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その日、世界は救われた



「嗚呼……」


 目の前に広がる世界。それを見た人々が、声を漏らす。

 魔物の脅威から逃れるため、都から離れた山の地下に隠れていた私達が見た世界。そこにあった光景 を、私は一生忘れないだろう。


 宝玉の都と呼ばれた美しい故郷は見る影も無く。

 巨大な災厄に踏みにじられ、人々が生きていた証すらことごとく破壊されていた。

 燃え残った建物は一つもない。唯一、王城が酷く壊されながらもそびえていた。

  ほか、崩れた物は元がなんだったのかすらわからない。

 ただ、あの辺には教会があったとか、なんとなくはわかる。


 その日、一つの王国が滅びた。

 私達が愛した国は、もうないのだ。


「……どうすれば」


 どうすればいいのだろう。

 この残酷な世界は、私たちから何もかも奪ってしまった。

 彼は、間に合わなかったのだ。


 いや、一つだけ残った物がある。

 この命だ。


 絶望にむせぶ人々の中で、私は独り。

 でも、それでも、希望を信じていた。


 なぜなら、魔王は死んだからだ。

 この国が滅ぶのは止められなかったが、魔物の王は死んだ。

 魔王の元に集っていた魔物たちが逃げ去っていったのだから間違いない。

 なら、彼はきっと帰ってくる。


 魔物の王が世界に現れたのは数十年前だと言われている。

 始めは数の少なかった魔物たちは容易く対峙されて問題にされていなかった。

 しかし、国同士のいざこざから戦争がはじまると、魔物は急速に数を増やした。

 国の王たちが気づいた時には遅かった。

 人々が争っているその最中で、魔物たちは力を溜めていた。

 すぐに国々は魔物に侵略されていった。

 戦争が終わり、人間同士がようやく手を結んだのは遅すぎて……。


 この国が魔物たちに侵略されたのは数年前。

 私達は必死に抵抗して、ここまでどうにか持って来た。

 でも、一年前、魔物の王は突如この世界をすべからく掌握すると宣言し、その宣言通りの展開となっていた。


 しかし、この世界は救われた。

 もう死の恐怖におびえることなどない。

 だけど、泣きたくなるのはなぜなのだろう。

 もう故郷が滅びてしまったからか、それとも……。


 嗚呼、彼等はどうなったのだろうか。

 魔物の王を討ちに挑んだ命知らずの彼等は。


 ふと、遠くから何かが来るのが見えた。

 人々は魔物が戻ってきたのかと慄き、混乱が始まる。

 恐怖が、蘇ったのだろう。


 どこからともなく現れた飛竜は町を焼き尽くした。

 人々を殺しまわったのは醜悪な姿の小鬼。

 凶暴化した獣たちが森から現れ、動く物すべてを葬った。

 そんな魔に染まってしまった者たちがまた、またもや来たのかと。


 しかし、それはいい意味で裏切られる。


「助けだ! 助けが来たぞ!」


 誰かが叫んだ。

 その声は周囲に木霊する。

 様々な口でその事実が伝えられた。

 希望を、人々は伝えあいながら、周囲の空気は変わっていった。




 助けは来た。


 現れたのは周囲では魔術大国と呼ばれていた国の魔法使いだった。

 以前、会ったことのあるその魔法使いが告げたのは、残酷な事実。

 この国以外には完全に破壊されてしまった国は無いらしい。しかし、その被害は凄まじく、どうにもこうにも出来ていないのが現状だった。


「リリーシャ」


 私の名を、誰かが呼ぶ。

 始めは空耳かと思っていた。


「リリーシャ! よかった、生きていたんだね」


 飛びついて抱きついてきたのは魔法使いであることを示す黒のローブをまとった少女。


「シ、シルビア?」


 驚いて返すと満面の笑みを浮かべていた。

 数か月前まで一緒に戦っていた、魔法使いだった。



 私とシルビアがあったのは、一年ほど前のことだ。

 魔物の王を倒すと言った幼馴染に私は巻き込まれて、一緒に魔物たちと戦っていた。

 魔術の国に辿り着いた時に出逢ったのがシルビアで、ひと悶着の後に共に魔物たちと戦う仲間となった。

 最初はぎくしゃくした関係も、最後に別れた時はとても心強い仲間だった。


「よかったぁ、本当に良かったよ……」


 人目をはばからずに涙をこぼしながら、シルビアは咽びいた。


「シルビア、また会えてうれしいわ……」

「あたしもだよ」


 ようやく離れたシルビアは、涙を袖で乱暴に拭きながら頷く。

 そして……酷く暗い顔をした。


「あのね、リリーシャ……伝えなくてはいけないことがあるの」


 神妙なシルビアに、私は小さく頷き返した。





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