、もっと早く王を殺さなかったのか。
そう、責められているのだ。
そう、無理なことを言われ非難されているのだ。
あんな恐ろしい存在に立ち向かったこともないのに、なんでそんな事を言えるのか。
だけど、私は王を殺したパーティの元メンバーだったから、彼等に何も言えなかった。
しょうがない事なのだ。
あの存在の恐ろしさを、彼等は知らない。
アルフたちがどんな思いで立ち向かって行ったのか、私だって知らない。
都から離れた場所に、丘がある。
そこを上がると都が一望できた。
今は見る影もない。まだ片付けられていない瓦礫が積み上げられ、人々がまばらに住んでいる。
それが、小さく見える。
昔は、よくここで二人で遊んでいたっけ。
そんな事を思い出す。
都に有った教会は、まだ少しだけ形をとどめている。
そこから少し離れた場所に新しい家が建っていた。この前、ようやく完成した。
少しずつ修復されている城はとても大きかった。
「私に、勇気があれば……」
魔物たちの王。彼に立ち向かう勇気があれば、あんな別れはしなかった。
こんなに後悔する事も無かった。
あの時違う選択をしたとしても、やっぱり後悔していたのだろうけども、何度も振り返ってしまう。
私は、あの時なぜ故郷に戻ってしまったのだろう。
思い出すのはいつだってあの夜のこと。アルフと喧嘩をした、あの、酷く苦しかった夜のこと。
「……あの時、もっと」
初めて相対した魔物たちの王はとても恐ろしくて、もう戦えないのなら、故郷へ戻ろうと思ったあの日。
それを告げた時のアルフの表情が頭から離れない。
なぜ、と。どうして、と。私に問いかけるような、愕然とした顔。
嗚呼、でもそれも、少しずつ風化して何時かは思い出せなくなるのだろう。
このまま、終わるのならば。
「わたしに、もっと……」
勇気があれば
未来も過去も変えられたのに。
「それは違う」
「――え?」
その声は、とても懐かしくて。
「勇気がなかったのはあの時のオレなんだ」
振り返れなかった。
もしかしたら、これは夢なんじゃないのかと思って。
振り返ったら、この魔法は消えて、やっぱり私は独りでこの丘に居るんじゃないのかと思って。
それに、もう諦めていたことだったから。
「オレは、本当のことを言えなかったから」
近づいて来る気配は、本当に生きている人のそれで。
その手が身体に触れた時、ただ彼に抱きついていた。
「ごめん。遅くなって」
「……ばか」
「独りにして、ごめん」
「……ゆるさない」
「約束は守っただろ?」
「おそい……よ」
顔を上げれば、けんか別れしたあの時と、まったく変わらない彼の顔があった。
「あの時、一人で帰るっていったリリーシャの方が、ずっと辛かったはずなのに、勇気が必要だったはずなのに、素直に言えなくてすまなかった」
「……」
「オレは……お前を自分の手で守りたかったから、ずっとそばにいて欲しかったんだ」
世界が救われて、一年がたった。
未だ、国々に残った傷跡は生々しく、心の傷も深い。
それでも、復興の兆しは見えていた――。
なぜか急に恋愛ものを書きたくなりました。
でも、自分にはハードルが高かった……。
とにもかくにも、お読み下さりありがとうございました!




