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ドールマスターヒロシ  作者: 我島甲太郎
2.World’s Last Glass Ceiling

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第38話 どらごんのしっぽ

 夕方までユーバンタ公園でのんびり過ごした後、うちなー女子の山城(やましろ)七海(ななみ)とDカードのIDを交換して別れた俺は予約していた残波のロイヤルなホテルで一泊した。


 翌日は路線バスで本島南部の那覇に行って、都心の繁華街を思う存分観光。

 それから糸満ダンジョン近くの平和祈念公園まで平和の(いしじ)を見に行った。

 修学旅行先が沖縄になった学生が必ずと言っていいほど平和学習で行くところね。


 成人済みの一般市民が容易にダンジョンの中へ避難可能な上に食料問題すらもアイテム結晶で全て解決できる関係か、現地住民の戦没者よりも本土からやってきた軍人の戦没者の名前の方が圧倒的に多く見受けられた。

 それでも元の世界より2倍近く多い50万人もの戦死者が出ているのだから、両国にとってどれだけ厳しい戦いだったかが身に染みるように分かるというものだ。


 戦争の歴史に触れてしんみりするのはこのくらいにして、楽しかったイベントの話をしよう。


 その日の夜は糸満ダンジョンで不良探索者狩りに勤しんでいた卑弥呼(ひみこ)に誘われて、地元のタンク達と一緒に飲み会に行った。

 耐久のステータスが高いとほぼ酔えないんで、雰囲気だけ味わった感じだ。


 お酒の代わりに甘い物ばかり飲み食いするから、耐久特化のタンクには肥満体型の人が本当に多い。

 脂肪を燃焼させて自己回復する覚醒スキル【森神の贅肉】持ちの【力士】なんて、それこそ肉の鎧が生命線に他ならないから仕方のないことではある。


 その翌日は取って返すように本島北部の名護まで行って、最近開園したジャンガリア沖縄とかいうハムスターがマスコットキャラのテーマパークで遊び倒した。

 ハムカーっていうモ〇カーのパクりっぽい車でリアルな恐竜ロボットのうろつくジュ〇シックパークのようなジャングルを大冒険だ。


 恐竜ロボットが余りにもリアル過ぎてビビった客にしょっちゅう壊されるらしく、それの賠償金で運営費を稼いでいるってレビューサイトに書いてあった。

 旅行好きの探索者が主な客層だからってアコギな商売するよね、まったく。


 更に翌日は本部町のちゅら海水族館に足を運ぶ。

 【海女】のスタッフと巨大水槽で交流するジンベイザメを眺めたり、【酪農家】のスタッフと一緒にショーをする賢いイルカ達から海水を浴びせられたりした。

 午後からはダンジョンモノリスのおかげで偉く発展している伊江島をぐるっと一周して、夜行フェリーで鹿児島に戻る。


 更に更に翌日は鹿児島のお高い温泉宿で優雅に一泊した後、せっかくなので桜島もちょっとだけ観光して、それからリニア新幹線に乗って神奈川へと帰った。

 家に着いたのはその日の夕方のことである。


 出発したのが7月6日で帰ってきたのが7月12日なので、結局6泊7日の長旅だ。

 1週間以内には納まったし、深層探索前のいい休暇になってよかったよかった。


―――――


 次の日の朝、人形達を連れて伊古田製作所の事務所に顔を出した色黒でアロハシャツにグラサン姿の俺は、山ほどのお土産をテーブルの上に積み上げていた。


「ヒロくん、凄い日焼けしてるね……」

「ジャンガリア沖縄で遊んだ時、日焼け止め塗り忘れちゃったよ。ま、これも一つの経験ってことで」


 バランスを崩して床に転がり落ちたハムカーのぬいぐるみを拾い上げてぎゅむぎゅむと揉み込むと「PUIPUI」と版権がヤバそうな音が鳴る。


 家族の分と高野の分を合わせると持って帰るのが明らかに無理な量になってしまったので、結局ほとんど速達で郵送して貰っちゃった。

 こうなるともう通販と何も変わらないけど、旅の思い出だけはプライスレスだ。


「もえもえ、はやくサンにどらごんのしっぽをつけてほしいのだ」

「わたしはいつでも準備万端だよ。ヒロくん、ぬいぐるみで遊んでないで装備結晶出して!」

「あいよー」


 俺が渡した装備結晶を萌が現実化(リアライズ)すると、彼女の手に(あか)い鱗で覆われた太い尻尾鞭が現れた。

 先っぽを掴んで引っ張ると軽く20mは伸びる面白いギミック付きの蛇腹鞭だ。


 ちょっと気になったので60層で珊瑚海蛇と戦った探索者の動画をDTubeで探して見てみたんだけど、攻撃範囲が超広くてかなり厄介なボスっぽかった。

 七海はあんなボス相手によく野良パーティーで周回したものだと感心する。


 あれで【精霊使い】でさえなければ今頃は地元攻略クランの主力にもなれていただろうに。

 ま、その時は彼女とフレンドになるようなエモいイベントは絶対に起こらなかったと思うし、結果がよければ全てよしとしておこう。


「サンちゃん、鱗の色は赤がいい? それとも他と合わせた黒がいい?」

「われはあんこくどらごんだからできればくろがいいのだ」

「よしよし、それなら吸血大蝙蝠の翼の時みたいに黒く染めてから組み込もっか。ちょっと工房の方に行ってくるね」


 参号が見たいと言うので俺達も一緒に着いていき作業工程を見せて貰ったが、町工場の外の敷地で物凄く伸ばし切った蛇腹鞭を紐で吊るして、専用の塗装スプレーをまんべんなくぶっかけていた。

 晴れてなかったら乾くのにも結構な時間が掛かったみたいだから、こちらでも梅雨が明けていてよかったと思う。


 塗装が乾いて黒く染められた蛇腹鞭の持ち手部分を工房内の作業機械を使ってジョイント機構に改造した萌は、事務所の作業台の上でうつ伏せになった参号の腰をガリガリ削って上手いこと尻尾として接続できるように弄り回した。


「うおー、こしのおくがごりごりいうのだー」

「サンちゃん、もうちょっとだから我慢してね。……はい完成。後は馴染むのを待つだけだよ!」

「いつも助かるよ、萌」

「愛するヒロくんの為ならなんでもしてあげちゃうもんね。ところで、お礼代わりにゼロくん弄ってもいい?」

「それは駄目」

「あーん、ヒロくんのいけずぅ~」


 この間着ていたゴスロリ服は結局駄目になっちゃったので、羽根穴と尻尾穴付きの新しいゴスロリ服を支給された参号は嬉しそうな顔をしてビシッとポーズを取った。


「われはついにねんがんの、どらごんのしっぽをてにいれたのだ!」

「わーぱちぱちー」


 俺は手を叩いて拍手をした。

 みんなもそれに合わせて拍手をする。

 ワニ革のビキニ、蝙蝠の翼、蛇の尻尾といよいよキメラみたいになってきたな。


「サンちゃん、試しに動かしてみて」

「こうか、こうか? うー、なかなかむずかしいのだ……」


 第三の腕になった蛇尻尾は伸びたり縮んだりしてあちこちにぶつかってしまう。

 蛇腹剣みたいに刃物が付いているわけじゃないからまだ安全な方か。

 弐号はソファをバシバシ叩いていた参号の尻尾を掴み取って止めた。


「室内で振り回すのは危険だ。これはダンジョン探索中に訓練した方がいいだろう!」

「しかたない、しばらくかんちょーぼんばーはおあずけなのだ」

「我慢できて偉い! 偉いぞー!」


 かんちょーぼんばーがあまり好きではない俺は、その言葉が嬉しくて嬉しくて参号の頭を撫でて褒めちぎった。

 よーしよしよしよし、もう一生やらなくていいからねー。


「マスター、次の用件を済ませに行きましょうか」

「あー、そうだな。萌、また今度ね」

「行ってらっしゃーい」


 萌はこれから知人の探索者に頼まれたセクサロイドの新しい外装を設計加工するらしい。

 腕の立つ人形師は非モテの独身男性から需要が多く、何より稼ぎがいいのである。


 伊古田製作所の事務所を後にした俺達はその足で高野宅に顔を出して大量のお土産を押し付け――彼の親戚に配らせるつもりだ――ついでに買ってきたご当地特撮番組「琉人(りゅうじん)マブヤー」のDVD鑑賞会を始める。


 ホテルでDVDを借りて見た1話時点ではかなり出来が良かったので、帰ってから高野と一緒に続きを観ることにしたのだ。

 こういうのは1人よりも2人で駄弁りながら観る方が絶対に楽しいからな。


「変身ライダー系は僕の興味対象外だったんですが……結構面白いですね、これ」

「だろ? 俺も気に入ってんだよね」


 「琉人(りゅうじん)マブヤー」好きJC【人形使い】の紅亜(くれあ)と組んで新生【ボマー】を目指すつもりの七海には、俺がこれまでのダンジョン探索で(つちか)った知識の全てを伝えてある。

 【精霊使い】に詳しいのだって【ボマー】の弟子だからで全部ゴリ押せるからな。


 紅亜(くれあ)の連れている「琉人(りゅうじん)マブヤー」を模した人形は、今見ている作中に登場するマブイストーンっぽい見た目に加工した人形の核にそれぞれ別の種類の属性を付与してぶん投げ【自爆】させる感じの運用になると思う。

 フラワーさんの現代版、新生【ボマー】に相応しい派手で格好いい必殺技だ。


「あらら、もう終わっちゃいましたか」

「予算が少ないローカル番組だし、こんなもんだろう」


 「琉人(りゅうじん)マブヤー」は1話15分で全13回だったのですぐに終わってしまった。

 それにしても、1話1話が短い割にかなり濃い内容だったな。

 沖縄観光した直後だからか、ローカルネタを結構理解できたのが嬉しいところだ。


「コミカライズ、打診してみようかな……」


 またこの人はそんなこと言ってる。

 すーぐ何かに影響されるんだからさぁ。

 生半可な気持ちで手を出しても編集に見抜かれてボツになるだけだぞ。


「実はもうされてるよ」


 ここで隠してあった単行本を御開帳。

 こんなこともあろうかと、全巻セットで買っておいたのである。


「あ、そうなんですか。それはそうですよね」


 ついでに劇場版のDVDも用意した。

 へへへ、まだまだパーティーは終わらないぜ。


「マスター、先に昼食にされませんか?」

「もうそんな時間? じゃあ壱号、何か土産を使って適当に作ってくれないか」

「それでは、沖縄そばでも作りましょう。すぐにご用意しますから、少々お待ちください」

「ハカセさん、早く映画を観ましょうよ」

「ああ、そうだな。こっちは90分もある大長編みたいだから楽しみだぜ」


 壱号に作らせた沖縄そばを(すす)りながら食い入るように映画を観る野郎二人組。

 床に転がって尻尾に持たせたクレヨンでスケッチブックに下手くそな落書きをしている参号とそれを見守る壱号。

 弐号は眠らない人形のはずなのに、何故か両腕を組んで居眠りしている……。


 俺と高野の休日はそんな風に沖縄一色で過ぎ去っていったのであった。

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