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落星の継承者  質量変化の重戦士  作者: 青井リンボ
始動編
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第10話

 サビとミリーが訓練の小休止を取っている所に現れたのは二人組の男女だった。

 二人ともサビ達よりいくつか年上くらいで、サビと似たような板金となめした皮の装備に身を包んでおり一般的な傭兵の見た目だ。男の方は片手剣を腰に差しており、右手には胴体ほどのサイズの盾を装備している。女の方は、短めの剣を二本腰に差している。


 少し離れた位置で立ち止まった二人組の内、女の方がサビ達へ声をかけてきた。


「やあ、相変わらずすごい訓練だね!」


「あはは、どーも」


 やや面倒そうな雰囲気を出しながらもミリーが相手をする事にしたようだ。ミリーは訓練中でも人目のある所ではフードを被り自分の髪と目の色をなるべく隠すようにしている。

 サビは巨槍を地面に突き立てて二人のやり取りを尻目に、近くにいる男の方へ眼をやった。男の方は愛想笑い浮かべつつ口を開いた。


「この前ぶりだな、パーティの件は考えてくれたかな?」 

 

 サビとミリーはかなり目立ち、町の外れくらいでも訓練などをすれば噂はすぐに広がっていく。そのうえ、ワイルドウルフ狩りの量などからも実力や有望性に注目は集まり、こうしたパーティの誘いなども多く、そうした事態も仕方ないとサビたちはある程度受け入れていた。

 何度目かのパーティの誘いに対し、サビはいつものように特に表情を変えることもなく返答した。


「いや、今のところは二人で大丈夫だ」


 返答を聞いた男は、少し肩を落としつつも食い下がった。


「まあ前回は俺たちが助けられる形になっちまったからなーそれでも普段はもっとやれるんだぜ!」


 以前サビとミリーはワイルドウルフ狩りの際に、この二人組が所属するパーティを助けたことがあった。その際にもパーティに勧誘されたものの、ミリーの状況を考えるとメリットより予想されるリスクが大きかったため断ったのだ。

 サビは改めて端的に返事をした。 


「悪いな」


「そうか…残念だけどいつでも二人なら大歓迎さ、考えていてくれよ。…リーン!帰るぞ」


 二人組は余りしつこく勧誘せずに切り上げるようにしたようだ。パーティを組む際には命を預け合う仲になるため、無理やり勧誘して組んだとしても後に致命的な状況になるのだから大抵の勧誘は同じような当たり障りのないものになる事が多い。

 リーンと呼ばれた女は、ミリーに手を振ってから男の方へと歩いて行った。サビは去っていく背中を見つめた後、再度訓練の続きを行うことにした。

 こうして何度も断り続けた為、最近では勧誘も少なくなってきている。



 訓練を終えた二人は自宅へ到着し、室内へ入るとそれぞれ少し離れた位置で向かい合う様に座ってから道具の整備を始めた。サビも今では野営道具等の補修はできるようになっており、自身の道具を広げ点検と補修に取り掛かった。

 

 しばらく時間が経ち黙々と作業を続けるサビの耳に、ミリーの声が届いた。


「ねえ…」

 

 ほとんど終わりかけの作業の手を止め、サビが声の聞こえた方へ顔を向けた。


「なんだ?」 


 ミリーは椅子に座ってサビの方を思案気な表情をして見つめた後、目線を自身の膝へ落とした。


「サビはこれからの目標はあるの?」


 問われたサビは宙を仰ぐようにしてから、自身の目標とは何かを考えた。少し前までは生き残る為に必死であの組織を抜けだす事が出来た後は、生活の為には傭兵などで稼ぐしかないと考えていただけだ。

 傭兵になる前にミリーと出会い、そこからはあっという間で現在まで時間が過ぎていた。

 やがてサビは視線をミリーへと戻しぽつぽつと語りだした。


「自分はただ…前より出来る事が増えていく事が楽しい…いや、何というか…ミリーはどうなんだ?」


「私は…ママとパパが何故殺されなくちゃいけなかったのかを知りたい。そして犯人が見つかったら…」


 ミリーは途中で口を閉じ、葛藤を滲ませた表情になった。

その様子を見ていたサビには口をつぐんだ理由についておおよその見当がついた。


「相手が高ランクの強さだったり、偉いやつだとなかなかすぐには難しいな」


 この世界の多くの人々は限定的なコミュニティ内での法しか存在せず、単純な暴力のみで決着がつくことも多い。仇を見つけても相手の方が強ければ傭兵ギルドもどこまで介入できるか分からない以上、今のミリー達が取れる手段はほとんどなくなってしまう。

 

「まあ、今まで世話にもなってるし俺もミリーを手伝うさ」


 サビはミリーへの恩義もあり、何ともないような調子で語った。ミリーは俯いた顔を上げてから少しはにかんだ。

 

「わたしもサビとパーティを続けたいから、置いてかれないように頑張るよ」


 ミリーにとってサビとのパーティは居心地もよく、役割分担もしっかりと行えている現状は好ましい。

 

「そうか…置いてかれそうなのは俺の方なんだがな」


 傭兵の殆どがサビ同様教養もない上に剣やメイスなどを使った近接戦闘しかできないのに対して、ミリーの豊富な知識と特殊技能による遠距離攻撃は非常に貴重であるという事は、これまでの傭兵活動を通してサビも嫌というほど実感していた。

 ミリーは不安げな様子で、再度目を伏せた。


「そんなことないよ…」


 何度か勧誘された中にもミリー達よりランクが上のパーティはあったが、男たちのミリーへの接し方から目的が性的なものである場合も多く、ミリー自身もそういった気配には敏感な為今のところ二人で行動を続けている。

 しかし、傭兵を続けていけばそのうち相性のいい人物達と出会いパーティの人数も増えていくだろう。その際にお荷物になるのを避けるためには、サビ自身も戦闘技術を向上させ続ける必要があると考えている。

 サビは話題が堂々巡りになりそうな為話題を変えることにした。


「そういえば、資料整理の方は順調なのか?」


 サビは少し強引に話題を変えてしまったかと思ったが、そのままミリーの答えを待つ事にした。ミリーも少しキョトンとした表情になった後、サビの話題に乗ることにした。


「う、うん、パパやママがちゃんと管理してたから解読は進んでるんだけど、やっぱり何で狙われたのかはさっぱりだね…」


 ミリーの両親は実力者であり、単なる強盗や都市のマフィアに後れを取ることは考えにくく何らかの大きな力を持った存在に目を付けられたではないかとミリーは考えた。何が原因で、誰がやったのかを調べる為両親の残したメモなどを調べている。

 サビは終わりかけの整備の続きを再開する為ベルトの状態チェックを始めながら、気になる点を確認した。


「ビルヒリーに戻るのは危険だし、なかなか大変だな…」


 ミリーの両親が殺された現場である都市ビルヒリーに戻っても、マフィアに目を付けられている為調査が難しいとサビたちは考えている。

 ミリーも整備が終わった道具を袋へ収納しながら、思案気な表情をした。


「まあね…さすがに今戻っても手掛かりはすぐに見つかるか分からないし、マフィアがやったのかそれとも他の組織なのかははっきりさせたいんだけどね」


 マフィアの線は薄いと考えてはいるものの、可能性の一つとしてコッソローネファミリーの動向も気にはなっている。


「コッソローネファミリーとやらが犯人じゃなかった場合はこの辺でも危険だな」


 サビの呟きに、ミリーは申し訳なさそうに縮こまった。


「それでも外に出て稼がないといけないし、仕方ないわ。…迷惑かけちゃってごめんね」


「いいや…気にするな、それ以上に世話になっているからな」


 サビはそう言うと自身の道具の整備を終わらせるため作業に集中した。ミリーはその姿を少し見つめた後小さく感謝の言葉を呟き、作業を終わらせた後風呂場の方へ向かって行った。



 数日後、サビ達はエクスランドの外へ出て魔物狩りを行うために探索を行っていた。サビが巨槍を肩に担いで前方の警戒を行いながら前進し、数歩後方ではミリーが何時でも弓を出せるよう片手をフリーにしてサビのカバーをしながら、周囲にある魔物の痕跡などを探している。


 鬱蒼とした木々と崩壊した建物の残骸が点在する森の中で、歩みを進めていたサビが立ち止まった。前方にある木の根元には何らかの魔物の死骸が横たわっている。死骸の損傷は激しく他の魔物が食い荒らしていたことを示していた。


 サビとミリーは周囲への警戒を続けながらも死骸へと近づいて行き、より詳しい情報を取得する為にしゃがみ込んだ。観察した所、死んでいるのはイノシシ型の魔物ワイルドボアだった。損傷の仕方からグレイウルフの群れに襲われたようで、まだそこまで時間は経過していない。

 視線をワイルドボアの死骸から周囲へ戻しつつ、サビは立ち上がると背後のミリーへ声をかけた。


「グレイウルフの群れが近くにいるな」


 しばらく足跡や体毛等の痕跡を追っていた二人は森の奥で一部が崩れた建造物の中に地下へと続く階段を発見した。ミリーが周囲の地形や建造物の状態を観察し、サビは少し離れた位置で周囲の監視を行っている。

 痕跡が続いている地下へと続く階段を慎重に覗き込んでいたミリーは、おもむろに立ち上がるとサビの方へ歩み寄った。


「かなり森の深いところまで来ちゃったけど、遺跡を巣穴にしてるみたいね」

「周囲もグレイウルフ以外の痕跡だとキラーラビット位だな」


 サビは周囲へと注意を払いながらミリーへ確認した。中央都市の周辺地域にある遺跡の類は殆どが調査済みであり、目ぼしい物は残っていないが魔物などが住み着く事は多い。

 周囲の状況や痕跡から、遺跡内外には対処可能な数のグレイウルフ以外の危険度の高い魔物がいる可能性は低いとサビとミリーは判断し、遺跡内部の調査を行う事にした。

 

「先に行くぞ」


 サビはそう言うと腰に下げたガラス瓶に木版のスリットが付いたランタンのようなものに魔石を入れて遺跡内部に踏み込んでいった。するとランタンは発光し始め薄暗い地下通路を照らし、瓦礫や引きずり込まれた獲物だろう散乱した骨を照らした。内部の構造はまっすぐ奥に伸びていく通路になっており、左右には部屋などが規則的な周期で並んでいる。

 遺跡によっては壁などが発光している事もあるが、基本的には光源が必要な場合が多い。


 油断なく索敵を続けるサビには何の施設か見当もつかない構造だが、後に続いてきたミリーが遺跡の構造から何の施設だったか把握したようで、小声で補足してきた。


「ここは昔色んな人が乗り物に乗って移動する為に使われてた場所みたい」

「そうなのか」

「基本的に左右の部屋は入り組んでないわ、そのうち広いトンネルに出ると思うから気を付けてね」


 サビは了承の合図を返すと歩みを進めていく。索敵する左右の小部屋は荒れ果て瓦礫が散乱しているくらいで基本的には殆ど何もないような状態であり、それは大崩壊後に大抵の物が盗み出された結果だ。

 やがて慎重に歩みを進めるうちに、サビは前方から魔力の気配を感じ足を止めた。サビは以前より魔力の気配探知の精度が向上しており、こうして斥候の役割も行っている。


「前方から魔力を感じた、数は10を越えないくらいだろう」

「分かったわ、このまま前進して不意打ち出来るなら、私が奇襲をするね」


 作戦を確認した二人は、一層気配を殺しつつ慎重に歩みを進めた。やがて通路から大きな広場へ出る所で、ミリーは弓を引き絞った。合わせるようにサビが前方にランタンを掲げランタンのつまみを操作すると魔導ランタンの出力が上がり一気に前方だけを強く照らして、広い空間とグレイウルフたちを一気に浮かび上がらせた。

 急に眩しくなり十分な視界を確保できず混乱している9頭のグレイウルフ目掛けて、ミリーはすぐさま矢を射かけた。混乱の中の遠距離からの奇襲は効果的で、次々とグレイウルフたちに魔力で出来た青白い矢が突き立てられる。いち早く混乱から脱した個体がミリーの元へ向かうが、待ち構えていたサビの巨槍の餌食となった。

 

 グレイウルフは5頭がミリーの矢によって絶命し、残り3頭はサビによって仕留められた。ミリーが最後の1頭に矢を突き立てたのを確認したサビは、すぐさま意識を切り替え周囲の状況確認の為に周囲の魔力を探った。


(最近はグレイウルフも全く苦戦しなくなったな…ミリー以外の魔力の気配も俺の後ろに…2つ?――)


 反射的に飛びのきつつ振り向いたサビの目に映ったのは、自身に向かって振るわれるギザギザの刃だった。

 

「ッ!?」


「おいおいおい、何であっさり死んでくれねえんだよ…めんどくせえ」


「サビ!」

 

 サビは咄嗟に回避を試みたが、首を狙った一撃を完全には避け切れず右頬を大きく削り落とされていった。

 サビへ奇襲を仕掛けた下手人は赤く染められた金属鎧に全身を包んだ男で、サビと同じくらいの体格だ。

 奇襲の失敗を悟りつつ面倒そうな表情で、肉片のこびり付いた特徴的なギザ刃のフランベルジュと言われる剣を肩に乗せながら愚痴を吐いていた。

 サビとミリーは急な展開に動揺しつつも戦闘態勢を整えるも、分の悪さを痛感していた。

 かすかに震える声で、ミリーが口を開いた。 


「サビ、こいつやばいよ…」



 特徴的な赤い鎧に、今まで体験したことがないレベルの魔力圧を考えると、サビは自身が以前いた組織の人間で間違いないと判断した。それに微かだが魔力反応がもう一つあるのをサビは感じ取っていたので、頬を削り取られ喋りにくい中警告した。


「ああ…それに…もう一人…いる」

「嘘…」

 

 赤い男は不機嫌な表情に変わり自身の背後へ呼びかけた。


「ほんと勘の鋭い餓鬼だな!イライラするぜ…もう出てこい、さっさとこいつぶっ殺して女攫うぞ」


「随分鋭いですねえ…距離を開けて尾行しといて良かった…」


 呼びかけに答えるように暗がりから緑色の迷彩マントを被った男が出てきた。背丈は幾分小柄で小振りの直剣を片手に握っている。

 状況はかなり悪く、少なくとも相手は有無を言わさぬ気配を出しており、サビは激痛に耐えつつ大槍を構え、赤い男が踏み込んできたのを合図に死闘に突入していった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] oh...良いところで次回に続く。 [気になる点] 頬っぺた痛そう。 ギザ刃で切ると普通に切るより痛いんだよなぁ。
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