【第1章|第2章】
第1章:あの日、母が倒れた
母がいまの私と同じ年齢だった頃、その日は突然やってきた。
「足が動かない」
そう言って床に伏した母は、そのまま起き上がれなくなった。
少しでも動かそうとすれば、顔を歪めるほどの激痛が走るという。
まだインターネットなど影も形もない時代。
原因もわからず、父も私もただ狼狽えるしかなかった。
「寝ていれば治る」と自分に言い聞かせるように母は三日間耐えたが、ついに父が救急車を呼んだ。
診断名は、変形性股関節症。
重度だった。すぐに手術が決まった。当時の人工股関節は「寿命は二十年」と言われ、術後のリハビリも血が滲むような過酷なものだったと聞いている。
第2章:遺伝という名のタイムリミット
十年前、私も同じ病名を告げられた。
「いつか母と同じ手術をするんだろうな」
ぼんやりとした予感はあったが、経過観察をしながら騙し騙し仕事を続けていた。
ところが、ある日の仕事帰り、段差に足を取られた。
痛む方の膝を強打。診断こそ「打撲と捻挫」だったが、あの日を境に股関節の奥底で何かが壊れたような気がした。
隙間のない関節を、外から無理やり押し込まれたような、逃げ場のない痛み。
私は意を決し、かかりつけの整形外科の門を叩いた。
「手術をしたいので、診断をお願いします」




