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落星の継承者  質量変化の重戦士  作者: 青井リンボ
始動編
4/17

第4話

 サビたちは日の出前から行動を開始し出発に向けての最終の準備と確認を終えて、薄暗い中外に出たが時間帯もあって人通りはほとんどなく追手らしき姿も見えない。


 サビはミリーから支給された旅道具を収納したバックパックを背負い、巨槍を肩に担いで歩いていくつもりだ。

 連れ立っているミリーはフードを被りつつ、弓とバックを背負い腰に短剣を指している。

そんなミリーの姿を見たサビは昨日確認しそびれていたことを思い出した。


「そういえばほんとに弓で魔物を殺せるのか?」


「やっぱり珍しい?私の魔力特性って特殊で魔力を固形化させる事が出来るの、魔力を矢の形にして弓で放つのが私のスタイルなの…サビも変わった魔力の使い方してるよね」


「普通の使い方っていうのは、体や武器に魔力をまとわせるくらいなのか?」


「うん、だからほとんど一般的な強さというと魔力量が分かりやすいんだけどね。でも私たちみたいな特殊な魔力運用が出来たり、遺跡とかから発掘される強力な武具なんかもあるから本人から感じる魔力量だけで判断すると危険だと思うわ」


「ああ、気を付けるようにする」


 ある程度一般的な魔力の使い方について理解したサビは、他人から見た自分の状態について気になったことを聞くことにした。


「俺は他人や魔物から見るとほとんど魔力を感じ取れないらしいな」


「確かに私は魔力の察知についてはかなり得意なほうだと思うけど、サビの魔力は全く分からないから不思議なのよね。でもサビが重量を変化させてるときはなんというか…魔力とは少し違う気配をかすかに感じるわ」


「じゃあ隠れてるときに重量変化は余り使わないほうがよさそうだな」


「使っててもかなり分かりづらいけどね」


 この世界では魔力の量が少なければそれだけで下に見られやすいため、サビはこれまでの人生で様々な不利益を味わってきた。

 食うに困って魔物肉を食うようになってからは体も大きくなり力も強くなって抵抗できるようになったが、今までの経験から無意識の内に劣等感を抱いているようだ。そのためサビには自分でも使えるこの能力を磨きもっと強くなりたいと考えている。


「本当にサビは重量変化以外で魔力を使えないの?」


「ああ、身にまとうことも身体強化もできないな、ただ他の魔力は感じ取れるんだがな」


「魔力を使わずにあの身体能力なのはすごいわ…やっぱりかなり珍しいね、私は魔力の固形化が一番得意だけどそれ以外にも身にまとったり身体能力を上げたりも出来るよ、多分サビは使える魔力がすべて重量変化の能力に変換されてるせいで感じ取れないのかもしれないわね」


「そういう事もあるのか」


「あくまで可能性だけどね」


 ミリーの考察を聞きつつ旅の準備を終わらせたサビは、ミリーを追っていた二人が所属しているコッソローネファミリーという組織について気になっている事を質問した。


「もう二人殺したから今更だが、コッソローネファミリーというのはどういう連中なんだ?」


「ビルヒリー都市の防壁外で一番力のある組織よ。いろんな事を手広くやってて防壁内とも取引を行っているらしいわ」


「そうか…厄介な連中と揉めてしまったな」


「まあどこの都市も似たような感じよ、今から行く中央都市はこの辺じゃ一番マシなのよ」


 サビは殺した相手がかなりの大規模な組織の構成員だったことを知り、事態が思っているより深刻かもしれないと思い、軽率な行動をしてしまったと後悔した。サビの表情を見て考えを察したミリーは慌ててフォローした。


「改めて大変なことに巻き込んでしまってごめんなさい、でも、エクスランドまで行ければコッソローネファミリーも追ってこれないわ。それにエクスランドにも私の両親が使ってた拠点があるの、そこの一室をあなたに貸しながら傭兵の活動も私が手伝うから損はさせないわ」


「俺がミリーに協力しようと思って始めたことだ、報酬はありがたくもらうがそこまで気にはしなくていい」


「そ、そう…そういえばどうして私を助けてくれたの?あの時はフード被ってたし私の…その、体目的とかじゃなさそうだったけどどうして?」


「…分からない」


「え?」


 サビ自身も振り返ってみるとあの行動に理性的な理由はなかった。今までは生きることに必死で、感情を押さえつけ合理的な判断を意識する事しか出来なかったが、自分も力が付き、当面の生活に余裕が出来たため他の事に目を向けるようになり、以前より自分の感情的な部分が行動に出やすくなっているのかもしれないとサビは思った。


「少し力がついたから調子に乗ってただけなのかもな」


「……」


 サビにとって感情を優先したあの行動は油断や慢心として修正すべきと理性的な部分では思っているが、何故か本気で修正しようとする気分にはならなかった。しかし、ミリーにそのことを説明するのも恥ずかしくなり、あえて露悪的な言い回しをしてしまっていた。

 それを聞いたミリーは少しの間を置いて真剣な表情になり、サビの目を見てはっきりといった。


「でも私はかっこいいと思ったわ、本当にありがとう」


「あ、ああどうも」


 サビは、初めて他者から明確な悪意以外の感情を向けられ激しく動揺した。しかし、その混乱する頭の中では、今までもやもやしていたある出来事も頭の中で整理がついたことも感じていた。


(そうか…あの芝居を見たから俺もそういう風になりたいと)


 サビにとって、あの芝居は人生で食う寝る以外で初めて自分の感情を動かしたものだった。それに対してサビは受け止める準備ができておらずその場では消化しきれなかったが、ようやく理解したようだ。


 1つもやもやした心のわだかまりが晴れすっきりしたサビは、思考を切り替えこれからの方針の確認を行うことにした。


「再度確認だが、俺たち二人がそれぞれ周囲を警戒しながら、敵と出会ったら俺が敵を相手しながらしミリーが後ろからサポートしつつ弓で仕留めていく形でいいんだよな?」


「そうね、なるべく町の中では離脱優先で同じ場所には長くとどまらないようにしましょう。私たち初めて組むからできれば手ごろな魔物と戦って連携の確認をしたかったけど」


「分かった」


「じゃあ出発しましょう」


 それから二人は隠れ家を出て路地裏へ出た。まだ外は薄暗く人通りもまばらの中、二人は周囲を警戒しつつ外へ向かった。

 やがてサビたちは特に追手と出会うこともなく町から出た。


「さて、これからはあっちの方向に行けばエクスランドがあるわ、途中何度か野宿するだろうけど昨日の打ち合わせ通りやれば問題ないはずよ」


 サビは昨日のうちに行った行動方針を再度思い出しながら頷きを返し改めて周囲を確認した。

 町の外は草がまばらに生えた開けた土地となっており一部では何かを栽培している畑のようなものがあった。

 サビもスラムでゴミ漁りをしていた時に、畑へ食料を盗みに忍び込んだものの管理者に見つかり散々に痛めつけられた苦い思い出がある。

 ミリーは、周囲の様々なことを説明しながら歩いていく。

 

「あっちの畑では小麦が作られてて、その管理をしているのがコッソローネファミリーよ。ほかにファミリーがいてお互い争ってるけど内壁側はほとんど関与してこないそうよ」


「内壁側ってどういうところなんだ?」


「私も入ったことないし都市によって傾向が少し違うらしいけど、開闢軍っていう魔物と戦っている組織の関係者や優秀な研究技術者とかお金持ち達が住んでるところなんだって」


「そうなのか」


 ミリーから教えてもらったこの世界のおおよその歴史は、数百年前にそれまで記録や想像上の存在とされていた魔力や魔物が地上に表れ始め人々の社会が魔力を使い様々なことに利用し始めた。        

 そんな中である日大災害がおこり、地上に魔物があふれかえった為人々は世界各地の防壁都市へ押し込まれた。

 しかし、「開闢王」と「王の戦士」と言われる存在が特に強力な魔物である「終末の獣達」を討伐し孤立した防壁都市同士の連合を作り上げ「開闢軍」と言われる組織を編成した。

 現在も、まだ世界の10分の1しか取り戻せていないらしく今もなお孤立した都市や地域の奪還へ向けて作戦を進めているらしい。


「それで今向かってるエクスランドが「開闢王」が治めてた都市なのよ。能力に目をつけられれば軍の育成機関へスカウトされることもあるらしいわ」  


「俺には縁のなさそうな話だな」


「そう?私から見たらその年でそれだけ動けたらすごいと思うけどね」


「まだ全然…?」


 会話をしながらある程度町から離れた二人は、進行方向の左手の方面から3人組がこちらに向かってきている事に気づいた。


「追手かもしれない」


「この距離だと何とも言えないわね。怪しまれない程度に急ぎましょう」


 サビたちは警戒を強めながら足を速めたが、どうやら3人組はこちらへまっすぐ向かってきているようだ。ある程度距離が縮まったところでミリーがサビへ戦闘準備を取るように指示を出した。


 「相手の正体もわからないけど、町の外で近づいてくる場合は構えても問題ないわ」


 町の外では法や他人の目などが存在しないため、不用意に距離を詰めてくる存在に対しては警戒するのは当然である。サビは巨槍を構え、ミリーは弓を持ちいつでも矢を放てるように魔力の矢を弓につがえた。    

 やがて距離が縮まると、3人組は少し距離を開け立ち止まり武器を構え魔力をまといだした。 


「兄貴!こいつらが二人を殺したやつらじゃないですかい?あのバカでかい武器と後ろのフードの奴の特徴は話の通りです」

「ふーんこいつらが…」


 恐らく今いる追手側の中でリーダー格だろうサビと同じくらいの大柄な男が、サビたちを観察しながら前に出てきた。

 リーダー格の装備は、簡易的な金属鎧を全身にまとい、サビの武器よりは大きさはかなり見劣るが一般的には大型の金属でできた槌を持っている。


「あいつら町から外につながるルートを巡回してたのね、早めに突破すれば囲まれる前に逃げれるかも」

「分かった、俺が前の奴らを攻撃する」


「ちょうど近くにいてラッキーだったぜ、こいつをぶっ殺して女を連れてけば仕事は完了か」

「あの女かなりの上玉らしッ!?」


 ミリーがすかさず矢を放ったものの、リーダー格の男が魔力をまとわせた腕で矢をはじいた。


「なかなか手癖のほうは悪いみたいだなあ、しかも特殊スキル持ちか」


 リーダー格の男から感じる魔力量は昨日の追手よりかなり多く、サビたちは一層警戒を強めた。しかし、時間をかければ囲まれてしまい、スラムの中へ逃げても補足されている状況では逃げ切ることが難しいため一気に勝負に出ることにした。


「俺が突っ込む、援護頼んだ」

「任せて。昨日は町の中だったから弓を使えなかったけど今回は私もうまくやるわ」


 サビは一気に相手へ向かって駆けだした。リーダー格の男は槌に魔力をまとわせ迎え撃つ構えを取っている。手下たち2人は展開しようとするが、ミリーがアウトレンジから弓を放って傷を負わせつつ、妨害を行っていることで行動が出来ずにいる。

 

 やがてサビはリーダー格の男の近くまで距離を詰め、大槍を一気に振り下ろし相手に当たる直前で重量を元に戻した。

 予想よりかなり素早い移動と攻撃速度に驚きつつもリーダー格の男はより強く魔力を全身にまとわせサビの攻撃に合わせた。かなり押し込まれ足が地面にぬめり込んだもののリーダー格の男はサビの攻撃を止めた。サビは受け止められたことに動揺しつつも素早く距離を取った。


(クソッ止められた!)


「こいつら思ったよりやるぞ!お前らも気を引き締めろ!」


 リーダー格の男はサビとミリーの脅威度を見直し、慎重に立ち回ることにした。ミリーは周囲から追加で集まってくる追手たちへの対応で追われて弓でサビの援護を行えない。状況が刻一刻と悪くなっていることを感じたサビは一層焦りを感じるものの、冷静になるよう深呼吸をした。


(このままじゃあまずいな、出し惜しみは無しで次で決める!)


 覚悟を決めたサビは、再度リーダー格の男へ突撃を行い、リーダー格の男も先ほどと同じように全身に魔力を込め防御態勢を取りつつ、サビの狙いが何なのかを探っている。


(このガキからは魔力が感じられないから威力が想像しにくいな、それにやたら素早いくせにリーチもあるから避けることは難しいが、何とか受ける事はできる。時間を稼いで隙をつくか仲間が集まるのを待つべきだな)


 サビが何か仕込んだ様子も無いため、同じような攻撃を行い防がれた後にさらに連撃で畳みかけてくるつもりだとそうリーダー格の男は予想した。サビが先ほどと同じようにリーダー格の男へ大槍を振り下ろしてきたため、自分の予想が当たったと思いつつ巨槍を受け止めようとした。しかし、先ほどの攻撃と違い異質な気配が大槍を包んでいた。


「ああ!?ガッ!…」


 サビの放った攻撃は先ほどと比べ物にはならないくらいの重さがあり、槌がへし折れリーダー格の頭ごと叩き潰し、何が起きたのか理解できないまま意識を永遠に途絶えさせた。


 サビが行ったことは単純で、自身の能力で武器の重量を数倍に増加させ破壊力を高める事だった。しかし重量減少の場合はほぼ無意識に一日中発動できるが、逆の重量増加は魔力の大部分を消費してしまうといった代償がある。

 

 想像以上の威力に驚きながらもかなり消耗した様子のサビは、すぐさま町の外へ続く道を塞いでいる手下たちに切りかかろうとしたが、集団の実力者だった存在が一撃で殺されたのを見るやほとんどが背を向けて逃げていった。


「…すぐに離れよう」

「分かった!」


 サビとミリーは、すぐさま町の外へ駆けだしていった。

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