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落星の継承者  質量変化の重戦士  作者: 青井リンボ
始動編
3/17

第3話

 サビは、老人とのやり取りやその最後に思いを馳せながら歩いていた。心に何とも言えないわだかまりがあるものの、このままでは金銭が尽きてしまうという当面の問題のほうを何とかしなければと思考を切り替えることにした。

 

サビにとって宿での睡眠や、屋台で食べた食事は非常に魅力的な体験であり、また以前のような生活には戻ることは何としても避けたいと考えている。スラムを見回ったところだと自分でもなんとかできそうな仕事と言えば、魔物を殺す傭兵くらいしか思いつかなかった。自分の力でどの程度稼ぐ事が出来るのかは全く未知数であったが、まずは傭兵になる事にした。


 昨日の探索で周辺のスラム街の地形を把握しているので、路地裏も使いつつ目的地である傭兵ギルドへ向かっている。路地裏の雰囲気は薄暗く、疲れ果てたような老人や、ぎらついた眼をしたやせぎすの子供たちがゴミ溜めなどをあさったり、食料の奪い合いをしているようだ。


 スラム街の食糧事情は、防壁内部から定期的に行われている食料の配給や、スラムのさらに外周では農業なども営まれているが十分に行き届いているわけではない。しかし農業をやる土地も広くしすぎれば魔物の襲撃のリスクが高まるため、農地の権利を持っている連中がスラム街でのほかの事業なども行い実質的な支配階級となっているようだ。

 農地を魔物や盗人の襲撃から守るために、農地の管理者たちは戦闘員などを直接雇っておりマフィアに近い形態となっている。


 路地裏で今日も生き残れるか分からないギリギリの人々を見て、サビは気が引き締まる思いだった。


(自分が出来る事は何もないし、自分もうまくいかなければすぐに同じような状況になるだろう)


 サビはそう思い、足早に路地裏を抜ける事にしたが、何やら前方のほうが騒がしくなってきた。

 少し間をおいて、曲がり角からフードを深くかぶったサビよりも幾分か小柄な人物がこちらへ向かって走ってきた。何かから逃げているようで、時折躓きかけながらも必死に足を動かしている。

 サビは、厄介ごとの気配がしたため通路の端へ身を寄せた。しかし、フードの人物と目が合いすぐに目をそらしたが、フードの人物はサビのほうへ向かってきているようだった。


(なんでこっちに来るんだ!)


 サビは逃げようかと思ったが、先にフードの人物がサビに助けを求めた。


「助けて!」


 サビはひどく動揺した、あの芝居で観た状況に似ていたからだ。

 サビが答えに窮していると、追手だろう男たち二人組が追いつき、フードの人物はサビの影に隠れるように素早く移動した。

 挟まれる形となったサビはどうすべきかまだ決めかねていたが、追手の二人組もサビの体格と肩に担いでいる武器の異様さに動揺しているようだ。場に空白が生まれたタイミングでフードの人物がサビに小声でこう提案した。


「私を助けてくれれば報酬をちゃんと渡すから、お願い」


 何かやり取りをしているサビとフードの人物を見て、追手二人も負けじとサビに声をかける。


「てめえ見ねえ顔だな、そいつの仲間か?」

「俺たちの後ろにはコッソローネファミリーがついてるんだ下手に揉めずにそいつを渡せ」



 追手も、サビの風貌からどれほどの危険度があるかつかみきれず、交渉から始めることにしたようだ。サビは少し悩むそぶりを見せたが、やがて絞り出すようにこう言った。


「…断る」

「なっ…てめえ!」

「いい気になりやがって、どうせその武器もこけおどしだろ!」


 返答を聞いた追手二人組は殺気立ち魔力をまとわせつつ剣を構えた。サビは自分でもなぜ見捨てなかったのか分からなかったが、状況は動き出した為構えを取りつつ相手の装備や魔力の圧を観察した。


(遺跡荒らしの連中と比べるとかなり弱そうだ、魔力の圧も全然感じない…)


 サビは相手のおおよその脅威度を測ると先手を取るため、すぐさま攻撃を行うことにした。路地は狭く、サビの武器では薙ぎ払うことが難しいため、相手のリーチ外から大槍を一気に振り下ろした。


 サビの能力で巨槍の質量を軽くしてあるため、見た目からは想像できない速度での攻撃に追手は対応できず、狙われた一方は魔力を使い抵抗しようとしたが剣ごと圧殺されてしまった。

 生き残った追手は想像以上の破壊力に、すぐに動けなかった。


「何だってんだ…っ!?」


 ようやく追手も分が悪いと悟りすぐさま逃走しようとしたが、仲間を呼ばれることを嫌ったサビはすでに踏み込んでおり、逃げ始めた背中へ向かって巨槍を振り下ろした。先ほどと同様に追手は圧倒的な質量と速度による暴力に叩き潰された。


「あ…ありがとう」


「すぐにここから離れるぞ、何処か当てはあるのか?」


 フードの人物の予想を超えるサビの戦闘力と躊躇のなさに驚きながらも、なんとか礼を言った。

 サビはスラムでの経験から追手の仲間達がいつやってくるかわからないためすぐに移動を行い、安全な場所についてから詳しい話を聞こうと考えているようだ。


「分かったわ、ひとまず私が知ってる安全な場所に案内する」

「ああ、頼んだ」


 ひとまずはフードの人物についていく事にした。



 その後、追手の仲間達と出会うこともなくフードの人物が案内する安全な場所へ到着した。

 そこはスラム外れの路地裏のさらに入り込んだ所にある建屋であった。

 周囲を警戒し追手を撒いた事を確認すると、サビたちは建屋内に入っていった。

そこは何の変哲もない部屋で椅子や棚とわらで作られたような粗末なベットがあるだけだった。


「ここが安全な場所なのか?」

「まだよ、ちょっと入り口が狭いけど何とかあなたの武器も持ったまま入れるるはずよ」


 フードの人物はそのまま室内の壁際にあるベットを横にずらすと、その下には地下へ続く階段が出てきた。促されたサビが先に潜り込んでいき、フードの人物が入り口を塞ぎつつ後に続いた。地下室内部は二人が入ってもまだ空間に余裕はあり、壁際には雑多な道具が棚や箱などに収納されている。サビはようやく一息つけると思い緊張を少し緩めたが、フードの人物に対しては未だに警戒を説いていない。


「まずは自己紹介からね、私はミリーよ、それとさっき助けてくれた報酬は10000エクスでもいいかしら?」

「…サビだ、報酬については妥当かどうかわからないがそれでいい」


 フードの人物は、フードを外し素顔をサビへ晒しつつ名乗った。ミリーと名乗った人物は肩に届かない程度に短く切ってある白銀の髪と褐色の肌に琥珀色の瞳をしている美しい少女であり、年はサビと近しいようだ。サビが今まで生きてきた中でミリーのような外見の人物を見たことがなかったため、少し見とれて返答がやや遅くなった。


「やっぱり私の見た目は珍しい?さっきの追手たちも私を狙ってた理由は攫ってどこかに売り飛ばすつもりだったんでしょうね」

「そうか…そんなことよりこれからどうするつもりなんだ?」


 サビはなんとか衝撃から立ち直り本題に入ることにした。このままこの町で生活を続けることは難しいのではないかと考えているが、他の町の事など知らないためまずはミリーの考えを聞くことにしたようだ。


「今いるこの町から私の家があって治安もマシな中央都市エクスランドへ行こうと思うわ、そのために傭兵を雇おうと思ったんだけどギルドの前で見つかってね…サビは傭兵でしょ?報酬は渡すからエクスランドまでの移動と、その後落ち着くまで一緒に行動してほしいの」

「その前に…まだ傭兵にはなっていないが大丈夫か?」

「うそでしょ!?」

「話すと長くなるんだが…」


 ミリーは、サビの使い込まれた装備の風貌と体格から大人の傭兵だと思っていた為、予想が外れ驚いているようだ。サビはミリーに自分のこれまでの経緯を簡単に説明した。


「そういう事なのね、てっきり結構なランクの傭兵だと思っていたわ。それとサビをとらえていた組織は恐らくこの辺の都市からも賞金がかけられてる遺跡荒らしの集団みたいね。」


 サビの事情を把握したミリーは提案を持ちかけた。


「じゃあさっきの話を受けてくれれば報酬として、硬貨と傭兵に必要な知識を私が知ってる限り教えるというのはどう?」

「俺はそれでいいが…その都市までは俺たち二人で大丈夫なのか?」

「ワイルドボアとグレイウルフの群れと戦って無事なら十分だと思うわ」

「分かった、受けよう」

「よし!じゃあとりあえず今日はまずご飯食べて、その後持っていく道具の準備をしたら、明日の日の出前に出発しよう!」


 ミリーは、早速地下室の中にある棚からパンなどの食料を取り出し食事の準備を進めている。

 サビは、食事という事でリュックから魔物肉を取り出し食べ始めた、それを見たミリーは慌てて食べるのをやめさせようとした。


「なんで生肉!?それって浄化されてるの?」


肉を咀嚼し飲み込んでからサビは答えた。


「いや…特に何もしてない、えーと確かワイルドボアの肉だ」

「未浄化の魔物肉なの!?食べちゃダメでしょ!」


 ミリーはひどく驚いた表情でサビに詰め寄った。まだ警戒心の解けないサビは少し身構えつつ食事を続ける。


「俺は食っても平気らしい、魔物の肉は腐りにくいし腹も膨れるんだ、だから俺の飯は気にしなくていいぞ」


 サビはそのまま黙々と味気ない魔物肉を食い続け、ミリーはその様子から本当に平気だと分かると一気に脱力した。


「はあーホントに平気みたいだね、魔物肉を食べれる人なんてうわさには聞いたことあるけど、初めて見た」

「そんなに珍しいのか、いろいろ知ってるんだな」


 サビがそう言うと、ミリーは目を伏せうつむきつつ自身に着けている腕輪を撫でながら口を開いた。


「私の両親が二人とも傭兵でね、遺跡の攻略や調査をしたりしてて色々教えてもらってたんだけど、この前二人とも殺されちゃった…理由は教えてくれなかったけどこの部屋もママたちが作った隠れ家なんだ」

「そうなのか…」


 つらそうなミリーを見てサビには家族というものがいなかったのであまり共感できず、かける言葉も見つからなかった。やがて二人は食事を終え、明日へ向けての準備に始めることにした。


「この寝袋を使っていいよ、遺跡内や屋外での野宿の時にあると便利な道具よ、ほかの道具一式も報酬の一部としてあなたにあげるわ」

「助かる…これはどう使うんだ?」

「ああ、それはこういう時に使うのよ…」

「なるほど…」


 サビにとっては使い方の分からない物ばかりだったので、ミリーから説明を受けながら準備を進めていった。やがて準備も終わり明日の為に寝ると言ってミリーは先に寝袋に横になった、サビは寝る前に日課となっている魔力を使った重量操作の訓練を始めることにした。

 

 サビは現状戦闘や警戒をしながらでは重量変化を出来るのは1つだけであり、2つ以上を安定して並行操作できれば、今より戦いの幅が広がるためなんとしても習得したいと考えている。

 体と手に持った武器にそれぞれ魔力を通して集中して感覚を磨いていると、押し殺したような声が聞こえてきた。


「グス…ママ…」

「……」


 サビには何もしてやれることがないため、そのまましばらく魔力訓練を行ったのち、離れた場所で寝袋に入り明日へ向けて眠った。

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