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落星の継承者  質量変化の重戦士  作者: 青井リンボ
始動編
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第9話

 中央都市エクスランドに複数ある商業区の一つ、バーゲル通りにサビたちは来ていた。周囲はレンガ等を使った建物が並んでおり、道行く雑多な人々で混雑している。

 

 二人は雑に敷かれた石畳みの上を歩きつつ、目的地である工房に向かっていた。

 店の並ぶ通りには数件おきに武装した男達が簡易の詰め所に集まっており、強盗等が起きた際の対応として一帯を管理する組織が出資し自警団を形成している。

 

 酒や肉などの嗜好品を取り扱った酒場や、日用雑貨を取り扱った露店もあり様々な賑わいを見せている。

 サビも以前は肉の串焼きを食べたことがあるが、魔物肉に特殊な加工を行うか内壁から少量供給されるくらいな為高価である。

 それ以外で配給されるクッキー型の食糧等は十分行き届いているわけではないが栄養価は十分であり、肉や果実などは完全な贅沢品として扱われている。

 店からは肉を焼くにおいが漂ってきており、二人の鼻腔をくすぐりサビがたまらずといった表情で呟いた。


「この匂いはきついな。腹が減ってしょうがない」


「あはは、この前食べたばかりだから我慢しないとね」


 ミリーが苦笑いしつつ返事をした。

 サビたちが傭兵活動を本格化してから稼ぎもある程度は安定しているため、週に1度ほど肉や果実を少し食べている。娯楽の少ないこの世界において酒に飲食や性欲が、大多数の人々の生存以外での行動理由である。


 やがて周囲の雰囲気が変わってきた。先ほどまでと比べ店先などに置かれている物が、剣などの武具等に代わっている。歩いている人々も傭兵ギルドでよく見るような装備を身に着けた人々だ。

 

 そのまま歩みを進めていくと、サビとミリーは一軒のレンガで出来た建物の前で足を止めた。その建物は周囲の工房と大きな違いは見られず、解放されたドアをくぐってミリーたちは店の中へ入っていった。

 店の中には、皮や金属で出来た鎧が展示してあり、奥のカウンターには茶髪のサビたちより少し年下くらいの眠そうな目をした少女が立っていた。さらにその奥からは金属を叩く音が聞こえてきている。カウンターの少女がミリーたちを見て声をかけてきた。


「いらっしゃーい…ミリーとサビかーこの間ぶりだねー」


「そうだね、アンナも変わりない?」


「一週間も経ってないんだから何にも変わってないよー」


「それは良かった」


 他愛のないミリーたちの会話を聞き流しつつ、サビはカウンターの前まで来るとグレイウルフの皮などをアンナと言われる少女の前に置いた。


「この間話をした防具用の素材がそろった。確認を頼む」


「相変わらず愛想がないねー」


「悪いな」


「まいっかーじゃあお爺を呼んでくるよ」


 アンナは素材を受け取りつつ、軽い冗談を言うがサビの反応の悪さに軽い溜息を吐くと店の奥へ向かって行った。やがてやや小柄だが筋肉質な体をした老人が足を引きずりながらアンナと一緒にカウンターまで歩いてきた。

 サビとミリーの姿を確認した老人は口を開いた。


「おういらっしゃいお前ら無事だったか」


「ええおかげさまで、ゲッテルさんもお元気そうで」


「特にケガもなかった」


「そいつは良かった」


 ミリーとサビも答えつつ、集めてきた素材をゲッテルという老人が真剣な目で確認し始めた。

ゲッテルは始めに一番大きな毛皮を手に取り広げて確認を始めた。


「ハイグレイウルフの毛皮か、しかも状態もいい!これなら少しグレードの高い防具に出来るぞ」


 ゲッテルは興奮気味に話すと他の牙や爪、ノーマルタイプの毛皮の状態をチェックしていき感心したように口を開いた。


「たった二人でこの量をそろえたことも驚きだが、状態の良さも素晴らしい!ミリー嬢ちゃんの剥ぎ取り技術を他の傭兵どもにも見習ってほしいもんだぜ」


「えへへ、ゲッテルさんありがとう…でもサビが一撃でハイグレイウルフを仕留めてくれたから状態が良かったのもあるよ」


「そうなのか…さすがだな!お前らは将来有望だからワシの店をこれからも贔屓にするんだぞ!」


 ゲッテルは機嫌よく喋りつつ、防具が出来るまでの期間と金額についての話をすることにしたようだ。


「この素材をなめしたり加工して形になるのに大体10日くらいはかかるな、金額はこの前の額と変わりなく30万エクスで前金として10万エクスもらおう」


 以前聞いていた期間や金額に変化もないため、サビは懐から10万エクスを取り出すとカウンターに置き、アンナが硬貨を確認した。


「はーい、確かに10万エクス確認しましたーまいどありー」


「うむ、じゃあ10日過ぎたらまた来い!採寸は終わってるから引き渡しの時に改めて微調整する!」


「ああ、頼んだ」


 サビは頷き外へと足を動かした、ミリーもゲッテル達に手を振ってからサビに続いていった。


「あとは薬屋で色々買いそろえたら暇だね、その後どうする?」


 通りを歩きながらミリーが問いかけ、サビは自分が背負っている巨槍に目を移した後、遠慮がちに口を開いた。


「また暗くなるまでは、こいつの素振りをやりたいんだが、ミリーはどうする?」


 外で魔物の討伐をした後だが、サビにとって毎日の鍛錬というのは日々の自分自身の僅かな変化をしっかりと確認できる機会でもあり、ある種の娯楽に近いものになりつつあった。しかし、ミリーが同じ考えとは限らないため確認を行った。


 問いかけられたミリーも、サビに置いて行かれないよう実力を上げたいため同行する旨を伝えた。


「私ももっと強くなりたいから、一緒に行こうかな!」


「分かった」


「じゃあまずは薬屋で買い足しして、ご飯食べてからね」


 サビたちは来た道を戻っていくと、やがて一軒の店の前にたどり着いた。サビもなんとか読めるようになった看板の文字に目を走らせると、ステラの薬屋と書いてある。店先には鉢植えに植えられているよく分らない植物が植えられており、先ほど水やりをしたのだろう葉などに水滴の輝きが見える。

 先ほどのゲッテルの工房同様何度か来たことがあるため、そのまま二人は店の中へと入っていった。

 店の中は壁の棚などに所狭しと干されている植物や瓶が並んでおり、入り口から数歩歩いた正面にカウンターがありそこに店主もいた。店主は皺くちゃの老婆であり何やら葉っぱを手に作業しながら声をかけてきた。

 

「いらっしゃい」


「こんにちは、ステラさん」


「今日は何が欲しいんだい?」 


「匂い消しと回復薬が減ってきたから補充しに来たんだ」 


 一般的な薬屋で販売してあるものは、匂い消しや魔物除け、回復薬に毒消し、気付け薬などだ。ちょっとした切り傷などは自己の魔力によってすぐに治癒できるが、それ以上のケガになると自力での治癒は難しい。その為魔力によって変異した薬草などを調合した回復薬を飲んだり患部に塗ったりして魔力を込める事で治癒したりする。さらに骨折や内臓の激しい損傷等になってくると、回復魔術なども使用されることがある。

 回復魔術を使える者は普通の傭兵には全くおらず、基本的には人体構造の理解と高度な魔力操作が求められるため、高度な教育を受けられる内壁の出身者や治療院の従事者くらいしか存在しない。

 

 

 ステラは、周囲の植物などを物珍しそうに見ているサビの方を見て確認したいことを聞いた。


「回復薬の補充はお嬢ちゃんの分だけでいいのかい?」


「ああ、俺には回復薬は効きも悪いしあまり必要ないみたいだ」


「魔物食いの効果かい、うらやましい限りだよ」

 

 ステラは注文の品の準備をするために店の奥へと消えていった。

 

 ちなみにサビは回復薬の特性上、魔力を重量変化以外で使う事が出来ないため効きがかなり悪い。しかし、サビ自身の特異体質により常に回復薬を塗っているに近いくらいの自己治癒力を持っている。

 

 以前この店に来た際に魔物食いについてステラの話で分かった事は、子供のころに飢餓状態で魔物肉を口にすると適性があれば体が適応して食べれるようになることがあるそうだ。

 しかしほとんどの場合において最初の拒絶反応により死んでしまい、激しい苦痛を乗り越えても何度かは拒絶反応に耐えなければならず、殆どの子供たちは途中で死んでしまうか魔物肉を食べることを諦めてしまう。

 しかし、適応すれば食糧の競争において優位に立つ事が出来、身体や自己治癒能力の向上などメリットは大きい。追い込まれた幼少期のサビにとっては一か八かの賭けであり乗り越えられたことは幸運だったのだろう。


 やがて店の奥からステラが商品を持って戻ってきた。

カウンターでミリーが商品の確認と支払いを済ませつつ、ステラに気になったことを何気なく聞くことにした。


「そういえばステラさんって、魔物食いについてすごく詳しいよね本とかで知ったの?」


 ミリーの質問に、硬貨を受け取ったステラは疲れた表情で答えた。


「魔物食いなんて食糧問題の解決にはうってつけだろう、20年ほど前にこの辺じゃ都市が一つ壊滅したせいで難民が大量に流入してきたんだ。そうすると人口の増加に対して食料の供給が間に合わなくなってね、その時に内壁の連中が難民がどうしようもなく死んでいくくらいなら魔物食いの実験でもしてみようってなったわけ。私も中央の命令で記録を取る作業に従事したから色々詳しいのさ…」


「そうなの…嫌なこと聞いてしまってごめんなさい」


「気にしなさんな、まあ悪いと思ったんなら次も御贔屓にしてほしいもんだねえ」


 気まずげに頭を下げたミリーに対して、ステラは冗談めかして返事をするとそのまま手作業の続きを始めたようだ。サビとミリーも用は済んだため店を出ることにした。



 その後簡単な食事を済ませた二人は、町の外れに行き日課の訓練を始めることにしたようだ。

 周囲にもまばらに人はいるものの顔を認識できる距離には誰もいない。

 周囲を確認したサビは荷物を下ろすと巨槍を両手で握りしめ素振りから始め、ミリーは矢を番え即席で作った的に弓を素早く放ち始めた。


 サビは集中して自身の動作を確認しながら、重量変化を素振りの中で実行していた。振りぬいた際や、振りかぶるまでの動作中は軽くし、一撃を当てたい瞬間に重量を元に戻すことによって効果的な運用を身に沁み込ませていっている。

 初めの慣れないうちは重量に耐えられず手から巨槍が抜けたり、体が大きく振り回されたりしたが、訓練を重ね重心移動の熟練や、適度に重くした状態での素振りによる筋力の上昇によって以前とは比べ物にならないくらい巨槍を扱えるようになっていた。その訓練への集中度や上達速度はすさまじく天性の才があるのだろう。


 ミリーもサビの素振りを横目に、的へ向かって矢を放っている。魔力で矢を作っているため矢筒から取り出して番える動作が無いため、非常に速い速度で連射をすることが可能でありその中で複数の的に正確に当てていく訓練を行っている。


 この二人の訓練光景は他の傭兵と比べると異質で非常に目立つものの、不要に近づくのはトラブルの元の為遠巻きに立ち止まって見ていくのが殆どだ。しかし、例外というのはあるもので様々な目的をもって近づいてくるものも多い。


 二人が訓練の合間の小休止を挟んだタイミングで二人組の男女が声をかけてきたのだった。


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