五十日目 軍議
なるほどなるほど、軍議とはこんな感じで進めるのか。歴史好きの一人としてとても良い体験をした。
と、一人だけ観点の違う俺。そんな俺など知らずに軍議はまだ続く。
「孝頼、7000を除いて残りの兵はいくつになる。」
「はっ、およそ3000程かと。」
「ふむ。では2000を泰惟に、残りを親吉に持たせる。」
「「はっ!」」
「西には一条、北には河野と三好がおるからのう。もしも、敵が攻めてきた折にはこちらから援軍を向かわせる故。」
「「ははっ!」」
「では、そのように。」
ん?三好?あっ!!忘れてた。めっちゃ有名なイベント。長慶が細川政権を乗っ取る出来事。どうしてそんな大事なこと教えてくれなかったんだよぉ。弥三郎さんよぉ。
「へっしゅん!」
「...若様。どこか具合でも悪いので?」
「いや、そんな事はない。どうせ、菊之助が変な噂をしているに違いない。」
「菊之助殿は、今頃、眠いとか言っておりそうですなぁ。」
そんな出雲の心配とは全く別のことを考えていた。
ああ、早く刀振りたいなぁ。
「して、殿、此度はどのようにして攻められるおつもりで?」
あ、まだ続くのね。
「うむ、此度は軍を二つに分け、挟み撃つつもりじゃ。儂が2000の足軽を率いて北から攻めよう。残りの農民5000を海沿いから攻めさせる。」
「では、どなたがそちらを...。」
「親政、お主に任せる。」
「ははっ!!」
おお、親政殿なら安心だ!とそんな声が上がる。流石、福留の荒切りってところだね。
「菊之助。」
「...?!!はっ!」
「親政の与力として、お主も海沿いの方に参れ。また活躍することを願っておるぞ。」
「ははっ!ご期待に答えられますよう精進致します!」
び、びっくりしたぁ。まさか国親に声をかけられるなんて思ってなかった。急にしてはいい返事ができたでしょ。
「殿、少しあやつに甘すぎるのでは無いですか?」
「親政、お主がちゃんと面倒を見んからだろう。二年もの刻があったのだ。技の一つくらい教えてやったのだろうな?」
「い、いえ、それは...。」
「まぁお主に技などという型は無いだろうがな。はっはっはっ!」
「お戯れを...。」
そう、俺はこの二年間ずっと親政の与力だったが、何も教えられていない。っていうか、ずっとパワハラを受けていた。俺の代わりにあれしろこれしろなどと言われ、その度に呼び出されていた。全く人事部があったら訴えたいよ...。これで少しは丸くなってくれたらいいんだけどな。そう思うのもつかの間。
ギロッと親政がこちらを睨んだ。
ビクッ
ああ、後から何かされそう....。
その後滞りなく軍議は進み、終わりを告げた。
「儂はこれから書状を書く故、お主らは準備を進めよ。」
「「ははっ!!」」
国親が先に大広間を後にし、それに続くように家臣達がゾロゾロと部屋から出ていった。俺もその波に乗って部屋から出て、本丸を歩いていた。
「ふぅ。やっと終わった。」
ん〜〜〜、と背伸びをしていた。
「おいっ!!」
「はいっ!!」
「貴様、よくも儂に恥をかかしてくれたな!」
「す、すいません。」
「ふん!戦場でこき使ってやるから覚悟しておけ!」
なんだかんだ言ってちゃんと使ってくれるんだ。親政なりの優しさってやつかな?
「はいっ!!」
「ふん。そして死ね!」
いや、あれは優しさじゃなくて、ガチのヤツだ。このまま着いて行ったら死にそうなんですけど...。
「あの、お手柔らかにお願いいたします...。」
ああ、人事部があったら訴えたい。




