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5.地下牢

青い一筋の光が射し込むと徐々に膨らんでいき、光が消え去ると一人の人間がうずくまるように現れた。


「んん…ここは……?」


赤い絨毯にどこまでも延びている通路。装飾の施された壁や照明、窓枠。数多くの扉がある。窓から眺めた外は緑溢れる広い庭。どこも何もかも見覚えがあった。


「旧フェンリル城か…」


先の大戦、ナロニカ戦役にてナロニカ帝国に攻められ、滅びた国の首都。ここで国王や多くの兵士、使いの者たちが殺害された。最後の最後まで立てこもった城である。ナロニカ帝国に滅ぼされたのだから今はナロニカ帝国の領地の一部になっているのだろう。


「ナロミーネ姫殿は無事であろうか…」


ずっと気掛かりだったのはそこだ。ロリスを庇うため、もう戦力がなくなったとして敵陣に投降したのだ。「私が投降している内に遠くに逃げなさい」と。もし自分がいなければそんなことをしなくてよかったのではないかと思ってしまった。

投降した後、どういう扱いを受けたのか、どういうことが起きたのか…何も情報が入ってこないのだ。


「しかし…旧フェンリル城にいるのも皮肉なものだ」


ロリスは苦笑しながら立ち上がり、腰に剣を差す。かるくお尻の埃を払い、歩き始める。

ナロニカ帝国が占領しているか、廃城にされているのか、そこらはまだ確認はできていない。今のところ視界に人らしい人を見ていないのだ。下手をすればまた屍を見る可能性もある。

ロリスは階段をゆっくり降りていると、カシャカシャと鎧特有の音が聞こえた。その音は段々近づいてくる。


「帝国兵か…?」


ロリスは剣の柄に手をかける。次の瞬間、前方から槍を片手に持った警備兵と思われる二人がロリスの姿を見て矢先を向けてくる。


「チィッやはりナロニカかっ」


ロリスは跳躍し、槍の攻撃をかわす。階段の段差のところで戦っているので足場は安定していない。ロリスが相手の腹部をけり飛ばすと、相手は階段から足を踏み外し、転がり落ちた。残った一人の槍の柄をつかんだところ、上から援軍が現れた。


「どっから侵入して来た!?」


「捕らえろ!」


怒声が飛び、剣先が空を斬る。ロリスはしゃがんだり、横に跳び、かわしていたが、痺れを切らし、剣の柄を握り剣を抜こうと抜きかけた瞬間。


「だぁぁぁぁぁっ!!」


気合の声と共に一人の兵士がロリスに飛びかかった。ロリスが剣を抜ききる前だったのでその相手を斬ることはできず、重い兵に抱きつかれバランスを崩した。そこで最悪だったのは階段で戦っていたことだった。足場が不安定なため、踏み外したのだ。


「何っ!?」


飛びかかって来た兵士は必死にロリスの二の腕をつかんでいる。というわけでロリスは頭を守ることもできず、頭から床に叩きつけられたのだ。


「うぐぅっ!」


堪えられずロリスは呻き声をあげる。襲いかかって来た兵士はロリスの上に馬乗りになっている。ロリスが動こうにも鎧を着た兵士は洒落ならなく重い。馬乗りなどされている場合余計力が入らないのでどうしようもない状況だ。


「この野郎がっ!」


馬乗りになっていた兵士が思いっきり拳を振り上げ、ロリスに向かって放った。ロリスはしまったと思った瞬間には左頬より強い衝撃と痛みがはしり、くらっとした。頭をうちつけたのと殴られたことによって意識が朦朧とし、ロリスの視界はぶれた。


「通行書、及び証明書を出せっ」


そう馬乗りになった兵士が言ったのがロリスの耳に残っている。その後胸をまさぐられ…そこでロリスの意識は絶えた。




ムニ


「ムニ…?」


胸をまさぐっていた兵士は胸が膨らみをおび、柔らかく温もりを感じたことに困惑した。


「捕まえたか?」


階段から兵士たちが次々降りてくる。馬乗りしていた兵士は放心したようにぼんやりと宙を見ていた。


「殺しちまったのか…?」


放心している兵士とぐったりとしたまま動かないロリスを見比べて駆けつけた兵士は尋ねた。


「女の子だった…」


馬乗りしていた兵士はボソッと呟いた。


「あ?気付かなかったのか?どーみても女だろ」


馬鹿にしたような呆れたようなニュアンスで兵士は言った。ロリスを囲んで意識レベルを確認する。


「気絶してやがる。身ぐるみはがして牢屋へ入れるぞ」


そう言い一人の兵士はロリスの服の帯を解き始める。


「わぁぁぁぁぁーーーーっ」


その様子を見て馬乗りしていた兵士は服を脱がそうとしていた兵士を慌てて突き飛ばした。突き飛ばされた兵士は顔をしかめ、突き飛ばした兵士を睨みつける。


「何するんだ!フォンル!」


「お、女の子の服を脱がすなんてダメですよ!しかも意識ない子を…」


「はぁ?馬鹿かお前。凶器持っていたらどうすんだ?」


フォンルと呼ばれた馬乗りしている兵士はロリスを守るべく、近寄る者を払いのけた。


「あー、セリナさん。ちょっといいですか?」


フォンルは頭を抱えた後、たまたま通りかかった城仕えの女性に声をかける。セリナは兵士たちがゴチャゴチャ集まっているので不審に思い、眉を寄せながら近寄る。


「何か…?」


「あー、えとですね…不審者を確保したのですが、女の子だったので…」


顔を真っ赤にしながら必死に話すフォンルを見てクスッと笑うと


「わかりました。それより、どけないと可哀想ですよ?」


と言った。


「へ?は、はいっ!」


フォンルは慌てて腰をあげ、バランスを崩して床に尻餅をついた。気絶したロリスは兵士たちによって空き部屋に運び込まれ、セリナが中に入った。


「それでは男性陣は廊下でお待ち下さい」


「な、何かあったらすぐに呼んで下さいよ!?」


フォンルが真剣な顔で言うと再びセリナは微笑んで頷いた。兵士たちが部屋の外へ出るとセリナは鍵をしめ、閉め出した。閉め出された兵士の方は…


「…フォンル」


「ん?」


「とりま、一発殴らせろ」


兵士たちがフォンルを囲み、ニヤニヤ笑いながら拳を鳴らした。フォンルは黒い陰で覆われる怪物の如く見える兵士たちを不思議そうに見上げた。


ズガァァァァッ


物凄い音と共にフォンルは数メートル飛び、壁にぶつかるとぐしゃっと潰れた。


「こんのバカッ」


「お前なんか一度死ねっ」


兵士たちは喚きフォンルを罵った。兵士たちは飢えた獣のようだったのだ。折角転がり込んで来たメスをいざ戴こうとしたところ、動物飼育員がトコトコやってきてメスを別の所に連れて行かれた気分だった。


「いや、だって…」


「お前、真面目すぎ!だから彼女できねーんんだよ」


「どーせ侵入者なんだ。何したっていざとなれば殺せ…ば」


「女性を何だと思っているのですか…」


兵士が熱論している最中にセリナが現れ、ため息交じりに言った。兵士たちはバツの悪そうな顔をし、目を逸らした。


「女性にも人権あるんですから」


「そーですね」


兵士たちは棒読みで合掌した。


「あんまり酷いと合コン中止しますよ?」


セリナは腰に手を当て、頬を膨らませながら言った。セリナは城仕え女性陣の合コン幹部を務めているので彼女の一言で女性陣の合コン事情が変化する。兵士たちにとっては偉大な存在なのだ。


「あー、そいつは勘弁を…」


「そりゃないよ…」


「いいえ。伝えときますわ。早まった決断はしないように。と男性陣は飢えた野獣だとね」


セリナはツンとし、そっぽを向いた。兵士たちは機嫌を直そうと必死だ。口は災いの元とはよくいったものだ。


「セリナさん、結果は…」


フォンルは囲まれているセリナにおずおずと聞いた。


「あ、はい。腰に差していた剣以外危険なものはなかったですよ」


「そうですか。では牢屋に運びますか」


「あ、私も同行しますっ!」


フォンルたちが空き部屋に入り、ベッドの上で横になっているロリスを担ぎあげ、運ぼうとするとセリナが挙手して言った。


「あなたたちに任せると何するかわかりませんもの」


「信用ガタオチだな…」


「当然ですっ!」


兵士たちはぼやきながらロリスは担いでセリナと牢屋へと向かった。牢屋は薄暗く、地下にあるため少々ひんやりしている。今は特に罪人はいないので牢屋は全部空いていた。牢兵が兵士たちを見て敬礼し、セリナを見て首を傾げた。


「皿でも割ったのか…?」


「付き添いですっ!」


セリナは牢兵の質問に苦笑しながら言った。初めて入る場所だったので少々気持ちが高ぶっていた。牢の一つが開けられ、中の冷たい床に寝かせる。牢兵が気付いたように袋から手錠を出し、ロリスの手にかける。


カシャン…


手錠のかかる音が静かな牢屋に響き渡る。セリナは哀れむように眠り込むロリスを見つめる。兵士たちはひとり、ふたりと牢屋を去っていく。牢兵は手錠が外れないことを確認し、牢に鍵をかけた。


「今日の夕方には兵士長が戻られるだろう。その時に取り調べを行う」


「え、えと、じ、自分は同行しなくてよろしいでしょうか?」


フォンルは自分を指さして牢兵に聞く。牢兵は少し考えてからフォンルに聞き返す。


「喋りたいか?」


「いいえ」


フォンルは正直に答えた。牢兵はそうかそうかと頷き、「じゃあ残れ」と言った。


「所持品は?」


「この剣だけらしいですね」


「剣だけ?通行証とかは?」


「私が探しましたけどありませんでしたよ?」


セリナはロリスの方をちらりと見ながら言った。


「どっからきたんだこいつは…」


牢兵は倒れているロリスを見ながら言った。

こうしてロリスは地下牢に閉じ込められた。フェンリル王国は見る影も無く、ナロニカ帝国に制圧されてしまったのだろうかー……

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