【第15章|おまけ】
第十五章:母の背中の先で
退院して、数日が過ぎた。
まだ痛みはある。
歩き方も、ぎこちない。
けれど私は、
確かに「歩いて」いる。
ふと、母のことを思い出す。
三十五年前。
母がこの手術を受けたとき、
私はただ、その背中を見ていた。
動けなくなった母。
包帯に巻かれた足。
介助に通った日々。
あの時の私は、
何もできなかった。
そして今。
私は、自分の足で、
自分の意思で、この手術を選び、
ここまで来た。
同じ病名。
同じ手術。
けれど、時代は変わった。
母は一週間、寝たきりだった。
私は四時間で起き上がり、
自分でご飯を食べた。
母は痛みに耐えながら、
長い時間をかけて回復していった。
私は、医療とリハビリの中で、
少しずつ身体を取り戻している。
それでも。
私の中には、確かにある。
母の背中を見ていた記憶が。
あの時間があったからこそ、
私はこの選択を恐れすぎずに済んだのかもしれない。
完全に元通りになるわけではない。
ペンギンのような歩き方も、
しばらくは続くだろう。
それでもいい。
私は、もう一度、
自分の足で歩いていく。
母の背中の、その先を。
そして今、ようやく思う。
これは「治療」ではなく、
──生き直しだったのだと。
----
おまけ
■「あると便利なもの」と「要らなかったもの」
入院生活を終えてみて、実際に役に立ったものと、そうでなかったものをまとめておく。
【持って行ってよかったもの】
・マジックハンド
・靴下補助具(履くときに使用)
・吸水速乾タオル(大小)※レンタルなしの場合
・パジャマ2組※レンタルなしの場合
・大きめのハンドタオル(3枚ほど)
・ノイズキャンセリングイヤホン(必須)
・ご飯のお供
・女性用トランクス(必須/傷に触れない)
・大きめのポンチョ(掛ける・敷く・羽織る)
・手を使わずに履ける靴(必須)
・ベッドに掛けられるポケット(樹脂製が便利)
【要らなかったもの】
・使い捨て清拭タオル※
・ドライシャンプー※
・除菌シート※
・ウェットティッシュ※
(※重たいだけで、あまり使わなかった)
・ヘアミルク類(かえって不快感が増すこともある)
■番外:嵐の理学療法士
退院まで、あと十日。
その日、私は比較的穏やかに過ごしていた。
――はずだった。
気配もなく、ふっと現れる人がいる。
「腕は確か。でも痛い」
そう評判の理学療法士だ。
その日は、担当ではないはずだった。
それでも彼は、何事もないように近づき、静かに言う。
「ちょっといい?」
拒否する理由は、ない。
次の瞬間。
的確に、痛点を捉えられる。
思わず声が漏れる。
自分でも分かっている。
そこが一番痛い場所だということを。
だが彼は、迷いがない。
「ここ、固いね」
その一言とともに、
ためらいなく圧が加わる。
痛みは強い。
けれど、それがただの刺激ではなく、
確実に身体の奥に届いていることも、同時に分かる。
後日、執刀医が言った。
「あの人、俺より見極めるよ」
その言葉に、少しだけ驚いた。
医師がそう言うほどの技術。
だからこそ、
その手は正確で、容赦がない。
彼はきっと、
痛みを取り除くために、
一番痛い場所を外さないのだ。
嵐のように現れ、
嵐のように去っていく。
残るのは、
じんわりと広がる痛みと、
少し軽くなった身体。
そして、少しだけ前に進んだ実感。
あの時は、
ただ痛いだけだった。
けれど今は思う。
あの一撃一撃が、
確実に回復へと繋がっていたのだと。




