四十日目 岡豊城囮作戦4
大将自ら岡豊城へと突撃した本山軍。それはすなわち全軍を意味する。
「と、殿。何かおかしいですぞ!」
「どうしたのだ。あと少しで陥落ぞ。」
「そ、それが、我らが通った門が閉まっておりまする!」
「儂らが、入城したと思おて、兵が閉めたのではないか?」
「だと、良いのですが...。」
光久は本山家家臣団の筆頭で発言力もあるのだが、茂宗の意見に反論はしない。主の決めた事を第一に遂行するため、今回もまた食い下がってしまった。だが、胸のざわめきが治まらない者もまたいた。
「某、少し見てきてもよろしいでしょうか?」
「よいぞ。出雲は心配性じゃのう。」
何かがおかしいと思うのは俺だけか?岡豊城は長宗我部にとっての居城。陥落の危機となれば大名自ら先陣を切るはずだ。香宗城に逃げ帰っただと。国親はそこまで器の狭き男なのか。そのような男に当家が苦しまされるとは思わぬ....。
出雲の脳内では様々な考察が繰り広げられていた。本山軍の誰もが勝利を疑わなかったが、出雲だけが最後まで胸のざわめきを抑えることは出来なかった。
それもそのはず、作戦はもう完了まで至っていたのだから....。
出雲は門までたどり着き、違和感を覚えた。門のすぐ傍まで寄り、ようやくそれに気がついた。
閂が刺さっていない!
それと同時に、殺気を感じ、武士の本能と言うのだろうか。出雲は反射的に後ろへ飛んだ。
その瞬間、1本の矢が鼻を掠り、血が流れ出す。
「ちっ。外しちまったか。」
「き、貴様は!長宗我部の者か!」
その声を合図にワラワラと塀から顔を出すものが現れ次々に弓を引き始めた。
「その真相、神森 出雲殿と見受けた!本望ではないが、この弓にてお命頂戴いたす!」
「く、くそっ!」
出雲は間一髪の所で矢を避け、茂宗の下へとただひたすらに走っていった。
一方本丸では、首実検が行われていた。茂宗が着いた頃には、あらかた終わっていた。
「茂宗殿も来られましたか!」
「おお、これはこれは久秀殿!今回のご活躍は聞き及んでおりますぞ。」
「はっはっは!有り難きお言葉。それにしてもあっさりと落ちましてごさいますな!長宗我部とはこれ程に呆気ないのですかな?」
「うむ。国親と来たらこの兵の数を見たら、もう1つの城へと逃げ出したそうじゃ!何とも無様なことよ!」
「殿、ご報告を。」
「うむ。」
「はっ!敵の首を改めましたが、その中に敵将となるものはおりませんでした。」
ほう、家臣は無傷ですか、と久秀。
「息子の仇討ちはどうなった。」
「そ、それが、気がついたら姿を消していたとの事。」
「ふん、どうせ逃げ出したのだろう。主があれではのう....。」
と、何がなんでも国親を罵倒したい茂宗。そこに慌てふためく出雲がやって来た。
「と、殿ぉぉぉおお!!一大事でございます!!」
「どうしたのじゃ出雲。」
「て、敵がこの城を包囲しておりまする!」
「なにを申すか。敵なら全員逃げてしもおたでは無いか。」
「いいえ、逃げたのではなく、誘い込まれたのでございます!恐らく逃げたと思われる策ではないでしょうか。」
「ほほう、策ですかな。それでは我らの兵にまで被害が来ることになりまする。茂宗殿、是非とも良いご判断を。」
「それは聞き捨てなりませぬな。某は一条家家臣団が若家老、津野 定勝でござる。此度の戦で総大将を務めておりますれば、この軍議に参加してもよろしいだろうか?」
「構わぬが、その歳で総大将か。」
定勝は少し小柄で、26歳という若さ。茂宗が疑うのも無理はなかろう。
「我が父が家老を務めておりまして、急遽出兵を、との事だったので某が選ばれたと言うことにございます。」
「そうだったか。父と子か...。父には、なるべく早く孝行するのだぞ。」
「は、はぁ....。」
定勝は訳の分からないと言う顔をしていた。この人は何を悟っているのだろう、と思っていそうだった。
「と、殿?ご下知を。」
「分かっておる!.....数はこちらの方が圧倒的に多い。攻城には4倍の兵がいるが、長宗我部にはそれ程の兵は居らぬ。なれば正面から当たり、刻少なくして突破するのが良かろう。」
某は賛成でございます、と定勝と光久。
久秀はふむ、と考え込み何も反論しなかったため、賛成とみなされた。
「皆の者!敵が悪あがきをしておるようじゃ!まずはそれを治め、勝鬨を上げようぞ!!」
「「おおっ!!」」




